「スペナタ」#01 山下智久|5年ぶりアルバム完成、ストイックに音楽と向き合い描いた“Vision”とは?

音楽の魅力をテキストで伝える音楽ナタリーと、映像で伝えるスペースシャワーTV。この両者がタッグを組み、毎回1組のアーティストを特集する企画「スペナタ」を立ち上げた。さまざまなアーティストに合同で取材を行い、音楽ナタリーではインタビューページ、スペシャでは特番という形で紹介していく。

その記念すべき第1弾アーティストは、ニューアルバム「Sweet Vision」を7月19日にリリースしたばかりの山下智久。この夏アリーナツアー「TOMOHISA YAMASHITA ARENA TOUR 2023 -Sweet Vision-」の開催も控える山下は、およそ5年ぶりのオリジナルアルバムに込められた思いやツアーに向けての意気込み、30代後半に差しかかった今現在のリアルな心境を、彼らしい実直な言葉で語ってくれた。

取材・文 / 小松香里撮影 / 須田卓馬

スペースシャワーTVで放送されたこのインタビューと連動した特番「『Sweet Vision』SPECIAL」は「スペシャオンデマンド」にて見逃し配信中。

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コンサートツアーに背中を押されて完成したアルバム

──5年ぶりのアルバム「Sweet Vision」が完成した率直な感想を教えてください。

8月からアリーナツアーを控えていまして、それに向けて急ピッチで制作をしたので、なんとか間に合ってよかったなと思います(笑)。

山下智久

──ツアーを意識して制作したことによって、結果的にどんなアルバムになったと思いますか?

正解はわからないですが、コンサートに背中を押された感じが逆によかったかもしれないです。火事場の馬鹿力的な追われている感じが(笑)、よい化学反応を生んでくれたように思います。楽しみながら作ることができました。

──コンサートを意識したことで楽曲制作にどんな影響があったと思いますか?

みんなで歌えて会場がひとつになれる作品を目指したところもありますし、なるべく邪念を取り払って、今聴いて楽しいと思うような楽曲、自然と体が動くような楽曲を制作していきましたね。

──山下さんは、流行りよりもその時々のモードが楽曲制作に反映されることが多いそうですが、今作もそうでしたか?

そうですね。今の時代は興味のチャンネルがたくさんあって、それぞれの好みが細分化されているので、流行りはあってないようなものだと思うんです。例えば外国では日本のシティポップがすごく流行っていたりするけど、東京だとそこまで盛り上がっているわけではなかったり。だから、自分が本当に心地いいと思えるものが正解だと思うんです。流行っている音楽も好きですが、僕自身が表現する際にはあまり意識しなくてもいいのかなと思って自然体でやっています。

忘れかけていた“魂”

──リード曲の「Sweet Vision」をアルバムタイトルにしたのは?

今回はアルバムタイトルを先に決めたんです。「Sweet Vision」というタイトルを決めたあと、けっこう前からあった曲のデモを聴いたら、そっと背中を押してくれるようなメロディだと感じたのと、何年か寝かしていたにもかかわらずスッと入ってきて。そこによいリンクを感じて「気持ちを込めて丁寧に作り上げていけば、色あせない曲になるかもしれない」と思って、アルバム全体を象徴する曲としてタイトルを「Sweet Vision」に決めて仕上げていきました。

──1曲目の「Anima」はパイプオルガンで始まるクールで挑発的なR&B調の楽曲ですが、何度も「始めよう」というフレーズがリピートされ、アルバムおよびコンサートの幕開けを想起させます。これは1曲目を想定して作られたのでしょうか?

はい。自分の中でアルバムの1曲目には助走を付けていくイメージがあるので、そういったメッセージを込めた曲がいいなと思って作りました。

山下智久

──「魂で愛そうよ」というラインが特に印象的です。どんな思いが込められているんでしょう?

この曲は僕が出演した映画「SEE HEAR LOVE 見えなくても聞こえなくても愛してる」の主題歌で(参照:山下智久主演の日韓共作ラブストーリー配信決定、視力を失っていく難役に挑む)。この映画のキーワードの1つに“魂”という言葉があるんですが、「そういえば、最近魂という言葉を意識していなかったな。忘れかけてしまっているな」と感じ、情熱をしっかりと思い出さなきゃいけないなと思ったんです。年齢を重ねてきたこともあり、1回しかない人生を生きるうえで魂を燃やしていきたいと考えるようになった。それで、これからの自分へのメッセージとして歌詞に入れたんです。

──山下さんはずっと情熱を燃やし続けている印象があったのですが、忘れてかけていると感じられたんですね。

「何を考えられているか」ということがすべて行動に出ていくと思うんです。僕はもともとけっこうな負けず嫌いなんですが、この数年、コロナやいろいろなことがあったことで、その負けず嫌いの部分が弱まった気がしていて。ここでちゃんとギアを入れ直して、もう1回アクセルをがっつり踏んでいきたいと感じていた時期に、情熱を持ってる映画作品と出会って、魂という言葉が出てきたんだと思います。情熱を忘れてしまうのはやっぱりもったいないですよね。そういう気持ちを、これまでの僕のファンだけでなく、いろいろな方に届けたいという思いがあります。

──コロナ禍に入って活動が制限された状態になると、情熱があったとしても、それをぶつける場所が奪われたしまった感覚にもなったんでしょうか。

火はどれだけ燃えていても空気が循環しないと小さくなってしまうんですよね。外に出られなかったり、何もできなかったりすると弱まってしまう。世間の状況的にもだんだん風通しがよくなってきたこともあって、僕も情熱をぶつける場所を求めているのかもしれません。

山下智久

山下智久にとっての強さとは?

──「Face to Face」に「誰かのためもっと強くなりたいと願う」という歌詞があり、「Beautiful World」には「強くなれるさ 本当は もう一度だけ」というフレーズがありますが、山下さんにとって強さは重要なのでしょうか?

強さは僕に足りない部分だと思うんです。だからこそ「自分自身が強くなるためにはどうすればいいのか」という気持ちが自然に歌詞に反映されているのかもしれません。強くないから強くなりたい、というシンプルな感情だと思います。でも、そういう感情を原動力に変えられる自分でいたいと思っています。

──例えば英語を独学で学ばれたり、山下さんはすごくストイックに自分の意志を具現化されている印象があるので少し意外です。

きっと強くないからこそ、いろいろな場所に身を置いて、 強くなれるような環境を作っていきたいんだと思います。日々自分の弱さは感じています。それを克服するための人生だと思っています。

山下智久

──では、山下さんから見て強さを感じる人というと?

結局は自分との戦いだと思っているので、自分で掲げた目標にちゃんと近付いていける人は強いなと思います。目標は人によって違うと思いますし、ときには休んでもいいと思うんですよね。ただ、継続できるということは強さだと思います。

──「Beautiful World」の「昨日の自分にさよならさ 振り返らない 歩いて行く」という歌詞は今の強さと弱さの話に通じる気がしました。

過去のことは変えられないし、起こったことはどうしようもないんですが、10年後の自分がすごく成長できていたら、たとえマイナスな出来事でもプラスに変えられると思うんです。それも自分次第。起きてしまった瞬間は落ち込むようなときも、将来的に「あの出来事があったから今の自分がいる」と思えるようにするために歩みを止めなければ、わりとどんなこととも向き合っていけるのかなと思っています。そういう思いがこの歌詞には込められているのかもしれないですね。