音楽ナタリー PowerPush - 澤野弘之

作曲家と歌い手とアニメとリスナーに捧げる シングル「&Z」とボーカルベスト盤

アニメという枠組みが生むモチベーション

──mizukiさんとの対談の繰り返しにもなってしまうんですけど、どの曲もアニメのサントラとしてちゃんと機能しているのに、ここまで聞いてきた通り澤野さんの嗜好性が全開になっているあたりがやっぱり面白いなと思っていて。

特に今回のベスト盤については嗜好性全開ですね。これはCDのブックレットにも書かれていることなんですけど、今回選んだ19曲とその並び順って僕のiTunesの中にある、とあるプレイリストのまんまですから。

──とあるプレイリスト?

もともとベスト盤を作りたいと思ってたから「ボーカルベストを」っていう話をいただく前から、勝手に僕なりのボーカルベストっていうプレイリストを作ってて、それをそのまんま「この19曲を入れてください」ってレーベルの方に渡したんです(笑)。

──ホントに嗜好性全開だ(笑)。

澤野弘之

で、それぞれの曲についてもmizukiさんにもお話した通り、やっぱり単なるアニメのBGMっていう感覚では作ってなくて。今は[nZk]っていう自分のボーカルプロジェクトもあるからちょっと違うんですけど、プロジェクトが始まるまでは「サントラは自分の作品を発表する場所」っていう感覚でいましたから。例えば「進撃の巨人」のサントラアルバムって、リスナーの方にとっては「『進撃』の劇中歌や劇中曲が入っているアルバム」なんだけど、僕にとっては、ある意味「僕のオリジナルアルバム」。「進撃の巨人」というアニメーションの枠組みを踏み外さない範囲で自分の作りたい音楽を作って、それをまとめたアイテムなんですよ。

──アニメという枠組みが制作上の枷になることは……。

ほとんどないですね。確かに「サントラを作るときには当然アニメ制作側からのオーダーがあるはずだから表現の幅を狭められたりは?」ってよく聞かれるんですけど、それによって何かを制限されている気がしたことがなくて。もちろん「ラブシーンなので甘い曲を」みたいなオーダーはいただきますけど、それが制作上のネックになることはまずないんですよね。逆にお題があるからこそ曲のアイデアが浮かんだり、制作のためのエネルギーになるくらいですから。

──じゃあ逆にお題がない状態、つまり完全オリジナルを作ろうっていうモチベーションは?

もちろんありますよ。今後[nZk]のオリジナルアルバムを作ることがあれば、当然そういう曲も入れてみたいな、と思ってますし。ただ確かに「ラブシーンなので」みたいなお題があったほうがテンション高く曲を作れる自分がいる気はしますね。あとサントラって映像制作との兼ね合いがあるから、いわゆるオリジナル曲を作るときよりもスケジュールがタイトなんですよ。それがいい意味で自分を焦らせてくれる部分もあります。「この期間内でどういう曲を作れるかな?」「こういうことはできるかな?」「これもできるんじゃないか?」って短時間のうちにいろんなことを考えて、試せるようになるというか。逆にお題もなければスケジュールもない。「好きなだけ時間をあげるし、好きなように曲を書いていいですよ」って言われたら、いつまでも作業を続けちゃって何も完成しなかったっていうことも起こりうるし、自分の性格的なことを考えると、いつまで経っても何もしないような気もしますし(笑)。これは劇伴をずっと続けてきたから染みついた感覚なのかもしれないんですけど、お題とスケジュールがあったほうが、なんか好きなことをできちゃうんですよね。

SawanoHiroyuki[nZk]が見つめる未来

──先ほど澤野さんが「[nZk]に至るまでの自分のボーカル曲を聴いてもらいたかった」と言っていた通り、ベスト盤をリリースするということにはそれまでのキャリアを集大成する意味合いもありますよね。

そうですね。

──では、キャリアを1回総括した今、してみたいことって?

何をしましょうかね(笑)。キャリアのことや未来のことってそこまでそんなに深く考えてないんですよね。その瞬間思い付いたことを、その瞬間に実現していければいいなっていうか。例えばまたアニメの作品の劇伴を作らせていただけるのであれば、そのお題とスケジュールの中で思い付いた新しいことにトライできればいいと思いますし。一応すごく先のビジョン、ありたいアーティスト像みたいなものを思い描いていたりはするんですけど、ベスト盤を出した今の僕がしたいことっていうと、実は別になかったりもするんですよね(笑)。

──じゃあその「すごく先のビジョン」って?

