ナタリー PowerPush - TAMTAM
新世代ダブバンドを徹底解剖
メジャーデビューに先駆けて3月5日にタワーレコード限定の“プレデビューシングル”「クライマクス & REMIXES」を発表するTAMTAM。今回はこのタイミングにあわせて、所属レーベルであるスピードスターレコーズのレーベル長・小野朗に話を聞き、同レーベルの方針とともに、TAMTAMに期待することなどを語ってもらった。
取材 / 成松哲 構成 / 中野明子 インタビュー撮影 / 佐藤類
スピードスターのオルタナ感に合致するバンド
──今回はTAMTAMが4月にスピードスターレコーズからメジャーデビューするにあたって、レーベル長である小野朗さんにお話を聞き、彼らの魅力とあわせてスピードスターレコーズの特性を改めて紐解いていきたいなと思っています。スピードスターレコーズはロックレーベルとして認識されている印象があるのですが、TAMTAMは本格的なダブバンドですよね。なぜ今、スピードスターがダブバンドをメジャーデビューさせるのかということからお聞きしたいのですが。
最近のスピードスターって、(斉藤)和義さんだったり、星野源くんだったりがグッと世の中に出てきたり、スガシカオさんと昨年から一緒に仕事をし始めたりするようになって、しっかりとしたキャリアを持つアーティストがそろってきているという意識があるんですね。その一方で、来年度以降は意識的に新しくて若いバンドを増やしていこうと思っているところなんです。10年選手のような中堅どころが増えてきてるから、20代のアーティストを出していきたいと。ビクター全体見てもここ1、2年ほど若いロックバンドがすごく元気だし、どんどん増えてきて、フェスでもお客さんをすごい動員してるじゃないですか。そういったタイプの人気のあるアーティストを手がけるのもいいんだけど、スピードスターとしてのオルタナ感には欠けるかなと。で、TAMTAMってメンバーが若いのはもちろんなんだけど、我々ならではのオルタナ感に合致するバンドなんですよね。
──なるほど。小野さんの中で、TAMTAMのようなダブバンドをフックアップするスピードスターのカラーって言語化できたりしますか?
2012年に設立20周年を迎えたときに、何人かに「スピードスターのカラー」みたいなことを聞かれたんですけど、そこは言葉にするのが非常に難しいんですよね。ただ「こういう色をレーベルとして出していきましょう」っていう旗は、誰も振ってないんですよ。レーベルのカラーってのも、あとから出てくるものだとも思ってて。持論なんだけど、「こういう○○なアーティストをやろう」と言って先に言葉で形容してしまうと、絶対窮屈になってきて、その言葉に縛られるじゃないですか。
──確かにそうですね。
そうするとオルタナティブではなくなってきてしまうし、どんどん幅が狭まっていくと思うんですよ。だから「スピードスターっぽい」とか「スピードスターっぽくない」といった会話が僕自身はすごく嫌いで。そういう言葉や制約を通して、自分たちの幅を狭めてしまうというのは非常によくない。だから単純にアーティストと一緒になって、盛り上げていこう、がんばっていこうと思えるか思えないかっていう基準なんですよね。どれだけガチでアーティストと向き合えるか。スタッフがそういう気概を持ち続けられるかどうかっていうことのほうが重要ですね。それを一緒にできるアーティストが結果的に残ってて、彼らがレーベルのカラーを作ってるだけなんです。
──そういった意識は、スタッフで会議をしたり、言葉にして共有したりしてるわけではないけど、ちゃんとスタッフに“インストール”されてる感じでしょうか?
そうですね。インストールされてるっていうのは一番近いかも。
──なぜそれができてるんでしょうか?
それは昔からのスタッフが、そういう姿勢でずーっと動き続けてるからでしょうね。だから何かの拍子に止まったとき、自転車と一緒で倒れちゃうんだと思う。こぎ続けてるから、ずっと倒れずに進んでる。
──なるほど。アーティストのラインナップを眺めても、御社の場合、「数字が確実に出るからこの人と契約する」といった雰囲気が感じられないんですよね。メジャーシーンの中では、オルタナティブだったりとがってるアーティストが多い。
その時代、その時代のオルタナティブなアーティストがいるとは思いますね。結果的にですけど。
──今や斉藤和義さんや星野源さんは、メジャーシーンの真ん中にいらっしゃいますけど、それも結果的なものだと?
