ナタリー PowerPush - スキマスイッチ
ポピュラリティとマニアック志向のスキマ
正反対のタイプでよかった
──流行のサウンドに対しても、どちらかというと距離を置きますよね。例えば4つ打ちの曲もほとんどないし。
常田 そこは頑なにやりませんでしたね。ちゃんとした意味があれば取り入れるし、ライブでは映えるだろうなって思うんだけど、流行ってるからって取り入れると、人のギャグで笑いを取ってるような気になっちゃうので。
大橋 あなた、4つ打ちと落ちサビを異様に嫌いますよね(笑)。
常田 そうだね(笑)。
大橋 気持ちはわかるんですけど、僕はポップスにしたいから「ここは落ちサビのほうがいいよ。そのほうがわかりやすい」って言うこともあるんですよ。
常田 頭サビもイヤなんですよね。昔「こういう曲作りをすればヒットします」みたいな本を読んだことがあるんです。「サビのキーはこれくらいで」とか、ヒットさせる手法みたいなことが書いてあったんですけど、「こういうことは全部やめよう」と思って。外仕事のときはまた違うんですけどね。クライアントから「どうしても」って言われれば「わかりました」って言うので。
──スキマスイッチならではのこだわりがあるんですよね、やはり。歌詞に関してはどうですか? 以前はよく、「“スキマスイッチくん”というキャラクターを設定してる」って言ってましたが……。
大橋 特に話し合って決めたわけではないんですけど、「男って女々しいよね」っていう共通認識はあるでしょうね。女々しいっていう言葉は男に対してしか使われない、というのが根底にあると思うんですけど。実際の恋愛観だったり、今まで体験してきたことで言えば、僕らは正反対なんですよ。でも、男の気持ちとして……それは僕らだけではなく、共通してる部分ってあるんじゃないかなって。それがたぶん“スキマスイッチくん”っていうキャラクターにも反映されてると思います。ちょっと女々しかったり、情けなかったり。
常田 「男ってこうだよね」「あるある」みたいなことが平均化されてるのかもしれないですね。結果論ですけど、僕と卓弥が正反対のタイプでよかったなって思いますね。2人の間で歌詞をすり合わせるとけっこう時間を取るんですけど、それが楽しかったりもするので。特に最近は顔を合わせて話し合いながら曲を作ることが多いから、細かい部分についても時間をかけるんですよ。それこそ“てにをは”の使い方とか。
僕らは順序が逆なんです
──ソロ活動を経た2009年、シングルで言うと「虹のレシピ」からは、制作のスタイルが明確に変わりましたよね。分業制ではなく、1つひとつの工程を2人で話し合いながら進めていくという。それ以降、音楽性もかなり広がったと思うのですが。
大橋 作り方が変わったっていうのもあるかもしれないですけど、デビューからいろんなことをやってきて、音楽的な引き出しが増えてきたことが大きいと思うんですよね。僕らが曲を作り始めるときって、最初は「カッコいい系にしよう」とか、その程度の話だったりするんですよ。
常田 そうだね(笑)。
大橋 あとは「明るいバラード」とか「切ないバラード」とか。
──入口はザックリしてるんですね。
大橋 その後の作り方はいろいろなんですけどね。2人でゼロから作ることもあるし、どっちかがベーシックを作ってきて、それをイジることもあるし。Aメロは僕で、Bメロはシンタくんということもある。スタイルの数が増えてるんですよね。あと、頭を使って作るというよりも、感覚でやれるようになってきてる気がして。そのぶん、昔よりもシンプルになってきてるんじゃないかなと。
──2人で顔を合わせながら感覚を頼りに作っていく、って最初にやりそうなことですけどね。
大橋 僕らは順序が逆なんですよね。
常田 “歌い手とアレンジャー”から始まったからね。
大橋 例えばバンドだったら、仲間が集まって「世界一のバンドになろう!」みたいなことを言って始まるわけですよね、わかりやすく言うと。そのうち活動がシステマティックになっていくんだと思うんですけど。僕らはシステマティックに作るところから始まって、だんだん人間らしい作り方になってきたんじゃないかなって。今になって思えば、その順序でよかったと思うんですよね。
常田 うん。
大橋 あと、すごく運がいいなって思います。周りの人たちがうまく環境を作ってくれて、10年続けることができて……。それこそ、僕らの音楽を聴いてくれる人がいなかったら「マニアックなことをやってる人たち」で終わったかもしれない。恵まれてるし、運がよかったなって思いますね。
──本当に興味深いユニットだと思います。あまりスキマスイッチのことを知らない人にこそ、このベストを手に取ってほしいですよね。
