斉藤朱夏が3rdシングル「イッパイアッテナ」を8月17日にリリースした。
アーティストデビュー3周年、そして発売前日の8月16日に誕生日を迎えることを記念して制作された本作には、斉藤自身が抱えている思いや、ありのままの彼女の姿を反映した3曲が収録される。いずれの楽曲も、デビュー作から斉藤をプロデュースしてきたハヤシケイ(LIVE LAB.)の書き下ろしだ。
作品を出すごとに、そしてライブを行うごとに、胸の内にある感情をどんどんさらけ出し、音楽を通して自身の思いを述べている斉藤。今回のインタビューでは、各曲に注がれた感情や制作過程について本人に話を聞いた。
取材・文 / 中川麻梨花
すごく人間らしくて、生々しいライブだった
──前回のインタビューで「今年はとにかく強い気持ちで突っ走る」ということをおっしゃっていましたが(参照:初のライブ映像作品から紐解く、斉藤朱夏がステージに立ち続ける理由)、春のライブツアー「朱演2022 LIVE HOUSE TOUR『はじまりのサイン』」はまさに最初から最後まで最大出力で突っ走っていくような、勢いのあるライブでしたね(参照:斉藤朱夏、オーディエンスと“サイン”送り合った東名阪ライブツアー「私、止まらないで走る! 」)。
資料用に撮影してもらったライブ映像をあとから観て、自分でも「その瞬間の感情をすべて出してるな、この人」って思いました。すごく人間らしくて、生々しくて、どこかちょっと荒々しい部分もあったり。そういうところから、観てくれた人も何かを感じ取ってくれたんじゃないかな。自分の中では「ここ、ちょっと感情を出しすぎたかな」と思っていたところも、映像を観ると意外と大丈夫で。むしろ出しすぎくらいのほうが気持ちが伝わるんだなって、いろんな発見があったツアーでした。
──ツアーのMCで「自分が歌に対して一番気を付けているのが言葉。知らないうちに人を傷付けてしまうこともあるから、繊細に扱っている。言葉を大切にしていきたい」ということをおっしゃっていましたが、まさにニューシングルの表題曲「イッパイアッテナ」では、自分の気持ちを言葉で伝えることの難しさを歌っています。
私は言葉というものをすごく大切にしながら音楽をやっていて、生きていく中で一番必要なものだと思ってるんです。でも、コミュニケーションの難しさを感じることや、「なんで伝えたいことがうまく伝わらないんだろう?」と空回りしてしまうこともたくさんあって。「イッパイアッテナ」はそういうところから生まれた曲ですね。
これまでの歌詞のプロットで一番荒れてたんじゃないかな
──今作は“アーティストデビュー3周年&バースデー記念シングル”ですが、アーティストとして3年やってきて、ご自身で感じている変化はありますか?
この3年で「自分が変わったな」と思うことはたくさんありますが、いろんなことを言えるようになりましたね。1年目は伝えたいことはたくさんあったけど、まだ遠慮している自分がいて。「これを言ったらどうなるんだろう?」と考えながら物事に対して発言をしていました。2年目はコロナの影響でなかなか動けない時期が続いて、いろんな苦しさやつらさがあって。自分が思い描いていた2年目と全然違う感じになってしまい、目の前に壁が立ちはだかりましたね。3年目は「自分は言いたいことがこんなにまだたくさんあるんだな」ということに気付いたところがあって。言いたいことや日常生活で「いいな」と思った言葉を、メモ書きすることがより多くなりました。そのメモのまま自分の言葉で伝えてしまうとストレートすぎるから、じゃあこれを音楽にしていこうというところにたどり着いて、歌詞のプロットを作ってプロデューサーのハヤシケイさんに渡したり。
──「イッパイアッテナ」も朱夏さんのプロットから生まれたんでしょうか?
そうですそうです。
──言いたいことを人に伝えることの難しさを感じながら、それでも最終的には人とコミュニケーションを取ることをあきらめないという気持ちを歌った楽曲になっていますが、メモにはどういったことを書いていたんですか?
