TBSで放送中のドラマ「村井の恋」。乙女ゲーム好きの高校教師・田中と、田中に思いを寄せる猪突猛進な男子高校生・村井を描く“ノンストップラブコメディ”だ。島順太による原作マンガは、「次にくるマンガ大賞 2019」のWebマンガ部門で2位を獲得。ジーンLINEにて連載中で、単行本が6巻まで刊行されている。
コミックナタリーではドラマ「村井の恋」の放送を記念して、原作者の島、オープニングテーマを担当したFINLANDSの塩入冬湖、エンディングテーマを手がけたリアクション ザ ブッタへインタビュー。「絵が描けなくなるか、音楽が聴けなくなるかだったら、絵が描けなくなるほうを選ぶ」と言うほど音楽好きな島による楽曲の感想や、塩入、リアクション ザ ブッタのメンバーが原作のどのようなところに惹かれ楽曲を制作したのかなど、ドラマの見どころを交えて語ってもらった。
さらに島とドラマのプロデューサー・松本桂子、演出を務めた井村太一による鼎談も行い、ドラマの魅力を深掘り。ドラマ「村井の恋」に込められた熱い思いを受け取ってほしい。
取材・文 / カニミソ
島順太(原作)×FINLANDS×リアクション ザ ブッタ
インタビュー
そのとき、歴史は動いた
──FINLANDSさんが手がけたオープニングテーマ「ピース」、リアクション ザ ブッタさんが担当したエンディングテーマ「虹を呼ぶ」ですが、初めてお聴きになったときの感想を島先生にお伺いしたいと思います。
島順太 忘れもしない、2022年3月8日の夜に担当さんから2曲のデータが届いたんですよ。速攻聴かせていただいて思いましたね、“そのとき歴史は動いた”と。
一同 (笑)。
島 部屋の壁に今まで描いてきた絵を全部貼っているんですけど、それらを見ながら「ああ今まで描いてきてよかった、もうこの曲が答えや」っていうエモい気持ちになって、号泣しました。(スマートフォンを手に取りながら)それぞれの楽曲で好きなフレーズをメモしてきたんですよ。
──すごい!
島 まずオープニングテーマの「ピース」は、「凡ゆる心であなたに似合ってみたい」っていうフレーズの、「あなたに似合ってみたい」っていう部分がすごく好きで。ここを田中と村井の両者の目線に当てはめて、分析したんですよ。田中に関しては、外面を作って体裁を整えているけど、結局村井のことが気になってしゃあない人じゃないですか。村井とのあらゆる可能性を妄想した結果、村井のことを認めている部分があるし、少し憧れているところもあると思うんです。そのときに、自分は村井くんに似合う人物なのかなって田中は考えてしまうんじゃないかと。村井に関しては、田中に対して猪突猛進なんですけど、本当は自分に自信がないからあなたに似合うって言い切れないっていう。希望じゃないですか、「似合ってみたい」って。確かにそうだよなって思いました。
塩入冬湖(FINLANDS) うれしいです(笑)。すごいですよね、原作者の方に分析していただくって。
島 あと「込み合った理由などないが 心だけ従ってしまうわ」の「心だけ従ってしまうわ」っていうこのフレーズがもう、この作品のすべてを語っていると言っても過言ではなくて。村井目線で書かれたと思うんですけど。
塩入 実際にそのフレーズは、今の村井くんのすべてなんじゃないかと思って書いたんですよ。そこを拾っていただけて、作品とリンクしていたんだという気持ちになりました。原作は今回のお話をいただいたその日のうちに全巻買って、読ませていただいたんですけど、村井くんが「僕には言葉しかないので、言葉で好意を伝えます」というニュアンスのセリフを、田中先生に言うシーンを読んだときに、ド直球で行こうと決めて。あそこまでド直球になれることって、大人になると少ないじゃないですか。もしもダメだったらとか余計なことは考えず、ヘタなポーズを取らずに自分の心に従える。私は村井くんのそんなところに、共感というより憧れに近いものを抱いたんです。「ピース」は、その憧れを紐解いていくような感覚で制作させていただきました。
島 感無量で、変な汗かいてきた(笑)。リアクション ザ ブッタさんの「虹を呼ぶ」は歌詞を読んだときに、単行本に入っている描き下ろしを全部読んでくださっているなってすぐわかりました。描き下ろしでは村井の親友の桐山、平井が村井と出会うきっかけ、つらい過去が描かれているんですけど、そういう過去を全部汲み取ったうえで、彼らは今こうやってバカみたいなことをしているんだっていうのがすごく伝わってきて、もうホンマにうれしかったです。あと自分が一番好きな「どうせこんな時代だ 埋もれていくか? いや違うな 楽しんでいくか ありのままの自分で」っていうフレーズが最後のほうに出てくるんですけど、曲が終わってほしくないから、滅多に使用しない巻き戻し機能を使ってまた戻って(笑)。
