「スペナタ」#01 山下智久|5年ぶりアルバム完成、ストイックに音楽と向き合い描いた“Vision”とは? (2/2)

過去も自分次第で変えられる

──「Sunrise」も山下さんだからこその歌詞だと感じました。温かみのあるメロウなR&Bですが、サウンド面で何かリクエストはしたんですか?

この曲のデモを聴いたのは、僕がちょうど南の国に滞在していて、サンセットのタイミングに車を運転していたときでした。すごく心地がよくて明るい気持ちになれたので、この気分を歌詞に乗せたら素敵な曲になるんじゃないかなと思ったんです。そのとき僕が見ていたのは夕日ですが、気分次第で朝日にも見えるなと思った。やはりなんでも自分次第だなという思いを込めて歌詞を書きました。自分次第で過去自体を変えられることもあると思うんです。例えば、子供の頃に親に何か言われると鬱陶しく感じることもありましたが、自分が大人になって年下の子に注意をすることがあると、「あのときの親はこういう気持ちだったのかな」と思って、感謝の気持ちが生まれるというか。さっきお話したように、「この経験があったからこそ今の自分がいる」と思えたら過去の失敗も成功に変わるし、過去も自分次第で変えられるという思いがありますね。

──お話を聞いていると、山下さんはさまざまなことをポジティブに捉えることで、エネルギーに変えられているんですね。

それはたぶん僕が本来ネガティブだから、一生懸命ポジティブに変換しようとしているんじゃないですかね。ネガティブだからこそポジティブに考える習慣がついたんだと思います。

山下智久

──その習慣は作詞をするうえでプラスになっていると思いますか?

そうですね。大変な経験をしてつらいという感情を知ったことで、ポジティブな方向に考えるエネルギーが生まれたと思うんです。ずっとポジティブなことしか知らなかったら、自分がポジティブであることにすら気付かない。そう考えると、ネガティブな感情というのはすごく大事だと思います。

──作詞は約20年前からやられていますが、山下さんの活動においてどんな意味合いを持っていると思いますか?

作詞は自分自身をしっかりと見つめ直すきっかけになるので、すごく貴重な機会をいただけているなと思っています。

──詞を書き続けることはご自身にとって必要なこと?

別に珍しくないことだと思うんですが、自分はどんどん変わっていきます。今の自分が書いたらこういう歌詞になるけれど、5年後の自分だったら違う歌詞になるかもしれない。そういう面でも作詞は自分を見つめ直すきっかけを与え続けてくれていると思います。応援してくれている方たちのおかげで、僕はそうやって学び続けることができる。すごく感謝していますし、これからもそういう機会をしっかりと作っていけるようにがんばっていきたいなと思っています。

──作詞に対する思いは、この20年の間で変化していますか?

意識はしていないですが、経験が自分を変えていっていると思います。いろいろな人に会っていろいろな経験をして、 いろんな価値観の中に身を置くことで変化はありました。変わっていない部分もありますが、詞の内容はすごく変わったと思う。昔の自分の歌詞を読み返すと恥ずかしさを感じるので、あまり見たくない気持ちはありますね(笑)。そういうふうに感じるということは成長できているということだと思うので、よいことだと捉えています。

“Vision”が行動につながり実現に至る

──ロック調の「Vision」には山下さんの活動におけるモチベーションが描かれていると思いましたが、その点はいかがでしょう?

これはタイアップの楽曲だったので(「デジタルガレージ」の新CMソング)、曲調は先方からのリクエストに沿ってロックテイストになりました。アルバムタイトルにも入っていますが、“ビジョン”というのは自分にとってのキーワードなんです。何をするにもまずはビジョンをちゃんと描けるかどうかが重要で、ビジョンが行動につながって実現に至る。だからこの曲はネガティブな要素をそぎ落として、丁寧に作っていくことを意識しました。

──「まだまだ高く飛べると信じ 誰も見たことない景色を」という歌詞がありますが、こういう気持ちが今おっしゃったようなことにつながっているということでしょうか?

