ポルカドットスティングレイが2月6日に、2ndフルアルバム「有頂天」をリリースした。
1stフルアルバム「全知全能」から約1年2カ月ぶりのニューアルバム「有頂天」は、映画「スマホを落としただけなのに」主題歌「ヒミツ」をはじめ、聴いた人の気分を“有頂天”にさせる幅広いジャンルのポップミュージックが詰まった1枚に。音楽ナタリーの特集ではポルカ流のシティポップやジャズ、エレクトロポップ、ヒップホップなどを存分に楽しむことができる本作の魅力を、ライター・天野史彬による全曲レビューで紹介する。
文 / 天野史彬
- ICHIDAIJI
- 「イチ、ニ、サン、シ!」という雫の掛け声に導かれて始まるこの曲は、玉城ティナと小関裕太がダブル主演を務めた映画「わたしに××しなさい!」の主題歌として書き下ろされた。シャープなリフを基調としながら、中盤のうなるようなギターソロ、終盤に出てくる軽快なハンドクラップやコーラスといった楽曲を彩るエッセンスが、安易にカテゴライズされることを嫌うこのバンドの、音楽に対する自由かつスケールの大きな感性を体現しているようなオープニングナンバーだ。
- DENKOUSEKKA
- 初っ端から繰り出されるギターカッティングにしびれるだけでなく、曲が一気に拡張していくようなサビの展開にもカタルシスを感じさせられる1曲。「あんたさ、ジロジロ見過ぎじゃない? 気付いてるんだからね」という強気な歌詞もたまらない。力強く不遜な視線がバンドのチャームとして音楽に見事に落とし込まれている。
- ドラマ
- 大らかに伸びていくメロディが心地よいポップチューン。淡い恋心が歌われた歌詞はセンチメンタルな心情を露わにする。しかし、「会いたいと思う気持ちで 私の今日が今も輝いている」というラインが象徴するように、その恋が報われるかどうかではなく、片思いであろうが「思う」こと自体の尊さを高らかに歌うような言葉が、ポルカらしい。繊細さや淡さの中にもまた、強さを見出している。
- パンドラボックス
- 獰猛なビートと荒れ狂うギターが絡むトラックに乗せて、歌詞では「攻撃こそ防御 触れてみろよ」「お前ごとき風情で 何言っても聞こえない」など、その唯我独尊っぷりをいかんなく発揮した言葉の数々が、まさに「パンドラの箱」を開けた瞬間の如くぶちまけられている。バンドの状況が上り調子であればあるほど、逆風を感じることもあるだろうが、そのすべてを跳ね除けるような挑戦的な眼差しを感じさせる。
- ばけものだらけの街
- 雫がラップを披露している新機軸のナンバー。ポルカが芯の通った「ロックバンド」であるだけでなく、刺激的な「ポップアクト」であることを示す、バンドの表現力の幅広さを知らしめる1曲だ。歌詞には「目が合ってるようで合ってないの こっち見んなよ」というラインがあるが、この曲だけでなく、雫の書く歌詞は「視線」にフォーカスを当てたフレーズが多いように感じる。
- リスミー
- キーボードにGRAPEVINEのサポートなどで知られる高野勲を迎えたメロウな1曲。繊細な楽器同士の対話が隙間を生かしたアンサンブルを生み出し、雫の歌声はいつになく艶やか。曲ごとに表情を変えるポルカの表現力の豊かさを強く実感させられる曲だ。歌詞は、過去を思い返しながら人生の儚さに思いを馳せる女性の独白のようで、その繊細な筆致には孤独な色気がある。
- 大脱走
- キーボードにながしまみのり、バイオリンに吉田翔平、さらに口笛奏者の分山貴美子も参加したゴージャスな1曲(ながしまは、ほかのいくつかの楽曲でもキーボード&アレンジで本作に参加している)。激しく躍動するアンサンブルと、歌謡性の高いメロディ、そこに傷口を傷口のまま描いたような歌詞が見事にマッチしている。前曲「リスミー」もそうだが、到底消えることのないやるせなさの中で溜息と共につづられるような言葉が、とてもリアルで美しい。
- ラブコール
- 「私のことを書こうと思うので 言いたいことって何か考える」──そんなフレーズから始まる、恐らく、聴き手に大きな驚きを与えるであろう1曲。「何故、音楽をやるのか?」という問いに向き合う本質的な歌詞を歌う雫の歌声は、いつになくレア(生)な状態で曲に刻まれている。ポルカはいい意味で演技のうまいバンドだと思うが、だからと言って、素顔を晒すことも厭わない。本作で最も衝動的でパワフルなバンドサウンドが、雫の告白を力強く後押ししている。
- 7
- 前曲「ラブコール」の生々しいバンドサウンドから一転、この曲はエレクトロニックなアレンジが光るベッドルームポップ。ボーカルにもオートチューンがかかっている。「ばけものだらけの街」同様、ポルカのポップアクトとしての音楽的なレンジの広さを見せつける1曲だ。歌詞は幻想的で夢見心地な筆致だが、よくよく読めば、それは現実の残酷さや生きづらさの裏返しのようでもある。でも最後のラインには希望がある。
