斉藤壮馬|アーティスト活動第2章で描く世界の終わりのその先

斉藤壮馬が12月23日に2ndフルアルバム「in bloom」をリリースした。

斉藤は6月から9月にかけて、“季節のうつろい、世界の終わりのその先”をテーマに「in bloom」シリーズと題して「ペトリコール」「Summerholic!」「パレット」と3作の配信シングルをリリースした。「in bloom」にはこれらに新録8曲を加えた全11曲が収録される。彼は本作のリリースをアーティスト活動の第2章と位置付けており、全収録曲の作詞作曲を担当。また「in bloom」のレコーディングには高橋宏貴(ELLEGARDEN、PAM、THE PREDATORS)、小野武正(KEYTALK)、須田悠希(ex. Suck a Stew Dry、ex. THURSDAY'S YOUTH)、柏倉隆史(toe, the HIATUS)といった面々が参加しており、学生時代からバンドサウンドを好んで聴いていたという斉藤らしさが現れた作品となっている。

音楽ナタリーでは本作の発売を記念して斉藤にインタビュー。影響を受けた音楽や、アルバムの制作エピソード、アーティスト活動への思いについて聞いた。

取材・文 / 酒匂里奈

中学1年生の頃にディープな世界を知った

──音楽ナタリー初登場ということで、まずは影響を受けた音楽について聞かせてください。

小学生ぐらいまでは親が好きな音楽や当時流行っていたアーティストを聴いていました。The Beatles、ユーミンさん、スピッツさん、ポルノグラフィティさんとか。その後中学1年生のときにサブカルチャー全般が好きな友人に出会って、音楽や文学などディープな世界をいろいろ教えてもらい、自分でも新たな音楽やアーティストを探すようになりました。ロックンロールリバイバル世代だったこともあって、洋楽はThe LibertinesやThe Strokes、Bloc Party、邦楽は少しダウナーな世界観のあるART-SCHOOLさんやGRAPEVINEさんなどを聴いていました。中高生の頃に聴いていた音楽が自分の音楽的なルーツになっているのかなと思っています。

──当時は斉藤さんの地元・山梨県にあるバードランドというCD・レコードショップに通われていたそうで。レコードも買っていたんですか?

当時は家にレコードプレイヤーがなくて、CDを買っていました。残念ながらバードランドはもうなくなってしまって、寂しいですね。小学生のときはカセット、中学生の頃はMD、CDで音楽を聴いていて。今思うと、音楽の聴き方が移り変わっていく時期にリスナー経験を積んできたのかなという気がします。そういえばこの間、ようやくレコードプレイヤーを買ったんですよ。1万円切るくらいの安いやつですけど。レコードとかオーディオ機器の世界って、一度足を踏み入れてしまったらこだわりがでてきそうですよね(笑)。最近は知り合いの詳しい方にいろいろ聞いています。

──斉藤さんは2017年にSACRA MUSICからアーティストデビューされたわけですが、もともとアーティストデビューしたいという思いはあったんでしょうか?

キャラクターソングを歌わせていただく機会はあったんですけど、実はそこまで個人名義で歌いたいとは思っていなかったんです。でもアーティストデビューのお話をいただいたときに、この縁に飛びついてみたらまた面白いことができるのではないかという、予感めいた思いがありまして、個人名義でも歌わせていただくことになりました。

──2ndフルアルバム「in bloom」は、初めて全曲の作詞作曲を斉藤さんが手がけています。こんなに自分で曲を書くことになるなんて思っていましたか?

もともと中高生のときに趣味でバンドをやっていて、曲は書いていたんです。そして声優になってからも特に誰に聴かせるわけでもなく曲は書いていまして。3rdシングルを作りましょうかと話をしているときに、プロデューサーさんに「実は自分で曲を書いているんです」とお話をして、「レミニセンス」(2018年6月発売の3rdシングル「デート」収録曲)の元になる音源を聴いてもらったんです。そうしたら「これを使おう!」と言っていただけて。アーティストとして活動する中で、自分で作った楽曲を歌えるということがすごくうれしかったです。そこからは「実はこんな曲もあります」みたいな感じで提案していきました。僕の周りの人たちは、僕が提案する楽曲に対して基本的にはポジティブに捉えてくれるようなチームで、気付けば「in bloom」は全曲作詞作曲させていただくことに(笑)。1曲作るごとに、チームの人たちとバンドのような気持ちで作れていて楽しいですね。そう思うと最初にアーティストデビューのお話をいただけたことをきっかけに、飛び込んでみてよかったなと思います。

斉藤壮馬

ポップではない内省的な音楽もやってみたい

──声優活動で得た経験が音楽活動に生きている部分はありますか?

