音楽ナタリー PowerPush - 澤野弘之
作曲家と歌い手とアニメとリスナーに捧げる シングル「&Z」とボーカルベスト盤
澤野弘之インタビュー
サントラ作家が歌モノアルバムを作るワケ
──ここからは「&Z」と同時リリースされるアルバム「BEST OF VOCAL WORKS [nZk]」について聞かせてください。なぜ、アニメのサントラの中でもボーカル曲だけを集めたベスト盤をリリースしようと?
以前から自分が携わったサントラの中から曲をセレクトしたベスト盤を出したかったんですよ。で、去年、サントラの仕事とは別にSawanoHiroyuki[nZk]っていうボーカルプロジェクトを始動することになったので、それならということで「ここ数年のアニメ作品の劇伴の中からボーカル曲を集めたベスト盤を出したい」っていうお話をレーベルに改めてさせてもらって。[nZk]をスタートしたきっかけ自体「それ以前からサントラのためにボーカル曲をたくさん作ってきたことだし」っていうものだし、ちょうどいい機会だったので。「[nZk]に至るまでの僕のボーカル曲を聴いてください」という意味を込めて作ったのが今回のボーカルベストなんです。
──確かに別媒体のインタビューなどでも、サントラにおけるボーカルトラックにこだわりがあるってよくおっしゃってますよね。
そうですね。最近でこそ「劇伴としてボーカル曲をよく作るヤツ」って知ってもらえた上で仕事の話をいただくことも増えてきたんですけど、なんでそう思っていただけるようになったかって言ったら、勝手に劇伴の中にボーカル曲を入れちゃってたからなので(笑)。
──なぜ“勝手に”ボーカル曲を作っちゃいました?(笑)
普通のロックやポップスに憧れて音楽を始めて、その後いろんな曲を聴いたり作ったりしていくうちにサントラに興味を持ってインストの曲を作り始めた、っていう経緯があるから、やっぱり歌モノに対する思い入れが強いんですよ。それこそインスト曲であっても、メロディを作るときには歌モノを想定していることが多いですし。
──先ほどのmizukiさんとの対談の中で挙がった「&Z」のカップリング曲「0.vers」のように。
そうですそうです。誰かが歌っている場面を想像しながらのほうがメロディを作りやすいんですよ。だからピアノで伴奏を弾きながら鼻歌を歌って、それをデモというか叩き台にしてメロディを作ることも少なくなくて。そういう作り方をしているから、劇伴にボーカル曲を入れるのも僕にとってはある種、自然なことなんですよね。
アニメとアニメをつなぐ“澤野ボーカル曲”
──今のお話で「サントラ作家の歌モノアルバム」というすごく不思議で面白いこのベスト盤の成り立ちがクリアに見えた気がします(笑)。では数ある“澤野ボーカルナンバー”の中でも、今回はなぜこの19曲をベスト盤に?
[nZk]ってもともとプロジェクト名じゃなくて、ライブのタイトルで。小林さんやAimerさん、エイミーといったゲストボーカルの方を呼んで[nZk]っていうシリーズのライブを何度かやっているんですけど、そのときに演奏していたのが、この19曲に代表されるアニメ作品のためのボーカル曲だったからですね。
──ではなぜこの19曲をライブで?
これまで作ってきた曲はもちろん全部大切な曲ではあるし、あくまで「僕の中では」なんですけど、この19曲ってキャリアを振り返る意味で重要な曲だと思っていて。だから、この19曲を聴いてもらえば澤野弘之の仕事のことをなんとなくわかってもらえるかなって。で、今後も[nZk]のライブもこの19曲が中心になるはずなので「これからライブに来る方のテキストになればな」とも思ってました。「この曲を知って、ライブをより楽しんでもらいたい」っていう意味でこういう選曲にしたっていう面もありますね。
──ただこのトラックリストって単に「澤野弘之の重要な19曲」、澤野さんの好きな曲をピックアップしたものではないですよね。というのもそれぞれの楽曲が使われていたアニメのタイトルを羅列すると「ギルティクラウン」「進撃の巨人」「青の祓魔師」「戦国BASARA弐」「キルラキル」「機動戦士ガンダムUC」「アルドノア・ゼロ」。ここ数年の澤野さんの仕事を網羅できるようになっています。
あっ、確かにそれも選曲の基準の1つです。今、僕に興味を持ってくださる方の多くは、それぞれのアニメ作品がきっかけだと思うんですよ。そうすると例えば「進撃の巨人」のファンの方は「進撃」のサントラは買うけど、ほかのアニメのサントラの存在を知らないかもしれないし、その方はもしライブに来てくれても「進撃」の曲はわかるけど「青の祓魔師」の曲はよくわからないってことになるかもしれないんですよね。だからこのCDをきっかけに、僕が携わったあるアニメのファンの方に別のアニメやそのアニメの僕の曲を知ってもらえたらな、とは思ってます。
歪んだギターの音が好きなんですよ
──そうやって1つのアニメ作品に寄らないのもこのベスト盤の面白さですよね。どの曲も「『進撃の巨人』の劇伴の曲」「『青の祓魔師』の劇伴の曲」ではなく「澤野弘之の作った楽曲」として扱われているから澤野さんの横顔、作家性をあぶり出す1曲として機能しています。
そうだとうれしいですね。
──で、どんな横顔があぶり出されたかというと、デジタル感の強いラップチューンもあれば、バラードもあるから「澤野弘之のボーカル曲とはこういうものである」と言い切れはしないんだけど、でもハードロックお好きですよね?
