メガネはあってもなくても自然体
──アルバム発売に先駆けて配信リリースされた「room」「自由が丘」「one stroke」についても聞いていければ。3曲共ミュージックビデオが公開されていて、どれもトピカルな内容ですね。リード曲の「自由が丘」のMVでは高橋さんがピアノを弾かれていますが、このために練習されたのでしょうか?
そうです。
──どのくらいの期間練習されましたか?
1カ月弱ですね。
──もともとピアノの経験は?
ないです。箭内さんからの提案で、パフォーマンスで応えたいと思ってがんばりました。あと音楽が好きなので、弾ける楽器が増えたら遊べるおもちゃが増えるみたいな感じでいいかなと思って。
──今後のライブでピアノを弾いてみたいという思いはありますか?
あります。本当に。はっちゃん(平畑徹也)という鍵盤奏者でスキンヘッドのサポートメンバーがいて、今回「自由が丘」のアレンジもはっちゃんがやってくれているんです。高橋優ソングははっちゃんの鍵盤で始まる曲がけっこうあるんですよ。それではっちゃんと「『自由が丘』に関わらず、自分で鍵盤で表現できるようになったら、弾き語りライブのときに1人で鍵盤バージョンをやってみても楽しいかもね」という話はしていました。
──いつか聴ける日を楽しみにしてます。アルバムのジャケット写真や新しいアーティスト写真もそうですが、MVで高橋さんがメガネを外していたことも話題を呼んでいました(参照:高橋優、初めて眼鏡を外す)。デビューの際にメガネをかけ始めたのも、今回のタイミングで外したのも、箭内さんのアイデアだったとのことで。
そうですそうです。
──「メガネをかけて」「メガネを外して」とそれぞれ言われたときはどんな心境でしたか?
どっちも「そんなに楽していいの?」と思いました。もともと僕はメガネをかけていて、しかもメガネが好きだったんですよ。ただ最初は部屋の中や遊びに行くときだけかけていて、ライブをするときや人と打ち合わせするときはコンタクトをしていたんです。なんとなくそういう感覚ありません?
──確かに。
家メガネという言葉もありますしね。だから僕、メガネは家でかけるものだと思ってたんですよ。そんなときに箭内さんやスタッフが「こどものうた」(2009年5月発売のシングル)の打ち合わせをしていて、ジャケットをどうするかという話になったらしくて。そこで「高橋の今の顔を見たい」という意見が出て、「自撮り送って」という連絡がきたんです。僕はちょうど買い物に行こうと思っていたところで、そのとき気に入っていた黒縁メガネをかけていて。その場で自分をパシャっと撮った写真を送ったら、「黒縁メガネかけてる高橋いいじゃん!」となったみたいで。だから「こどものうた」のジャケットには、僕が送った画像がそのまま使われてるんです。そこからメガネキャラみたいになりました。それが10年経ったらかけなくてもいいと言われて、それはそれでまた楽だから(笑)。どっちにしても自然体でやらせてもらえているなという感じですね。
ラブソングを歌いたいと思った
──今回のアルバムはこれまでの作品と比べてラブソングが多く収録されていますが、これは意図的ですか?
意図的ですね。ラブソングを歌いたいなと思いました。去年までだったら直接会うことや手を握ることは当たり前にできた。そんな世の中であえて「手を握ろう」と歌う曲を作らなくても、と思っていた自分がいたんです。もちろんそういう曲は素敵だし、カラオケでよく歌う曲もいっぱいあります。ただ自分がそれを歌わなくてもいいかなと。でも今年は濃厚接触が問題視されていて、そこに少し疑問を抱いている自分がいて。みんなそれぞれ隔離されているような世の中だからこそ、直接触れ合うことや思いあうこと、つながりみたいなものを歌いたいと思いました。あと、これまではどこかラブソングを敬遠している自分がいたのかもしれないです。今までは1つのアルバムの中に1曲ラブソングが入ればいいほうだったんですよ。でも自分なりの恋愛というか、「高橋優がラブソングを書いたらこうなっちゃった」みたいなものをみんなに聴いてもらいたいと思ったんだと思います。好きだからOKじゃなくて、そこから始まるもつれとか、一筋縄じゃいかない感じというか。けっこうこじれちゃいましたけどね。
──こじれた恋愛の曲でいうと、「room」の嫉妬や切なさを感じる歌詞がとても好きです。
あらうれしい。ありがとうございます。
──曲調はこれまでにないR&Bテイストですよね。どういうふうに制作していったのでしょう?
