リアクション ザ ブッタ特集|初のベストアルバムに見る、バンドの歴史と未来

リアクション ザ ブッタのキャリア初となるベストアルバム「REACTION THE BEST」が、5月29日にソニー・ミュージックレーベルズ内のSACRA MUSICからリリースされた。

佐々木直人(B, Vo)、木田健太郎(G, Cho)、大野宏二朗(Dr)からなる3ピースロックバンド・リアクション ザ ブッタ。2007年の結成から17年、バンド選手権での入賞や大型フェスへの出演など、着実にキャリアを重ねながらインディペンデントな活動を続けてきた彼らとメジャーレーベルの契約に驚いたファンも少なくないはずだ。初のメジャーリリースとなる「REACTION THE BEST」は、リアクション ザ ブッタがこれまで発表してきた楽曲から厳選された既存曲に新曲を加えた全13曲入り。代表曲「ドラマのあとで」のリアレンジバージョン「ドラマのあとで - retake」のほか、バッケージ盤にはボーナストラックとして今年の3月に東京・渋谷CLUB QUATTROで行われた東名阪ワンマンツアー最終公演より「ヤミクモ」のライブ音源が収められる。

このインタビューでは「REACTION THE BEST」を通してバンドの歴史を紐解きつつ、念願のメジャー進出を果たした3人に今後の展望について話を聞いた。

取材・文 / 倉嶌孝彦撮影 / 梁瀬玉実

ここがゴールだとは思っていない

──メジャーリリース、おめでとうございます。リアクション ザ ブッタは佐々木さんと木田さんが高校生のときに組まれたバンドですが、結成から17年も経っていることに驚きました。

佐々木直人(B, Vo) やっとここまで来ることができて感慨深いですね。これは僕の勝手なイメージですけど、一般的に有名なアーティストが最初にメジャーレーベルからリリースするのって25歳くらいなんじゃないかな、という感覚があって。周りの先輩たちもそうだったし、自分たちも順風満帆に進んだらそうなると思ってました。でも現実はそうじゃなくて、30歳を迎えたタイミングでは「自分たちはもうピークを過ぎてしまったんじゃないか?」と悩むこともあって。あきらめていたわけではないけど、不安になることはありましたね。

──「活動歴17年」と聞くとベテランアーティストを思い浮かべがちですが、まだ皆さん30代前半なので若手というイメージもあります。

木田健太郎(G, Cho) 17年という年月は確かに長いけど、「結成からもう17年も経ったんだ」という感覚もあって。今おっしゃっていただいた通り、若い気持ちではいるんですよ。「始めたて」とまでは言わないですけど(笑)。

佐々木 17年バンドをやり続けても、まだ新しく体験することが多いですし、成し遂げられていないこともたくさんある。そういう意味で僕らはまだ全然若いですし、ここがゴールだとは思っていないですね。

リアクション ザ ブッタ

リアクション ザ ブッタ

──大野さんは2016年加入ですが、この8年間のブッタの活動を振り返っていかがですか?

大野宏二朗(Dr) 僕がいなかったブッタはここにいる2人と本間(風理)さんというドラマーの3人が培ってきたものですから、この8年はそれを大事にしながら、僕は僕でブッタに新しい風を吹かせようとしてきた期間でした。僕が入ったことで何か変化が生まれればいいなと思ってきたし、それはなんだろう?と模索ながらドラムを叩き続けてきました。

──大野さんが加入したことで新しい風というか、バンドの変化を感じることはありましたか?

佐々木 宏二朗は仲のいいライブハウス関係者やバンド仲間が多くて、ブッタの“外交担当”なんですよね。バンドの活動の幅が広がって全国でライブをするようになった時期に、宏二朗のような明るい人間が入ってくれたのはすごくよかったなと(笑)。打ち上げとかも、宏二朗が盛り上げてくれるからいい雰囲気になるし。

木田 音楽的には宏二朗がいろんなジャンルの曲を聴いているから、奏でるリズムの幅が広がったよね。

佐々木 僕と木田は地元も一緒だから触れてきた文化も似ている部分があるけど、宏二朗は僕らが触れてこなかったものをもたらしてくれる。それは間違いなくブッタにおける新しい風になっていると思います。

ブッタの状態はずっといい

──佐々木さんと木田さんは学生時代から1つのバンドでここまで上り詰めてきたわけですが、「ブッタであれば大きなことが成し遂げられる」といった確信めいたものは持っていたのですか?

