Tani Yuukiはなぜ歌い続けるのか、その答えが「HOMETOWN」にある

Tani Yuuki初のEP「HOMETOWN」がリリースされた。

「HOMETOWN」は6月にスタートするホールツアー「Tani Yuuki Hall Tour 2024 "HOMETOWN"」に向けての1作。疾走感のあるギターロック「花詩」、泥臭くブルージーな「がらくた」、包容力のあるメロディに乗せて感謝の気持ちを歌う「笑い話」、温かみのあるポップソング「I'm home」というバラエティ豊かな4曲が収録されている。

新作の制作にあたり、彼にはどんな思いがあったのか。昨年に行われた自身初のホールツアー「Tani Yuuki Hall Tour 2023 "kotodama"」を経て、変わりつつあるアーティストとしての信条について語ってもらった。

取材・文 / 柴那典

野望は見つからなかったけど、歌う理由は明確になった

──新作EPは「HOMETOWN」というタイトルですが、これはどういうところから作っていったんでしょうか?

これは次のツアーが「HOMETOWN」(「Tani Yuuki Hall Tour 2024 "HOMETOWN"」)というのもありますけど、このタイトルを付けた理由としては、前回の「kotodama」ツアー(「Tani Yuuki Hall Tour 2023 "kotodama"」)が大きくて。今までで一番長い期間のツアーを経験して、僕が走り続ける理由、歌い続ける理由がわかったんです。それぞれお邪魔した都道府県で待ってくれている人、僕の音楽を求めてくれる人がいる。僕は「この人たちに歌を歌っているんだ」ということがツアーを通じて改めてわかりました。僕にとってのホームは神奈川県茅ヶ崎市なんですけど、ファンの方たちが待ってくれている場所が第2、第3のホームタウンになるような、そんな場所を作れるツアーがしたくなった。ライブに来てくれたお客さんにも「ただいま」と言ってもらえるような、逆に僕が「ただいま」と言ったら「おかえり」と返してもらえるような。そんな場所だからこそさらけ出せる気持ちをテーマにしたいなと思って。それで「HOMETOWN」というタイトルになりました。

──前回の「kotodama」ツアーで得た手応えが大きかった。

大きかったですね。この人たちに歌っているんだっていうのは、正直、わかっていたことだとは思うんですよ。なんですけど、改めてツアーを通してそれを知ったからこそ意味があった。届ける先が明確になったから、今度は自分の原点回帰というか、根本を見つめ直そうと思えたのかな。

──ツアーを終えて、アーティストとして音楽をやっていくモチベーションや信条が固まったような感覚もありましたか?

そうですね。ただ、それは誰かに対して歌うということで、外的要因ではあるのかなと。僕の中から生まれてくる野望みたいなものとは別で。前回インタビューしていただいたときに「僕の夢は叶ってしまったんです」みたいなことをしゃべらせてもらったんですけど。

「Tani Yuuki Hall Tour 2023 "kotodama"」の様子。
「Tani Yuuki Hall Tour 2023 "kotodama"」の様子。

──「最後の魔法」のインタビューで「誰かに認めてほしいとか、共感してほしいみたいな思いを曲を作るうえでの燃料にしてきたけれど、その思いは叶った。だから昔ほど“渇き”はない」とおっしゃってましたね(参照:Tani Yuukiインタビュー|ロックバラード「最後の魔法」で表現する“思い出せない切なさ”)。

次の具体的な野望というものは、正直「kotodama」ツアーでも見つかってはいなくて。でも、それを焦って探さなくてもいいなと思っているんです。歌う理由が明確になったので。そういう意味でも、自分の原点というか「そもそもなんで自分は歌い始めたんだっけ?」というところが大事なんじゃないかなと思っていて。

母の笑顔のために

──Taniさんが歌ううえで原点にあったものというと?

今回のEPの中に「笑い話」という曲があるんですけど、これはEPのために書き下ろしたんじゃなくて、昔から温めていた曲なんですよ。この曲の「間違いだらけの日々をいつか 誰かの笑顔のために歌ってゆこう」という歌詞をひさびさに見て、「そういえばそうだった」とすごくハッとしました。歌う根本の理由は変わんないんだよな、と改めて気付けた。それはよかったなと思っています。

──いつ頃に書いた曲なんでしょうか?

これは僕が10代のときに書いた曲ですね。病気になって学校に行けず、日常生活もままならなくて。母親との会話も噛み合わなかったし、反抗期も相まって、いい関係が築けていない時期でした。でも、心ではちゃんと「ありがとう」という感謝の思いを持っているんだということを書いた曲なんです。

──「間違いだらけの日々をいつか 誰かの笑顔のために歌ってゆこう」の「間違いだらけの日々」というのは自分にとってどういう記憶ですか?

思ってもいない言葉を投げつけてしまって、母を泣かせてしまったり。決して褒められた日々じゃない、間違いだったなと思う日々はそういうところですね。「誰かの笑顔のために」とは言っているものの、その誰かというのは泣かせてしまった母のことなんです。いつか僕の曲がたくさんの人に届いて、共感してもらっているところを見て母に笑ってもらえるようにという。そういう思いを込めた楽曲です。

昔の自分に対して「なぁ、幼い僕よ」

──「笑い話」以外の3曲はどのタイミングで取りかかったんでしょうか?

ほかの3曲に関しては同じタイミングですね。制作するにあたって、作曲面は僕1人ではなく、相談できる相手に入ってもらって、その人と一緒にコード進行や曲の構成を考えました。なので、いつもと違うのは、1人じゃなかったというところで。先に曲を組み立ててから、歌詞を書いていきました。

──曲調に関してそれぞれどういうアイデアがあったんでしょう?

「花詩」はシンプルにアップテンポな曲が欲しかったので作りました。例を挙げるのであれば、Mrs. GREEN APPLEさんが作るようなさわやかな曲。「がらくた」はアコースティックギターがメインで、泥臭くてカホンとかが合いそうなイメージ。この2曲は「こういう曲が欲しい」というところから作り始めました。「I'm home」は純粋に僕がホームタウンを想像して、パソコンに向き合ったときに出てきたものを組み立てた曲ですね。「I'm home」はEPの中で一番ほっこりするし、EPの締めくくりとしていいところに収まったかなと思います。タイトルが「HOMETOWN」なので、やっぱり「ただいま」という思いを作品の中でも大事にしたいなと思って。

Tani Yuuki

──「HOMETOWN」は文字通り「ホーム」がコンセプトで、「ただいま」というのもキーワードであると思うんですけれど、一方で「花詩」や「I'm home」の歌詞には旅立ちのイメージも感じます。

「花詩」に関しては、今のTani Yuukiから見た当時の僕について書いているんです。10代で書いた曲って、今の僕から見ると衝動に駆られていたというか、本能に忠実だった。僕としては、年を重ねるにつれて背負っているものも増えてきて、本能や衝動みたいなものがちょっとずつ薄れてしまっている気がする。そこから時間が経って、今は「W/X/Y」に続くヒット曲を生み出さなくてはならないという苦しみもある。この「花詩」では泥臭く夢を追っている主人公を描いてるんですけど、そういう姿に自分自身を重ね合わせるところから曲作りが始まりました。

──自分の原点、かつての自分に向き合うというモチーフがあった。

そうですね。なので、「花詩」では「お前」と言っているんですけど、それは聴いてくれている“あなた”ではなくて。歌詞で「なぁ、幼い僕よ」と言っているように、昔の自分に対して歌っているんです。自分に純粋無垢に向き合ったときに、自然と出てくる言葉だったという。