ナタリー PowerPush - TAMTAM
新世代ダブバンドを徹底解剖
まずは風穴を開けていくところから
──さて、TAMTAMのメジャーデビューが来月に迫ってますが、デビュー後の展開など構想はあるんでしょうか。
彼らの場合、インディーズでの大きな実績があるわけじゃないから、ゼロからのスタートっていう感じがあるんですよね。まずは彼らの音にキチッと反応してくれる人がいたらいいなとは思ってます。今のところパイはすごくちっちゃいんだけど、少しずつ反響があって、手応えは感じてるところはありますね。彼らってダブバンドではあるんだけど、歌モノでリスナーに訴求できる力とポテンシャルがあるんですよ。彼らについて特に面白いと思ったのはそこで。
──一気にドーンっと売り出していく形なのかと思ったんですが、まず伝わるとこに伝えていってという積み重ねで考えているんですね。
そこはアーティストのタイプによっても違うと思うんですけどね。インディーズである程度実績もあって、ライブをやったら何百人か集まるという状況だったら、いきなりキャッチーな曲を作って、仕掛けていく形をとるのもアリでしょうし。だけど、TAMTAMの場合は音楽的にコアなジャンルなので、まずは邦楽のシーンに風穴を開けていくほうが合ってる。
──TAMTAMについては、音楽的に面白ければじっくり育てていく方針だと。
ええ。ただそこは自分の悩みどころではあるんですけどね(苦笑)。会社的には早く確実に売れるようにしてほしいわけだから。でも今の音楽のマーケットでそれくらい売れてるアーティストをやろうとすると、方向性やタイプが似ちゃう気がする。そればかりやるのはつまらないなと。
──人気のあるジャンルって時代によってありますからね(笑)。でも当然レコード会社っていうのは、音楽文化を担ってるというか、文化事業的側面もありますから。若いイキのいいバンドをちゃんとフックアップして、リスナーに見せたいっていう意思があると。
ありますね。
TAMTAMは“メディア”として機能する
──スピードスターレコーズは昨年20周年を迎え、次の10年に向けて動いていると思うのですが、何か構想はあるんでしょうか?
会社としてはアーティストを増やすという目標はあるんですけど、レーベルとしては、いいアーティストが増えてるし、それだけでなく、レーベルの看板で何かやりたいということは考えています。所属アーティストを集めてのイベントとかっていうのは考えやすいんですけど、アーティストが動いてといった形ではなく、スピードスターが出す音楽を聴いたときに、リスナーが新しい体験をできるような仕掛けを作りたいなとかね。40歳とか50歳とかになったいいおっちゃんおばちゃんがね、「スピードスターにこういう音楽を教えてもらった」とか、「スピードスターが原体験になってた」っていずれ言ってもらえるような仕組みを考えたいですね。
──その展望の中でTAMTAMってどう機能するんですかね?
難しいなあ……。僕はまず、TAMTAMの曲を通して初めてダビーなサウンドに触れる人が出てくると思うんですよね。それによって新しい音楽体験の機会を作ることができるだろうし。ダブミュージックの初体験や衝撃を受けてもらうことができるといいなとは思ってますね。
──それをやりきる力のあるバンドだと。
そうですね。彼らと何度も話したことがあるわけじゃないんですけど、そのへんは自覚的なんじゃないのかなって。
──ちなみにメンバーに初めてお会いになったときの印象ってどんなものでしたか?
この年代の若手にしては、音楽に限らず、海外の固有名詞がポンポン出てくるなとは思いました。
──今の若手バンドをインタビューすると、影響を受けたバンドって日本のバンドが多いですが、そうではないと。
よくも悪くも、音楽って再生産があるし、ある年代以降のアーティストってそういう人がすごく多いでしょ? で、実際今っていろんなジャンルの邦楽が聴ける環境があって、海外のものを聴かなくても十分な状況にある。
──確かにそうですね。でもTAMTAMは、プロフィールの資料に羅列されてる「好きなもの」の中に海外のアーティストや作家の名前が多い。
そうそうそう。それが珍しくて。20代前半の人たちで、メジャーで活動しようとしている中ではひさしぶりに会うタイプだなと思って。話しててすごく面白かったです。
──具体的に言うと、小野さんとしてはTAMTAMのファンになったら、メンバーが好きなフィリップ・K・ディック、カート・ヴォネガットといった小説を読み出すかもしれないっていう期待感を持ってる?
ええ、だからアーティスト自身が“メディア”として機能するタイプだなと思いました。自分が直接宣伝を担当するんだったら、彼らのバックボーンになっているようなものをフィーチャーする作戦を考えるだろうなと。
──強い発信力をもって、サブカルチャーの紹介者になれる存在だと認識してるんですね。
そんな気がしてます。ウチで言うとUAとかが典型的なタイプで。彼女が聴いてる音楽を聴いてみようとか、UAと同じ本を読んでみようとか。UAがいいというものは間違いないっていう風潮が90年代後半にありましたからね。今だとくるりの岸田くんとか、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文くんとかのように、音楽に限らず、いろんな情報を自ら発信していくタイプもいるし。そういう意味でTAMTAMも、彼らと同じように“メディア”として機能していけるバンドだと思ってます。
──では、最後にメジャーデビューを控えるTAMTAMのメンバーにメッセージをいただけますか。
あの……売れていただいて、我々を楽させてもらえたら、ってところでしょうか(笑)。
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- #1 スピードスターレコード レーベル長 小野朗インタビュー
- #2 TAMTAM kuro & junet kobayashiインタビュー
- #3 ラジオDJが語るTAMTAMの魅力
- メジャーデビューミニアルバム「For Bored Dancers」 / 2014年4月23日発売 / 1620円 / SPEEDSTAR RECORDS / VICL-64103
- メジャーデビューミニアルバム「For Bored Dancers」
収録曲
- クライマクス
- デイドリーアンドマリー
- シューゲイズ
- フリー
- バイマイフューチャー
- トゥナイト
収録曲
- クライマクス
- クライマクス 池永正二(あらかじめ決められた恋人たちへ)REMIX
- クライマクス Junet Kobayashi REMIX
TAMTAM(タムタム)
kuro(Vo, Tp)、yuthke suzuki(G)、tomomi kawamura(Key)、junet kobayashi(B)、affee takahashi(Dr)の5人からなるダブバンド。2008年12月に結成され、2011年11月に自主制作盤「Come Dung Basie」をリリースする。2012年5月にはHAKASE-SUN(LITTLE TEMPO)をプロデューサーに迎えた初の全国流通作品「meteorite」を発表し、高い評価を得る。2013年12月には音楽雑誌「ミュージックマガジン」の特集「ベストアルバム2013」日本のレゲエ部門で1位を獲得。ライブではダブPAの石本聡を帯同し、リアルタイムのディレイ、リバーブ処理を施した独特のパフォーマンスを展開している。2014年4月にスピードスターレコーズよりメジャーデビュー。
2014年4月25日更新