「スペナタ」#03 中島健人|1stソロアルバム「N / bias」でさらけ出す“本当の自分”

音楽の魅力をテキストで伝える音楽ナタリーと、映像で伝えるスペースシャワーTVがタッグを組み、毎回1組のアーティストを特集する「スペナタ」。この企画では、さまざまなアーティストに合同で取材を行い、音楽ナタリーではインタビューページ、スペシャでは特番という形で紹介している。

第3回に登場するのは1stソロアルバム「N / bias(ノンバイアス)」をクリスマスにリリースした中島健人。「自身に対する偏見だったり評価というのを一度取っ払ってみたい」という思いで制作したという本作について、本人に話を聞いた。

取材・文 / 森朋之撮影 / YURIE PEPE

レッドカーペットではなく、砂利道を歩く自分を見せたい

──1stソロアルバム「N / bias」が完成しました。まずは中島さんご自身の手応えを聞かせていただけますか?

中島健人名義での1作目として、すごくいい出来になったんじゃないかなと思ってます。

──「N / bias」にはこれまでの“中島健人”に対する評価や偏見を振り払い、殻を破っていくという決意が込められているそうですが、このタイトルに至った経緯は?

レーベルのスタッフさんとアルバムのミーティングを行ったときに、「ぼくのダメなところ」というタイトルを提案されたんです。すごいインパクトだなと思ったし、ちょっと懸念もありつつ、「むしろ面白いんじゃないかな?」と思って。その提案をもとに、「自分の言葉で『ぼくのダメなところ』をタイトルにしたらどうなるだろう?」と考えてみたんです。「自分のダメなところはここです」「実はこんなふうに思っていました」と自己開示するのが最初のピッチでした。ソロデビューするにあたって、完璧な自分のイメージを見せるというより、もっと人間的にナチュラルなところを音楽として展開してくのは新しいなと。さらに話を進めていく中で、「ダメなところ」は素直な部分、赤裸々な部分でもあるなと思ったし、それはたぶん自分に対する評価や、偏った見られ方を取り払った状態でもあると思って。そこで出てきたのが“バイアス”という言葉だったんです。皆さんにも耳馴染みがあると思うし、否定形の“ノン”を付けることで、もっと突き刺さるんじゃないかなと。

──中島さんは職業柄、たくさんの人たちに先入観を持たれている部分もあると思います。バイアスという言葉に対しては、どんな思いがありますか?

いろんな目線があると思うんですよね。自分に向けられた言葉に対して、「それは5年前の自分だよ」と思うこともあるし、人によって印象が違うので。総じて言えるのはアイドルとしてのキラキラした部分だと思うし、あとは大きな決断をしたあとに発生した意見、偏った見られ方もきっとあるのかなと。それらをすべて取り払って、新しい自分に生まれ変わるという気持ちもアルバムに込めています。

──音楽性やサウンドについてはどうでしょうか?

最初は、泥臭いことをやりたいなと思っていたんです。リード曲の「ピカレスク」はその代表ですね。新しいスタートを切るうえで、「今までにない表現をしないと絶対にダメだな」と自分の中で決めていて。レッドカーペットではなく、砂利道を歩く自分を見せたい。本来はレッドカーペットを歩きたいタイプですけど(笑)、ガチガチのスパイクを履いてデコボコ道を、もがいてあがいて泥臭く突き進んでいく姿を見せたいというのが最初のコンセプトでした。自分はおそらく、アイドルとしては器用なタイプに見られていたと思うんです。ただファンの方には深く知っていただいているんですが、意外と“不器用ながらにパワフルに突き進んでいる”というのが僕の本来の姿なんですよ。自分だけではなくて、泥臭くもがいて、何かを叶えるためにずっと追いかけ続けている人たちの味方になりたい、一緒に走っていきたいというマインドもあります。

──なるほど。ただ、アルバム全体的にはバラエティに富んだ楽曲が収録されていますよね。

そうなんです。ディレクターの方やチームで話をしていくうちに、多角的な目線で自分にフィットした音楽を、ヘビーなものもライトなものも入れたほうがいいんじゃないかということになって。アクセサリーを日によって付け替えるように、自分の音楽もその日の気分で選んでもらえるようなアルバムになったと思います。

中島健人

傷跡すらも自分の人生のデザインとして表現できた

──では、収録曲についてお話を聞かせてください。「ピカレスク」はアルバム「N / bias」を象徴する楽曲だと思います。作詞は中島さんですが、どんなテーマで制作されたのでしょうか?

「傷だらけになってやろう」と思って。「それでも俺は走り抜くんだ、本当のことをわかってもらえるまで」みたいなテーマで書きました。一時期はSNSで自分に対するネガティブなコメントを朝まで読んでいたこともあるんですよ。そのときに感じたのは、「これを自分の心の中だけに閉じ込めておくのは違う。音楽をやる人間だったら、これを表現に昇華することが使命だ」ということ。そこからどういう作品を作ろうかと思案して、ダークヒーロー、ヴィラン、悪漢がテーマの「ピカレスク」というテーマが出てきた。ならず者になっても世の中を変えていくんだ、という気持ちも込めてますね。この曲ができたことで、すべての経験、時間、言葉たちが無駄じゃなかったんだと考えられるようになりました。傷跡すらも自分の人生のデザインとして表現できたんじゃないかなと。

