今年7月にポニーキャニオンへの移籍を発表した花澤香菜。9月には新天地での第1弾シングル「Moonlight Magic」をリリースした。
そんな彼女の最新曲「SHINOBI-NAI」は、作詞作曲にポルカドットスティングレイの雫(Vo)、演奏にポルカメンバーを迎えた1曲。花澤の伸びやかなボーカル、雫のソングライティングのセンスが光る本作は、鋭いサウンドとダンサブルなビートが印象的な仕上がりとなっている。
音楽ナタリーでは、花澤と雫にインタビュー。「SHINOBI-NAI」の制作秘話はもちろん、出会いからお互いの魅力について語ってもらった。
取材・文 / 臼杵成晃撮影 / 曽我美芽
香菜さんのことを神様だと思ってた
──雫さんのラジオ番組(J-WAVE「SPARK」)に花澤さんがゲスト出演した回を聴いたのですが、お二人、すっかり仲良しですよね。楽曲提供者との対談はだいたい当日まで両者の距離感が読めないんですけど、ラジオでの様子から察するに……。
雫(ポルカドットスティングレイ) もうできあがっちゃってる。
花澤香菜 うふふふ。もう最初の顔合わせの段階から、雫さんが面白すぎて(笑)。
雫 面白さだけは自信ありますから。
──今回の楽曲提供はどういう経緯から?
花澤 アルバムを前提にした制作を進めていて、プロデューサーの北川(勝利 / ROUND TABLE)さんたちと「誰に曲を書いてもらおうか」と話している中で、ポルカの名前が挙がったんです。お受けしてもらえるかはわからないけど……。
雫 そんなの、するでしょ。
花澤 (笑)。快く引き受けてくださって。先行してリリースすることは決まっていなくて、あくまでアルバムの中の1曲としてお願いしたんです。私の音楽を聴いている人にはポルカの音楽も聴き馴染みがあるだろうけど、私がポルカの世界観を歌ったらどうなるんだろう?というのがあまり想像できない感じもすごくいいんじゃないかなって。
雫 話をいただいたときはさすがにびっくりしましたよ。私、香菜さんのことを神様だと思ってたから。実在を疑っていたので「わっ、本物だ」「えっ、3Dじゃん!」みたいな。メンバーみんな香菜さんの曲が好きだし、今年リリースしたEP「赤裸々」に入っている「トーキョーモーヴ」は香菜さんを意識して書いた曲なんですよ。楽曲提供の妄想をすでに膨らませていた段階でオファーをいただいたので、もうびっくり。
──確かに「トーキョーモーヴ」はちょっと「恋愛サーキュレーション」(花澤が演じるテレビアニメ「化物語」のキャラクター・千石撫子のキャラクターソング)っぽさがありますよね。
雫 そうそう、まさに。「こういう語りをやってほしいんだよなー」とか、曲調はかわいいんだけどメンヘラみのある歌詞とか……直接的に「殺す」という言葉は使わずに6回ぐらい人を殺してそうな感じというか。
花澤 あはははは。
雫 コンプラとの戦いみたいな歌詞を書いて。「……これ、花澤香菜さんの声で歌ってほしい……」という思いで作った曲なんですよ。
花澤 普段の雫さんとは違うかわいらしい声で歌ってますよね。
雫 かなり無理してレコーディングしたからライブでは歌えない(笑)。そんなことがあったから、楽曲制作のお話をいただいたときはメンバーで顔を見合わせて「マジ!? ……ドッキリ?」みたいな。
──渡りに船のオファーですね。
雫 ええ。大喜びで、みんな士気の上がり方がすごかったですね。
「SHINOBI-NAI」制作秘話
花澤 私は、もともと夫がポルカを好きでよく聴いていたんです。「すごくいいバンドがいるんだよ」と教えてもらって。それに、私が声優で参加した「あはれ!名作くん」というアニメの主題歌がポルカの「さよならイエロー」(2020年12月発売のアルバム「何者」に収録)だったんですよ。それでミュージックビデオを観たら「なんて面白いことをやっているんだろう、この人たちは」と(笑)。
雫 やっぱ面白さには自信あるんで。
花澤 それでハマってしまったんです。曲が全部キャッチーで、難しいことをやっているのにすぐ覚えられて、気付いたら鼻歌で歌ってる。
──「SHINOBI-NAI」も相当ポップな曲ですけど、細かいところは難解な作りになっていますよね。
雫 演奏はけっこう難しいです。無駄に難しくしたがるんですよ。
花澤 そう、今ライブに向けてリハをやっているんですけど、バンドメンバーみんな「『SHINOBI-NAI』ムズいな……」って言ってます(笑)。
雫 それを言わせてやりたかった(笑)。プロのベテランの方々に。
花澤 まんまと言わされてますね。
──花澤さんからはどんな曲にしてほしいとオーダーしたんですか?
