ソニーミュージック主催のオーディション企画「ONE in a Billion」の模様を追ったドキュメンタリー番組が、毎週火曜日20:00にYouTubeで公開されている。
「ONE in a Billion」は、ソニーミュージックが次世代の才能を発掘し、スターを育成していくために2019年にスタートさせたオーディション。現在は新時代のエンタテインメントグループを結成すべく、性別・国籍不問で多様性の時代にマッチしたメンバーを審査しており、番組では5136人もの応募者から熾烈な戦いを勝ち抜いた候補メンバー23人が審査やレッスンに臨む様子を観ることができる。審査委員長を務めるのは、シンガーソングライター・清水翔太。彼はときに厳しくも真摯に参加者と向き合いながら、候補メンバーを審査のふるいにかけていく。
音楽ナタリーでは清水にインタビューを行い、「ONE in a Billion」の審査委員長を務めることになった経緯や、候補メンバーと接するうえのでの心構えなど、新時代のオーディションとの向き合い方をたっぷり語ってもらった。
取材・文 / 真貝聡撮影 / 山川哲矢
日本のサイモン・コーウェルを目指すつもり
──ソニーミュージック初のメジャーデビュー争奪リアリティ番組「ONE in a Billion」で、翔太さんが審査委員長を務めることになった経緯を教えてください。
前回の「ワンビリ」で、審査の課題曲に僕の曲(「花束のかわりにメロディーを」)が選ばれまして。そこでソニーミュージック側から「参加者にアドバイスをしてほしい」「可能なら審査員としても入ってほしい」という話をもらい、サプライズで審査に参加したんです。
──オーディションの途中から特別審査員として加わったんですよね。
そうです。最初は「実力をフラットに見ればいいや」と思って臨んだんですけど、実際にやってみたら「参加者の子たちをちゃんと知ったうえで審査したいな」と思って。だから「また機会があれば、次は最初から最後までオーディションに関わりたいです」という話をしたんです。そしたら、わりとすぐに新しい「ワンビリ」をやることが決まって。「本当に出てもらえるなら、審査委員長としてお願いしたいです」とお話をいただいたので、僕としても願ってもない形で審査委員長を引き受けたわけです。
──そもそも翔太さんはプロデューサーではなくてアーティストですよね。審査をしてみたいと思われたのは、どういう理由なんですか?
アーティストとしての面ももちろんあるんですけど、プロデュースをしたり若手を育てたりすることも好きなんですよ。それにオーディション番組が好きなのもあって、前向きに取り組みたい気持ちが強かったですね。
──オーディション番組というと、何をご覧になってました?
「ASAYAN」はめっちゃ好きでしたね。あとは「アメリカズ・ゴット・タレント」とか海外のオーディション番組が好きなので、日本のサイモン・コーウェルを目指すつもりで参加しました。
今の時代のオーディション
──審査をするうえで、参加者のどんなところを見ようと意識されましたか?
まずは自分がアーティストであるというところで、番組としてのエンタメで終わるものにはしたくない。それに合格する=アーティストに就職するということなので。いわばオーディションによって人生が180°変わってしまう。僕は18歳でメジャーデビューして今日まで14年やってきたから、この世界の厳しさや苦しさもよく知ってる。だからこそ、オーディションをきっかけに不幸になることは絶対に避けられるようにしてあげたいと思ったんです。これまでレコード会社の人たちが審査してきたオーディションとは違って、アーティストという立場で将来のことまで考えて見てあげることこそが、僕が「ワンビリ」に参加する意義じゃないかなって。
──それは番組内でも伝わってきましたよ。参加者のアミさんに「ワンビリにいたいのか? それとも自分の歌でプロを目指したいのか? 俺はどっちも間違っていないと思う」と話している場面を見て、彼女にとって何が一番いい未来なのかしっかり向き合っている印象を受けました。
そうですね。レコード会社の人にとってアーティストは投資するイチ商品なので、どれだけ利益を生むのかを常に計算しながら審査するのが定石なんです。そうした本来のビジネス的なオーディションの観点から見れば、僕は逆を行く審査をしているかもしれない。ただ、それが今の時代に合った人との関わり方であり、音楽というマーケットの作っていき方だと思うし、そうなっていくべきだとも思ってます。
──「この子がお金になるかどうか」だけで見るのではない。
そうです。なぜなら、いわゆる汚い世界にみんな飽き飽きしているんですよね。今、SNSやYouTubeのようなプラットフォームで自ら発信していく人が多くなったのは、そこのつまらなさにみんなが薄々気付いているから。だから「今までのオーディションとは違って、本物のアーティストがちゃんと審査することを保証するよ」という「ワンビリ」の形態が、これからの時代の当たり前になればいいなと思います。
──翔太さんは「君は将来どうなりたいの?」と丁寧に質問したうえで、応募者が何を答えても否定しないじゃないですか。大人の意見を押し付けないのが、今のオーディションのあり方であると同時に、清水翔太だからこそできるコミュニケーションに感じました。
僕は、オーディションというところに、あまり照準を合わせてないんですよ。あくまで参加者1人ひとりの人生単位でアドバイスをしているつもり。今回のオーディションに参加した子たちは、審査を通った子や落ちた子も含めて、個人的にずっと応援していきたい気持ちで向き合っています。
審査を通じた意識の変化
──オーディションの段階ごとに評価するポイントは変えていってますか?
あんまり変わってないですね。とにかく個性や内側から放つエネルギーが強い子を評価しています。
──オーディションを通して参加者の成長や変化はどのように感じました?
一番は意識の部分じゃないですかね。やっぱりダンスや歌のレベルは、そんなにすぐ変わるものじゃないので。今回はコロナで審査期間が空いたのもあって「このままじゃいけないんだ」とか「ここは直さないと評価されないんだ」とか、そういう意識の部分がどんどん成長していって、自分で自分を変えている子が多かったです。クオリティ的に大きく変わっているわけじゃないんだけど、そもそもの自分のポテンシャルを「意識のなさ」や「自信のなさ」などいろんな要因で10%とか20%しか出せていなかったのが、ちゃんと一発本番で80%とか100%に近いポテンシャルを出せるようになってきている。今後はポテンシャルの部分だけじゃなくて、クオリティも上げていくのが課題ではありますよね。
──気持ちによってパフォーマンスは変わってくるものですか?
かなり変わりますね。候補メンバーの中だとカシンはネガティブで自信がないのが一番の問題だったんですけど、途中からパッと空が晴れたようなパフォーマンスをするようになりましたからね。何があったのか不思議なくらい。ちゃんと今回のオーディションの中で時間をかけて変えていった意識の変化が、歌やダンスにも表れている気がします。
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すべての苦しみが成仏する瞬間