須田景凪|多様性を増すサウンドのルーツ

トラウマを抱えながら不器用に進んでいく

──では収録曲について聞かせてください。1曲目の「veil」はテレビアニメ「炎炎ノ消防隊」エンディング主題歌ですが、これはオファーがあってから制作した曲なんですか?

はい、書き下ろしですね。以前から、好きな映画を自己解釈して曲を作ることをたまにやっていて。そういうある種の二次創作をやっていたから、何かの作品に対して曲を書くこと自体はできなくはないと思ってたんですよ。「炎炎ノ消防隊」の原作は大久保篤さんのマンガで、大久保さんの「ソウルイーター」も好きで読んでいたし、お話をもらったときはすごくうれしかったです。最初はストーリー全体を詰め込んだ曲を書こうと思っていたんですが、原作を全部読んでみたら、主人公の森羅日下部がすごく印象に残ったんですよね。簡単に言うと、幼いときのトラウマを抱えながら生きていて、それを自分なりに払拭しようと不器用に進んでいくキャラクター像なんですが、自分自身ともリンクする部分、親近感を覚えるところがあったし、ストーリーを網羅するのではく、森羅の曲を書きたいと思って。

──なるほど。この曲はギターのアレンジもとても個性的で。ギターリフが軸になっている曲も多いですし、やはりギターの使い方にはこだわりがあるんですよね?

「須田景凪 TOUR 2019 "teeter"」東京・中野サンプラザホール公演の様子。(Photos by Taku Fujii)

もちろんこだわっているし、作り込んでますけど、もともとドラムをやっていたので、そっちのほうが思い入れが強いですね。「veil」もそうですが、ドラムとギターがキモになってる構成が多いかもしれないですね。

──アレンジを組み立てるときもドラムとギターが軸になっている?

いや、まず弾き語りでワンコーラス作るんです。そのあとメロディが映えるリズムを作って、ギターはそのあとですね。メロディを映えさせるギターの絡みをイメージしながら作ってます。

──なるほど。ちなみにドラムをやろうと思ったのはどうしてなんですか?

小さい頃、友達に「ポルノグラフィティっていうカッコいい音楽がある」と教えてもらって。僕の音楽リスナーとしてのルーツはそこなんですよね。DVDを貸してもらって観たら……そのときはすでに2人編成だったんですけど、なぜかサポートのドラムの人がめちゃくちゃカッコよく思えて。それがきっかけですね。

大事なのは違和感

──2曲目の「MOIL」は映画「二ノ国」主題歌です。

「二ノ国」はゲーム作品がもとになっている映画なんですが、そのゲームを以前からやっていたんです。ストーリーにもすごく感情移入できるし、グラフィック、BGMも素晴らしくて、全体のバランス感を含めて、すごく影響されている作品だったんですよね。なので主題歌のお話をいただいたときは「まさか自分が」という感じでした。まず脚本を読ませていただいて、それをもとに6、7曲くらい書いたんですが、アッパーな曲もあったし、壮大なバラード系もありましたね。その中に自分で違和感を覚える曲があって、それが「MOIL」だったんです。映画の主題歌はエンドロールで流れることが多いけど、オープニングテーマとエンディングテーマの両方の役割があって、予告編やCMなど、いろんな使われ方をするじゃないですか。そこで大事なのは違和感だなと思ったんですよね。サビのデモを作って、どこか心地よい違和感を覚えて。「きっとこれなんじゃないか」と思ったというか。J-POPでありながら違和感もしっかりある、その絶妙なラインを作るために、(アレンジャーとして)トオミヨウさんに入ってもらいました。

──ポップと違和感の両方が必要だったと。それはほかの曲でも意識していますか?

「須田景凪 TOUR 2019 "teeter"」東京・中野サンプラザホール公演の様子。(Photos by Taku Fujii)

そうですね。キャッチーな音楽を作りたいと思っているんですが、そのためには聴いてくれる人の頭に残る、引っかかるものが必要で、それを違和感と呼んでいるんです。それは「MOIL」に限らず、全曲に入れるようにしてますね。それがなかったら、僕の音楽ではなくなってしまうのかなと。

──同時にJ-POPでありたいという思いも?

それはめちゃくちゃ強いですね。始まりがポルノグラフィティというのもあって、めっちゃJ-POP好きなんですよ。結局、キャッチーでわかりやすいものが一番好きだし、いろんな人、たくさんの人に聴いてもらうことにも大きな意味があると思っています。

──なるほど。映画「二ノ国」を観た感想も聞かせてもらえますか?

ずっと脚本で読んでいたものが、百瀬義行監督が映像にして、素晴らしいキャストの皆さんが声を入れて。全体のバランスを含めて、映像芸術として素晴らしいし、感動しましたね。最後に自分の音楽が流れたときはビックリしましたけどね。「あ、ホントに流れるんだ」って(笑)。

──(笑)。映画と合っている曲になった、という実感は?

それはわからないです。もちろん自分では「合っているはずだ」と思っていますが、映画が公開されてみないと……。今の自分の最善を詰め込めたし、日野晃博さん(映画「二ノ国」の原案・脚本、製作総指揮)も「いい音楽を作ってくれてありがとう」と言ってくださったので、大丈夫だと思ってますけどね。

須田景凪「porte」
2019年8月21日発売 / Warner Music Japan / unBORDE
須田景凪「porte」初回限定盤

初回限定盤
[CD+DVD+ブックレット]
3240円 / WPZL-31649

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須田景凪「porte」通常盤

通常盤 [CD]
1620円 / WPCL-13090

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CD収録曲
  1. veil
  2. MOIL
  3. 語るに落ちる
  4. 青嵐
  5. couch
初回限定盤DVD収録内容
  • 「porte」concept movie
  • 「MOIL」music video
  • 「veil」music video
須田景凪(スダケイナ)
2013年より「バルーン」名義で動画共有サイトにVocaloid楽曲を投稿し、人気を博す。自身の曲を自ら歌うセルフカバーでも数多くの支持を集めており、「シャルル」のセルフカバーは2019年8月時点でYouTubeで4000万回以上再生されている。2018年1月、自身で書いた楽曲を自身で歌う須田景凪名義の初アルバム「Quote」をリリース。同年3月には東京・WWWにて須田景凪名義の初ライブ「須田景凪 1st LIVE "Quote"」を行った。2019年1月、ワーナーミュージック・ジャパン内のレーベルunBORDEより6曲入り音源「teeter」をリリース。8月には新作「porte」をリリースした。

2019年8月23日更新