- ラディアン
- アニメ「ラディアン」のエンディングテーマとして書き下ろされた楽曲。サビの「ハロー、ハロー、ハロー」というリフレインや、シンプルな言葉でまとめ上げられた歌詞、清涼感あふれるメロディラインなど、本作の中でも最もダイレクトに、わかりやすく聴き手の胸に飛び込んでいくような1曲になっている。この老若男女、聴き手を選ばない柔軟性、真っ向からお茶の間に飛び込んでいく姿勢も、ポルカの魅力だろう。
- ヒミツ
- 映画「スマホを落としただけなのに」の主題歌として書き下ろされた楽曲。テレビやラジオから聴こえてきたら耳にこびりついて離れなくなるような、ポップスとしての圧倒的な強度を持っているナンバーで、これまでポルカが培ってきたさまざまな要素の「ど真ん中」を突くようなバランスのよさとスケール感を持っている。今のポルカのキャパシティの大きさを示すような1曲だ。
- 話半分
- ピュアなラブソングのようでいて、「ラブソングが描いている綺麗事は苦手」と歌っているのがポルカらしい。雫が描く人物像は、定義付けることのできない曖昧な気持ちの中で揺れ動いていることが多い。そこには不安定な日々や自分自身に翻弄されている人の存在を捉えながら、曖昧であろうと感情が存在すること自体を肯定するような優しい視線がある。雫が冷静に、かつ愛情を持って人間を見ていることが、この曲を聴くとよくわかる。
- 有頂天
- アルバム本編のラストを飾る1曲。華やかに曲を彩るホーンセクションには、NARI(SKAFULL KING、The Brass Brothers)、シーサー(DOBERMAN、The Brass Brothers)、YOSHIOが参加。ミュージックビデオでは東京03の3人も踊るダンサブルなサウンドに乗せて、後悔も、疲れも、不安も、すべてを前提としたうえで、ポルカはあなたを“有頂天”へと引き連れていく。ここには現実を直視したうえで見つけ出されたポルカ流の幸福への哲学が刻まれているようだ。
- ミドリ(高校3年生 ver.)
- ボーナストラックには、インディーズ時代の楽曲「ミドリ」を、アコースティックバージョンで収録。妬みや苛立ちを抱えた1人の少女の脳内がそのまま開陳されたような、どろっとした生々しさのある楽曲だが、この「高校3年生 ver.」における雫の歌唱は歌の中の少女の行き場のない思いを包み込み、そっと抱きしめるような優しさに満ちている。バンドが、雫が、少しばかり大人になったことを示すようなクロージングトラック。
総じて、この「有頂天」というアルバムはポルカドットスティングレイが新たなステージに到達したことを示すアルバムに仕上がっている。これまで以上にロックバンドとしてのエグみを増しながらも、同時に、より音楽性を自由に羽ばたかせることでより大きなスケールでのポップソングとしての求心力も高め、さらに仮面と素顔を行き来するような歌詞表現も、バンドの多面的な魅力に拍車をかけている。優れたバランス感覚と共に、早くも貫禄を見せ始めた1枚と言えるだろう。
ツアー情報
- 「ポルカドットスティングレイ 2019 有頂天 TOUR」
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- ポルフェス36 “#有頂天 ワンマン” 2019年4月19日(金) 大阪府 なんばHatch
- ポルフェス37 “#有頂天 ワンマン” 2019年4月26日(金) 北海道 Zepp Sapporo
- ポルフェス38 “#有頂天 ワンマン” 2019年5月10日(金) 広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
- ポルフェス39 “#有頂天 ワンマン” 2019年5月12日(日) 香川県 高松festhalle
- ポルフェス40 “#有頂天 ワンマン” 2019年5月17日(金) 石川県 金沢EIGHT HALL
- ポルフェス41 “#有頂天 ワンマン” 2019年5月19日(日) 宮城県 SENDAI GIGS
- ポルフェス42 “#有頂天 ワンマン” 2019年5月24日(金) 静岡県 SOUND SHOWER ark
- ポルフェス43 “#有頂天 ワンマン” 2019年5月31日(金) 福岡県 Zepp Fukuoka
- ポルフェス44 “#有頂天 ワンマン” 2019年6月8日(土) 愛知県 Zepp Nagoya
- ポルフェス45 “#有頂天 ワンマン” 日本武道館 2019年7月17日(水) 東京都 日本武道館