斉藤朱夏が3rdミニアルバム「愛してしまえば」を8月9日にリリースした。
8月は斉藤にとって、誕生日やソロアーティストデビュー記念日を迎える特別な時期である。そんな季節にリリースされた3rdミニアルバムのテーマは“愛”。本作にはさまざまな愛を表現した全5曲が収録されている。ロングヘアーになった彼女のナチュラルな表情を切り取ったジャケットビジュアルにも注目だ。
今年でアーティストデビュー4周年を迎える斉藤は、ライブやインタビューで「みんなのことを絶対に守ってみせる」という言葉を口にするようになった。ライブを重ねていくうちに、そんな強い覚悟を持つようになったからこそ、彼女は“愛”という壮大なテーマに向かっていったのかもしれない。また、オーディエンスとの絆を深めてきた斉藤の4年間のライブ空間を振り返ると、愛という言葉が出てきたのも必然的なことのようにも思える。音楽ナタリーでは斉藤にインタビューを行い、愛にあふれた1枚について話を聞いた。
取材・文 / 中川麻梨花
「愛してしまえば 世界は変わるのさ」は自分に向けての言葉でもある
──今作は“愛”をテーマにした、言わばコンセプトミニアルバムのような1枚になっていますね。
私が大切にしている“愛”というものを、このタイミングで改めて歌うことにしました。ここまで1つのコンセプトに沿った作品は初めてですね。
──朱夏さんはこれまでもラブソングやファンの人へのメッセージソングを通して、たくさんの恋愛や愛情を歌ってきましたが、なぜこのタイミングで改めて愛というテーマに向き合ったのでしょうか?
今回は「初心に帰りたい」という気持ちが大きくて。戻ってみたくなったんですよね、昔の自分に。言ってしまえば、デビューミニアルバムの「くつひも」(2019年8月発売)くらいに戻りたかった。なぜかはわからないんですけど……。だからジャケット写真のイメージも最近の作品とはちょっと違って、デビュー当時のようなナチュラルな雰囲気になっているんです。ラブソングもひさしぶりに歌いました。
──昔に戻りたくなるきっかけが何かあったんでしょうか? それとも自然に?
自然な感じなんですよね。もともと、私は昔に戻りたくなることが多くて。未来に進みたい気持ちはあるし、今を精一杯生きたい気持ちもあるんですけど、今がいっぱいいっぱいすぎて「ちょっと戻ってみよう」みたいな。過去に戻ったことによって、また見えるものがあるかもしれない。そういうヒントをもらうために戻っているところもあるのかな。だから「今、戻らなくちゃダメかもしれない」という、ふとした感覚的なものですね。
──原点回帰というところは感じつつ、リードトラックの「愛してしまえば」を聴くと、これまでよりも“愛”というテーマのスケールが大きくなっている気がしまして。恋愛ソングとも受け取れますけど、どちらかと言えば人類愛のような。
まさにそうです!
──「All you need is love!!」と、ここまで大きな愛を歌えたのは、デビューから4年を経た、今の朱夏さんだからなのかなと。
昔は孤独を感じがちだったというか……ずっと1人で鳥かごの中にいるような感覚があったんです。でも、ここ何年かでやっと羽ばたけたような気がしていて。ライブを通して、そういう感覚になれたんだと思うんですよ。ライブでたくさんの愛をもらって、たくさんの愛を返すという交換をずっとしているうちに、愛を向ける対象がより広くなったんだろうなって。「愛してしまえば」は、個人的には“願い”のような曲ですね。「愛してしまえば 世界は変わるのさ」というフレーズは、そう言い切りたいという思いもあるし、自分に向けての言葉でもあるなと思います。
未来に向けてのスタートダッシュ
──今回のミニアルバムの楽曲制作にはPan(LIVE LAB.)さんが新しく参加しています。「愛してしまえば」の作詞は朱夏さんのデビュー作からずっとプロデュースを担当しているハヤシケイ(LIVE LAB.)さん、作編曲はPanさんですね。
「愛してしまえば」に関しては、Panさんが「朱夏さんをイメージして作った曲があります」とデモを出してきてくれて。めちゃめちゃ明るい楽曲が来たので、「Panさんの中で私のイメージってこんなに明るいんだ!」と思いました(笑)。でも、今まで歌ってきた楽曲とはちょっとまた違う明るさで。今回はPanさんから上がってくる楽曲が全部新鮮に感じました。
──これまで朱夏さんのプロットをもとにケイさんが作詞をするケースも多かったですが、「愛してしまえば」に関してはどのようにして歌詞が付いたんでしょう?
