斉藤朱夏「僕らはジーニアス」インタビュー|私がみんなを守りたい!強い覚悟を胸に次なるステージへ

斉藤朱夏が4thシングル「僕らはジーニアス」を2月22日にリリースした。

シングルの表題曲は、斉藤自身が水の聖女役として出演するテレビアニメ「齢5000年の草食ドラゴン、いわれなき邪竜認定」のオープニングテーマ。心優しく人畜無害な草食ドラゴンと、ドラゴンを“邪竜”だと信じて思い込みの力で最強となった少女・レーコの冒険物語を彩るエネルギッシュな楽曲だ。カップリングには昨年春からライブで披露されてきた「はじまりのサイン」、そして親友との日常を描いた「最強じゃん?」が収録されている。

音楽ナタリーではシングルのリリースにあわせて斉藤にインタビュー。取材中、斉藤の口からは何度も「みんなを守りたい」という言葉が出てきた。その表情に迷いはない。2023年、斉藤は未来へと続く階段を今まで以上に大きな歩幅で駆け上がっていくのだろう。

取材・文 / 中川麻梨花

自由にわがままに人生を歩きたい

──2021年6月からともかく切れ目なくライブをやっていますよね。ツアーが終わったと同時に次のツアーを発表されて……側から見ていてゴリゴリのバンドマンのようなスタイルというか。

ははははは。しかもAqoursの活動もあるので。基本的にリハと本番を繰り返していく毎日です。

──そうですよね。声優のお仕事も日々あるわけで。

それでも私はツアーが終わるごとに、また次のライブの約束をしたいんですよね。約束することで、それがみんなの生きるエネルギーになるんだなということをSNSを通して感じていて。「早く一緒に遊びたいです!」という声をもらうと、やっぱりこれからもライブの予定をずっと組んでいきたいなと思います。でも、それは使命感みたいな重いものではなくて。「遊びたいし遊ぼうよ。次いつ空いてる? その日集合ね!」という、友達と遊ぶ約束をするような感覚なんです。

──12月に行われたワンマンライブ「くもり空の向こう側」では、シングルの表題曲であり、「齢5000年の草食ドラゴン、いわれなき邪竜認定」のオープニングテーマでもある「僕らはジーニアス」が初披露されました。前作「イッパイアッテナ」のインタビューで「みんなもっと自由にわがままに生きようよ」ということをおっしゃっていましたが、まさにそういう曲ですよね(参照:斉藤朱夏「イッパイアッテナ」インタビュー)。

そうです! 自分の人生の目標として、「自由にわがままに人生を歩きたい」というのがあるんです。

──それは前々から?

目標としてはずっとありました。ただ、前はなかなかそういう生き方ができていなかったんです。いろんなプレッシャーがあったし、みんなの中の“斉藤朱夏”というイメージを壊してはいけないだろうなとも思っていたし。でも、1stアルバム「パッチワーク」(2021年8月発売)を作るときに「こんなんじゃダメだ!」と感じて。私の中で限界がきちゃったんだと思います。それで「もういいか! 全部出すぞ!」みたいな(笑)。

──解放されたんですね。

はい。今はとにかく自分のことを知ってほしいし、こんな私でも愛してくれる人がいたらいいなと思いながら人生を歩んでいます。「こんな自分は嫌だな」と思う瞬間もあるけど、それも愛してほしい…‥わがままですよね(笑)。

──「僕らはジーニアス」は朱夏さんのそういう気持ちにぴったりハマるような曲なんじゃないでしょうか。

ハマりましたね。サビの「やりたいようにやろうぜ」「行きたいほうに行こうぜ」という言葉だけで私の気持ちのすべてを物語ってるくらい、歌詞のパワーが強くて。

──ソロデビューのタイミングでどういうアーティストになりたいかという話をしていたとき、朱夏さんは「誰かの背中を押せるアーティストになりたい」とおっしゃっていましたが、「僕らはジーニアス」を聴いていて、まさに朱夏さんがみんなの先頭に立って「やりたいようにやろうぜ」と大きな旗を掲げているような絵が浮かんできました。

やっとそうなれた感じはありますね。人の背中を押せるようになったといいますか。

──これまでも朱夏さんは音楽で人の背中を押してきたと思うんですけど、自覚的にそう思えるようになったということですか?