と、思いますね。だからちょっとニッチ産業みたいなところはあるかもしれないですよね。
──ニッチ産業でありながら、メジャーで独自の地位を築き上げられた勝因ってなんだと思います?
それは、今の自分たちではわかんないですね(笑)。
──それこそチェックリストを作って、それをクリアしてれば売れるみたいな法則に則ってやりゃあいいじゃんって話にもなりますもんね。
そうそう。だから波もあるんですよ。なかなか当たらない時期もあるわけで、3年くらい新人を出してない時期もあったと思うし。実はそんなにはうまくいってないんですよ(笑)。今は各アーティストのおかげで、レーベルの運営も盤石になりつつある状況だけど、必勝法や勝ちパターンがあるわけでもないし。ただ僕らは王道なものじゃなくて、オルタナティブだったりニッチな部分をクローズアップしてリスナーに興味を持ってもらうパターンが得意かもしれないですね。真正面からマーケットにズドーンと落としていくっていうやり方は、資金的にもノウハウ的にもたぶんできない(笑)。
「アーティストが一番偉い」
──TAMTAMもそうですけど、近年のスピードスターレコーズは、今までいなかったタイプのアーティストも多数手がけてますよね。ボーカロイドプロデューサーの家の裏でマンボウが死んでるPや、同人シーンで活躍してる石鹸屋だったり。ものすごく懐が深いし、タフですよね。
そのあたりのアーティストは意識したかもしれないです。石鹸屋とかマンボウくんを手掛け始めたのが、3年ぐらい前だと思うんですけど、当時「これは非常にとんがってるんじゃないか」っていうところをフックアップして。当時の自分たちのフィールドとは若干違うんだけど、果敢にやっていくのもアリなんじゃないかと思ったんですよね、彼らについては。もともとウチはロックレーベルとして始まったんだけど、“音楽的”なジャンルとかは今は関係ないですね。
──で、普通だとニッチなジャンルで活躍している人がメジャーデビューすると、セルアウトしただの叩かれることもありますよね。でも石鹸屋やマンボウPについては、そういったことがそれほど起きてない。しかも、メジャー進出前の精神性を維持したまま作品を作ってるし、スピードスター側が、彼らが活動しやすい環境をちゃんと整えている印象があるんです。
それはレーベル設立時から言われてる「アーティストが一番偉い」っていうのがあるんでしょうね。それは今も引き継いでいることのひとつですね。とにかくアーティストが一番なんだと。で、彼らが考えてることをどんだけサポートできるかが大事。ほかのレーベルもそうなのかもしれないけど、スピードスターのスタッフは「アーティストが一番偉い」っていうのが頭に入ってると思いますね。
- Contents | TOP
- #1 スピードスターレコード レーベル長 小野朗インタビュー
- #2 TAMTAM kuro & junet kobayashiインタビュー
- #3 ラジオDJが語るTAMTAMの魅力
- メジャーデビューミニアルバム「For Bored Dancers」 / 2014年4月23日発売 / 1620円 / SPEEDSTAR RECORDS / VICL-64103
- メジャーデビューミニアルバム「For Bored Dancers」
収録曲
- クライマクス
- デイドリーアンドマリー
- シューゲイズ
- フリー
- バイマイフューチャー
- トゥナイト
収録曲
- クライマクス
- クライマクス 池永正二(あらかじめ決められた恋人たちへ)REMIX
- クライマクス Junet Kobayashi REMIX
TAMTAM(タムタム)
kuro(Vo, Tp)、yuthke suzuki(G)、tomomi kawamura(Key)、junet kobayashi(B)、affee takahashi(Dr)の5人からなるダブバンド。2008年12月に結成され、2011年11月に自主制作盤「Come Dung Basie」をリリースする。2012年5月にはHAKASE-SUN(LITTLE TEMPO)をプロデューサーに迎えた初の全国流通作品「meteorite」を発表し、高い評価を得る。2013年12月には音楽雑誌「ミュージックマガジン」の特集「ベストアルバム2013」日本のレゲエ部門で1位を獲得。ライブではダブPAの石本聡を帯同し、リアルタイムのディレイ、リバーブ処理を施した独特のパフォーマンスを展開している。2014年4月にスピードスターレコーズよりメジャーデビュー。
2014年4月25日更新