あっ、メモの内容はちょっと世の中には出せないです(笑)。
──そんなに荒れていたんですか。
たぶん、これまでの歌詞のプロットで一番荒れてたんじゃないかな? 当時、コミュニケーションに関して怒りを抱えていて。人とやりとりをする中で「えっ、どうしてなんだろう? なんでなんだろう?」と思うことが多かったんです。私って基本的に“ハテナ”で返すことが多いんですよ。「これってどういうことですか?」と疑問が湧いてきてしまって、答えがないと満足できない。で、ずっとモヤモヤしてしまって、「あれってどういうことだったんだろう? でも、こういうことだよね。じゃあどうしてこうなってしまうんだろう?」と……。
──「イッパイアッテナ」の「なんですれ違うのかな ってハテナ 呑気に言えたらなあ ケセラセラ そうもいかない自分に腹立ってます」という歌詞の通りですね。呑気に流すことができないという。
まさにそう。呑気に言えたらいいけど、言えないし。1つ気になることがあったら、もうそれしか見えなくなっちゃうんですよね。感情が1つしかなくなっちゃう。「なんで伝わらないんだろう? じゃあこの言葉だったら伝わるかな? でも、これでも伝わらなかった。じゃあどうすればいいんだろう?」って。そういう気持ちを殴り書きして、とりあえずケイさんに渡しました(笑)。
──それは特定の出来事があっての怒りというよりは、日々の中で積み重なったフラストレーションですか?
積み重なったものですね。やっぱり怒ったりすることって基本的に面倒くさいし、エネルギーを使って疲れてしまうから、怒るくらいだったら自分にもっとプラスになることをしたいんです。でも、1つひとつは小さいことでもどんどん積み重なっていって大きなものになって、最終的に爆発するという。
──これまで「言葉にしなきゃ伝わらない」とずっと言葉の大切さを訴え続けてきた朱夏さんが、今回「目や耳や口はいつだって役者不足です」と歌っていることに驚きはあったんですが、言葉を大切にしているからこそ、言葉に対して人一倍敏感で、正しく相手に思いが伝わらないことへのもどかしさを感じる場面も多いのかもしれません。
自分の中ですごく考えて発言したのにそれが伝わらないときって、怒りもあるけど、それ以上に悲しくなってしまうんですよね。これじゃ伝わらなかったか……みたいな。じゃあどうしたら伝わったんだろうなって、もうよくわかんなくなってしまう。コミュニケーションって本当に難しいです。
この主人公はとんでもない女の子
──でも、結果的に「イッパイアッテナ」は曲調的にはとてもキャッチーで疾走感のある楽曲になりました。歌詞も韻を踏んでいて語感がいいです。
楽曲自体はすごく明るくて、いろんな音も入っていて。Aメロはぶわーっと歌ってるんですけど、すごい速さで言葉が流れていくからこそ、ある意味あまりキツく聞こえないというか。歌詞も「なんですれ違うのかな ってハテナ」みたいな、面白楽しく聴いていただける形になっています。
──「ありがとう サンキュー ダンケシェーン」というような歌詞からは、シリアスな雰囲気はないですよね。
まず、たぶんみんな「楽しい曲がきた!」と思ってくれるはずです。それで歌詞をよく見てもらうと、「あ、この人明るく怒ってるんだな」というのが伝わるんじゃないかな。
──サビの最後に「お腹空いたな ケーキでも食べようか」といった1文が入ることでユニークさが出ているように感じました。
コミカルになりますよね。このフレーズを見て、この主人公はとんでもない女の子だなと思いました。ここまでわーっと怒ってたのに、最後に「お腹空いたな ケーキでも食べようか」って、どういう感情の切り替え?みたいな(笑)。でも、このフレーズが最後に入ることで、ちょっとふわっとするというか、結果かわいい雰囲気で終わるんですよね。「ここまでいろいろ言ってたけど、なんだ結局お腹空いてケーキ食べんの?」って。そのハチャメチャな感じがいいなと。そもそも、今回のシングルに関してはやんちゃな女の子をイメージして作っていたんです。曲を書いてもらう前にジャケットや衣装のイメージもケイさんに渡していたので、そこからこういう主人公像を引っ張り出してくれたのかなとも思います。
──ジャケットのイメージは朱夏さんが考えているんですか?
そうですね。「こういう女の子のイメージで、こういう衣装にしたい」というのは基本的に伝えさせてもらっています。今まで書いてきた歌詞のプロットの中からそのイメージに似合うものを引っ張ってきたり、新しいプロットを書いたりということをよくしていますね。今回は自分の中でやんちゃな女の子をすごく描きたかったんですよね。今は2000年代のファッションが流行ってるから、そういうトレンドも衣装にちょっと入れてみました。