清水翔太|深い模索の先に見た希望 3年ぶりアルバムが告げる“第3章”の幕開け

清水翔太が、9枚目のオリジナルアルバム「HOPE」を7月21日にリリースした。

「HOPE」は、フルアルバムとしては2018年発表の「WHITE」以来、3年ぶりの作品。「WHITE」を発表したあと、清水は3枚の配信シングルをリリースしたが、迷いの中にいた。楽曲の振れ幅がもたらすブレ。周囲からの声と内なる声とのジレンマ。自分が目指すべき方向性の模索。その結果、出口が見えなくなった制作の流れに一旦終止符を打つべくリリースされたのが、去年11月リリースのミニアルバム「period」だった(参照:清水翔太「period」インタビュー)。

これまでの流れに一度終止符を打った清水は、どのような気持ちで本作の制作に向かったのか。Taka(ONE OK ROCK)やAimerとのコラボ曲の制作背景、アルバムタイトル「HOPE」が持つ意味、さらにここから始まる“第3章”に向けての思いを明かしてもらった。

取材・文 / 猪又孝 撮影 / 斎藤大嗣

みんながいいと思えるものを

──ようやくアルバムが完成しましたね。前作「WHITE」から3年空きました。

そんなに空いた実感はないんですけどね。コロナ禍もあって思うように仕事ができない状況が続いてるんで、「今できることをやろう」ということをずっと続けてる感覚だから。でも納得のいくモノができたので、よかったなと。

──去年11月リリースのミニアルバム「period」は、出口が見えない楽曲制作の流れに終止符を打ちたくて出したものでしたよね。実際、すっきりした気持ちで今回のアルバム制作に取りかかったんですか?

もちろん。

──それ以前にストックしていたトラックは今回使っているんですか?

全然使ってないです。今年に入ってから作り始めたから。今年2月くらいに「恋唄」ができて、そこからギアを入れた感じです。

──その時点で考えていた今回の方向性は?

「PROUD」(2016年リリース)から「WHITE」までは、「一部の人にだけでもカッコいいと思ってもらえればいい」という考えが強かったんです。というところから、「みんながいいと思えるものを工夫して作ろう」と、考えがずいぶん変わりました。

清水翔太

今の自分なら原点を洗練させて昇華できる

──以前はディープな人たちに刺さるエッジィなものを作れば、そこから輪が広がっていくと考えていたんですか?

というか、ベストアルバムの「ALL SINGLES BEST」(2015年リリース)以前にやってたことに対して「お前がやるのはそれじゃないだろ?」みたいなことを周りから言われすぎたんです。「もっとR&Bをやれよ」とか「歌唱力を生かしたことをやれよ」とか「詞がつまらないんだよ」とか。そういうことを言われすぎて、「じゃあ、やるよ」と。で、それをやったら結局「前のほうがよかった」と言われるようになって、「じゃあ、なんで当時やってたときに評価されなかったんだよ」って。

──やることなすことケチをつけられて、意固地になっていく。

そう。今やってることが正しいとか正しくないじゃなくて、そういう言われ方はもう嫌だという感覚がすごく強かった。だから、やっていることが広がらなくても、清水翔太はカッコいいことをやってるねとか、いいこと歌ってるねとか、そういうことを言われて自分を満たすという期間が続いたんです。

──自分の価値観の中にこもっていく、みたいな。

でも、「period」に入っている曲を出し始めた頃から少しずつ志向が変わってきて。自分の“原点”でやっていたことのほうが確実に広がりはあるし、それを今の自分ならもっと洗練させられるはずだという考えが芽生えてきた。「恋唄」ができたくらいでその思いが確信に変わって、原点的なことをもっと洗練させて作品にして、もっともっと広がっていくものを出さないといけないなという気持ちになったんです。あと、コロナ禍でいろんなことがストップして、コアな方向にこれ以上行くとマジで誰も聴かなくなるなとも思って。

──そんなことはないですよ。

誰も聴かないというか、規模が小さいままストップしちゃうなと。そうなると、生活できなくなるなって(笑)。まあそれは冗談として、ちゃんとプロとしてヒットを狙えるものを作っていく必要はあるなという思いと、今の自分なら原点を洗練させて昇華できるんじゃないかっていう感覚がマッチしていって、「この方向かも」となっていったんです。

──原点というのは、1stアルバム「Umbrella」(2008年リリース)や2ndアルバム「Journey」(2010年リリース)の頃を指すんですか?

そうですね。ただ、原点という言葉の使い方も難しくて。みんながイメージする清水翔太の原点と、自分の中にある清水翔太の原点が違うんですよ。自分の中にある音楽性の原点はむしろ「PROUD」や「WHITE」にあったりするから。そうじゃなくて、みんなが思い描く清水翔太の原点を洗練させたものを作るっていうことなんです。

曲のパワーを強くするという意識

──5月に配信リリースした「恋唄」はローファイな質感でしたが、今回のアルバムで求めたサウンド像はどんなものだったんですか?

清水翔太

ローファイは多少意識してますね。全体的にノイズをかけたり、わざとちょっと古めの質感にしたり、そういうことはやってます。けど、「Lazy feat. ASOBOiSM, Kouichi Arakawa」みたいなパキッとしたトラップっぽいものもあるにはあるんで、思ってたよりはローファイにいかなかったかなと。あえて言葉にすると、僕が初期の頃によく言ってたノスタルジーとか、そういうものが出ている曲が今回は多いと思う。

──いずれにせよ「WHITE」とは、まるで質感の違うサウンドが展開されている。

「WHITE」は超絶アンビエントというか、空間を意識して作ってる曲ばかりだから。

──今回も空間性は感じますよ。でも種類が違うというか。「WHITE」は奥行きで、今回は広がり。

確かに、縦と横っていう感じがしますね。「WHITE」は縦。でも、その縦が狭すぎたから、深いけど細い穴みたいな(笑)。手も突っ込めないくらい細い。今回は「みんなおいで」っていう広さはあると思いますね。

──ある時期、作る楽曲が初期の頃のような音楽性に向かうものと、ヒップホップ・R&B系に向かうものの2方向に分かれて、統一感が見出せないと話していましたよね。今回、その部分はどうだったんですか?

今回は統一感をあまり気にしなかったですね。というか、そこをあまりにも気にするから「WHITE」とかになっちゃうんだろうなって。振り返ってみるとデビューの頃はあまり気にしてなかった。「Umbrella」とか「Journey」は、そこまで統一感はないし。変なところで完璧主義な癖があるんで、そういう部分に固執するともう作れないし、いつまで経ってもアルバムを出せないから。

──それで区切りをつけたくて、「period」を出したということですよね。

そう。統一感を意識しすぎるとまた元に戻るぞと。そのぶん今回は1曲1曲のパワーを今まで以上に意識したんです。その考えからTaka(ONE OK ROCK)やAimerと一緒にやることにしたり、「Lazy feat. ASOBOiSM, Kouichi Arakawa」で「#清水翔太コラボチャレンジ」という企画をやって、みんなが楽しめるようにしたり。より多くの人にリーチするために、曲のパワーを強くするという意識がすごく強くなりました。