ナタリー PowerPush - スキマスイッチ
ポピュラリティとマニアック志向のスキマ
「奏(かなで)」のロングヒットと転換期
──でもすぐに結果が伴いましたよね。「奏(かなで)」のロングヒットをきっかけに、知名度もどんどん上がって。
常田 そうすると今度はクオリティキープを意識するようになるんですよ。「これを維持するためにはどうしたらいいか?」って考えた結果、「分担するしかないのかな」というところにつながっていって。本来は顔を突き合わせて、意見を出し合いながら作るほうが楽しいと思うんですよね。でも、そのときは気持ちがそっちに向かなくて。ちょうど2枚目のアルバム(2005年7月発売の「空創クリップ」)を出したあとくらいかな。
大橋 うん。
常田 卓弥に歌詞を任せて、こっちでアレンジして。そこに曲の依頼が来ると「俺はこっちやるから、卓弥はそっちをやっておいて」みたいになって。スケジュールがきつくなっても、断れなかったんですよね。「これを断ると、もう依頼が来なくなるんじゃないか」っていう怖さもあったし。
大橋 それはいまだにありますよ。忙しいのは幸せなことで、仕事がなくてなんの興味も持たれないよりは、何十倍、何百倍もいいんですよ。「ゆっくりインプットする時間を取って、新しい曲の構想を考えたい」という気持ちもあるんだけど、その反面「この波を堰き止めてしまったら、もう二度と来ないんじゃないか」という恐怖感もあって。
──そこは難しいですよね。しっかり時間をかけて作り込みたいという願望と、常に楽曲を出し続けてなくちゃいけないという気持ちのバランスというか。
大橋 そうですね。1つの曲にたっぷり時間をかけて、細かいディテールを構築したいという気持ちはもちろんあるんですよ。例えば歌詞にしても、1回聴くと普通のラブソングだけど、10回目のときに「あれ、もしかしたら違う意味もあるんじゃないか?」って気付いてもらえるような書き方をしたいと思ってるし。それって言ってみたら、自己満足の極みでもあると思うんですよね。
常田 そうだね。
大橋 でも一方で「ここで止めたら忘れられてしまうかもしれない」と思うってことは、やっぱりお客さんに向けてやってるんだなって。「聴いてくれる人だけ聴いてくれればいい」って口では言いつつも、根っこでは常に「たくさんの人に知ってほしい」と思ってるので。もしかしたら、そこは矛盾してるのかもしれないですよね。ものすごいマニアックなことをやりつつ、みんなに聴いてほしいと思ってるっていう。
万人が聴けるポピュラリティとマニアック志向のはざまで
常田 そこに関してはディレクターに言われたことがあるんです。「マニアックなポップスが一番難しいけど、お前らはそこを目指すのか?」って。ポピュラリティのあるポップスと、マニアックなポップスって違うと思うんですよ。
──そうですね、確かに。
常田 あと「ポピュラリティはあるけど、実はマニアックな曲」もあるし、「マニアックな曲として受け取られるポップス」もあって。僕らとしては、マニアックな部分を内包したポップスで勝負したかったんです。「うわ、カッコいいことやってる」と思われつつ、万人が聴けるポピュラリティもあるっていう……。
──「ふれて未来を」「冬の口笛」あたりは、そういうバランス感覚がはっきり出てるかも。めちゃくちゃ作り込んでるし、マニアックな要素もあるんだけど、パッと聴いた感じはすごくポップっていう。
常田 そうですね。僕らは同世代なんですけど、学生の頃はチャートの上位に上がってくる曲を聴いて、カラオケで歌ったり、バンドでコピーしてたんですよ。そのうちに海外のソフトロックやAORも聴くようになって──日本でいうとキリンジとか──その両方をやりたいと思ったんです。当時もよく話してたんですけど、そういう意味で一番すごいのはTHE BEATLESですよね。10人いれば10通りの聴き方があるっていう。バカって言われるのはわかってたんですけど、そこを目指したいな、と。
大橋 歌詞とメロディはものすごくポップにして「だけどドラムの音は70年代だよね」とか。それはもう、僕らの密かな楽しみなんですけど。
常田 そこを曲げたら面白くないよね、って思ってたというか。
大橋 最近は「何をやってもポップになるのが、スキマスイッチのカラーだ」っていう確信もあるんですけど、前はかなり迷ってましたね。もっとポップにしたほうがいいのか、自分たちが好きなものに寄ったほうがいいのかって。シングルとアルバムの曲では攻め方も違いますからね。「アルバムの曲だから、もっとマニアックでもいいよね」っていう感じで作ることもあるし。
常田 シングルのカップリング曲とかね。
大橋 理想なのは、名刺代わりみたいな聴きやすい曲を提示して、そこからアルバムに入ってもらって、その世界に引きずり込むっていう。いやらしい言い方をすれば、それが僕らのやり口だと思うんですよ。これは昔よく言ってたんですけど、高校生の娘が自分の部屋でスキマスイッチの曲を聴いてるとしますよね。そこに父親が通りかかって、「懐かしい曲聴いてるな」って言うんだけど、今度は娘が「何言ってるの。これ、今の人だよ」って。その図式が理想なんですよね。
「今どきやらないよね、こんなこと」っていう言葉が大好物
──2人のこだわりの部分だったり、曲に込めたマニアックな部分が伝わらないと、やっぱりさびしさを感じたりもするんですか?
