「適当で大丈夫」というボーカルディレクション

mizuki　本当に歌詞や言葉にこだわりってないんですか？

澤野　いや、もちろんまったく適当に書いてるわけじゃないんですよ。僕のボーカル曲は「アルドノア・ゼロ」であったり「（機動戦士）ガンダムUC」であったり、基本的に映像作品のテーマソングや挿入歌なので、その世界観を意識して書いてはいます。そうしないと僕、干されちゃいますし（笑）。でもその作品の世界観だけをトレースするような書き方をすると、すごく薄っぺらくなる気がしていて。だから作り手の僕らや聴き手の方が歌詞や楽曲や映像に自分の気持ちをリンクさせたり、自由に解釈したりすることができる余地を残しておきたい。それが「歌詞にはこだわらない」っていう言い方になっている感じなんです。

──じゃあ、mizukiさんに詞の世界についてディレクションすることは……。

澤野　まったくないですね。逆にmizukiさんからは聞かれるんですよ。「このフレーズはどう解釈すればいいですか？」ってメールが届くんですけど「うーん……。適当で大丈夫です」って返信するという（笑）。

mizuki　本当にそういう感じでした（笑）。

澤野　これは以前お話したことでもあるんですけど、僕が歌詞を書く上で言葉の意味以上にこだわりたいのは音の響き、言葉とメロディのハマリ方なので。mizukiさんにも、指導なんてそんな偉そうなものではないんだけど「ここはエアリーな感じで歌ってほしい」とか「ここは強く歌ってほしい」っていう音のニュアンスのお話だけさせていただきました。

──「適当で大丈夫です」というお返事をもらったmizukiさんは「&Z」の詞を前にどうやってボーカルプランを立てました？

mizuki　「&Z」の音源と詞をいただいたときは、まだ「アルドノア・ゼロ」の2クール目の展開を知らない状態だったんですけど、1クール目は観ていたし、澤野さんからはそういうメールをいただいていたので（笑）。1クール目の内容と、詞から私自身が感じたことに素直に寄り添おうと思ってました。だからオープニングテーマのボーカリストではあるんだけど、ちょっと視聴者目線、客観的だった気はします。1クール目を観ていて「あのキャラクターはどうなっちゃうんだろう？」ってちょっともどかしくなりながらも、その続きを楽しみにしていた視聴者の方に近い感覚というか。……でもホントにレコーディングの頃って1クール目を普通に楽しんじゃってたし、2クール目が楽しみだったんだよなあ（笑）。

澤野　「普通に楽しんじゃってた」っていうのはすごくmizukiさんっぽいです（笑）。

mizuki、「楽しい」の意味を弁明する

──あっ「&Z」のPVを観ていてもそうだし、実際にお会いしてもそうなんですけど、mizukiさんにはちょっと平熱が低そうというか、アンニュイな印象があって。でも実はそういうノンキな一面もおありに？

澤野　mizukiさんにしてみたら「お前、何、私のこと知ったつもりになってんだよ」って感じなのかもしれないんですけど（笑）、すごく素直な方だっていう印象はありますね。当然日々いろいろ考えていらっしゃるはずなんですけど、楽曲そのものも、僕の「こう歌ってみましょうか」っていう話も、すごくナチュラルに受け止めてくれている感じがしていて。だから「『アルドノア』を普通に楽しんじゃった」っていう話にもうなずけるんですよ。

mizuki　確かに毎日「それは気持ちがいいのか」「楽しいのか」っていうことだけを大事にしている気はします（笑）。……あっ！ ここでの楽しいっていうのはワッハッハッ！っていう意味ではなくて。「『アルドノア・ゼロ』が楽しい」って言っても、爆笑しながら観てたわけじゃないですから。

──そりゃそうですよ（笑）。1クール目のラストで主人公の伊奈帆くんと、ヒロインのアセイラム姫が銃で撃たれちゃったりしてるんですから。で、今、澤野さんのmizukiさん評を聞いたわけですけど、mizukiさんから見た澤野さんの印象って？

mizuki　すごく気を遣われる方ですよね。というのも、実はすごくコミカルな方じゃないですか。

──今まさにこのインタビュー現場を見ればわかる通り（笑）。

mizuki　それってきっと常にみんなを幸せにしたいって考えてるんじゃないかな？っていう気がするんですよね。

澤野　でも空回ってる、と（笑）。

mizuki　違います！（笑） さっきも言った通り、アーティスト写真はクールで繊細そうだし、実際作っている曲自体クールで繊細なんだけど、実は……。

澤野　会ってみたら「なんかイメージと違って、スゲーしゃべるぞ、コイツ」「気持ち悪いな、このおっさん」となった、と（笑）。

mizuki　だからそんなこと思ったことないですって！（笑） 作る曲は繊細でカッコよくて、なのにすごく面白くて優しくて。「ホントにこの人ズルいな」「なんでも持ってるな」って思ってます。

──愚問だと思うんですけど、制作中の雰囲気って……。

mizuki　すごくよかったし、楽しかったですよ（笑）。

澤野　安心しました（笑）。ただなんで雰囲気がよかったかといえば、ボーカリストのパフォーマンスのよさがあってこそのものですから。

mizuki　いえいえいえ。実はレコーディングのときはけっこう悩んでましたから。今回のシングルでは「&Z」以外にも2曲の新曲（「0.vers」「No differences [nZk ver.]」）を歌ってるんですけど、特に「&Z」は大変でしたね。そのおかげで成長できた気もするんですけど、歌っていくうちにどんどん課題が見つかったので。