清水翔太が5曲入りのミニアルバム「period」を完成させた。
今回の作品は、配信リリースされたシングル3曲に、2つの新曲を加えた内容。デビューして10年以上経つ彼が、ミニアルバムを出すのは初めてのことだ。フルアルバム「WHITE」のリリースから2年間、清水は試行錯誤の連続で、アルバムを作れない心理状態だったという。果たして清水は、そんな自分にどう向き合ったのか。この2年の心の移り変わりを振り返りつつ、新曲2曲の制作背景や「period=終止符」という衝撃的なタイトルの意味も教えてもらった。
取材・文 / 猪又孝 撮影 / 映美
試行錯誤の2年の末に
──アルバム「WHITE」のリリースから丸2年が空きました。以前「アルバム制作に難航して試行錯誤を重ねている」と話していましたが、そもそも「WHITE」を出した直後はどのような気持ちだったんですか?
「WHITE」はクリエイティブという意味では個人的にやりきった感があって。自分の音と歌詞の融合においては究極のところまで行けた気がしたんです。
──最高到達点だったと。
だから燃え尽き症候群的な部分があって。曲を書くということに関しては、書きたいし、楽曲提供もしているから書けないわけじゃないんだけど、清水翔太がもっと評価されるために何をするか?という部分を考えてしまって。留まることは好きじゃないから、同じようなものをやってもしょうがないし、正直、何をすべきかわからなくなったんです。
──音楽制作に対する気持ちは、その後どのような変化を辿るんですか?
変わってないです。今もまったく同じ(笑)。そういう中であえて昔っぽい曲を書いてみたりとか、いろんなトライをしてたんですけど、そうやって試行錯誤をしている限りアルバムを作れないと感じて。性格的にアルバムの収録曲の統一感が気になる人間だし、「WHITE」はその意味でも完成度が高かったんだけど、試行錯誤の中で統一感を出すのは難しくて。それで世界観を分けた2枚にするか?みたいなアイデアを考えたり。
──配信シングル「416」のリリース時(2020年4月)に話を聞いたときに、作っている曲を大きく分けると、トラップ寄りの現行的なサウンドと、かつての清水翔太を想起させる優しいポップスという2つの路線があると話していました。それが世界観を分けた2枚というアイデアにつながってくるんですよね?
そう。まさに今回の新曲2曲もその2方向なんですけど……完璧主義だから、2つの路線の楽曲を1つの作品にまとめるというのはあまり気持ちが乗らないんです。「WHITE」みたいに、最初から最後まで自分の中にある世界観を一貫して守らないと、「次はこんな曲を作ろう」とか「こういう曲がこのアルバムに入ったらメッチャいいかも」とか、そういうほうに気持ちが向かなくて。
──それでも今回は、その2つの路線のまま、1回まとめておこうと。
そう。気持ちの整理として、そういう手段を取ったんです。
友達、増えました
──今年はコロナ禍に見舞われましたが、コロナ禍が音楽制作にもたらしたメリットもしくはデメリットはありますか?
メリットはないかもね、正直。
──ゲーム実況のYouTubeチャンネルを作れたことは?
確かに(笑)。家にいることが増えたからね。
──在宅時間が増えたから曲をたくさん作れたとか、映像制作を勉強したとか、そういうことは?
そういう人もいるでしょうね。僕は、そこまでそういう気持ちにならないんですよ。追い詰められてないとダメで。そういうときのほうががんばって勉強したりするタイプだから。
──時間に余裕があると、どうしてもサボっちゃう?
サボるというか、別のことをやりたくなる。そっちに興味が出ちゃうから。ゲーム実況もそうだし、別の方法でこれまで届けられなかった人に自分の存在を届けられるやり方はないかと考えたけど、それもけっこう難しいなって。だから困ってますよ(笑)。
──あはは。弱気発言(笑)。
いや、弱気とかネガティブにはなってないんだけどね。そもそも僕はネガティブになる人間じゃないし、常にその日を楽しく過ごしたいと考えてるから。でも、その日の楽しさみたいなところに音楽が結び付く日と結び付かない日があって。このコロナ禍の状況って、その日の楽しさに音楽が結びつきにくくて、個人的には音楽で前に進むのは、そこまでできなかったですね。
──そんな中、ONE OK ROCKのTakaと[ re: ] projectを立ち上げて楽曲「もう一度」をリリースしました。
あれが唯一、今回の状況だからこそ生まれたもので、よい出来事だったと思います。
──あのプロジェクトで得られたものは?
同世代のアーティストと親交を結べたのがすごくよかったです。
──ジャンルの垣根を越えた横のつながりという。
そう。WANIMAのKENTAとか、めっちゃ仲良くなって。そこには年齢もあると思います。30過ぎて尖りがあんまりなくなったし、お互いが普段やっていることにしても、今回の曲の中でやっていることにしても、リスペクトという方向に気持ちが行くから。それがすごくよかった。
──じゃあ、コロナ禍のメリットの1つは、友達が増えたこと。
確かに(笑)。友達、増えました。
昔の作り方に近い
──ここからは今回のミニアルバムに収録された2つの新曲について伺いたいんですが、「Princess」はいつ頃、どのようなきっかけで作った曲ですか?
これはけっこう前なんです。それこそ「WHITE」を出した直後くらい。
──その時点で歌詞を含めてすべて仕上がっていたんですか?
1番の歌詞まで。で、2番以降をずっと放置していたんですけど、A&Rがこの曲をすごく気に入っていて、「絶対いいよ、シングルにしよう」って、何かをリリースしなきゃいけないタイミングのたびにこの曲が浮上してくるんですよ。じゃあ、まずは2番以降の歌詞を書いてみようと。書かないと話にならないなと思って書いてみたらいい曲に思えてきたから、今回入れることにしたんです。
──時間が熟成させてくれたと。
そういうことが増えてきましたね。「今できたばかりで、これ、めっちゃいい曲だと思うから早く聴いて!」みたいな感じは最近ほぼなくて。だから昔の作り方に近い。デビューした頃の曲はほとんど、書き貯めてある曲から選んで作り込んでいくっていう感じだったから。
──勢い任せみたいなテンションじゃなくなってきた。
というか、たぶん迷ってるからだと思う。何を作ろうというゴールが明確に見えてない中で作っているから、良し悪しのジャッジができない。それがすごくしんどかったんですよ、この2年間は。
──なるほど。「Princess」は、どのようなサウンド感を目指した曲なんですか?
僕の音作りって設計図を書かないから、そういう質問が一番難しいんです。フィーリングで作っているから。どういうサウンド感を目指すっていうのがなくて。
──では最終仕上げの段階でこだわった部分は?
ビートは迷いました。もともとは今のバージョンだったんですけど、コンガみたいなパーカッションを加えた、もうちょっと優しい感じのアレンジも作っていて。それも1年くらい前の話だけど、あんまりよくないなと思って途中でやめて、結局クラシックなトラップっぽい元の形に戻したんです。
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花言葉が好きなんですよ