木田 確信を持っていた時期もあれば、それが揺らいでしまう瞬間もありました。でも揺らいだときになんとなくやり過ごすのではなくて、その状況を打破できないかと、ライブの演奏面だったり、楽曲の作り方やアレンジだったり、何か自分たちでできることを模索してきたからこそ、今につながっているという確信があります。1つひとつ乗り越えてきたから今があるし、17年も続けてこられたんだと思います。

佐々木 僕の場合、確信とまではいきませんが「いい曲を作り続けていれば、きっと広く聴かれるタイミングがいつかくるだろう」くらいの漠然とした自信は持っていました。もっと言えば、そのタイミングが訪れたときに、その広がりをさらに大きくするような曲を書くイメージもできていました。

佐々木直人(B, Vo)

佐々木直人(B, Vo)

──佐々木さんがそのイメージを具体的につかんだのはいつ頃からですか?

佐々木 2014年頃かな。ブッタの核になるようなバラードナンバー「君へ」で「RO69JACK14/15」というコンテストで優勝したときは、自分たちの音楽がちゃんと認めてもらえた手応えがあった。

木田 確かに「RO69JACK」での優勝は「これでメシを食っていこう」と思えるタイミングでした。間違いなくバンドの転換期ではあったんですが、だからと言って階段を駆け上がって一気にステージが大きくなるようなイメージまではなくて。着実に1つ目標を達成したような気持ちのほうが強かった気がしています。

大野 「RO69JACK」のときのことはわからないけど、木田さんが今話した「着実に目標を達成した」という感覚はよくわかります。これはすごくありがたいことなんですが、僕が加入してからバンドとしてやっていることがいい意味で変わってない。2人がデモを作ってきたらそれを練習して、いい感じに仕上がったらリリースして、さらにそれを披露するためにライブをする。そのルーティンがすごくいいなと感じています。もちろんサポートしてくれるスタッフさんが増えたり、環境が変わったりすることはありましたが、バンドとしてやっていることは今も昔もそう変わっていない。で、それが将来も続いていくことに不安もない。明日も音楽に関わることをしているだろうし、来週もライブに備えてリハをするだろうし、それが続いていくことが当たり前になっている。

──「続いていくことに不安がない」というのは、バンドとしてすごくいい状態ですよね。それはほかのメンバーを信頼している証でもありますし。

大野 そうですね。僕がいろんなバンドを見てきたのもあって、ブッタの状態はずっといいと感じています。

大野宏二朗(Dr)

大野宏二朗(Dr)

少し大人になった「ドラマのあとで」

──ベストアルバムの1曲目には、TikTokを中心にSNSで数多く再生された「ドラマのあとで」のリテイクバージョンが収録されています。オリジナルと聴き比べてみると、曲のスケール感が大きく変わった印象があります。

佐々木 それはストリングスが入ったことが大きいと思います。これまで本当に何百回と歌ってきた曲だから、当時のレコーディングから声の感じも変わったと思いますし、アレンジももちろん変わって、リテイクとしてすごくいいものになった手応えがあります。

木田 オリジナルを超えよう、みたいなことはまったく考えてなくて。アレンジの方向性として僕ら3人のフレーズはほぼ変えず、月日が経って少し大人になったブッタの演奏を聴いてもらえたらいいな、と思っていました。ただまったく同じフレーズだとリテイクとして物足りない部分があるので、メジャーリリース1発目ということもあり、華やかな感じでストリングスを入れています。いつもパソコン上でストリングスの音を乗せていたので、生のストリングスを入れるのはすごく新鮮でした。

──「少し大人になった」という表現、すごく腑に落ちました。佐々木さんのボーカルからは、時間が経って過去の恋愛を思い出しているような余裕のようなものが感じられて。

佐々木 当時は細かくテイクを分けて歌録りをしていたけど、今回はつるっと通しで録るやり方に変えて。この曲はキーが高いから以前は歌のコントロールが難しかったけど、今はしっかり自分のものにできているのも大きいですね。

──大野さんのバスドラの音色にも優しさを感じました。

大野 うれしいですね。以前の「ドラマのあとで」を録ったときは、どこか「目立ってやろう」という気持ちが先立っていたのか、力が入っていたような気もして。ここ数年、楽曲をよくするためにはドラマーがどう在るべきか、みたいなことを考えるようになったから、少し角が取れたのかもしれません。

木田 バスドラって力むと音量が下がっちゃうんですよ。その分、フェーダーでボリュームを上げる必要があるけど、今回のレコーディングではナチュラルに音量が大きく録れていたよね。

木田健太郎(G, Cho)

木田健太郎(G, Cho)

大野 うん。もちろん、当時は「ああいう叩き方がいい」と思ってやっていたから、それはそれで正解なんですが、今振り返ると少し無理していたのかなと思っちゃいますね。

佐々木 そこも含めて、大人になった「ドラマのあとで」だよね。

次のページ »
「優しい嘘」の裏側