好きです、好きです(笑)。確実に僕の根本にハードロックはありますね。僕自身はギターって全然弾けないんですけど、高校時代にB'zやAerosmithを聴いていたりとか、あと音楽の原体験にCHAGE and ASKAがあるんですけど、チャゲアスもニューミュージックやポップスって言われがちではあるものの……。
──それこそ最大のヒット曲の1つ「YAH YAH YAH」なんかスタジアムライブがよく似合うスケール感のあるロックですしね。
そうなんですよね。あと最近聴いているのもNickelbackであったりとか、やっぱりバンドサウンドに耳を奪われがちなので、その嗜好性が作る音楽にもフィードバックされるんでしょうね。なんて言えばいいんだろう? まあ、歪んだギターの音が好きなんですよ(笑)。
──シンプル!(笑)
でもホントに“シンプル”に好きなんですよね。もちろん聴く音楽がすべてロックっていうわけじゃないんですけど、やっぱり聴いていると拳を振り上げたくなったり、力がグッと入ったりする音楽が好きなんですよ。自分の曲についてもやっぱりそういう感覚で聴いてほしいから「歪んだギターが鳴っててほしいな」「太いベースに鳴っててほしいな」「アタックの強いドラムに鳴っててほしいな」っていう作り方をするんでしょうね。
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- SawanoHiroyuki[nZk] ニューシングル「&Z」 / 2015年2月4日発売 / DefSTAR Records
- 期間生産限定盤 [CD+DVD] 1620円 / DFCL-2108~9
- 通常盤 [CD] 1350円 / DFCL-2107
CD収録曲
- &Z
- 0.vers
- No differences [nZk ver.]
- aLIEz [mZk ver.]
- &Z(TV size)
- &Z(TV size -English ver.-)
- &Z(instrumental)
期間生産限定盤DVD収録内容
- 「aLIEz」MUSIC VIDEO(アルドノア・ゼロ ver.)
- 澤野弘之 ベストアルバム「BEST OF VOCAL WORKS [nZk]」2015年2月4日発売 / 3500円 / DefSTAR Records / DFCL-2106
- 「BEST OF VOCAL WORKS [nZk]」
収録曲
- βios / Mika Kobayashi
(アニメ「ギルティクラウン」より) - The Reluctant Heroes / mpi
(アニメ「進撃の巨人」より) - Battle Scars / David Whitaker
(アニメ「青の祓魔師」より) - Wild War Dance / Aimee Blackshleger
(アニメ「戦国BASARA弐」より) - Blumenkranz / Cyua
(アニメ「キルラキル」より) - EGO / Mika Kobayashi
(アニメ「機動戦士ガンダムUC」より) - Hill Of Sorrow / mpi
(アニメ「ギルティクラウン」より) - Me & Creed / Mika Kobayashi
(アニメ「青の祓魔師」より) - Till I Die / CASG
(アニメ「キルラキル」より) - Ready to Go / David Whitaker
(アニメ「ギルティクラウン」より) - Light your heart up / Aimee Blackshleger
(アニメ「キルラキル」より) - friends / mpi
(アニメ「ギルティクラウン」より) - Rë∀L / Cyua
(アニメ「ギルティクラウン」より) - Call me later / Mika Kobayashi
(アニメ「青の祓魔師」より) - Suck your blood / mpi & Benjamin Anderson
(アニメ「キルラキル」より) - DOA / Aimee Blackshleger
(アニメ「進撃の巨人」より) - Before my body is dry / Mika Kobayashi & David Whitaker
(アニメ「キルラキル」より) - RE:I AM / Aimer
(アニメ「機動戦士ガンダムUC」より) - A/Z / SawanoHiroyuki[nZk]:mizuki
(アニメ「アルドノア・ゼロ」より)
澤野弘之(サワノヒロユキ)
1980年東京都生まれの作曲家、編曲家。幼少期よりピアノに親しみ、10代のうちに坪井伸親に師事。現在はテレビドラマ「医龍」シリーズや、アニメ「アルドノアゼロ」「進撃の巨人」「キルラキル」「機動戦士ガンダムUC」シリーズなどの劇伴を手がけるかたわら、室屋光一郎らとのプロジェクトSawanoHiroyuki[nZk]も始動させ、積極的にライブ活動を展開している。2014年6月には「機動戦士ガンダムUC episode 6 ~宇宙と地球と~」の主題歌「RE:I AM」と、「同episode 7 ~虹の彼方に~」の主題歌「StarRingChild」を歌ったAimerとのコラボレーションアルバム「UnChild」を発表した。また2014年夏放送のテレビアニメ「アルドノア・ゼロ」ではイツエの瑞葵(Vo)がmizuki名義で歌うSawanoHiroyuki[nZk]名義のシングルにして「アルドノア・ゼロ」第1期のエンディングテーマ「A/Z | aLIEz」を発表。さらに2015年2月には同じくmizukiを迎えたSawanoHiroyuki[nZk]の新作にして、「アルドノア・ゼロ」第2期オープニングテーマ「&Z」と、自身の手がけたアニメーションのサウンドトラックの中からボーカル曲のみをセレクトしたベストアルバム「BEST OF VOCAL WORKS [nZk]」をリリースしている。なお同年春から放送のNHK連続テレビ小説「まれ」のサウンドトラックと、テレビアニメ「終わりのセラフ」の音楽プロデュースを手がけることも決定している。