今回の5曲に関しては、私からプロットを渡すというやり方は取っていなくて。私との普段の会話やライブのMCからケイさんが引っ張ってきた言葉が多いです。この曲は、Panさんのデモの時点で、すでに「愛してしまえば」という言葉が入っていたんですよ。そのワードからケイさんがどんどん広げて歌詞にしていきました。最初にこの曲の歌詞を見たとき、すごく壮大なことを言っているなと思って。この大げさな感じが、私らしいといいますか。「愛してしまえば世界は変わるんだぜ!」って、自分がライブのMCで言ってそうな言葉だなと(笑)。
──確かに。
ケイさんは長いこと一緒に音楽を作ってきているから、私が言いそうな言葉をわかってるんだと思います。「全部 愛してしまえたらさ 未来は変わるから 一緒に見にいこう」という最後のフレーズも、今の自分らしいなと感じました。年々、「とりあえずみんなついてきて!」というモードになっているので。この楽曲を通して、いろんな人の背中を押せたらうれしいです。「新しい日々の幕が開くのさ」という歌詞があるんですけど、自分にとってもここからが第二章というか、未来に向けての新たなスタートダッシュを切るような楽曲ですね。
声出しNGの期間にしっかりと終わりを作りたかった
──「ここから第二章だ」という感覚は、ミニアルバムを携えて間もなくスタートするライブハウスツアー「朱演2023 LIVE HOUSE TOUR『愛のやじるし』」で声出しが解禁になることも関係していますか?
声出し解禁が一番大きいです。春のツアーでは、あえて自分から「今回声出しはなしにしましょう」とスタッフさんに言ったので。私にとっては次のツアー初日の8月16日(斉藤の誕生日)にO-EASTで声出しを始めることが大切だったんです。
──ソロアーティストとして初めてワンマンライブを行った、始まりの場所のO-EASTで(参照:斉藤朱夏、信頼するファンに素顔見せた初のワンマンライブ)。
はい。それに、今までがんばってきたことを、世の中の流れですぐにポンってなくしてしまうのは、私のライブではちょっと違うかなと思って。声出しNGの期間にしっかりと終わりを作りたいというか、「ここまでがこういう期間でした」という区切りをはっきりと付けたかった。だからこそ“第二章”という言葉が自然と出てきたんだと思います。
──「終わりを作りたい」という発想は、なんだか朱夏さんらしいです。
ファンのみんなの中にも終わりを付けてあげたいなと思ったんですよね。なんとなく自然と解禁にするよりは、「ここで終わりです。次からは声出しありで楽しいことが待っています」という形のほうがすっきりするような気がして。コロナ禍というものはまだ終わってないけど、今までの苦しかった時期がちょっとは終わったんだなと、みんなの中で感じてほしかった。やっぱり苦しいことがたくさんあったと思うので、「ああいうときもあったよね」と話せるくらいの終わり方にしてあげたかったんです。「誰がその終わりを決めるんだろう?」と思ったときに、自分はステージに立って表に出ている人間だし、自分が発信しないとダメだなと思って。あとは、完全に性格ですね(笑)。
──なるほど(笑)。
「ここで終わらそうぜ」みたいな。明確な答えを求めがちな性格なので、「ここで終わりです」という答えがあったほうが、すっきりするんです。
──朱夏さんは2019年8月にソロアーティストデビューしたので、声出しありのワンマンライブは11月のO-EASTの1回きりになってしまったんですよね。声出しありのライブに対する思い入れも人一倍強いのでは?
そうですね。Aqoursとして声出しありのライブを経験していたからこそ、という面もあります。O-EASTのときはまだデビューミニアルバムの楽曲しかなかったんですけど、今はもうたんまりとみんなで歌える楽曲が増えたので、「ソロアーティストとしてのライブは声出しありだとどういう感じになるんだろう?」とワクワクしています。
──「愛してしまえば」はサビにシンガロングパートが入っていて、明確に声出し解禁を意識して作られていますよね。さらにクラップパートあり、みんなで踊れる振付もありで。人とつながることを強く意識しているというところで、この曲そのものが愛にあふれていると思います。
もうみんな思う存分歌ってくれ、と思って。みんなで歌っている情景をイメージしながらレコーディングしました。今まで声出しできなかった分、今回のミニアルバムでは一緒に歌えるパートを全曲作ったので、みんなしっかり覚えてきてくれたらうれしいな。
考えてること、全然違うじゃん!