それはありますね。声優としていろいろな経験をさせていただいていること自体が楽曲制作にすごく反映されています。10代の頃にバンドをやっていたときは書けなかった歌詞や楽曲ばかりだと思います。もし10代の頃に作った楽曲を世に出す機会があったとしても、たぶん狭い範囲でまとまった曲になってしまっていたのかなと。声優としての活動を1つひとつ積み重ねてきたからこそ表現できる歌、今だからこそ作れる楽曲なんだろうな。すべてが相互的に影響しあっているというか。そう考えても本当にいいタイミングでいいご縁をいただけたなと思いますね。

──先ほどキャラクターソングについて少し触れていましたが、キャラクターとして歌うときとソロアーティストとして歌うときでは、ボーカルのアプローチの仕方や精神的な部分など、どのように違いますか?

キャラクターソングを歌ううえでは、「このキャラクターならどう歌唱するか」という部分がもっとも大切だと思うので、自分がどうかというよりはキャラクター性がどう楽曲に反映されるかというところを考えますね。自分自身として歌うということはこの仕事を始めてからあまり機会がなかったので、個人名義で歌い始めた当初は「自分はこれまでキャラクターに甘えていたのではないか」と思いました。いざ自分の歌に向き合ってみると「これってどうなんだろう」と思うこともあって、最初は1曲ずつ模索しながら進めていきました。個人として音楽活動を始めてから、自分の歌というものを見つめ直していったような感覚ですね。

──確かに「アイドリッシュセブン」や「ヒプノシスマイク」などの作品のライブを拝見した際に、斉藤さんはキャラクター性を大事にされているというか、ファンの方が望むパフォーマンスを的確に届けているなという印象を受けました。

そう思っていただけているとしたら、キャラクターが主であってそこに魅力を付与していく、職人のような声優という仕事に魅力を感じてこの世界を志したからかもしれないですね。実は人前に出るのはいまだに苦手で。学生時代とかに写真を撮るときに、「いや俺はいいよ」みたいな人がクラスに1人はいたと思うんですけど、僕はそういう人なんですよ(笑)。ただ、やっぱりキャラクターとしてライブやイベントでパフォーマンスをやらせていただく以上は、まだまだ足りていない部分もありますけど、キャラクターやファンに恥じないようなパフォーマンスをしたいと思っています。例えば「アイナナ」のライブで九条天としてその場に立てているかというと難しいところですが、その場にいてくださった方が「すごくいいものを観た」「楽しかった」「気持ちよかった」という後味を感じていただけているのであれば、それはもう役者冥利に尽きますし、それこそがエンタメなんじゃないかと思っています。

──個人の音楽活動でいうと、ファンの方が望むパフォーマンスや音楽を提供したいという思いと、自分自身のやりたいことを打ち出したいという思い、どちらに比重を置いていますか?

主軸としては自分がやりたいことをやっていますが、ポップさやエンタメ性は大事にしています。でもせっかく個人名義でやらせていただいているので、自分が今まで聴いてきた音楽や読んできた文学を自分なりの形で楽曲として表現できたらいいなと思っていまして。今回のアルバムは特にやりたいことを表現していると思います。今までの作品はかなりエンタメ性というか、聴きやすさみたいなところを意識していて。今作もその軸は保ちつつも、表現の手法としてはもうちょっと好き勝手やっていますね。

──どんな音楽性であれファンの方が受け止めてくれるという信頼感があるからこそできることのような気がします。

確かにそうですね。お手紙を読んでいても「もっとディープな曲も聴いてみたいです」と書いてくださる方もいらっしゃって、これ幸いと(笑)。「quantum stranger」(2018年12月発売の1stアルバム)や「my blue vacation」(2019年12月発売の5曲入り音源)を発売してひと段落ついたあとに、もう少し内省的な、わかりやすくポップじゃないものもやってみたいなという気持ちがより強くなってきまして。なので今回はそういう雰囲気がアルバムにあるのかなと思います。ただ、もともと自分が個人名義で楽曲をお届けするときには、斉藤壮馬の感情やメッセージは一切なくて、その楽曲ごとにそれぞれの物語がある、という思いは今回も変わってないですね。