Tani Yuuki初のXmasソング誕生、俯瞰で描く聖夜のストーリー (2/2)

クリスマスソングと言えばback number

──いろんなアーティストがクリスマスソングを書いているわけですが、そこからストーリーを膨らませるにあたって、どんなアーティストのアプローチを参考にしましたか?

テーマがはっきりしていると、歌詞の世界観がけっこうありきたりになってしまうんですよね。で、どんなクリスマスソングにしようかなと思ったときにback numberさんの曲が思い浮かんで。クリスマスソングというか、恋愛のもどかしさ……好きな人に手が届いてるか届かないかをリアルに表現しているのはback numberさんだと思って、リファレンスにした部分はあります。

──どういうところが参考になりましたか?

僕の書く歌詞って、物事を俯瞰しがちなんです。情景を語りすぎて具体的な内容がないことが多い。「メニークリスマス」もそうなっちゃいそうだったんで、もっと内容として深みのあるものを書きたいというところで参考にさせてもらいました。

「Tani Yuuki Hall Tour 2024 "HOMETOWN"」神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホール公演より。(撮影:渡邉一生)

「Tani Yuuki Hall Tour 2024 "HOMETOWN"」神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホール公演より。(撮影:渡邉一生)

──back numberの「クリスマスソング」(2015年11月リリースのシングル曲)は強敵ですね。

すごいですよね。改めて聴き直したら、すごくきれいにストーリーが思い浮かびました。もちろん、「クリスマスソング」へのリスペクトはありますけど、曲のイメージに寄りすぎないよう意識しました。

──Taniさんとしてはback numberのストーリーテリングのエッセンスをどういうふうに捉えているんでしょうか?

感情の言語化がすごく上手だと思います。独り言みたいに自分の内面のことを書くと、自己満足な曲になりがちなんです。でも、back numberさんがさすがだと思ったのは、主人公の独り言に聴き手が共感できるところ。「今、経験してきたんですか?」みたいな鮮度のある視点と言い回しがあって、最初から最後までちゃんとストーリーがある。無駄な場面切り替えがない。そこもすごいなと思います。

──「メニークリスマス」でも、歌詞の1行でリスナーに情景をイメージさせることを意識した?

そうですね。例えばAメロでは「今年もまたこの季節か」という主人公の独り言から始まって、落ちサビでは「終電に乗り損なって ばったり会って“2人きり” なんてあったりしないかな あるわけがないよな」と妄想しているという。

僕っぽいタイトルを見つけられた

──「メニークリスマス」のサウンドや曲調に関してはどうでしょうか?

全体的なアレンジをしてからアレンジャーさんにブラッシュアップをお願いしました。クリスマスソングはやっぱりピアノだと思ったので、ピアノをメインにして。

──曲の始まり方はシンプルなピアノとシンセベースで。ベルやストリングスが鳴り響くような、いわゆる王道のクリスマスソング的なアレンジではないなと思いました。

そうですね。Rin音さんの「snow jam」(2020年2月リリース)みたいな、静かめのトラックにしたかったので。ピアノと歌と最低限のリズムだけという感じになっています。最初は溜めるようなリズムだったんですけど、アレンジャーさんが「こういうのも合うんじゃないか」といろいろ提案してくれました。あとは「口笛も合うんじゃないか」と試してくれたりして、そうやってアレンジャーさんのエッセンスも入っています。

──「メニークリスマス」というタイトルの理由は?

最初の仮タイトルは「クリスマスイブ」だったんです。でも、ひとひねりしたくて。「メリークリスマス」と「いろんな人のクリスマス」という意味をかけて「メニークリスマス」がいいんじゃないかなって。僕っぽいタイトルを見つけられた気がします。

──「誰もが幸せそうに すれ違うクリスマスイブ」という歌詞のイメージが出発点だったから、それを表現したものになったと。

そうですね。結果的に辻褄が合ったと思います。

「Tani Yuuki Hall Tour 2024 "HOMETOWN"」神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホール公演より。(撮影:渡邉一生)

「Tani Yuuki Hall Tour 2024 "HOMETOWN"」神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホール公演より。(撮影:渡邉一生)

茅ヶ崎へのリスペクトを込めて

──2024年を振り返ってのお話も聞かせてください。改めて、どういう1年でしたか?