そうですね。それが僕の生きるモチベーションだと思います。

──ロック調の「Vision」がありながら、「Face to Face」はラップ調の歌唱が混ざっていたり、スローテンポの「ONE」は力強くまっすぐな歌唱だったりと、歌い手としての多彩さもすごく感じました。

そこはあまり意識していないですね。ラップでもメロディアスな歌でも心から楽しんで、自然と今の自分が「心地いいな」と思えるものを歌っている感覚です。自分に合うラップと合わないラップというのがあるんだろうなと思いながらも、いつも心に身を委ねて歌わせてもらっています。「無理せず、心地よく」というのが僕にとって歌うときのキーワードです。

山下智久

英語への理解、海外での活動がもたらす影響

──英語を身に付けたことが、楽曲制作においてポジティブな影響をもたらすことはありますか?

別の言語がわかるようになると、情報はすごく増えますね。それに友人も増えますし、聴く音楽の幅もすごく広がります。だから自然と多くの楽曲に触れることができて、自分が心地いいと思えるものもどんどん変わっていく。英語ができるようになったことは、自分の音楽にも大きな変化をもたらしていると思います。

──作詞をするうえで、英語と日本語の使い分けにおけるジャッジのポイントがあったりするんでしょうか?

言葉を当てはめてみて違和感が少ないほうを選ぶことが多いですね。トラックに対して音が滑らかに乗るかどうか、気持ちいいかどうかを意識します。あと、英語のほうが短い尺の中に言葉がたくさん入るので、多めに意味を込めたいときは英語にするケースもあります。

──海外での活動は音楽制作にどんな影響を与えていると思いますか?

外国に行くと聞こえてくる音楽も違いますよね。無意識のレベルだと思うんですが、その感覚が自分が心地いいと思える音楽を変化させている気がします。邦楽も洋楽も、昔の曲も最新の曲も聴きますが、いろんな楽曲を聴いたうえで、自分が心地いいと感じる音楽をシンプルに追求していけたらいいのかなと思っています。

──ちなみに、最近のお気に入りの曲やアーティストは?

最近は異国のバイブスを感じる音楽がけっこう好きかもしれないです。「このバイブスは日本から遠いな」って感じるものが好きです(笑)。でもいざ日本から遠く離れた場所に行くと、懐かしい日本の曲を聴いてみたりするし……振れ幅の大きさを感じるのが好きなんでしょうね。音楽は自由に行ったり来たりできるのが楽しいですね。自分が今どこにいるかで聴く音楽が変わるし、天気でも変わる。音楽は誰にも邪魔されない自由な空間だと思っています。

遺伝子に組み込まれた「音楽を楽しめる血」を大切に

──5年ぶりのアルバムを携えてのアリーナツアー、どんなコンサートにしたいですか?

コンサートの時間が、5年後でも「楽しかったな」と思えるものにしたいと思っています。

──山下さんはコンサートのセットリストを考えるとき、何を重要視しますか?

曲のつながりや感情の波をちゃんと作れるような構成は意識しますね。全部つながっているというか。コンサートだけじゃなく、ほかの仕事も含めて、やっぱり波の幅が大きいほうが楽しさを感じるんですよね。日常とはまた違う空間で、楽曲の感情の波の高低差をしっかり付けて、楽しい時間にしたいと思います。

──アルバムが完成した今、音楽活動に対してどんなビジョンを持っていますか?

自分が心地よくて楽しめる音楽をどんどん制作していきつつ、海外の方も含めていろいろな人とコラボレーションしていきたいですね。コラボをすると刺激をもらえるし、僕の感性が相手になかったりするとすごくよい反応が生まれると思うので、積極的にやっていきたいと思っています。

山下智久

──この5年の間に音楽に対する向き合い方や、楽曲制作に対する考え方の変化はありましたか?

音楽は気分をサポートしてくれるものなので、僕にとってすごく大事なんだなと思いました。これから先も音楽に対する思いは変わらないと思います。音楽を楽しむ気持ちって、僕らの遺伝子に組み込まれているんだと思うんですよね。だから、音楽を楽しめる血をもっと大切にしていきたいと思います。

──音楽と俳優という2つの活動の軸があることで感じる面白さと、難しさがあれば教えてください。

自分が出演した作品の主題歌などをやらせてもらえるというのは、これ以上ない光栄なことだと思っています。音楽は作品のひとつ外側にある要素だと思うので、しっかり作り上げないと、作品も楽曲もどちらもダメになってしまう。相乗効果を持たせるはすごく難しいことですが、難しいからこそ楽しくやりがいが見出せています。

心からワクワクすることを

──山下さんはこの4月に38歳を迎えられました。40歳まであと2年となりましたが、30代でやり残したと思うことはありますか?