作り方は普段と一緒で弾き語りで作ったんですけど、今回アレンジャーとしてケンカイヨシくんを迎えて。こういう機会でもないとご一緒するタイミングがなかったかもしれないですけど、すごく仲よくなって。たくさんコミュニケーションをとる中でこういうカッコいいアレンジにしてもらいました。僕もすごく気に入ってます。
──アレンジをお願いするにあたって、高橋さんからオーダーしたことはありますか?
100%ケンカイさんの色にしてほしいということをお伝えしました。最終的にはこちらからも「もう少しこうしてほしい」というようなリクエストはしたんですけど。今回のアルバムはそれぞれ違うアレンジャーさんにお願いしていて、それぞれに「僕の色を消してもらってもいいくらいのアレンジで」とお願いしたんです。それでも高橋優が歌えば高橋優の曲になるという自信はあったので。だからケンカイくんの「room」になってもなお、高橋優の曲になった。まあそれはリスナーの皆さんが決めることではあるんですけどね。8月に配信リリースしたときには、この曲が好きだと言ってくれる人が多くてうれしかったです。心配される声も上がりましたけどね。「高橋大丈夫か」って(笑)。
──(笑)。過激な愛情表現をする感じが、「拒む君の手を握る」(2016年11月発売の「来し方行く末」収録曲)の歌詞と似ているように感じました。こういった楽曲は主人公のような人物を頭の中で立てるのか、自分の思いや経験を反映しているのか、どちらなんでしょうか?
全部混ぜたコールドプレスジュースです(笑)。どれも新鮮です。
──なるほど。「PERSONALITY」の収録曲でいうと「ABC」や「本命」など、報われない恋やこじれた関係について歌われた曲が多くて、確かに少し高橋さんが心配になりました(笑)。
僕は全然大丈夫ですよ(笑)。でも大丈夫じゃないくらいの経験をしたいなと思っている自分は常にいるかもしれないです。
──それはミュージシャンだからでしょうか?
ミュージシャンだからでしょうね。ミュージシャンじゃなかったら、結婚して、いわゆるみんなが思う幸せなところに到達していい年齢だと思うので。でもミュージシャンだから、何か起こったら片足突っ込むじゃなくて両足突っ込んだり、なんなら自分の身の犠牲にするくらいのことで勉強したり経験したりして、本当に芯から思ったことを書きたいなと思っています。
──「room」はミュージックビデオの内容にも驚きました。セクシー女優で、Twitterへの投稿が話題を呼んでいる“大喜利お姉さん”こと深田えいみさんの出演はどういうふうに決まったのでしょうか?
もともと箭内さんと「女優さんは誰がいいだろう?」とずっと連絡を取り合っていて。僕の知り合いの女優さんとか、一般の方だけど楽曲のキャラに合っている人とかいろいろ考えていました。「笑顔で人を傷付ける女性」というのが「room」のテーマだったんです。屈託のない笑顔で、自覚なしに相手に一生モノの傷を残す。そういうところで深田えいみさんという人選は贅沢というか、ドンピシャリという言い方をしたらご本人に失礼かもしれないですけど……。箭内さんから提案されたときに、「ぴったりですね」という話になってオファーをさせていただきました。
──実際に深田さんにはお会いされましたか?
撮影日が別だったので会うことはなかったんです。でもTwitterで深田さんからフォローしていただきまして。お世話になったので僕もフォローを返させてもらいました。そうすると1日に1回は深田さんのキワドイ画像が僕のTwitterのタイムラインに流れてくるようになりまして。「あ、これはよかったな」と。
──それは……よかったですね。
そうなんです。年齢的なものなのか、人間性なのかわからないですけど、僕の場合はあまり好んでそういうのを検索する時代は去ったのかもしれなくて。(男性スタッフを指して)こういう20代の男の子だったら、毎晩毎晩そういうキワドイ画像や動画を検索なさって、有料サイトにまで手を出して人生破滅に追い込まれている人とかもいるかもしれないけど。そこまではいってないよね?
(スタッフ) そこまではいってないです(笑)。
よかった。そういう流れの中で、1日に1回、Twitterで気軽にキワドイ画像が見れるようになったので、これは生活の潤いになったなと。僕のタイムラインに艶が出たなと……ナタリーだったっけこれ?
──ナタリーです。見出しにできそうです(笑)。
いやいや大丈夫です。見出しにしないでください(笑)。
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半年におよんだ「one stroke」のレコーディング