やっぱり、ライブアーティストとして進化できた部分、新しく発見できたことはすごく多かったです。変化と成長があった1年だったなと思います。あとは、チームとの絆みたいなものが深まった1年だったんじゃないかな。Zeppツアー、「kotodama」ツアーを経て、より深いところまで話し合いながら「HOMETOWN」ツアーを組み立てることができた。

──ライブアーティストとしてのアイデンティティや自覚みたいなものって、「多面態」(2023年3月発売のアルバム)を出す前はほとんどなかったですよね(参照:Tani Yuukiインタビュー|現在進行形で広がる“多面態”とその核にある歌う覚悟)。

そうですね。ほとんどないっていうか、むしろあってほしくないぐらいに思ってたところもありました。でも、これは音楽監督の言葉なんですけど、「思ってるよりもあなたは音楽動物だから大丈夫だよ」と言ってもらえて。そもそもライブを楽しいと思えなかったら、ステージには立ってないと思うし。曲を作る自分とライブをする自分との棲み分けはまだ明確にできてはいないんですけど、そこの矛盾や葛藤みたいな部分から生まれるものもきっとあるので。曲作りという僕の本分はなるべく忘れないように、ライブアーティストとしても成長していくのがいいんじゃないかという結論に至りました。

──「思ったより音楽動物だよ」って、なかなか含蓄のある言い方ですね。

「あなたは音に導かれるような人だ」という意味合いで言っていただいて。僕は「そんなことないですよ」と思うんですけどね。

──2025年に向けて、こういう曲を作っていきたいという構想はありますか?

「メニークリスマス」で冬の曲ができたので、これからも季節をテーマにした曲は作りたいなと思っています。今は夏ソングの制作に取りかかってますね。僕のルーツというか、昔、お囃子で太鼓を習ってたことがあって。そういう太鼓とかの和楽器をアレンジに入れた曲が作れたらいいですね。弾いたことがない楽器をやってみたいなと思って、こないだチャンチキっていう金物を買ったりしました。あとは、今まで作ったことないテーマの曲にチャレンジしていきたいなとは思っています。地元・茅ヶ崎のワードを入れた曲とか、地元へのリスペクトを込めた曲をいずれ作ってみたいです。

──パシフィコ公演のMCでも「茅ヶ崎のスタジアムでライブがしたい」とおっしゃってましたね。

大先輩のサザンオールスターズさんが夏の夜に球場でライブをやられていて。実家の2階から音漏れが聴こえてきたりしたんです。あとはaikoさんが茅ヶ崎でフリーライブをよくやっていらっしゃって。茅ヶ崎駅から見たことないくらいに長蛇の列ができて、それをたどっていくと海に着いて、特設ステージの前でみんなが熱狂している──そんなことを思い出しました。地元でのライブは実現させたいなと思っています。

「Tani Yuuki Hall Tour 2024 "HOMETOWN"」神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホール公演より。(撮影:渡邉一生)

「Tani Yuuki Hall Tour 2024 "HOMETOWN"」神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホール公演より。(撮影:渡邉一生)

公演情報

Tani Yuuki Live at 日本武道館

2025年12月15日(月)東京都 日本武道館

プロフィール

Tani Yuuki(タニユウキ)

1998年生まれ、神奈川県茅ヶ崎出身のシンガーソングライター。配信シングル「Myra」「W/X/Y」がティーンを中心に支持され大ヒット。その優しく切ない歌声と、恋愛に思い悩む日常を描いた歌詞がSNSで人気を集めている。2021年12月に初のアルバム「Memories」を配信リリースし、2022年4月にはタワーレコード限定でCD盤を発表。最新作は2024年12月リリースの配信シングル「メニークリスマス」。2025年12月に東京・日本武道館で単独公演を行う。