これからもライブを続けていきたいし、せっかく続けるのであればより大きなステージで多くのお客さんに観てもらいたいから、そのためにはどういうパフォーマンスをすればいいんだろう? どういう作家になればいいんだろう?みたいなことは考えたりしてますね。

──サントラ作家さんが個人名義でボーカルベストを出すこともユニークなら、パフォーマンスにこだわるのもけっこうユニークですよね。

パフォーマンスとか魅せることにこだわることが目的ではないんですよ。パフォーマンスや魅せることを手段にリスナーの方と一緒に盛り上がりたいんですよね。確かにライブで盛り上がりたがる作曲家っていうとユニークなのかもしれないですけど、これって実は作曲家ならではの欲求なんだとも思っていて。作曲家って普段は1人で部屋やスタジオに籠もって曲を書いているので、いわゆるアーティストよりもリスナーの方との接点が少ないんです。でもおかげさまで僕はライブをやらせてもらえていて、そのリスナーの方の反応をダイレクトに体感できる。それは僕の日常ではなかなか味わえないことだから、なおのこと楽しいんですよね。

Contents Index
澤野弘之×mizukiインタビュー
澤野弘之インタビュー
SawanoHiroyuki[nZk] ニューシングル「&Z」 / 2015年2月4日発売 / DefSTAR Records
期間生産限定盤 [CD+DVD] 1620円 / DFCL-2108~9
通常盤 [CD] 1350円 / DFCL-2107
CD収録曲
  1. &Z
  2. 0.vers
  3. No differences [nZk ver.]
  4. aLIEz [mZk ver.]
  5. &Z(TV size)
  6. &Z(TV size -English ver.-)
  7. &Z(instrumental)
期間生産限定盤DVD収録内容
  • 「aLIEz」MUSIC VIDEO(アルドノア・ゼロ ver.)
澤野弘之 ベストアルバム「BEST OF VOCAL WORKS [nZk]」2015年2月4日発売 / 3500円 / DefSTAR Records / DFCL-2106
「BEST OF VOCAL WORKS [nZk]」
収録曲
  1. βios / Mika Kobayashi
    (アニメ「ギルティクラウン」より)
  2. The Reluctant Heroes / mpi
    (アニメ「進撃の巨人」より)
  3. Battle Scars / David Whitaker
    (アニメ「青の祓魔師」より)
  4. Wild War Dance / Aimee Blackshleger
    (アニメ「戦国BASARA弐」より)
  5. Blumenkranz / Cyua
    (アニメ「キルラキル」より)
  6. EGO / Mika Kobayashi
    (アニメ「機動戦士ガンダムUC」より)
  7. Hill Of Sorrow / mpi
    (アニメ「ギルティクラウン」より)
  8. Me & Creed / Mika Kobayashi
    (アニメ「青の祓魔師」より)
  9. Till I Die / CASG
    (アニメ「キルラキル」より)
  10. Ready to Go / David Whitaker
    (アニメ「ギルティクラウン」より)
  11. Light your heart up / Aimee Blackshleger
    (アニメ「キルラキル」より)
  12. friends / mpi
    (アニメ「ギルティクラウン」より)
  13. Rë∀L / Cyua
    (アニメ「ギルティクラウン」より)
  14. Call me later / Mika Kobayashi
    (アニメ「青の祓魔師」より)
  15. Suck your blood / mpi & Benjamin Anderson
    (アニメ「キルラキル」より)
  16. DOA / Aimee Blackshleger
    (アニメ「進撃の巨人」より)
  17. Before my body is dry / Mika Kobayashi & David Whitaker
    (アニメ「キルラキル」より)
  18. RE:I AM / Aimer
    (アニメ「機動戦士ガンダムUC」より)
  19. A/Z / SawanoHiroyuki[nZk]:mizuki
    (アニメ「アルドノア・ゼロ」より)
澤野弘之(サワノヒロユキ)
澤野弘之

1980年東京都生まれの作曲家、編曲家。幼少期よりピアノに親しみ、10代のうちに坪井伸親に師事。現在はテレビドラマ「医龍」シリーズや、アニメ「アルドノアゼロ」「進撃の巨人」「キルラキル」「機動戦士ガンダムUC」シリーズなどの劇伴を手がけるかたわら、室屋光一郎らとのプロジェクトSawanoHiroyuki[nZk]も始動させ、積極的にライブ活動を展開している。2014年6月には「機動戦士ガンダムUC episode 6 ~宇宙と地球と~」の主題歌「RE:I AM」と、「同episode 7 ~虹の彼方に~」の主題歌「StarRingChild」を歌ったAimerとのコラボレーションアルバム「UnChild」を発表した。また2014年夏放送のテレビアニメ「アルドノア・ゼロ」ではイツエの瑞葵(Vo)がmizuki名義で歌うSawanoHiroyuki[nZk]名義のシングルにして「アルドノア・ゼロ」第1期のエンディングテーマ「A/Z | aLIEz」を発表。さらに2015年2月には同じくmizukiを迎えたSawanoHiroyuki[nZk]の新作にして、「アルドノア・ゼロ」第2期オープニングテーマ「&Z」と、自身の手がけたアニメーションのサウンドトラックの中からボーカル曲のみをセレクトしたベストアルバム「BEST OF VOCAL WORKS [nZk]」をリリースしている。なお同年春から放送のNHK連続テレビ小説「まれ」のサウンドトラックと、テレビアニメ「終わりのセラフ」の音楽プロデュースを手がけることも決定している。