リアクション ザ ブッタのニューアルバム「酸いも甘いも、好きも嫌いも」が11月1日に配信リリースされた。
アルバムには既発曲や2022年製作の短編映画「赤い私と、青い君」の主題歌「彗星」をはじめとしたタイアップソングなど全8曲を収録。3人が演奏した音だけでなく、打ち込みやピアノの音が取り入れられ、ブッタの新境地が感じられる作品になっている。
本作を携え、2024年2月から3月にかけて、過去最大規模のワンマンツアーを開催するブッタ。音楽ナタリーではツアーの最終公演の会場である東京・渋谷CLUB QUATTROでインタビューを行い、「酸いも甘いも、好きも嫌いも」の制作エピソードやツアーに向けての意気込みを聞いた。
取材・文 / 倉嶌孝彦撮影 / 斎藤大嗣
寄せてきた波をさらに大きくする契機
──コロナ禍で多くのバンドが苦境に立たされる中、リアクション ザ ブッタは既発曲である「ドラマのあとで」がTikTokを中心にバズり、着実にライブの動員数を伸ばしていっています。皆さんは今、バンドがどういう状況にあると捉えていますか?
佐々木直人(B, Vo) 「ドラマのあとで」をきっかけにライブに足を運んでくれる人が増えて、これまでブッタの曲を聴いたことがなかった人にも楽曲が届いた手応えは確実にあります。今は気合いを入れ直しているタイミングですね。せっかく寄せてきた波をさらに大きくしたいという気持ちが強くなりました。
木田健太郎(G, Cho) コロナ禍を経て、楽曲のクオリティはどんどん上がっていると思います。ようやく制限なく思うようにライブができるようになって、僕らが思い描いていたライブの風景が戻ってきたというか。気持ちが先走っていたから、そこにようやく活動が追いついたところだと感じています。
大野宏二朗(Dr) コロナ禍を境に、お客さんの顔ぶれが少し変わったんですよね。コロナでライブがあまりできない時期くらいから顔を見なくなったお客さんもいる中で、新しいお客さんとの出会いもあって。ライブというものに対する向き合い方やライブのやり方を変えていかなきゃいけないのかもしれないな、と考えさせられました。
──実際に何か変化したことはありますか?
大野 有観客ライブができなくなった時期、配信ライブをすることが増えたのもあって、演奏に集中することを意識していたんです。でもまたお客さんの前でライブができるようになって、レスポンスが返ってくるようになると、ただ演奏に集中しているだけじゃもったいない気がしてきて。ライブ中に立ってみようかなとか、手拍子を先導してみようかなとか、当たり前のことかもしれないですけど、またライブを楽しめるようになったのがうれしいですね。そういうところを含めて、僕らはコロナ禍を経て、よりロックバンドらしくなったような気がします。
佐々木 曲作りも変わりました。コロナ禍で「Seesaw」という曲を書いたんですよ。その曲で僕は「今は離れていても、また近づける日が来る。それを信じよう」という“約束”を結ぶような内容の歌詞を書いていて。声出しができるようになった今、お客さんも含めてみんなで「Seesaw」を歌うと、愛おしい気持ちになる。今はライブハウスでも声が出せるようになったから、みんなの声が聞きたいという思いからコール&レスポンスがある曲が増えた気がします。
──アルバムの収録曲で言えば2曲目の「lowkey」は、フロアの声出しや手拍子がまざまざとイメージできる曲だと感じました。
佐々木 まさしくその通りで、ライブで盛り上がることを意識して作った曲ですね。ギターとベースのメロディが一緒で繰り返されるのもミソで、とにかく覚えやすい。1フレーズ聴いたらすぐノレるし、声も出せるし、手拍子も打てる。早くライブでみんなと盛り上がりたいですね。
ブッタがアルバムを作る理由
──リアクション ザ ブッタはこれまでミニアルバムを多数出していますが、フルアルバムという形式で音源をリリースするのは初めてですよね。なぜ今回はフルアルバムをリリースすることに?
