音楽ナタリー Power Push - スカート
カルトヒーローかポップスターか 次世代担う巨星のゆくえ
カクバリズム所属で「何者にでもなれる自分」に戻った
──2010年には1stアルバムの「エス・オー・エス」をリリースされて。その頃には音楽に対する向き合い方も、大学に入学した頃とは変わっていたんでしょうか?
うーん……いや、身も蓋もないことを言うようなんですけど、僕は東京が実家だし、しばらくはフラフラしててもいいだろうっていう気持ちがあって。だったら、フラフラできるうちに今やれることはやろうと思って、アルバムを作ろうって決めたんです。「ダメならダメで辞めよう」とも思ってたんですけど……出したらそんなにダメじゃなかった。
──その後も書店員のバイトを続けながら音楽活動を地道に続けていらしたそうですね。2011年には2ndアルバム「ストーリー」、2012年には初のアナログレコード「消失点」をリリースしました。ご自身のキャリアの中で音楽を職業にできるかもしれないという転機になったのはいつでしょうか?
2013年に3枚目のアルバム「ひみつ」を出したときですね。それがまあまあ売れたのでお金が入ってきて、バイトも辞めて。しかも、ちょうどよく友達とシェアハウスを借りようか、みたいな話になったんです。今の状態だったらなんとかなるかもしれないと思って、実家を出ました。完全に成り行きというか、今考えると何も考えてなかったなって思うんですけど。これもまた「ダメなら帰ればいいや」っていう感じで(笑)。
──2014年には4枚目のアルバム「サイダーの庭」を出すわけですが、ここまでは澤部さんご自身が自主制作でやってきたんですよね。
そうですね。で、2014年の12月に12inchシングルの「シリウス」をカクバリズムから出してもらえることになって、今回のアルバム「CALL」のリリースにつながるわけです。
──レーベルに所属したことによって、何が一番大きく変わりましたか?
うーん、そうですね……。自主でやっていたときは、予算のことや時間のことを考えると、音楽を制作する上でリミッターがかかるところがあって。「いや、自分の作りたいように作る!」ってごまかすこともできるんだけど、心のどこかに心配な気持ちがあると、それが曲作りの枷になっちゃうんですよね。でも、カクバリズムにサポートをしてもらえるようになって、余計な迷いがなくなったんです。無責任に最初のアルバムを作った頃の、何者にでもなれる自分に戻ることができた気がしました。どんなアルバムを作っても、どんな誤解をされてもいいやって思えたのが一番大きな変化かなって思ってます。
「長いレコードを作る必要はない」がポップへの回答
──今回のアルバム「CALL」は、スカートのこれまでのアルバムの中でも特に歌の立ったポップなアルバムという印象でした。どういうコンセプトで作られたのでしょうか?
今回のアルバムで一番ポップだなと思ってるのは、12曲入りで37分だっていうことですね。長いレコードを作る必要はないっていう。これは自分にとっての“ポップ”というものへの1つの回答なのかなあと思ってます。アルバムを作り始めた当初はストックしてある昔の曲も入れようかなと考えてたんですけど、「CALL」という曲ができたおかげで、今の自分を見せるようなアルバムが作れるなって思えて。
──佐藤優介、佐久間裕太(ex. 昆虫キッズ)、清水瑶志郎(マンタ・レイ・バレエ)、シマダボーイ(NATURE DANGER GANG、フジロッ久(仮))というおなじみのバックバンドのメンバーのほか、ゲストプレイヤーも増えて、いつものスカートの編成とは違うアレンジの曲もけっこうありますよね。
今回はストリングスに徳澤青弦さんのチーム、ホーンにゴンドウトモヒコさん、コーラスでbabiさんに参加していただいていて。やっぱり今回は今までできなかったことをやりたいというのがあったんです。今まではギターも全部自分でやってたんですけど、「想い(はどうだろうか)」と「はじまるならば」のギターソロは鳥居真道(トリプルファイヤー)くんに弾いてもらいました。基本的には「この曲にはこれが必要」というピースを埋めるような感じでアレンジを考えていったんですが、「想い(はどうだろうか)」はせっかくストリングスを入れるんだから、弦とギターだけのシンプルな曲が作りたいと思って書いた曲ですね。
──サウンドを変化させることに対して不安はなかったですか?
