音楽ナタリー Power Push - スカート

カルトヒーローかポップスターか 次世代担う巨星のゆくえ

澤部渡によるソロプロジェクト、スカートがアルバム「CALL」を発表した。これまで自主制作で作品を発表してきたスカートだが、今作はカクバリズムからのリリース。レーベルのサポートを受け、これまでになく自由でポップに解き放たれた作品を生み出した今、スカート=澤部渡は何を思うのか。彼の音楽家として、そしてリスナーとしての歴史を辿りながら「CALL」という作品が結実するに至った経緯、そしてその先の未来を探った。

取材・文 / 小田部仁 撮影 / 塚原孝顕

「Flyer TV」と「テレバイダー」と母親

──まずは澤部さんの音楽の原体験を教えてください。

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気がついたら光GENJIが好きでしたね。あとは、チェッカーズとかマッキー(槇原敬之)とか。当時流行っていたゆずも大好きでした。中学生ぐらいになると深夜にやっていた音楽番組を熱心に観ていました。「Flyer TV」とかすごく覚えてますね。兄が「トゥナイト2」を録画しようとして失敗したビデオに偶然入ってたんですけど(笑)、笑福亭鶴光師匠がちょっとした下ネタを入れて曲を紹介するっていうコーナーがあって。その番組で椎名林檎さんのことを知りました。……あの番組、もう1回観たいなあ(笑)。

──澤部さんは中学生の頃から、yes, mama ok?のライブやイベントにお母さん同伴で行かれていたそうですね。

いや、いつも母が一緒だったわけじゃないですよ! 友人と行くときに保護者として付いて来てましたね。yes, mama ok?に興味を持ったのもTOKYO MXが最初で。「電リクBEATBOX!」という番組で「Sun Oil」という曲を聴いたのがきっかけですね。その翌年「テレバイダー」という番組に金剛地(武志)さんがタレントとして出演していて、それを観て「あのときの!」と熱が一気に高まってライブに行きました。

──当時を知る人たちに聞くと、気に入った音楽がかかるとDJ卓のところに来て「この音楽はなんですか?」と尋ねるような少年だったとか。

生意気にも当時からブロッサム・ディアリーなんか聴いてましたね(笑)。母親がある日、急に「昔、聴いた音楽がまた聴きたい!」って言い出してディアリーの「ワンス・アポン・ア・サマータイム」を買ってきたんですよ。母親のレコード棚にはすごく影響を受けていて。ジャケットがあまり怖くないものを選んで聴いてました。YMOとかDEVOとかRCサクセションとか。XTCは不気味だったので小学生の頃は聴かなかったな(笑)。

──そこから、どんどん音楽を探求していくのが楽しくなっていった?

そうですね。偶然なんですけど、あのとき、金剛地さんがライブのレパートリーに選んでいたカバー曲が、母親の音楽の趣味と合うところがあって。Sergio Mendes & Brazil '66とかチェット・ベイカーとか……高橋幸宏さんの「サラヴァ!」もそうですね。「この音楽たちは何かつながってるぞ!」っていう発見があったんで、どんどんレコードやCDを掘るのが楽しくなっていったんです。

音大最初の1年はドブに捨てました

──自分で音楽を作り始めたのはいつ頃ですか?

小学生とか中学生の頃から遊びでやったりはしてました。ラジカセのダビング機能を使って多重録音でよくわからないインストの曲を作ったりして。そういう実験的な時期を抜けて(笑)、歌モノを高校1、2年生ぐらいから作るようになって。それを少しずつ続けてたら、今、こうなってるって感じです。

──その頃から音楽の道に進むってことは決めていたんですか?

いや、最初は自分が将来何をやりたいのか全然わからなくって。それで、yes, mama ok?の金剛地さんと高橋(晃)さんに人生相談をしたら「美大に行くのが一番いいんじゃない?」って言われて。すぐ「そうか、わかった」と納得して、予備校に通ってみたんですよ。そのときは映画が好きだったので「自分は映像畑に行けるのでは?」と思って、映像系の学部がある大学を目指していました。でも半年通った段階で「……やっぱり音楽なんじゃないの!?」って妙なスイッチが入っちゃって。それで急遽、進路を音大に変えたんです。

──進学された昭和音楽大学での生活はいかがでしたか?

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昔通っていたギター教室の先生に相談したら「なんでもできるから、どう?」って勧められて「サウンド・プロデュース・コース」に進んだんですけど、大学自体は音楽の趣味が合う人もあまりいなくて、よしあしある感じでしたね……。方々に申し訳ないんですが、最初の1年はドブに捨てました(笑)。3年生になった頃に聴講でもぐりこんでいた牧村憲一さんという音楽プロデューサーの授業はすごく興味深くて、その後もいろいろ面倒を見ていただきました。今、スカートでサポートメンバーをやっている佐藤優介(カメラ=万年筆)とも大学3年生のときに昭和音大で出会いましたね。

──「スカート」という名義で音楽を作り始めたのはいつ頃ですか?

大学に入学してすぐの頃です。18歳の頃、それまでに録り溜めた曲をまとめてインディーズ系音源を扱うレコード屋に持って行ったら「こういう音楽は別のところに持ってったほうがいいんじゃないかな」って断られたっていうトラウマがあるんですよ(笑)。

ニューアルバム「CALL」/ 2016年4月20日発売 / 2600円 / DDCK-1045 / カクバリズム
「CALL」
収録曲
  1. ワルツがきこえる
  2. CALL
  3. いい夜
  4. 暗礁
  5. どうしてこんなに晴れているのに
  6. アンダーカレント
  7. ストーリーテラーになりたい
  8. 想い(はどうだろうか)
  9. ひびよひばりよ
  10. 回想
  11. はじまるならば
  12. シリウス

スカート“CALL”発売記念ワンマンライブ

2016年5月27日(金)東京都 WWW
OPEN 18:30 / START 19:30
料金:前売 3000円 / 当日 3500円(ドリンク代別)

スカート“CALL”リリース記念ツアー

2016年6月17日(金)大阪府 CONPASS
出演者スカート / 柴田聡子
2016年6月19日(日)愛知県 Live & Lounge Vio
出演者スカート / 曽我部恵一
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シンガーソングライター澤部渡によるソロプロジェクト。昭和音楽大学卒業時よりスカート名義での音楽活動を始め、2010年12月に自主制作による1stアルバム「エス・オー・エス」をリリースした。以降もセルフプロデュースによる作品をコンスタント制作し、2014年12月にはアナログ12inchシングル「シリウス」をカクバリズムより発表。2016年4月にはカクバリズムよりオリジナルアルバム「CALL」が発売された。スカートでの活動のほか、ギター、ベース、ドラム、サックス、タンバリンなど多彩な楽器を演奏するマルチプレイヤーとしても活躍しており、yes, mama ok?、川本真琴ほか多数のアーティストのライブでサポートを務めている。またトーベヤンソン・ニューヨーク、川本真琴withゴロニャンずにも正式メンバーとして所属している。