花澤 これはアルバム全体のことなんですけど、短めな作品にしたくて。なので「イントロを短めに」ということと、あとは「サビは繰り返しでキャッチーに」とお願いしました。付け加えて「ちょっと強い言葉でもいいから、戦える曲にしたい」って。コロナで鬱屈とした気持ちが……1人でずっと戦っている気持ちになっていたので、そういうときに寄り添ってくれる曲に、雫さんならしてくれるんじゃないかと思ったんです。ちょっと抽象的な言葉でお願いしちゃったんですけど……。
雫 全然! 十分な情報量がいただけたので、すぐにイメージが浮かびました。昨日、懐かしくなって打ち合わせのメモを読み返したんですけど、すごくいっぱい書いてあった。こちらからも質問をいっぱいしたんです。「一人称は何がいいですか」とか「英語の割合は」とか。ポルカの曲もお聴かせしつつ「こういうビートはどうですか?」って。打ち合わせの段階でメロが浮かぶくらい、すごくありがたい打ち合わせでした。……たまにあるんですよ、打ち合わせをしたのにほとんど収穫がゼロみたいな状況で終わること(笑)。「結局なんだったのー?」みたいな。逆にいい打ち合わせだと、話している段階で曲のアイデアが思いつくんです。だからもうその時点で「勝った」と。メンバーみんなで「花澤香菜さんのリード曲を作るぞ」と気合いを入れて挑みました。
花澤香菜は100億くらいの楽器
──ポルカがほかのアーティストに楽曲提供するのはこれが3曲目で、雫さんの作詞作曲は私立恵比寿中学の「SHAKE! SHAKE!」に続いて2曲目ですね。ポルカの曲を作るのと楽曲提供では同じ曲作りでもマインドが違う?
雫 けっこう違いますね。例えば、香菜さんはすごくビブラートが美しいから、ビブラートの響きがいいメロディの伸ばし方にしようとか……私は逆にビブラートが苦手で、ボーカルに伸びやかさがないから、自分ではそういうメロディにはしない。声質や特徴に応じて書ける曲も変わってくるし、そこは意識しますね。だから私「SHINOBI-NAI」全然歌えないですよ(笑)。ファルセットも、私は消え入りそうな声しか出なくて。
──なるほど。音楽を作るうえでボーカリストの声は、よく「ビンテージ楽器のような替えの効かない音」と例えられることがありますが、雫さんは花澤香菜という楽器をどう評しますか?
雫 100億くらいの楽器(笑)。自分ではできないことを無限にやってもらえるし、声質が特別だからどんな音が入っていても一番に抜けて聞こえてくる声なんですよね。ハモがあろうと、どれだけオケに音圧があろうと「主役は私」と声が主張してくる。私が歌うと音に負けちゃうんです。
花澤 そんなそんな。そう言ってますけどね、雫さんの「SHINOBI-NAI」の仮歌をみんなに聴いてほしいです。北川さんも「こんなの届いちゃったけど……ボーカルどうする?」と困ってたんですよ。私のいつもの感じで歌うより、雫さんのカッコよさを生かした声にしないといけないよねって。プリプロでいろんな歌い方を試しましたけど、雫さんのリズムの取り方、上からくるしゃくりとか、細かく意識しながら作り込んでいきました。すごく大変でしたけど、それは雫さんの歌うデモがあったからこそなんですよ。
雫 レコーディングされたボーカルのデータを聴かせてもらったら、私とまったく同じしゃくりをしているところが何カ所かあって。再現力エグいなと思いましたね(笑)。
花澤 だって、めっちゃ聴いたんだもん(笑)。雫さんのボーカルディレクションも楽しくて。すっごい褒めてくれるんですよ、「いいっすねそれー!」って。
雫 大きい声を出してがんばってもらってるんで、こっちも大きい声出さないと。北川さんも大声で言ってたね。「うまーい!」って(笑)。
花澤 北川さんとのコンビネーションも面白かったですね。歌っていて「沸いてくれてる!」とわかってやりやすかったです。
雫 2人ともアゲでしたね。いいテイク録れちゃうから楽しくて楽しくて。メンバーのディレクションしてるときは「……もう1回もう1回。何やってんだよ……お前もう1回だよ……何おにぎり食ってんだよ」みたいなテンションだから。
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「しのびない」だってよ