そうですね。今まではSNSとかで「私にとって朱夏はヒーローだよ」とみんなに言ってもらえても、「いやいや、そんなことない。私、めっちゃズーンってなっちゃうタイプだよ」と遠慮しちゃう気持ちもあったけど、もうそんなこと言っている場合じゃない。

──先頭に立つ覚悟ができたと。

自分の心の中で、ちゃんと気持ちが整ったんだと思います。「ここにいる仲間を傷付けたら私が許さない」というくらい、私が強くなきゃダメだよねって。

──そう思えたきっかけは何だったんでしょうか?

去年の秋に開催したライブツアー「キミとはだしの青春」ですかね(参照:斉藤朱夏、“君”に会いに全国10都市回った過去最長最多のツアー「キミとはだしの青春」終幕)。Yokohama Bay Hallでファイナルをやった瞬間にいろんなものがそぎ落とされたといいますか。公演が終わった瞬間に自分が変わったというよりかは、ライブのセトリを上から順番になぞっていく中で1つひとつ何かを脱いでいったような(笑)。

「朱演2022 LIVE HOUSE TOUR『キミとはだしの青春』」神奈川・Yokohama Bay Hall公演より。

「朱演2022 LIVE HOUSE TOUR『キミとはだしの青春』」神奈川・Yokohama Bay Hall公演より。

「朱演2022 LIVE HOUSE TOUR『キミとはだしの青春』」神奈川・Yokohama Bay Hall公演より。

「朱演2022 LIVE HOUSE TOUR『キミとはだしの青春』」神奈川・Yokohama Bay Hall公演より。

──脱皮みたいですね。

本当にそういう感覚でした! あのツアーではいろんな街を見て、いろんなものを肌で感じて、自分ともめちゃめちゃ向き合って。自分が嫌になった瞬間も、逃げ出したくなった瞬間もありました。でも、「これだけの仲間が待っているなら、逃げ出すなんてできないよね」と思いましたし、ダサいことは絶対にしたくないなって。とにかく誰かのために何かをしたいという気持ちが倍増したんです。

“僕”じゃなくて“僕らは”なら「天才」と言える

──「僕らはジーニアス」の作詞作曲は、デビュー当時からプロデューサーとして朱夏さんとタッグを組んできたハヤシケイ(LIVE LAB.)さんが担当しています。資料によると、「アニメの主人公・レーコの『思い込みで生まれるすごい力』『自分では気付いてない超パワー』的な部分を、斉藤朱夏的世界観で表現できたら」というところから楽曲を練っていったそうで。

アニメの世界観をしっかり入れつつ、“斉藤朱夏”の楽曲になっていますよね。やっぱりケイさんは私のことをよく見ているなと思います。たぶん、この歌詞には、私が普段から話しているようなことが入っているんじゃないかな。

──特に「限界点は通過点ってさ 信じたいじゃない」という1文に朱夏さんっぽさを感じました。

私もめちゃめちゃ思います(笑)。ボイトレの先生とか、いろんな人から「もう限界で押し潰されそうなときに朱夏は本領を発揮するから、そういうことがあったほうがいいよね」と言われますし。この前のライブハウスツアー中もそういうときがあったんですよ。1日2公演の日に1部、2部のパワー感がわからなくて、2部で全然体力が持たなかったんです。正直限界だったけど、そこから一気に這い上がって「行くぞー!」みたいな。

──それはまさにアニメと同じように、自分の知らない力が覚醒した瞬間ですね。

一気に力が湧き上がってきて、自分の中で勝手に体が調整していったので、「自分の体、すごい!」と思って。そこからパワー感の出し方がちゃんとわかったので、1部も2部も120%の力でやれました。

──そこは2部に向けて体力を温存しないんですね(笑)。

それはできないんです(笑)。結局は気合いで両方を120%の力でやっちゃう。

──この曲の制作において、ケイさんとはどういうやりとりがありましたか?

ケイさんとは「なんで『僕らはジーニアス』ってタイトルなんですか?」という話からしましたね。そしたら「朱夏さんはライブ中、ファンの皆さんが踊ってるのを見て『天才!』って言うじゃないですか。自分のことは言わないくせに」と指摘されて(笑)。

──初めて作詞したときに出てきたフレーズが「天才なんかじゃないし 才能もないし」でしたもんね(参照:斉藤朱夏 1stフルアルバム「パッチワーク」インタビュー)。

今もずっとそう思ってるし、私1人では自分のことを「天才」なんて言えないけど、“僕”じゃなくて“僕らは”なら言える、という話はケイさんにしましたね。アレンジに関しては「ちょっと中華要素を入れたい」と伝えさせてもらいました。でも、これを言う前にすでに曲の最初にドラの音が入っていたので、自然と意思疎通ができていたと思います。

──中華要素はどういうところからイメージしたものなんでしょうか?