佐々木直人(リアクション ザ ブッタ / B, Vo) 恐縮です。まさに原作を何度も読ませていただいて染みたのが、田中先生が学年主任の山門先生に自分の受け入れがたい過去を話しているシーンと、描き下ろしで描かれる桐山、平井の過去エピソードなんです。僕もダメダメでどうしようもない時期があったので、すごくリンクしましたし、そういう過去も認めて迎えに行けるような、過去と向き合って前に進めるような曲だったら、この作品のエンディングにぴったりなんじゃないかって。「虹を呼ぶ」についてはそういう部分と、ありのままの自分でいたいというメッセージを込めて書かせていただきました。僕らとしても自分の過去を迎えに行けてうれしかったです。まだまだがんばれるって思えるきっかけもいただけて。それもなんとか楽曲に込めたつもりです。
木田健太郎(リアクション ザ ブッタ / G, Cho) そのうえでこの曲を聴いてくれた人たちやドラマを観てくれた人たちにとって、一緒に歩いていけるような曲になってくれたらいいなって。村井くん自身にもそのたくさんの親友たちにも過去があって、過去を認めてくれた仲間たちだからこそ、今作品の中で描かれている友情や楽しい会話がある。自分たちの曲も村井くんみたいに、みんなの過去を認めて引っ張っていけるような存在になれたらと思いました。
映像も音楽も全力でぶつかり合っている
──塩入さん、リアクション ザ ブッタさんにもお互いの楽曲の感想をお聞きしたいと思います。ドラマのオープニング・エンディング映像を通してそれぞれの楽曲を聴かれたそうですが、いかがでしたか。
塩入 エンディングでリアクション ザ ブッタさんの「虹を呼ぶ」が流れたときに、「今週も報われたな」って気持ちになれる曲だと感じました。悲しい気持ちやエモーショナルな気持ちだけで終わらせないっていうところが、すごくこの作品に合っているなって。
佐々木 僕も冒頭から“塩入節”をくらって。「よっしゃ、来た!!」っていう、いい意味で胸ぐらを掴まれるような幕開け感に打ちのめされましたし、ドラマのオープニングでは毎回エピソードと絡みながら始まるのが印象的でした。
塩入 オープニングとして、にぎやかすことができたらいいなと思っていたのでうれしいです。ドラマチームのオープニング映像も素晴らしく凝っていて、楽曲とマッチしていましたし、ここで流れてほしい!と思う瞬間に始まることがすごく多くて。ドラマってオープニングが流れた瞬間に、今週はどういう行方になるんだろうっていう高揚感が生まれるものだと思っているんですよ。自分の楽曲が果たしてそうなれるのか緊張していたんですけど、オープニングから続く第1話を観ただけでその緊張がほどけました。
──島先生はオープニング・エンディング映像については、どのように思われましたか。
島 映像も音楽もみんな全力で戦っている、ぶつかり合っている感じが最高だなって。もともと原稿を描くときに、FINLANDSさんの楽曲をよくイメージソングとして聴いていて。すごく繊細な歌詞なのにパンチがあるところが大好きで、ぜひオープニングを歌ってほしいなとダメもとでプロデューサーさんにお願いしていたんですけど、タイアップしてくださるというまさかのお返事をいただけて、思わず合掌しました。オープニング映像とも合っていて、びっくりでしたね。
塩入 うれしいです、ありがとうございます。
島 エンディング映像については、泣きそうになるほどのまぶしさがあって、しんどかったです。「く、苦しい……これが尊いってやつか」って。すごくさわやかで青春!っていう感じの曲なんですけど、エンディング映像と合わさったときの破壊力が圧倒的で。どれだけドラマの中で暴れ散らかしていても、次も観よう、いい話だったなって。そう思えるからすごいなと思いました。
佐々木 ドラマがスピード感のあるストーリー展開だからこそ、エンディング映像でキャストの皆さんのオフショットと楽曲が合わさることで、全体の印象がすごく柔らかくなっていましたよね。サビの部分は、田中先生を演じる髙橋ひかるさんが笑顔を向けるシーンから始まるんですけど、エモさを体験することができましたし、そこでみんなの姿とリアクション ザ ブッタのクレジットが並ぶところも感動しました。
大野宏二朗(リアクション ザ ブッタ / Dr) 僕もテレビで拝見したんですけど、本当に「虹を呼ぶ」が流れるんだと思って。と言うのも、うちのマネージャーとメンバーが、ドッキリを仕掛けるのがすごく好きなんですよ。なので、実はお金をかけすぎたドッキリなのではないかと。もし流れなくても、凛とした気持ちでいようと思っていたんですけど、違いました(笑)。
一同 (笑)。
佐々木 そんな壮大なドッキリする!?
木田 ネガティブすぎる(笑)。そんな悲しいドッキリしないから。僕は配信で先に観て、そのあとテレビで両親と一緒に観たんですけど、親孝行できたなって。両親からも「よかったね」って言われて、こみ上げるものがありました。
島・塩入 いい話!
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モンゴリアンチョップをキメたまま終わらないでよかった