大橋 そうですよ! でも今の若い世代の人が聴いたら、どんなふうに思うんだろう? 古く聞こえてたりするのかな……。小学生のとき塾の先生に「どんな音楽を聴いてるんですか?」って質問したことがあるんですよ。そしたら「山下達郎って人がいてね。若い子は聴かないかもしれないなー」って。そのとき初めて達郎さんの音楽を聴いたんですけど、ただ「大人っぽいな」という印象で、よくわからなかったんですよ。僕らと達郎さんでは全然レベルが違いますけど、同じような現象が起きるんじゃないかなって。もちろん、若い人にも聴きやすいように作ってはいるんですけど。
常田 後ろ(後輩)も続いてくれないしね。
大橋 そう!「スキマスイッチみたいになりたい」って人がいないんですよ。
──(笑)。名前が知られてるのにフォロワーがいないって、悪いことじゃないと思いますけどね。マネできない個性があるということだし、音楽的なレベルが高いってことでもあるし。
大橋 そうなのかな……。まあ、どんな方法でもいいから手に取ってほしいですね。
常田 あとCDの中身を入れ替えておくとかね(笑)。
大橋 とにかく1回聴いてほしいですよね。聴いてさえもらえれば、あとは自信があるので。
常田 聴いた人同士でいろいろと話をしてもらえたらうれしいですね。「スキマスイッチってマニアックだよね」「いや、ポップでしょ」みたいな会話が生まれたらいいなって。
- ベストアルバム「POPMAN'S WORLD~All Time Best 2003-2013~」 / 2013年8月21日発売 / アリオラジャパン
- 初回限定盤A [Blu-spec CD 2枚組+DVD] / 4410円 / AUCL-30005~7
- 初回限定盤B [Blu-spec CD 2枚組+CD] / 3990円 / AUCL-30008~10
- 通常盤 [CD2枚組] / 3465円 / AUCL-136~7
CD収録曲(全仕様共通)
DISC1
- view
- 君の話
- 奏(かなで)
- ふれて未来を
- 冬の口笛
- 全力少年
- 雨待ち風
- キレイだ
- 飲みに来ないか
- ボクノート
- ガラナ
- スフィアの羽根
- アカツキの詩
- 藍
- 惑星タイマー
- マリンスノウ
DISC2
- 虹のレシピ
- 雫
- ゴールデンタイムラバー
- 8ミリメートル
- アイスクリーム シンドローム
- さいごのひ
- 晴ときどき曇
- 石コロDays
- センチメンタル ホームタウン
- ラストシーン
- ユリーカ
- スカーレット
- トラベラーズ・ハイ
- Hello Especially
初回限定盤A DVD収録内容
- スキマスイッチTOKU-TEN AWARDS 2013
- 奏(かなで)(メイキング)(レコーディング編)-Director's Cut-
初回限定盤B 特典CD収録内容
- 時々
- さみしくとも明日を待つ -Demo-
- 小さな夜旅
- 蜻蛉草
- 台無し
- 夏雲ノイズ
スキマスイッチ
大橋卓弥(Vo, G)、常田真太郎(Key)のソングライター2人からなるポップユニット。大橋が自分の曲のアレンジを常田に依頼したことをきっかけに1999年に結成された。2003年7月にシングル「view」でデビューしてからは「オフィスオーガスタ」所属の新人として話題を集め、フックの効いたメロディと心地よいアレンジで人気沸騰。2ndシングル「奏(かなで)」がロングヒットを記録し、1stアルバム「夏雲ノイズ」はオリコン週間チャート2位を獲得した。2005年には5thシングル「全力少年」で「第56回NHK紅白歌合戦」初出場。翌2006年には7thシングル「ボクノート」が「第48回日本レコード大賞」金賞(大賞ノミネート作品)に選出された。デビュー10年目を迎えた2013年には6月に18thシングル「スカーレット」、7月に19thシングル「Hello Especially」を立て続けに発表。8月21日に初のオールタイムベストアルバム「POPMAN'S WORLD~All Time Best 2003-2013~」をリリースした。さらに9月11日には、2012年10月より2013年3月まで行われた初の全都道府県2人ツアーからメンバー自らセレクトした音源を収めたライブアルバム「スキマスイッチTOUR 2012-2013 "DOUBLES ALL JAPAN"」の発売が決定。また10月からはベストアルバムを携えた全国アリーナツアー「スキマスイッチ10th Anniversary ArenaTour 2013 "POPMAN’S WORLD"」が開催される。