くるり|試行錯誤で見出した新たな音と手法

屋敷豪太、朝倉真司、石若駿……それぞれ異なるドラム

──岸田さんが作ってきたデモってどれくらいの完成度なんですか?

佐藤 最近はすごいカッチリしてます。

岸田 シンプルやけどね。

佐藤 繁くんはまずきっちり歌を作ってきてくれるから、その歌のリズムとかもあわせて聴きながら、自分たちがベーシックを録れる。だから効率的なやり方なんです。録音する前に土台はしっかり見えているんです。あとはエレキかアコギの音をデモに入れてきてくれるので、バンドで演奏して思い付いた音を入れていった感じですね。それで一番たくさん思い付いたものを入れたのが「ソングライン」だと思います。

くるり

──佐藤さんはもらったデモにどうベースを付けていったんですか?

佐藤 聴きやすくなるようにベースのアレンジを付けていきましたね。

──なるほど。

佐藤 クリフ・アーモンドと一緒にレコーディングすると、ドラムを当たり前に正しい位置に入れてくるんです。それって間違ってはいないし正解の1つやから、クリフと一緒に録った音を触ることはないんです。ただ、今回のアルバムのレコーディングではほかのドラマーともやらさせてもらって、いろいろ発見がありましたね。これがバンドかって。特に石若駿さん。「ソングライン」を一緒に録って盛り上がる一方で、リズム感にタイムラグがあったりもして。それがよさではあると思うんです。少しトリートメントされてるほうが聴きやすいなっていうところもあるので、編集も加えて、ほかの楽器と辻褄を合わせる作業もやりましたけど。写真で例えるなら、すごくきれいな色で撮れたけど、花びらの一部だけちょっと色を塗ってあげると言うか。そういう程度の編集はしました。

──今作に屋敷豪太さん、朝倉真司さん、石若駿さんといった複数のドラマーが参加しているのはなぜですか? 朝倉さんと石若さんは今年のツアーにも参加されていましたが。

佐藤 たまたまなんです。屋敷豪太さんは去年の「音博」に出演者として出ていただいて、自分たちも一緒にセッションできたらよかったんですけど。その機会がなかったので、そのうち一緒にやりたいねって思っていたら、今京都にお住まいだってことで、ご一緒させていただきました。

──屋敷豪太さんは「音博」で初めて会ったんですか?

岸田 いえ。僕が講師をやってる京都精華大学のポピュラーカルチャー学部の立ち上げのときに佐久間正英さんが関わってはって、その関係やと思うんですけど屋敷豪太さんもゲスト講師で来られて。その縁で今回のエンジニアさんとかも紹介してもらったんです。屋敷さんは元Simply Redのドラマーでずっとイギリスにいはって、ダブとかクラブ系の音楽とかをやってはって、藤井フミヤや槇原敬之のツアーを回ってるすごい人ってイメージだったから、あまり接点がない印象だったんですけど、お会いしたら人柄で音楽を一緒に楽しんでいけるみたいな方で。下敷きにあるブリティッシュロックのドラムチューニング1つとっても我々との相性のよさもあったし、プロデューサー的な目線のある方でした。

──屋敷さん以外のドラマーの人選の基準は?

佐藤征史(B, Vo)

佐藤 石若さんにしても朝倉さんにしても今年の頭にやったツアーで、ご一緒するのが前もって決まってたんです。ツアーのライブを一緒にする前に1回合わせておきたいねってことで、先にレコーディングから入って。

岸田 近年はクリフ・アーモンドと一緒にずっとライブをやってて、彼はいろんな意味で100点のドラマーと言うか、ドラマー然としたドラマーで。僕らとはツーカーでやれているんですけど、今回はスケジュールを組むのが難しくて。日本人のドラマーと一緒にライブをやるのはひさしぶりだったんで、どんな感じなんかなと思ってやってみたら、2人ともくるりにハマる部分がありましたね。

──朝倉さんはどういう経緯で参加したんですか?

岸田 僕、阿部芙蓉美ちゃんのアルバムで1曲すごい好きな曲があって。ドラムの音がすごいコンプを効かせた音像の8ビートの曲で、独特の間合いがあるんです。気になってドラマーを調べたら朝倉さんだったんですよ。前に東京事変とかやってた畑(利樹)くんにくるりで叩いてもらったことがあったんですけど、そのときに、くるりはパーカッショニストが叩くドラムがハマる傾向にあるなと思ったんです。朝倉さんってパーカッションも叩くし、話をしたらやってくれることになって。実際に一緒にやってみたらすごく合いましたね。朝倉さんは僕らよりちょっと歳上ですけど自分らのグルーヴと合うし、パーカッショニストやからってのもあると思うんですけど歌を大事にしてくれる。

──石若さんは一緒にやってみてどうでしたか?

岸田 一緒にライブをやってみて、絶対リハとかで練習せんほうがいいと思いましたね。最初はテクニックの面に注目してたんですけど、場の雰囲気を一瞬で作って、僕らの音にパッと反応して、アジャストしていける感じがあった。あいつはすごいっすよ。石若くんはやっぱりジャズドラマーって言うか、いろいろアイデアを思い付く人ですよね。野球で例えると、足もまあまあ速いけど、盗塁のテクニックがめちゃくちゃある人とかいるじゃないですか。そういう天性の試合勘を持ってるみたいな。

──彼はくるりで叩くのが夢だったらしいですね。

岸田 なんて小さい夢を(笑)。

佐藤 YouTubeで「魂のゆくえ」のときにBOBOくんとトリオでやった武道館かなんかの映像で初めてくるりを観て、衝撃を受けてそれから大好きなんですって。

岸田 よりにもよって、そこかーって(笑)。

佐藤 ありがたいけどね。