そもそもテレビアニメ「齢5000年の草食ドラゴン、いわれなき邪竜認定」は中国で先に配信されていた作品で。中国のみんなが日本版の「草食ドラゴン」を改めて観たときに、中華っぽさを感じて喜んでくれたらいいなと思ったんです。中国のイベントに遊びに行くと、みんなサプライズで垂れ幕を用意してくれたり、日本語で歌ってくれたりするんですよね。だからこそ中国のみんなのことも大切にしていきたいなという気持ちがあって、ジャケットの衣装にも、袖をちょっと大きくしたりすることで中華のテイストを入れています。

それぞれ自由に行きたいほうに行きながらも、1つの円にまとまってる

──ドラ始まりといい、この曲はアレンジがカッコいいですよね。「やりたいようにやろうぜ」というメッセージの通り、すべての楽器が思い切りよく開放的に鳴っています。

みんなやりたいようにやってるんですよね(笑)。でも、自由に行きたいほうに行きながらも、曲として1つの円にちゃんとまとまってる。それが「僕らはジーニアス」という曲の魅力だと思います。面白い曲ですよね。歌うのは大変でしたけど……。

──そうだったんですか。

特に2コーラス目がめちゃくちゃ難しくて、「どこでリズムを取ればいいんだ?」と。自分の中になじませるためにひたすら聴き込みました。アニメの雰囲気により近付けられるように、歌い方もすごく考えましたね。

──どういうイメージで歌ったんでしょうか?

「齢5000年の草食ドラゴン、いわれなき邪竜認定」は主人公のレーコのとんでもない勘違いから始まる物語なので、レーコのそういう雰囲気や、ニヤついた表情が見えるような歌にしたいなと思って。元気で活発で明るいイメージが軸にありつつも、原作のマンガからレーコのいろんな表情を読み取ってレコーディングしました。

テレビアニメ「齢5000年の草食ドラゴン、いわれなき邪竜認定」キービジュアル

テレビアニメ「齢5000年の草食ドラゴン、いわれなき邪竜認定」キービジュアル

──Bメロに入っている口笛は朱夏さんが吹いているそうですね。

そうなんです。アレンジャーの黒須(克彦)さんから「朱夏さん、口笛できますか?」と聞かれて。ただ、最初にいただいたメロディが難しすぎて「これはちょっと厳しいんじゃないか」というお話をして、最終的にはちょっと簡単にして録り直しました。

──「やりたいようにやろうぜ」ということで、ちょっと聞いてみたかったんですが、アーティストとしていろいろな音楽にチャレンジしてきた朱夏さんが、今だから「やってみたい」と思う音楽や演出はありますか?

確かにいろんなジャンルの楽曲を歌わせてもらってきましたもんね。

──“ゆるラップ”に挑戦した「親愛なるMyメン」(2020年11月発売の2ndミニアルバム「SUNFLOWER」収録曲)のような、変化球の楽曲もありましたし。

でも、最近はガッツリしたラップもやってみたいなと思い始めて。

──先日ナタリーで公開された2022年のマイベストトラック企画では、Awichさんの楽曲を挙げていました(参照:声優編 | マイベストトラック2022 Vol. 2)。

最近は自然とヒップホップを聴いていることが多いなと気付いたんです。私、ヒップホップめっちゃ好きじゃんって。小学4年生からヒップホップダンスを習っていたから、聴き馴染みがあるんだと思うんですよ。Aqoursの現場でも「斉藤さんの歌はヒップホップのノリ方なんですね」と言われることがあって、ラップを褒めてもらえるんです。だからヒップホップ系の楽曲にも挑戦してみたいなと思います。

──いいですね。

あと、昔からダンスをやっているわりには、ソロの楽曲でまだガッツリとは踊っていないんですよね。ミュージックビデオでも、いつも監督からは「自由に動いてほしい」というディレクションだけをもらって、好きに動いていて。なので、ちゃんと振付があるようなダンスナンバーもやってみたいです。ひさしぶりにバラードも歌いたいな。ツアー中のアコースティックコーナーが楽しすぎて。アコースティックライブもやってみたいし、いろんなことに挑戦していきたいです。