──ミニアルバムの2曲目「ベイビーテルミー」はハイテンションなロックチューンです。好きな人がなかなか振り向いてくれない女の子の必死な気持ちが描かれていますね。
この曲もPanさんが編曲しているんですけど、いろんな音がどんどこ入ってるし、いきなりリズムが変わったりして。
──後ろのギターも思いっきりはっちゃけています。
Panさんがアレンジに入ると、とんでもないことになるんだなと思いました(笑)。Panさんはアレンジと言葉に対するこだわりもすごくて。2番の「ロミオとジュリエットみたいな運命」というところは、「『ロミオとジュリエット』という言葉があるので」とロマンティックな感じにアレンジを変えたりしていて。そういう考え方もあるんだなと。
──これまで朱夏さんは少女マンガ的な世界観の楽曲をたくさん歌ってきましたが、この曲の主人公にはどういうイメージがありますか?
今回の5曲の中でも、自分の性格っぽい曲だなという印象があって。私の要素が多すぎて、ちょっと笑っちゃいましたもん。作詞しているケイさんと同級生だったっけ?と思うくらい。
──「鏡の前はいつだって戦場さ なかなか上がんないまつ毛1本に 命がけ」など、歌詞に共感するリスナーも多いんじゃないでしょうか。
ここ、私もめちゃめちゃ共感しちゃって! ケイさんにも「ここの歌詞は最高です。よく女の子の気持ちがわかりますね」という話をしました(笑)。
──恋愛ソングに関してはレコーディング前に朱夏さんとケイさんで服装なども含めて主人公像を話し合うことが多いと以前おっしゃっていましたが、この曲でもそういうやりとりはありましたか?
この曲はすごく話し合いました。最初は私とケイさんの間で主人公のイメージが全然違ったんですよ。そこから「いや、私が思うにこの子は……」とお互いに意見を言い合って。
──それは髪型や服装というよりは、人物像の根本的なところで?
そうです。私、その話し合いのときにこれは男女の感覚の違いだなと思ったんですよ。私的にこの女の子は、不器用で恋愛下手だけど、クラスの中心にいるような明るい子なんです。それでレコーディングでは部分部分で強く歌ったんですが、「ここはもうちょっと息を抜いてください」と言われて。「えっ、待って、考えてること全然違うじゃん!」と思うところがけっこう多かったです(笑)。でも、うまいこと擦り合わせをして、最終的には「この女の子で歌います」というイメージ像がしっかりできあがりました。
──勢いよく突っ走っていく感じがありつつ、ちょっと内気な一面もあるような女の子ですよね。
そういう女の子って多いと思うんですよ。学生時代に私の周りにいた女友達はみんなそんな感じで。突っ走るんだけど、「行け!」というタイミングで結局「ちょっと恥ずかしくて無理かも……」みたいな。いつもはお調子者なのに、ちょっとした言葉が言えなかったり。この主人公は私っぽい性格でもあるけど、レコーディングのときは「周りの友達はみんなこういう感じだったな」と学生時代のことを掘り下げながら歌いました。
──学生時代に友達の恋愛相談に乗りまくっていたというだけありますね。
めちゃめちゃ乗ってましたよ(笑)。普段はブイブイ言わせてるけど、好きな人のことになると消極的になっちゃう子もいて、恋愛になると女の子ってみんな面白いなと思いますね。この曲でも、自分の経験というよりは、いろいろ友達の話を聞いているからこそ湧き出る感情があったなと思います。
──アウトロに「ベイビー? テルミー?」というセリフが入っていますが、これはレコーディング現場でのアドリブですか?
そこは現場でスタッフさんから「入れてみたいです」とアイデアが出たんです。そのとき、私は正直どういうふうにセリフが入るのかあんまりイメージができていなかったんですけど、「何パターンかやるので、一番キュンとしたやつを使ってください」と言って何テイクか録りました。
──ベストテイクが使われているわけですね。
完成した音源を聴いて、「これが一番キュンとするのか」と思いました(笑)。「ベイビー? テルミー?」はライブでその日ごとの言い方ができると思うので、そこも楽しみにしていてほしいです。
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