佐々木 大きな理由ではありませんが、些細なきっかけが1つあって。Apple Music上でのブッタのアルバム欄に、10年前にリリースした「DIAL9」(2013年発売の3rdミニアルバム。収録曲が多いため、Apple Musicではアルバムにカテゴライズされている)が表示されていることを木田が教えてくれたんです。Apple Musicではシングルやミニアルバムはアルバム欄の下に表示されるから、パッと見たときに新作を全然発表していないバンドのように見えてしまうのが悔しくて。
木田 佐々木はSpotify派だから、知らなかったんだよね。
佐々木 うん。今はみんなサブスクで音楽を聴く時代だから、そこでバンドの最新音源がすぐわかるようにしたかった。
木田 もちろん、それはきっかけの話で、単純に曲がたくさんできていたのも大きいですね。自然とアルバムを作れるくらいの曲が貯まってましたから。
──今の話に関連しているかもしれませんが、そもそもブッタは配信で楽曲をリリースすることが多いですよね。今作も配信アルバムですし。
佐々木 僕らはCD世代だから、もちろんCDでリリースしたい気持ちはあります。でも情報の発信がどんどんSNS中心になって、映像も音源も配信できて、お客さんが手軽にいろいろな体験ができる時代になりつつあるときに、物にこだわるのはもったいないように感じて。だから配信で楽曲を届けることに対して違和感は少なくなってきたし、曲を聴いてもらいやすくなった感覚はあります。
大野 お客さんだけじゃなくて、同業の人やお世話になっている人、はじめましての人に挨拶をするときに、スマホさえあれば僕らの曲を聴いてもらえますから。ひと昔前だったら白盤を渡していたけど、今はもうCDの再生機器を持っていない人も増えてますし。
木田 2人の意見に反対するわけではないけど、僕はいまだにCDに対する思いがけっこう強いです。やっぱりCDを作るというのは、バンド活動における要の1つであることに変わりはないですね。
佐々木 配信だと各地のCDショップに挨拶に行けないのは寂しいよね。僕としてはやっぱり、地元の埼玉のお店に応援してもらって大きくなってきた自覚もあるし。
木田 次にフルアルバムを作る際には、パッケージも含めて、手に取りたいと思ってもらえるようなCDを作りたいな。
作り手の顔が見える“弱さ”の曲
──アルバムのリード曲「一目惚れかき消して」は、ピアノと歌で始まる構成でこれまでのブッタの曲調にはなかった新境地だと感じました。これはどういうきっかけで生まれた楽曲なんですか?
佐々木 僕が作ったコードとメロディを木田に投げるときに、なんとなくボカロっぽい曲調の仕上がりイメージが浮かんできて、それを伝えてみたんですよね。
木田 ちょうど僕がピアノの打ち込みを勉強していて、僕の中ではピアノとバンドサウンドの融合みたいなものもボカロ曲の印象としてあったから、いつもだったらギターで考えるところをピアノにしてもいいかなと思いついて。
佐々木 最初はサビ頭じゃなかったよね。
木田 うん。この雰囲気ならサビ頭にしてもいいんじゃないかと思って構成を変えてみました。
佐々木 アレンジはボカロの音楽にも精通しているレフティ(宮田‘レフティ’リョウ)さんにお願いしました。僕らだけで作るよりももっと面白い音になりそうな気がして。
──端的に説明すると、この曲は主人公の男性が飲み会から帰ってこない恋人の帰りをヤキモキしながら待つ曲で、主人公が恋人にかける電話のコール音や、終電のなくなった深夜を示唆する時報の音が入っています。こういう音を入れるアイデアは、レフティさんから?
佐々木 はい。特に時報の音は最後にレフティさんがぶち込んできて驚きました。
大野 僕らだけだったら絶対に思いつかなかったろうな。
佐々木 うん。時報の音は曲の最後に流れるのですが、そこまで「AM0」「AM0 Half」と歌っていたから、最後に「AM1」と歌うつもりだったんです。でもどうもハマりが悪くて、どうにかして時間の経過を示す方法がないか模索していたら、レフティさんが時報の音を使うアイデアを出してくれました。ちなみに、時報の音はちゃんとレコーディングしたものを加工していて、僕だけじゃなくその場にいたスタッフたちの声も録らせてもらったんです。最終的にはマネージャーの声が加工されて使われています(笑)。
──「一目惚れかき消して」で描かれているのは、人間の嫉妬心や心配性な部分、もっと言えば人の弱さですよね。弱さにスポットを当てて曲を書くのは、バンドの代表曲でもある「ドラマのあとで」と共通しています。佐々木さんは人の弱さをテーマに曲を書くのが得意なのでしょうか?
