ポルカドットスティングレイ特集|雫(Vo, G)ソロインタビューで紐解く「踊る様に」の魅力

今年5月、2020年に中止となった初の千葉・幕張メッセ公演を“リベンジ開催”し、各メンバーの卓越したパフォーマンスはもちろん、花澤香菜やコウメ太夫、Calmeraといったゲスト陣とのコラボなど趣向を凝らした演出でライブを成功に導いたポルカドットスティングレイ。そんな彼女たちが今のモードを詰め込んだ新作アルバム「踊る様に」を完成させた。

「踊る様に」には、テレビアニメ「ゴジラ S.P <シンギュラポイント>」のエンディングテーマ「青い」、ドラマ「恋に落ちたおひとりさま~スタンダールの恋愛論~」の主題歌「hide and seek」といったタイアップ曲をはじめ、花澤へ提供した「SHINOBI-NAI」のセルフカバー、ミュージックビデオも公開中のリード曲「リドー」など14曲を収録。ジャンルレスな音楽性、雫(Vo)の多彩なボーカル表現、エジマハルシ(G)、ウエムラユウキ(B)、ミツヤスカズマ(Dr)の卓越したプレイが高いレベルで融合した作品となっている。

またポルカは10月15日の東京・Zepp Haneda(TOKYO)公演を皮切りに、キャリア最大規模となる全国ツアー「ポルカドットスティングレイ 22-23 #踊る様に TOUR」を開催する。音楽ナタリーでは、バンドのフロントマンである雫にインタビュー。「踊る様に」の制作エピソードや発売後の手応え、ライブに対するスタンスや演出へのこだわりについて語ってもらった。

取材・文 / 森朋之

ボカロ楽曲のエッセンスを取り入れた「リドー」

──4thアルバム「踊る様に」がリリースされて約2週間、リスナーからの反応はどうですか?(※取材は9月下旬に実施)

ポルカにはいろんなタイプの楽曲があって、いつもはアルバムをリリースして「どの曲が好き?」とリスナーに聞くと、答えがバラバラだったりするんですよ。でも今回は「リドー」と「SURF」がダントツで人気があって。かなり珍しいことが起こってるなと。私もこの2曲がお気に入りなので、バレちゃったのかも(笑)。

──特に「リドー」はすごい人気ですよね。すでにポルカドットスティングレイの新しい代表曲になりつつあるというか。

そうですね。「リドー」はボカロを意識して作ったんですよ。今現在流行っているボカロのサウンドやミックスもそうだし、あとはニコニコ動画で盛り上がっていた往年のボカロの曲もいっぱい聴きながら、「ここにデカめのクラップ入れとくか」みたいな感じで。リリースする前は「ポルカ、ボカロ路線に行くのかな」と言われたらどうしよう?と思ってたんですけど、なぜか「昔のポルカみたいな曲」という意見が多いんですよ。

──“初期のポルカをアップデートさせた曲”という感想が多いですよね。

そうそう。「最近聴いてなかったけど、いい曲作れるじゃん」みたいな反応もあったり(笑)、面白いです。コード進行やギターのエフェクトが初期っぽい感じを連想させるのかもしれないですね。ただ、サウンドメイクは全然違うんですよ。ドラムは生で叩いてるんですけど、音だけ聴くと打ち込みか生かわからない感じにしたくて。ドラムを毛布で囲みまくって、激タイトな音で録っていて、すごく気に入ってます。

──ボカロ曲も雫さんのルーツの1つなんですか?

いや、意外とそうでもないんです。自分のことをオタクだと思ってるんですけど、私と同世代のオタクが思春期に通ってきたボカロ、アニメ、ラノベはあまり知らなくて。とにかくゲーム一筋だったんですよ。だから「リドー」のMVも、ゲーム好きの人には刺さるんじゃないかなって(笑)。ボカロは最近になって聴き始めて、自分の中でブームが来てるんです。バンドではありえない、1人で作ってるからこそできる曲がたくさんあって、すごく勉強になってますね。

──「SURF」にも初音ミクの声を使ってますよね。

そうなんですよ。「SURF」はアルバムの最後のほうに作った曲で、ギャルの曲にしたかったんですよね。なるべくかわいい声で歌いたくて、Vtuberさんの曲をめっちゃ聴きながら、「こうやって歌えば、ハム太郎みたいな声が出せるんだな」とかいろいろ研究して。語りはだいぶできるようになったんですけど、「この声で歌うのは無理だな」と思って、初音ミクの声を入れようと。ドラムのミツヤスにいい感じに入れてもらいました(笑)。

──自分では表現できないからボカロを使うって、一般的なボーカリストからは生まれない発想ですよね。

そもそも私は自分で歌うことに対してこだわりがないですからね。曲によって主人公やサウンドも違うし、できるだけ違う歌い方をしたくて。「SURF」もその1つということです。