──アルバムにはtonunさんが手がけた「黄昏てゆく夜に」、DONGURIZUが作詞作曲した「Dance on the floor」、☆Taku Takahashi(m-flo)さんのプロデュースによる「Bye Bye Me」も収録されています。

tonunさん、DONGURIZUのお二人とは直接お会いしてないんです。ディレクターの方から「どういう方と一緒に曲を作りたいか?」という質問があって。僕からも何人か名前を挙げさせてもらったんですが、tonunさんとDONGURIZUはディレクターの方のおかげで巡り合えたんですよ。アルバムの中に新しい風を吹かせてくれた皆さんなので、いつかぜひお会いして、曲について話せたらいいなと思っています。☆Takuさんとは「HITOGOTO」(ドラマ「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」から生まれた、中島が歌唱・作詞を務める音楽プロジェクト)のときから一緒にやらせていただいていて、恩人ですね。自分が新たなスタートを切る決断をしたときに、いろんなアドバイスをくれて。自分の人生をさらに深く考えるようになったのは、☆Takuさんの言葉があったからだと思っています(参照:中島健人「ヒトゴト」インタビュー)。

──クリエイターの方々との新たな出会いによって、ボーカリストとしての幅も広がったのでは?

実際に何段階か音域が広がったんじゃないかと思ってます。2カ月くらいで16曲仕上げる中で歌うことが習慣になって。アイドルという職種柄いろんな仕事があるんですが、歌わない期間が長くなると、ひさびさに歌ったときにうまく表現できないことがあるんです。でも、今回のアルバムの制作期間にとにかく歌い続けていたことで、歌うことが好きになって、音域も少し広がって。ほかの仕事もある悪魔的なスケジュールで(笑)、“音楽だけ”というわけにはいかない環境だったんですけど、僕はそっちのほうがいいクリエイションが生まれるのかもなと思ったりもしました。いろんな仕事をしている中で音楽のことを考えると、アイデアも豊富になっていくというのかな。それこそ「ピカレスク」の歌詞は、Bメロをタイで書いて、国内でCM撮影をしている時期に仕上げたんですよ。制作のマインドがずっと起きていたというか、いろんな人と会話しながら言葉を吸収して、それを形にして。いろんな場所に出向いて、そこで拾ったり集めたりしたアイデアを曲にしていくのは面白いです。すごく刺激的な2カ月でしたね。

本当はジェラスしてるからね

──5曲目の「Scene29」は中島さんが作詞作曲した楽曲です。

去年の2月くらいに、自分が29歳のうちに20代を代表する作品を残しておきたいなと思って書いた曲ですね。テイラー・スウィフトにも「22」という曲がありますけど、年齢ごとにテーマを絞って曲を残しておくのは面白いんじゃないかと。僕は映画の番組「中島健人 映画の旅人」もやっているんですけど、人生が100年あるとしたら、最後が“シーン100”で、今は“シーン29”を生きている。そして、自分の物語はさらに続いていくというメッセージを曲を通して映画的に表してみたかったんです。イントロで映写機の音を鳴らしているのも、これから映画が始まりますよ、という表現です。

──20代が終わり、30代が始まることは中島さんにとって大きな節目だった?

大きいですね。僕はもともと、今しかできないことを今やりたいタイプで。20代を生きる中でそれができなくて悔しい思いをしたり、後悔したりしたこともたくさんあるんですよ。今後の人生にもそういうことが起きるかもしれないけど、妥協しながら人生を歩みたくない。1つひとつのことにさらに本気になりたいという気持ちも強かったし、29歳から30歳になる1年は「次の10年間をどう生きようか」と覚悟を決めた時期でもあったんです。20代で培った経験、20代で得られた仲間たちとの思い出をすべて自分の力にして、新たな10年を歩みたい。それが自分の決断でした。

──このアルバムにも、中島さんの強い意思が表れているんですね。

自分が今歩んでるポイント、頭の中にある言葉は、楽曲を通して随所に置いてありますね。アルバム3形態合わせて全部で16曲あって、そのうち半分は作詞作曲に携わらせていただいて。あとの半分はアーティストの皆さんから提供していただいた楽曲で構成されているので、これまで自分が醸成してきたアイデアと新しい風の両方があるんですよ。過去、現在、未来を表すようなアルバムになっています。

──ダンサブルな楽曲「jealous」も、中島さんが作詞を手がけています。

「ピカレスク」の歌詞を書いたとき、「明るい曲もないとヤバいな」と思って。「ピカレスク」はあまりにもダークヒーロー感が強すぎるので、曇った空を晴れさせないといけないと思い、気持ちが晴れやかになるような曲として作りました。タイトルは「jealous」なんですが、僕は嫉妬って別に悪い感情ではないと思ってるんですよ。何かに思いを馳せる、気持ちが前のめりになるのは悪いことではないし、何かに羨望の眼差しを向けつつも、「もっとこうしたい、ああなりたい」と考えることにもつながるので。歌詞の中では、どちらかが日本ではないところにいる、国境を越えた遠距離恋愛についても描いているんです。自分も今年は全国ツアーをやれなかったし、ファンの方と遠距離になっちゃったなって。でも皆さんは僕以外のライブにも行くわけじゃないですか。「ほかの人のライブに行くんだ? どうぞどうぞ」と口では言っていても、本当はジェラスしてるからねって(笑)。それぐらいあなたに思いを馳せてるよという比喩でもあるし、自分自身もこの曲の歌詞を書いていて、心がくすぐったくなって、「またがんばろう」と思いました。大人の嫉妬ソングとして楽しんでいただきたいです。