常田 まあ、ありますよ(笑)。「全力少年」もそうかもしれないですね。あの曲って1番、2番はコード進行が一度もきれいに終わってないんですよ。最後の「視界はもう澄み切ってる」のところで初めてきれいに終わるっていう。作ってるときは2人で「こういうコード進行、面白くない?」って言ってたんだけど、そこは一度もツッコまれたことがない(笑)。
──かなり音楽に詳しい人か、プロじゃないと気付かないレベルですね(笑)。
大橋 そこに向けてるところもありますよ。一緒にやってくれるミュージシャンが気付いてくれて、「この曲、面白いね」って言ってくれるとすごくうれしいし。
常田 「今どきやらないよね、こんなこと」っていう言葉が大好物です(笑)。「ボクノート」とかもそうなんですね。「え、転調したまま戻らないんだ?」っていう。
──でも、ちゃんと王道のバラードに聞こえますからね。
常田 そうですね。そういう意味でも“両方”やりたいんですよ。リスナーのうち10%か15%くらいは「王道のバラードは聴かない」っていう人もいると思うんです。マニアックなところを入れることによって、そういう人たちも取り込みたいなって。あと、自分たちで代表曲を決めないようにしてるんですよ。Mr.Childrenがまさにそうですよね。「innocent world」が代表曲だと思ってる人もいれば、「いやいや『CROSS ROAD』でしょ」って人もいる。僕らとしては常に新しい代表曲を作るつもりでやってるし、似たようなテイストの曲を作るつもりもなくて。あとはファンの人たちがいろいろと会話をしてくれるといいなって。
大橋 逆に考えるとさ、それが僕らがドカーンとブレイクしない要因かもしれないね(笑)。やっぱり、マニアックなんですよ。さわりはポップに聞こえるけど、突き抜けてわかりやすいポップスではないので。そこは自分たちでも自覚してるし、このスタイルで勝負するのが楽しいんですけどね。例えば2人の知識を持ち寄って、マニアックなところがない、思い切りポップなアルバムを作るとするじゃないですか。もしそれがドーンと売れたら「やっぱりそうか」って、今のスタイルに戻ると思うんですよ。まあ、そんなのは机上の空論ですけど(笑)。
- ベストアルバム「POPMAN'S WORLD~All Time Best 2003-2013~」 / 2013年8月21日発売 / アリオラジャパン
- 初回限定盤A [Blu-spec CD 2枚組+DVD] / 4410円 / AUCL-30005~7
- 初回限定盤B [Blu-spec CD 2枚組+CD] / 3990円 / AUCL-30008~10
- 通常盤 [CD2枚組] / 3465円 / AUCL-136~7
CD収録曲(全仕様共通)
DISC1
- view
- 君の話
- 奏(かなで)
- ふれて未来を
- 冬の口笛
- 全力少年
- 雨待ち風
- キレイだ
- 飲みに来ないか
- ボクノート
- ガラナ
- スフィアの羽根
- アカツキの詩
- 藍
- 惑星タイマー
- マリンスノウ
DISC2
- 虹のレシピ
- 雫
- ゴールデンタイムラバー
- 8ミリメートル
- アイスクリーム シンドローム
- さいごのひ
- 晴ときどき曇
- 石コロDays
- センチメンタル ホームタウン
- ラストシーン
- ユリーカ
- スカーレット
- トラベラーズ・ハイ
- Hello Especially
初回限定盤A DVD収録内容
- スキマスイッチTOKU-TEN AWARDS 2013
- 奏(かなで)(メイキング)(レコーディング編)-Director's Cut-
初回限定盤B 特典CD収録内容
- 時々
- さみしくとも明日を待つ -Demo-
- 小さな夜旅
- 蜻蛉草
- 台無し
- 夏雲ノイズ
スキマスイッチ
大橋卓弥(Vo, G)、常田真太郎(Key)のソングライター2人からなるポップユニット。大橋が自分の曲のアレンジを常田に依頼したことをきっかけに1999年に結成された。2003年7月にシングル「view」でデビューしてからは「オフィスオーガスタ」所属の新人として話題を集め、フックの効いたメロディと心地よいアレンジで人気沸騰。2ndシングル「奏(かなで)」がロングヒットを記録し、1stアルバム「夏雲ノイズ」はオリコン週間チャート2位を獲得した。2005年には5thシングル「全力少年」で「第56回NHK紅白歌合戦」初出場。翌2006年には7thシングル「ボクノート」が「第48回日本レコード大賞」金賞(大賞ノミネート作品)に選出された。デビュー10年目を迎えた2013年には6月に18thシングル「スカーレット」、7月に19thシングル「Hello Especially」を立て続けに発表。8月21日に初のオールタイムベストアルバム「POPMAN'S WORLD~All Time Best 2003-2013~」をリリースした。さらに9月11日には、2012年10月より2013年3月まで行われた初の全都道府県2人ツアーからメンバー自らセレクトした音源を収めたライブアルバム「スキマスイッチTOUR 2012-2013 "DOUBLES ALL JAPAN"」の発売が決定。また10月からはベストアルバムを携えた全国アリーナツアー「スキマスイッチ10th Anniversary ArenaTour 2013 "POPMAN’S WORLD"」が開催される。