スカートってよく「聴いてると寂しくなる」とか「切なくなる」って言われることがあるんですけど、自分としては「1人で作っているからなんじゃないかな」って思ってたんです。多くの人が参加することでそれが消えてしまうのは不安だったんですけど、サウンドは豪華になってもちゃんとさみしいレコードが作れたというのは1つの手応えですね。
スカートとマンガの関係
──アルバムのジャケットのイラストは、イラストレーターで映像クリエイターの久野遥子さんが担当されています。今回、久野さんにお願いした理由を伺いたいです。
僕自身がすごくマンガが好きということもあって、これまではアルバムのイラストを見富拓哉さん、森雅之さん、西村ツチカさん、町田洋さんというマンガ家さんたちにほぼほぼお願いしていて。ただ、別にマンガということだけにこだわってるわけじゃないんだよなあ、とはずっと思ってたんですね。
──やっぱり澤部さんは、トーベヤンソン・ニューヨーク(西村ツチカも参加)というバンドのメンバーだったり、「コミティア」(オリジナル作品の即売会。有名マンガ家を多数輩出しているイベント)でデモ音源やソングブックを販売していたりと、マンガというカルチャーと深い結びつきがあるように思います。
そうですよね。だからこそ今回は自分の中での変化というのも見せたかったので、久野さんにお願いしたんですよ。本当に素晴らしいイラストを描いていただいてうれしいです。
──ちなみに今作を作るうえでインスピレーションを受けたマンガ作品はありますか?
1曲目の「ワルツがきこえる」は、町田洋さんの連作短編集「惑星9の休日」に入っている「衛星の夜」という作品を下敷きにしてますね。“粘菌”の宇宙人が出てくるんですけど、その名前が「ワルツ」なんです。あと、入江亜季さんの「乱と灰色の世界」の最終巻の裏表紙がとてつもなくよくて、なんとかこの世界観を音楽に落とし込めないかと思って、かなり苦労しました。
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収録曲
- ワルツがきこえる
- CALL
- いい夜
- 暗礁
- どうしてこんなに晴れているのに
- アンダーカレント
- ストーリーテラーになりたい
- 想い(はどうだろうか)
- ひびよひばりよ
- 回想
- はじまるならば
- シリウス
スカート“CALL”発売記念ワンマンライブ
- 2016年5月27日(金)東京都 WWW
- OPEN 18:30 / START 19:30
料金:前売 3000円 / 当日 3500円(ドリンク代別)
スカート“CALL”リリース記念ツアー
- 2016年6月17日(金)大阪府 CONPASS
- 出演者スカート / 柴田聡子
- 2016年6月19日(日)愛知県 Live & Lounge Vio
- 出演者スカート / 曽我部恵一
スカート
シンガーソングライター澤部渡によるソロプロジェクト。昭和音楽大学卒業時よりスカート名義での音楽活動を始め、2010年12月に自主制作による1stアルバム「エス・オー・エス」をリリースした。以降もセルフプロデュースによる作品をコンスタント制作し、2014年12月にはアナログ12inchシングル「シリウス」をカクバリズムより発表。2016年4月にはカクバリズムよりオリジナルアルバム「CALL」が発売された。スカートでの活動のほか、ギター、ベース、ドラム、サックス、タンバリンなど多彩な楽器を演奏するマルチプレイヤーとしても活躍しており、yes, mama ok?、川本真琴ほか多数のアーティストのライブでサポートを務めている。またトーベヤンソン・ニューヨーク、川本真琴withゴロニャンずにも正式メンバーとして所属している。