メンバーの成長でやれることが増えた

──サウンドメイクやアレンジの幅も広がっていて。「どうでもいいよ」のアコギの使い方、「hide and seek」のリズムのアレンジ、「夕立」の生々しいバンドサウンド、「odoru yo-ni」のトラックメイクなど、曲によってかなり表情が違います。

確かに広がりはあるかも。1stアルバムの「全知全能」は“ロックバンド”という感じで、バンドサウンド以外の音を入れることがまったくできなかったんです。2ndアルバムの「有頂天」でメンバー以外のミュージシャンを招いて、ホーン隊、ピアノなどを入れて。3rdアルバム「何者」のタイミングでミツヤスが打ち込みをやり始めて、やれることがギュンと増えたんです。今回は打ち込みにもさすがに慣れて、アレンジの幅がさらに広がったのかなと。例えば「SURF」にはシンセのソロが入っていて。「この曲はギターじゃなくてシンセのソロがいいな」と思って、ギターのハルシに伝えたら「ギターではやらないようなフレーズのほうがいいよね」と言ってくれて。ガイドになるフレーズをギターで弾いてもらって、それをミツヤスがシンセで打ち込んだんです。一番大変なのはミツヤスなんですけどね。“下請けの下請け”と言ってます(笑)。

雫(Vo, G)

雫(Vo, G)

──(笑)。ギターが前面に出ない曲も増えましたよね。

そうですね。「どうでもいいよ」はアコギがメインのように聞こえますけど、ギタリストっぽいことをやってるわけではなくて、アコギのコードを鳴らした素材を大量に録って、それをデータとして並べているんです。ハルシがエンジニアさんに「この音をここに貼って、ここまで伸ばして、次のこの音を並べて」みたいな感じで作っていて。リードギターの音量がかなり小さいんですけど、それもハルシの意向ですね。「dude」もそう。バイオリン、ホーンなどがたくさん入ってる曲で、ギターは脇役というか、カッティングがメインになっているので。最近は「歌が聞こえづらいから、リードギターを下げて」ってハルシが言うこともあって。以前は「もっとギターを上げてくれ」「でも、それだとボーカルの邪魔になるやん」みたいにぶつかることがよくあったので、だいぶ変わってきましたね。ハルシ、大人になりました(笑)。

──プレイヤーとしての自信が付いてきたのかも。

最初の頃は「ギタリストとしての自分の演奏を聴いてほしい」という気持ちが強かったんだけど、今は余裕と自信が出てきて、さらにいいアプローチができるようになったのかなと。私はもともとギターがデカい曲が好きなので、「ハルシ、ここはギターの音量を上げるよ」と言ったりしてます(笑)。

社会の動きが顕著に出た「踊る様に」

──アルバムタイトル「踊る様に」はどういうイメージで付けたんですか?

これまでのタイトルは「全知全能」「有頂天」「何者」で単語や熟語がドン!という感じがあって。今回のアルバムの収録曲はすべてコロナ禍以降に作ったんですけど、同じようなタイトルにすると止まってる感、閉鎖感、抑圧感が出てしまう気がして、今回は連用形にしたんです。

──「踊る様に」のあとに続く言葉は、リスナーに任せている?

そうですね。「踊る様に、本当は何がしたい?」というキャッチを付けたのも、そういうことなので。2曲目の「青い」から13曲目の「夕立」までは、主人公が相手に対して、「本当はこう言いたい」「本当はこうしたい」と宣言する形になっているんです。それぞれの立場や主張は違うんだけど、「こうしたい」と思ってるのは共通していて。

──なるほど。

1曲目の「SHINOBI-NAI」は道筋を作るというか、「逃げたければ逃げればいいし、カマしたければカマせばいい」と歌ってて、14曲目の「odoru yo-ni」は「何がしたいか決まりましたか?」と投げかける歌詞になってるんですよ。これまでのアルバムよりは、一貫性が見つけやすいかもしれないです。

ポルカドットスティングレイ

ポルカドットスティングレイ

──最初からコンセプトを決めていたわけではなく、楽曲を並べてみたら一貫したテーマが浮かんできた、と。

コンセプトを決めてアルバムを作ったことはないんですよ。タイアップの曲も多いし、クライアントから求められるものも違うので。ただ、コロナ禍になってからは応援ソングだとか、旅をテーマにした曲をオーダーされることが増えたんですよ。集合的無意識じゃないけど、何かしら共有していたものがあったのかもしれないですね。

──面白いですね、それは。タイアップ曲を作り続けることで、結果的に社会性が反映されるというか。

そうなんですよ。これまでのアルバムにもそれぞれタイアップ曲が10曲くらい入ってるんですけど、振り返ってみると、社会の動きが顕著に出ていて。次のアルバムもそうなると思いますね。

2022年10月12日更新