斉藤壮馬|アーティスト活動第2章で描く世界の終わりのその先

「フィッシュストーリー」から始まった旅

──6月から8月にかけて配信された「in bloom」シリーズの3曲は、斉藤さんのアーティスト活動の第2章で制作されたとのことで。具体的に第1章、第2章とどのような変化があったのでしょうか?

自分で「第2章!」と言うと気取っているようにも思えてしまうんですが、オーイシマサヨシさんに「フィッシュストーリー」(2017年6月リリースのデビューシングル表題曲)を書いていただいたところから僕個人の音楽活動の旅が始まったと感じていて。自分が書く歌詞のモチーフにはよく旅のようなものが出てきていて、「quantum stranger」と「my blue vacation」を作ったときに、「フィッシュストーリー」から始まった大きな旅のゴールにたどり着けたなという感覚があったんです。最初の旅は一旦ここでまとまったなと。そこで先ほどお話したような、もうちょっとディープな音楽というか、ポップスの構造にとらわれすぎない楽曲作りをしてみようというような考えになりまして。一応第2章は、“世界の終わり”を今まで歌っていた自分が、“世界の終わりのその先”を考えてみるとどんな表現が生まれてくるのかなというような感じでしょうか。なんというか……「もう少し好き放題やっちゃってもいいですか?」という感じですね(笑)。なのでファンの方にどう受け取っていただけるかはまだこのインタビューの段階ではわからないですけど(インタビューは11月下旬に実施)、2ndアルバムにはそれぞれの楽曲に面白いポイントがあると思うので、それは感じていただけたらいいなと思っています。めちゃくちゃ方向転換しているというよりは、より間口を広げて、枷を取り払って思うままに表現していきたいというのが第2章の位置付けですかね。

──「健康で文化的な最低限度の生活」(2018年10月発売のエッセイ)にも、学生の頃に曲を書く際には“過剰なセンチメンタリズム”と“世界の終わり”をテーマにしていたと書かれていました。かなり長い間“世界の終わり”というテーマは変わらず、「in bloom」で“世界の終わりのその先”をテーマにされたのは、何か大きな心境の変化があったのでしょうか?

読んでいただいてありがとうございます。そういう部分もあるのかもしれません。とはいえ今でもどこか退廃的な感じは自分の表現の特徴なのかなとは思っていて。文章を書いていても100%明るいというよりは、どこかに影があって、ファジーな感じになりますね。なので形としては第2章でも、本質的にはあまり大きくは変わっていないのかもしれないなと思います。

アルバムを通しての通奏低音

──斉藤さんの作品はどれもコンセプチュアルな作品が多いように感じます。制作の際、作品全体のテーマは事前に決めているんですか?

昔は短編集のプロットみたいなものを考えるのがすごく好きだったんですけど、音楽活動に関してはあまりそうではないかな。1stアルバムの「quantum stranger」というタイトルは「量子的な迷子たち」という意味ですが、決まったのは最後の最後でしたね。「étranger」か「quantum stranger」かで迷っていて……あまりこうは言いたくないけど、あと付けです(笑)。コンセプチュアルにもの作りをするのもすごく好きなんですけど、最初から計算して作りこんでいくのではなくて、いざできあがってみたらそれぞれの楽曲に共通点やテーマ性が見出せるというのも面白いなと思います。もの作りに置いての無意識の領域って、必ず表現に現れてくると思うんです。そういう意味でいうと、「in bloom」というアルバムはそれぞれの楽曲、それぞれの物語の中で、楽しそうな人たちが多いことからこのタイトルにしました。というのをいろいろなプロモーションやインタビューの場でお話をさせていただいている中で感じたというか、アルバムを通しての通奏低音みたいなものはあるなと思いました。

──今作にはバラエティ豊かな方々がレコーディングに携わっていますね(参照:斉藤壮馬がエルレ高橋宏貴、KEYTALK小野武正、須田悠希迎えてシングル2作リリース)。これはどういった経緯で実現したのでしょうか?

アーティスト名義としては斉藤壮馬ですけど、僕が想定していない領域で思わぬ化学反応が起きるというのがチームで作る楽しさだと思うので、オファーに関してはあまり細かく決め込みすぎずに、レーベルサイドにお任せしました。その結果そうそうたるメンバーの皆さんに演奏していただけて、本当にありがたいなと思っています。

──バンドサウンドにさらに磨きがかかったように感じます。アルバムはいつ頃制作を始めたんですか?

もともとは今年の6月に、デビュー3周年ということもあって3曲入りのシングルを出そうと思っていまして。6月ということで、雨をテーマにした3曲を作ろうとしていまして、その過程で「ペトリコール」は誕生していたんです。ただコロナ禍になって、デジタルシングルとして1曲ずつ、季節に沿った楽曲をリリースしていきたいという方向に変わって。そういうこともあってまとめて3曲を作って、地続きでアルバムの制作に入ったので、今年は年始から今まで、1年間ほぼほぼ楽曲制作ができてすごく楽しかったですね。

──声優活動も忙しいところ、すごいですね。

もちろん楽曲ってそんなにすぐにできあがるものではないですけど、もともと楽曲制作が日々の癒しというか、趣味でもあったので、大変なこともありましたけど基本的にはすごく楽しかったですね。

──デモはどのように制作していますか?

「my blue vacation」の制作くらいから、DTMでデモを作るようにしたんです。メインアレンジャーのSakuさんが「これでもうBPMそろえなくていいんだ!」と喜んでました(笑)。今までは弾き語りのデモを渡していたので「いやほんとすみません!」みたいな感じでした。DTMを導入してからは、アレンジの密度や細かさが格段にアップしたと思うのでよかったなと思います。まだまだ使いこなせてはいないんですけど、外出自粛期間中に機材などもたくさんそろえて。ただ、もちろん複数人で音楽を作るという意味ではDTMのメリットはすごくあるんですけど、「カナリア」や「C」(2018年6月発売のシングル「デート」収録曲)はある意味弾き語りチックというか、ピッチが合ってない状態、少しいびつな世界観が魅力だと思っていて。それは引き続き表現できるようにしたいので、DTMを理解して表現の幅を広げたいですね。

──なるほど。完璧ではないものに惹かれるのでしょうか?

そうですね。歌詞とかもそうですけど、どこかおかしいというか、不器用さやいびつさを感じるものに惹かれる傾向は子供の頃からあるかもしれないですね。とはいえ逆に完全性みたいなものにも惹かれる部分もあって。どちらかに惹かれるかはそのときどきの気分によって、楽曲やメロディで表現できればいいかなと思っております。