結成10周年ポルカドットスティングレイ、完璧主義の雫に変化「ちょっとラフに考えてもいいのかな」

ポルカドットスティングレイの新曲「あのね、」が配信リリースされた。

「あのね、」は社内恋愛を描くテレビアニメ「この会社に好きな人がいます」のオープニング主題歌。雫(Vo, G)のキュートな歌声や、エジマハルシ(G)の速弾きギターが際立つポップなラブソングに仕上がっている。

音楽ナタリーでは、4thフルアルバム「踊る様に」以来約2年ぶりに雫にインタビュー。紆余曲折を経て、昨年夏に“第2章”に突入したポルカの現在や、創作に対するマインドの変化、「あのね、」の聴きどころについてたっぷり話を聞いた。

取材・文 / 森朋之

スタッフがいるありがたみ

──音楽ナタリーでの取材は、アルバム「踊る様に」の発売タイミング以来、2年3カ月ぶりです(参照:ポルカドットスティングレイ特集|雫(Vo, G)ソロインタビューで紐解く「踊る様に」の魅力)。

そんなに経つんですね! だいぶ前のことに感じます。

雫(Vo, G)

雫(Vo, G)

──アルバム「踊る様に」のあと、ポルカドットスティングレイにはいろいろな出来事があって。スタッフがいなくなったり、大変な時期を経て、去年の夏から“第2章”に突入したことを宣言しました(参照:ポルカドットスティングレイの第二章幕開け、新曲「JO-DEKI」サプライズリリース)。今のバンドの状況はどうですか?

忙しいは忙しいんですけど、明るい気持ちで「忙しいです!」と言えるようになりましたね。去年の初めにポルカドットスティングレイのためのチームができて、たくさんの人たちが協力してくれるようになって。「支えてくれるスタッフがいる」という状況に慣れるというか、アジャストする期間があり、今はすごく脂が乗ってます(笑)。1月8日に結成10周年を迎えて、新しいアーティスト写真やティザー映像を出したんですよ。夜は生配信があったので、映像のアップはマネージャーにお願いして。生配信の台本をレーベルのプロモーターが作ってくれたり、「手伝ってくれる人がいるって、こんなにありがたいんだな」と感じてますね。

──そう言えば、雫さんのラジオ(FM NACK5「ポルカ雫の刈り上げラボ」)で、「LINEスタンプを作ってください」というリスナーさんのメールに対して「入稿が大変なんですよ」と言ってましたよね。

はい(笑)。1年中何かしらの入稿をしてるんですけど、LINEスタンプを作るとなると、デザインは私がやるとして、入稿データを作るのが本当に大変で。ただ、前は「全部私がやる」という選択肢しかなかったんだけど、今は誰かに頼んだり、外注してもらうこともできそうな状況です。選べる幅ができた分、新しいことに挑戦したいという気持ちも出てきました。今は「アニメーションを作れるようになりたい」と思っていて。これまでは自分で映像を作ることが多かったので、アニメを扱えるようになると、さらにクオリティが上げられるんじゃないかなと。

──クオリティコントロールの精度も高まりそうですね。

そうですよね。なんでもかんでも外注するわけにはいかないけど、1人でやるのも限界があって。でも「ここまでのクオリティで止めとくしかないな」みたいな状況って、クリエイターにとっては相当つらいことなんですよ。時間はかかるかもしれないけど、やれることの幅はもっと広げていきたいですね。

新卒の頃から言われてきたこと

──“第2章”以降の楽曲についても聞かせてください。まずは7月配信リリースの「JO-DEKI」。大変だった時期の思いをストレートに反映した楽曲ですが、リスナーの皆さんからの反応はどうでした?

我々は「私情を出さない」という共通認識で活動してきたし、とにかくお客さんを不安にさせないことを意識していて。「JO-DEKI」を出したときに、初めて「チームが人手不足で、思うように活動ができなかった」みたいなことをお伝えしたところ、「ずっとハッピーなムーブだったから、そんな大変なことがあったなんてわからなかった」というリアクションがけっこうあったんです。特にファンクラブに入ってくれてるような熱心なファンの方たちからは「つらいことがあったのに、私たちを楽しませるためにがんばってくれてたんですね」というコメントが多くて、報われた気持ちになりました。

──ファンの方には悟られまいと、辛抱していたんですね。

今となっては大変なことも笑いながら話せるようになったし、この前、ユウくん(ウエムラユウキ / B)とも「人として成長できたかもしれないね」って話をしました。言い方が合ってるかわからないけど、管理職としての成長というのかな。私はメンバーを守らなきゃいけない立場だし、チームの人たちに対しても「ついて来い」と言わなきゃいけない立場だと思ってるんですよ。引っ張っていくリーダーとしての心構えが強くなったし、責任感もより実感するようになった。だからこそ、より説得力を持って「ついて来い」と言えるようになったのかなと。あと、少しずつ人に任せることもできるようになってきました。自分で全部を抱え込むのではなくて、チームとして適切な判断ができるようになった気がしますね。