佐々木 得意というわけではないかもしれないですね。ただ普通に書いた結果そうなっただけというか、そもそも自分が心配性で嫉妬しやすい人間だからそれが曲に表れちゃってるだけで。基本的に歌詞は自分の妄想で繰り広げられている世界ではあるんですが、同じシチュエーションだったら、絶対に僕も嫉妬してしまうだろうし、焦ってしまう。それは「一目惚れかき消して」のようなシチュエーションではなくても一緒ですね。例えば「ガスの元栓、閉めたっけな」みたいなことでもずっと気になってしまうタイプです。
大野 すごく心配性だよね。
佐々木 うん。それが僕の根本にある要素なのかもしれないですね。
──大野さんと木田さんは、佐々木さんが人の弱さについて歌うことを、どう受け止めていますか?
大野 僕はここ何作かの歌詞に、すごく直人くんらしさが出てきているなと感じています。バンドにはいろいろな曲があるから、直人くんらしさのない作品も中にはある。どちらがいいという話ではないんですが、最近は作り手の顔が見える曲が増えてきたのかなと。
木田 僕はちょっと感覚が違って、佐々木が「弱さをすごく出してきてるな」とは感じてない。日々の生活の中での葛藤を歌っているのは今も昔も変わらなくて、その表現の仕方が時期によって変わってきただけだと思うんですよね。コロナ禍で佐々木は弱気な部分を押し殺して、前向きな曲を書いていたけど、今は状況が変わったから佐々木らしさの見え方が変わっただけで、佐々木の芯の部分はずっと変わらないままなのかなと。まあ、ほかの人と比べたら心配性な人間であることは間違いないです(笑)。だからこそ、ほかの人には切り取れないような心情や感性が表現できているのかもしれないですね。
大野 バンドマンで心配性なタイプって珍しいような気もしますね。フロントマンだとなおさら。
──バンドマンで心配性だと、どんなことが起こりますか?
木田 車移動のときに、助手席に座ってほしくないですね。
──それはなぜ?
木田 例えば、カーナビが左折を指示していたけど、ちょっと間に合わなくてまっすぐ進んじゃったときとか。次の交差点で左に曲がればたいてい大丈夫なんだけど、佐々木の場合は心配性が爆発しちゃって、「時間大丈夫かな」ってめっちゃ言ってくる。
大野 ライブ直前もけっこうソワソワしてるよね。僕はよくライブ前にアップをしていて。だいたいルーティンで筋トレやストレッチの内容は決まっているんですが、あと5回腕立てやったら終わるというタイミングで「宏二朗、始まる前にちょっとここ予習しとこう」って話しかけられることは、まあまあありますね(笑)。
佐々木 よくやっちゃうんだよね。微妙なタイミングで話しかけちゃうの。
大野 別にライブ前のアップはいつでも大丈夫だから、気にしてはないけどね(笑)。「急に心配になっちゃったんだろうな」みたいなことはよくあるかな。
佐々木 自分が関わっていることで、不確定要素があるのが落ち着かないんですよね。心がざわざわしてしまうというか。
──バンドマンの本業でもあるライブは、ある意味不確定要素を楽しむもののような気もしますが。
佐々木 なるほど。確かにそういう考えもできますね。ライブに関しては始まる前までの段取りが不安なだけで、本番が始まってしまうと何も気にならないし、夢中になれるんです。何か不確定な要素があったらそれを起爆剤に盛り上がれるわけですから、むしろ「何か起これ!」くらいに思っています(笑)。
次のページ »
宮田‘レフティ’リョウとのコライトで生まれる挑戦