長崎は大好きだけど気負ったものはない
──これはコロナ以前もそうだったと思うし、コロナ禍において特に顕著になったことだと思うんですけど、自分にとって大事なものや愛すべきものを、人それぞれが生活の範囲で問い直す局面にきていると思うんです。で、その軸足があやふやなままだと、自分が何者かわからなくなってしまう感覚が生まれてくるものだと思うんですけど、SHANKの場合は、地元・長崎で暮らしていることも歌われている内容を含めて、愛するものを大事に守るっていう姿勢が一切ブレてこなかったと思うんです。だからこそ、変化云々よりも、そもそも大事なアティテュードを変わらず持っていけるバンドだと思うんです。
松崎 確かに時代的に言ったらそうなんでしょうね。ただ俺らの場合は、不器用だっただけだと思うんですよ(笑)。いろんな人と仲良くしたり、全部の人とつながれたり、それをやるだけの器用さがなかっただけ。手の届く範囲のものしか愛せないだけなんですよね。
庵原 もちろん長崎は大好きだけど、「ローカリズム」とか「地元レペゼン」みたいな部分って実は周りが勝手に言ってて、そんなに重いものとして発信してるわけじゃねえし、みたいな感じでしたからね(笑)。生まれた場所だから住んでるだけだし、その場所に好きな人たちがいるから付き合ってるだけ。気負ったものは一切ないんですよ。
──ただ、そのシンプルな行動原理で体現していることはすごく大事だと思いますけどね。自分がどこで生きて何を愛しているのかをちゃんと自覚することがそのまま、ほかの人間に対する寛容さにもなっていくというか。
庵原 そうなのかなあ……そう言われたらうれしいっすけどね。自分たちの幸せの尺度を間違えないっていうのは大事にしたいと思う。
──自分たちの幸せの尺度を間違えないっていうのは、今のパンクの在り方っていう意味で言っても、とても大事なことだと思うんです。今の国の現状に対しては、個々が真っ当に自分の幸福の尺度を握りしめることが一番のカウンターになるものだと思うから。
庵原 パンクに限らず、レベルミュージックって大体は国の情勢が悪いところとか、貧困が強烈な場所から生まれてくるじゃないですか。だから今の日本を見てみれば、どんどんパンクの存在価値に近付いていってるとも言えるのかもしれないですけどね。ただ、俺らはパンクってもっと孤高なものだと思ってたんですよ。何にも属さない、何にも与さない、だからこそ誰に対しても寛容な音楽っていうか。
松崎 そうだね。だから俺らの今の活動において、何かに対するカウンター精神みたいなものは行動原理にないのかもしれない。
庵原 でもそう言われてみると……これまでの作品に比べて、俺らのスタンス自体がメッセージになっていることは感じやすい作品なのかもしれないですね。「Slip and Slide」は特にそうですけど、ここまで明確にメッセージを発したことはなかったかもしれない。この曲はSNSについて書いたんですけど、誰かの陰に隠れて人をボコボコに叩いてる人間が本当に嫌だなって思ったんですよ。だけど、そいつらを罵倒するだけじゃ俺も同じになっちゃう。だから「そんなくだらないことしてねえで、こっち来いよ!」っていう歌にしたんです。……やっぱりね、今話してくれたみたいに、国とか政治みたいな巨悪に対して声を上げるならまだわかりやすいと思うんだけど、何か問題があったときに、まず自分自身が正義であるっていうことを周囲に示したがる人があまりに多いんですよね。
──そうですね。
庵原 で、それを示すために誰かを論破したがったり、しまいには人と人で言い争ってたり。本末転倒ですよね。自分は正義だって思うことはきっと気持ちのいいことだから、そうなると思うんだけど。浮世離れした人を見つけては吊るし上げてボコボコにするのが快感っていう。それを趣味にされている人もけっこういるんだなと思って……「いい趣味をお持ちですね」ということを表現したのが、「Slip and Slide」ですね(笑)。
SHANKのディナーショー
──ただ、最後には「こっち来いよ」と歌ってますよね。気に食わないこともイライラも吐き出してはいるけど、最終的には人を傷つけても何も生まれないっていうことにすごく自覚的な歌を歌われるなと。
庵原 まあ、俺自身がさんざんイラついてきた人間なので(笑)。人を傷つけても何も生まれないってことをここまでで知ってきたんですよね。だから「こっち来いよ」っていうのはイメージ的にはライブハウスなんですよ。攻撃してる暇があるなら、誰でも遊べるライブハウスに来いよって。もちろんライブハウスに限らず、人それぞれに自由になれる場所があればいいなって思いますし。
──ライブハウスで生きてきたバンド、ライブを大事にしてきたロックバンドたちにとって厳しい状況が続きますけど、ご自身にとってこれからも変わらないところ、変えていこうと思っているところを最後に伺ってもいいですか?
庵原 まあ、元の状態に戻るのがベストだとは思うんですけど。でも、しばらくは難しい。だから、その時々に合わせた変化をしていけばいいとは思ってますね。妥協した変化じゃなくて、その時々に自分たちが面白いと思えることを全力でやれれば。アコースティックライブとか、ディナーショーとか……。
──ディナーショー!?
庵原 会食はダメみたいっすけどね。でも、着席でディナーショーなら面白いんじゃね?って(笑)。
松崎 マイクスタンドにスワロフスキーつけてね。
庵原 ジュディ・オングみたいな格好で出てこようかって。
松崎 俺ららしいのは、とにかく悲観的にならないってことだと思うよね。ライブハウスじゃなくても、遊び場所を作れたらいいなって思う。音を鳴らせる場所があるんだったら、そこに自分たちから出向いて面白いことを考えるっていうのが大事かなって思ってますね。
庵原 遊びがないとダメになっちゃうからね。新しいことをやったら、なんかしら言ってくるヤツは絶対いるもんだけど、そういうヤツらにも「こっち来いよ」って言えるくらいでいたいっすね。
ライブ情報
- SHANK Acoustic Live 2020
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2020年9月6日(日)東京都 LIQUIDROOM [第1部]OPEN 14:30 / START 15:30 [第2部]OPEN 18:30 / START 19:30
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