──クリエイティブの能力が高いと、人に頼るのが下手になりそうな……。

それ、新卒の頃から言われてました(笑)。前職がゲームクリエイターだったんですけど、その頃も「すべて自分でやろうとしないで、ほかの人に振ってね」とか「頼み方って知ってる?」と周りに言われてて。今になってまた同じような問題に直面しているというか、気付いたら「あ、また自分で資料を作ってる」みたいなことがあります(笑)。そういうときは「ミツヤス(カズマ / Dr)、やってくれない?」と振ったりしてます。メンバーもこの2年間を経て、より自覚を持ってくれるようになって。私のことを支えてくれるようになったし、結束も強くなったと思います。

ポルカドットスティングレイ

ポルカドットスティングレイ

自分たちについて歌詞にしたことはほとんどない

──8月リリースの「アウト」、12月リリースの「キメラ」も素晴らしくて。まず「アウト」は王道のロックサウンドですが、ポルカにとっては新機軸なのでは?

確かに「アウト」みたいな曲は初めてですね。もともと我々はファンク寄りなところもあったし、ストレートなロックに対する謎の抵抗感があったんですよ。ただ、「JO-DEKI」が“ザ・ポルカ”な曲だったので、その次に出すのは新しさや勢いが感じられるものにしたくて。実は同時進行で作ってたんですけどね、「JO-DEKI」と「アウト」は。

──なるほど。「アウト」のMVはメンバーの演奏シーンだけで構成されています。この演出も新鮮でした。

それも「JO-DEKI」とのバランスですね。「JO-DEKI」のMVが要素山盛り、情報量多めだったので、「アウト」はシンプルに演奏だけでも映えるんじゃないかなと。「アウト」のMVは私がほぼ全部エディットをやってます。

──「キメラ」は打ち込みと生音のバランスがまさに“キメラ”という感じで。

そこはかなり意識しましたね。1番のAメロは生のベースと打ち込みのベースを重ねて1つの音にしていて。ミックスチェックはかなり大変でしたけど、こだわりのサウンドになってます。歌詞に関しては──先日のツアー(「ポルカドットスティングレイ 2024 #一巻の終わりツアー」)のMCでも話したんですけど、「JO-DEKI」と「アウト」は自分語りというか、自分たちのために作ったところもあり、一方で「キメラ」はリスナーのモヤモヤした感情、しょんぼりした気持ちに寄り添えるようなものにしたくて。

──“大人と子供の間で揺れる”という状況を描いた歌ですよね。

イメージとしては高校2年生くらいですね。精神的には未熟なんだけど、頭はいっちょ前に回るようになって、口も立ち始めて。そういう時期をキレイに終わらせないで、モヤモヤをそのまま描いてみたかったんです。「キメラ」をリリースしたあと、「歌詞に共感した」「刺さった」という感想をたくさん見たし、すごくうれしかったですね。

──雫さん自身の経験を反映しているわけではない?

それはしてないです。私は普段から、共感を得そうな言葉、歌詞に入れてみたい言葉を集めた資料を作っていて。そこからダウナーな“陰キャあるある”みたいなものを取り出して、1人の人間に見えるように整えたという感じです。「JO-DEKI」「アウト」みたいに自分たちについて歌詞にしたことはほとんどなくて、「キメラ」はいつもの作り方ですね。

“普通の私”も連れてステージへ

──ライブについてはどうですか? ポルカが“第2章”に入ってから、「ポルカドットスティングレイ 2024 #教祖爆誕」と「ポルカドットスティングレイ 2024 #一巻の終わりツアー」が行われましたが、以前のライブとは違う手応えもあったのでは?

ちょっと楽しくなってきました。以前は「ライブで自分たちの内側を見せるのはよくない」と思っていたんですよ。「美しく整った、みんなが見たいポルカドットスティングレイだけを見せ続けないといけない」という気持ちが強くて。そのために考えなくちゃいけないことも多かったし、ライブ自体を、わりとつらく感じていたんです。最近はそのあたりの意識がちょっと緩くなったというか。クリエイティブを見せるためだけではなく、半分は人間としてステージに立ってます。

雫(Vo, G)

雫(Vo, G)

──半分は人間として(笑)。

クリエイティブを作っている自分、パフォーマンスをする自分のほかに、“普通の私”もステージに連れて行けるようになって。前はお客さんと目が合ったり、人として認識すると緊張してたんだけど、今は「あ、私のこと見てる。イェー!」みたいな感じです(笑)。「教祖爆誕」を観に来てくれたお客さんも、「メンバーが楽しそうだった」とポストしてくれていて。

──メンバーの変化がオーディエンスに伝わってるんですね。

本当によく見てくれてるなと思うし、演出を作って、ステージに立ってる人間として冥利に尽きます。衣装とか映像、照明のことも細かく見てくれていて……。うちのエジマハルシ(G)なんて、全然覚えてないですからね。10周年を振り返る配信のときも、過去のMVの衣装のことなんてほとんど忘れていて。私のラジオのタイトルも覚えてなくて、びっくりしました(笑)。