須田景凪|多様性を増すサウンドのルーツ

須田景凪が8月21日に新作「porte」をリリースした。

1月にリリースした6曲入り音源「teeter」がスマッシュヒットを記録し、7月には東京・中野サンプラザホール公演を成功させるなど、活動の規模を拡大させ続けている須田。新作は、アニメーション映画「二ノ国」の主題歌「MOIL」、テレビアニメ「炎炎ノ消防隊」エンディング主題歌「veil」など、さらに多様性を増したサウンド、彼自身のリアルな思いが反映された歌が軸となっている。音楽ナタリー初登場となる今回は、「porte」の制作を中心に、須田の音楽に対する姿勢、音楽的なルーツなどについて幅広く語ってもらった。

取材・文 / 森朋之

少しずつ表情が見えるようになって

──まずは7月14日に行われた中野サンプラザホール公演のことから聞かせてください(参照:須田景凪、初ホールワンマンで「二ノ国」主題歌初披露「もらったものは音楽で返していく」)。初のホールワンマンでしたが、手応えはどうでした?

「須田景凪 TOUR 2019 "teeter"」東京・中野サンプラザホール公演の様子。(Photos by Taku Fujii)

ライブの規模感が大きくなったのは実感しましたね。ライブをやっているときもそうだし、あとから映像を観たときもそうですが、ライブハウスとホールは別物だなと。ホールは演出的にもいろいろなことができるし、音響も違う印象があって。手応えがあったというより、「ホールはこういう感覚なんだな」と。

──MCでは、曲を聴いてもらえること、反応を返してくれることに対する感謝を率直に話していました。

そうですね。今まではTwitter、YouTubeなどでリプライやコメントをもらっていて、それもすごくうれしいんですよ。ライブでは1人ひとりの表情も見えるし、「自分の曲を聴いている人たちが本当にいるんだな」と実感したし、皆さんからの反応を生々しく受け取ることができて。それが自分の音楽に投影されている感覚もあるんですよね。

──ライブで感じたことが、楽曲に影響している?

すごくありますね、それは。「teeter」は、まさにそういう作品なんです。最初のライブ(参照:須田景凪、初ライブでバルーン曲も熱唱「音楽をやってきて本当によかった」)のときは、自分も余裕がなくて、会場に来てくれた方の反応を1割も受け取れてなかったと思うんですね。2度目のライブでは、多少は余裕を持てるようになって、少しずつ皆さんの表情も見えるようになって。自分にかけてくれる声も聞き取れたし、その中で生々しく受け取れるものもたくさんあって。「teeter」はそのあとで制作した作品なので、ライブで感じたことの影響が出ていると思うんですよね。ライブをサポートしてくれているメンバーとレコーディングしたのも、初めての試みだったので。

──最初の変化の時期だったのかもしれないですね。

そうですね……バルーン名義で出したアルバム(「apartment」「Corridor」)や(須田景凪名義の1stアルバム)「Quote」は、ひたすら自分の内側を見ながら作っていたんです。でも、「Quote」を出したあとにライブをやったことで、「もっと開けたものを作りたい」と思うようになって。自分の中に閉じこもって作った曲は、目の前で演奏しても、伝わり切らない部分が多いなと感じたんですよ。そこから違う方向の歌を作りたいと思って、最初に発表したのが「Dolly」という曲で。テーマをひと言でいうと「前向きになるべきだ。前を向いて音楽をやるべきだ」ということになるんですが、それまで前向きさやポジティブを背負ってきた人間ではないので、そこに対する疑問みたいなものもあって。なので「前を向いてみたい」という言葉でまとまったんですよね。「teeter」を出したあとのライブでは、「もっとこんなふうにできるはずだ」という部分、アップデートできるところも見つかって。それが今回の「porte」につながっていると思います。

日常に溶け込みたい

──「porte」の制作時は「teeter」のときとは違うモードだった?

「須田景凪 TOUR 2019 "teeter"」東京・中野サンプラザホール公演の様子。(Photos by Taku Fujii)

全然違いましたね。「teeter」のツアーで東名阪を回って、そこで受け取ったものをすぐ作品にしたというか。「teeter」を作ったときに感じていた、前を向くことに対する疑問はなくなって、純粋に「いろんなことをやりたい」という思いがすごく強かったんです。今までは作品全体のイメージを統一してから曲を作ることが多かったんですが、今回はそれをあえて決めず、1曲1曲、必要以上に考えすぎないように制作して。それをまとめたときに統一感が出ればいいし、出なくても別にいいと思ってたんですよ。結果的にはちゃんとまとまりが出たので間違ってなかったなと。いろんな人が聴けるキャラクターの曲を入れたかった、という気持ちもありました。

──幅広いテイストの曲が収録されているし、どんな趣味の人も1曲は「いいな」と思える曲がありそうですよね。「porte」はフランス語で“扉”を意味する言葉だし、まさに開かれた作品だと思いました。

確かにこの5文字(「porte」)を検索すると“扉”なんですが、このタイトルは“プレタポルテ”から来ていて。昔から「どんなアーティストになりたいか?」とよく聞かれていたんですが、武道館でのライブとか何十万枚売れるとかではなくて、聴いてくれる人の日常に溶け込みたい、と思っているんです。「どんなふうに溶け込むか?」「どういう距離感がいいのか?」とずっと考えていて……“プレタポルテ”は既製服という意味ですが、既製服って好きなアイテムと合わせてもいいし、着崩してもいいし、どんな使い方でもできるじゃないですか。その距離感が心地いいし、今回の作品の意図にも近いのかなと。プレタポルテ(pret-a-porter)だと最後に“r”が付くんですが、「porte」の方が字面がキャッチーだなと思って、“r”を削って。“扉”という意味になるのはあとで気付いたんですが、それもつながりがあっていいなと思っています。

──リスナーにとって特別な存在になるのではなく、日常の中に存在していたいと。

特別なものになれたらもちろんうれしいし、それ以上幸せなことはないと思いますが、寄り添うほうが自分に合ってるんじゃないかなと。ただ、聴いている人のために作っているというニュアンスでもないんですよね。自分が思ったこと、書きたいことを曲にしているからこそ、それを押し付けたくないというか、身構えて聴いてほしくないんですよね。学校や仕事の行き帰りとかに聴いてもらったり、日常を色付ける役割になりたいので。

須田景凪「porte」
2019年8月21日発売 / Warner Music Japan / unBORDE
須田景凪「porte」初回限定盤

初回限定盤
[CD+DVD+ブックレット]
3240円 / WPZL-31649

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須田景凪「porte」通常盤

通常盤 [CD]
1620円 / WPCL-13090

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CD収録曲
  1. veil
  2. MOIL
  3. 語るに落ちる
  4. 青嵐
  5. couch
初回限定盤DVD収録内容
  • 「porte」concept movie
  • 「MOIL」music video
  • 「veil」music video
須田景凪(スダケイナ)
2013年より「バルーン」名義で動画共有サイトにVocaloid楽曲を投稿し、人気を博す。自身の曲を自ら歌うセルフカバーでも数多くの支持を集めており、「シャルル」のセルフカバーは2019年8月時点でYouTubeで4000万回以上再生されている。2018年1月、自身で書いた楽曲を自身で歌う須田景凪名義の初アルバム「Quote」をリリース。同年3月には東京・WWWにて須田景凪名義の初ライブ「須田景凪 1st LIVE "Quote"」を行った。2019年1月、ワーナーミュージック・ジャパン内のレーベルunBORDEより6曲入り音源「teeter」をリリース。8月には新作「porte」をリリースした。

2019年8月23日更新