仕事で旅をすることが多かったので、仕事と関係なく旅をしたいなと思っています。バックパッカーをやろうかなと(笑)。もしかしたら結果としてそれが仕事につながることもあるかもしれないですが。行ったことのない場所に行きたいですね。まだまだ知らないカルチャーもありますし、出会ったことのない人たちにも出会いたいです。

──年齢やキャリアを重ねたからこそできるようになったと感じることは?

自分の意見をちゃんとシェアできるようになったことでしょうか。自分が持つ情報が増えたことによって学ぶ機会も多くなりましたし、経験値を積んだからこそコミュニケーションが取りやすくなったと思います。選択肢はすごく増えましたが、逆に変わらない部分が明確に見えてきたので、簡潔に意志を伝えられるようになってきたのかな。自分の好きなこともやりたくないことも少しずつ見えてきましたね。若い頃はとにかく量をこなしていくというプロセスでしたが、今はやりたいことを選んで、量より質になってきている気がしています。

──では、年齢とキャリアを重ねたことで逆にできなくなってしまったことはありますか?

できなくなったというよりも、心からワクワクしないことはやらないようになりました。先ほどの話にも通じますが、やりたくないことを無理してやることは、自分に対しても、応援してくれている人に対しても誠実ではありません。自分がやりたいこと、ワクワクすること、「この人と仕事がしたい」と思うようなことにパッションを向けないと意味がないと思うようになったんです。生意気なことを言うようですが、やりたくないことはやらなくなりましたし、それでいいと思っています。

──そぎ落とされてシンプルな方向に向かっているんですね。

そうですね。我慢してやっていたりすると、相手にも応援してくれる人にも全部見透かされちゃんですよね。それに気付いてしまった以上、できないなと。だから、今のやり方が自分に対してもファンの方に対しても一番健康的だと思っています。

「スペシャオンデマンド」では山下智久の特番「『Sweet Vision』SPECIAL」未公開シーンを含むバージョンを配信中。

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山下智久

公演情報

TOMOHISA YAMASHITA ARENA TOUR 2023 -Sweet Vision-

  • 2023年8月11日(金)愛知県 ポートメッセなごや新第1展示館
  • 2023年8月12日(土)愛知県 ポートメッセなごや新第1展示館
  • 2023年8月15日(火)兵庫県 ワールド記念ホール
  • 2023年8月16日(水)兵庫県 ワールド記念ホール
  • 2023年9月2日(土)神奈川県 ぴあアリーナMM
  • 2023年9月3日(日)神奈川県 ぴあアリーナMM

プロフィール

山下智久(ヤマシタトモヒサ)

1985年4月9日、千葉県生まれ。1996年より芸能活動を開始し、2006年にシングル「抱いてセニョリータ」でソロCDデビュー。この曲が主題歌となったドラマ「クロサギ」で初の単独主演を果たし、以降ドラマ「プロポーズ大作戦」「ブザー・ビート~崖っぷちのヒーロー~」「SUMMER NUDE」「アルジャーノンに花束を」「インハンド」「正直不動産」に主演した。また映画出演作に「映画 クロサギ」「あしたのジョー」「近キョリ恋愛」「テラフォーマーズ」「劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」などがある。近年は活動の場を海外にも広げており、日欧共同製作のHuluオリジナルドラマ「THE HEAD」、Netflixで配信中のハリウッド映画「マン・フロム・トロント」に参加した。2023年6月よりPrime Videoで独占配信中の「SEE HEAR LOVE ~見えなくても聞こえなくても愛してる~」のほか、同年内にHuluで独占配信される「神の雫/Drops of God」にも主演。7月には約5年ぶりのアルバム「Sweet Vision」をリリースした。8月からはアリーナツアー「TOMOHISA YAMASHITA ARENA TOUR 2023 -Sweet Vision-」を行う。