Tani Yuukiのクリスマスソング「メニークリスマス」が配信リリースされた。
「メニークリスマス」はTaniにとって初のクリスマスソングで、好きな相手になかなか思いを伝えられない主人公の心情が描かれている。「メリー」ではなく「メニー」。そんなタイトルからも、Tani Yuukiというアーティストの持つ独特の視点や作家性が垣間見える。
音楽ナタリーではTaniに新曲の制作エピソードはもちろん、9月の神奈川・パシフィコ横浜公演で感じた手応えについて語ってもらった。さらに、2025年12月15日に行われるキャリア初となる東京・日本武道館でのワンマンライブへの意気込みも聞くと、Taniがアーティストとして見据えている未来が見えてきた。
取材・文 / 柴那典
目標の地・武道館へ
──まずは日本武道館公演の話を聞かせてください。パシフィコ横浜で開催されたホールツアー(「Tani Yuuki Hall Tour 2024"HOMETOWN"」)最終公演のMCで、Taniさんは2025年12月15日に初となる武道館でのワンマンライブを行うことを発表しました。このときもおっしゃってましたが、Taniさんが最初にライブをやったときに「武道館が夢の1つ」と語っていたんですよね。改めて、どういう思いを持って武道館に立とうと決めたんでしょうか?
4年前に「Myra」のヒットがあって、これからの活動をどうしていくかという話を事務所の社長としたことがあったんです。そのときは今のチームのメンバーもいなくて、社長と僕だけ。コロナ禍でライブもできないようなときに、「何年でどのくらいの規模のステージに立っていたいか」みたいな話をよく車に乗りながらしていました。その目標の1つが武道館だったんです。3年後までにZeppツアー、5年後くらいに武道館公演がやりたいって。その頃はワンマンライブもまだ一度もやってなかったんで、まったく道筋が見えなかったんですけどね。武道館はアーティストの登竜門みたいなところもあるし、「デビュー5周年という区切りに、武道館ライブを実現しましょう」という話になりました。
──振り返っての話ですけど、「Myra」がヒットした2020年頃、Taniさんはどんな将来像を描いていたんですか?
明確なものは見えてなかったですが、より大きな舞台に立ちたいという思いはありました。「Zeppに立ちたい。ホールに立ちたい。どんな景色なんだろうな。立ったらこんな感じなのかな」という想像はしていて。「アーティストとして自分はどんな存在にもなれるな」と思っていました。周りからもそう言われていたし、「いろんなことに挑戦してみたい」と思っていた時期でしたね。
──まさに今おっしゃったように、Tani Yuukiというアーティスト像を組み立てていく、自分の芯はどこにあるのかを探しながら1つひとつ積み上げていくような4年間だったのではないかと思います。
「kotodama」ツアー(2023年開催のホールツアー)の前に「走り続ける理由はなんなのか」みたいな話をしたと思うんですけど(参照:Tani Yuukiインタビュー|ロックバラード「最後の魔法」で表現する“思い出せない切なさ”)、それも結局、「自分の芯はどこにあるのか」という話だと思っていて。そもそも昔はライブというものがそんなに好きではない自分もいたんです。そこから、ライブをやっている自分の像に内心がやっと追いついてきたのが、前回の「HOMETOWN」ツアー(6~9月開催のホールツアー)だった。
──そのときのインタビューでは、「思いが叶ってしまったから昔ほど“渇き”がない、昔ほど心の中の火が燃えてない」という話をしていました。そして前回の「HOMETOWN」のインタビューでは、「『kotodama』ツアーで歌う理由を見つけることができた。そこから新しい旅路が始まった」と(参照:Tani Yuukiはなぜ歌い続けるのか、その答えが「HOMETOWN」にある)。次の「HOMETOWN」ツアーでそれを確かめるような経験をした、という実感はありましたか?
確かめるものでもあったし、「kotodama」ツアーで歌う理由が明確になったので、その答えを持ったままツアーを回ることができたのが大きかったと思います。「HOMETOWN」ツアーでは会場に来てくれる人に対してより集中してライブができたと思います。
「今までで一番いいライブができてるな」
──僕もファイナルのパシフィコ横浜公演に行きましたが、Taniさんの今までのライブで一番よかったと率直に思います。
ありがとうございます。
──MCでも、「これまでで一番いいツアーが回れた実感がある」と手応えを語っていましたが、振り返ってどうですか?
ちょうど昨日バンドメンバーとツアーの打ち上げがあって、ファイナルの映像をみんなで観たんです。そのときに、「kotodama」ツアーの映像とか、2023年のZeppツアーの映像も観て(参照:「じいちゃんになっても音楽をやりたい」Tani Yuukiが縁の深い横浜でZeppツアーファイナル)、「すごく変わったな」ってみんなで話してました。客観的に自分のライブを生で観ることはできないですけど、映像で確認したときに、「今までで一番いいライブができてるな」という実感が湧きました。
──何が変わったと思いましたか?
もちろん、バンドメンバーやチームのみんなとここまでやってきたライブがあるというのは前提なんですけど、明確な違いとしてあるのは、演出を含め音楽監督の方に入っていただいたことで。ライブ全体を通しての流れを一緒に作ってもらうということを、「HOMETOWN」ツアーで初めてやってみたんですよ。それが一番影響していたと思います。
──ステージに立って歌うだけじゃなく、ひと続きのエンタテインメントを作る意識を持って臨んだという違いがあった。
はい。照明も含めて、ステージセットを生かした演出が観る人を飽きさせないようなものになっていたなと思います。今までのライブは1曲1曲がぶつ切りになってる感じだったんですけど、「HOMETOWN」ツアーでは、ライブ全体で1つの流れを作ることができた。そこが大きな違いだったと思います。
Tani Yuukiのディスコグラフィにないもの
──新曲についても聞かせてください。「メニークリスマス」はどのように作り始めたんでしょうか?
「クリスマスソングを作ろう」というところからですね。僕のディスコグラフィの中にクリスマスソングとか季節ものの曲がなくて。例えば、冬ソングのように四季をテーマにした曲があってもいいんじゃないかとスタッフさんと話していました。確かにそうだと思って、まずはクリスマスソングにしようと制作に取りかかったのがこの曲でした。
──クリスマスというテーマから、まずどういうイメージが浮かびましたか?
この曲はサビから作ったんですけど、サビ頭の「誰もが幸せそうに すれ違うクリスマスイブ」という一節は最初からありました。その段階では、好きな人に思いを届けられなくてネガティブになっている主人公の話になるか、ただシンプルにいろんな人のクリスマスについて描くのか、歌詞の方向性は定まってなくて。でも、とにかくいろんな人にとってさまざまなクリスマスの形があるというメッセージは入れたかった。
──だから、街を行き交う人々を見下ろすような俯瞰の視点だったわけですね。
そうですね。当事者として書いてる感じはちょっと違うなと思いました。
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