ナタリー PowerPush - TVアニメ「ピンポン」
湯浅政明監督×牛尾憲輔 “劇伴作家 牛尾憲輔”の誕生
牛尾憲輔=神田のSF専門の古本屋
──ただミニ牛尾は、大きな牛尾さんが普段作っているものとはまた違うムードの曲をチョイスしてますよね。ペコとスマイルが江ノ電で移動する場面には確かに非ダンスミュージック的な電子音楽を当ててるんだけど、孔文革とペコが初めて激突するシーンの曲はハードでダンサブルなテクノだし、片瀬高校の卓球部のテーマはちょっとオールドスクールなヒップホップだし。
牛尾 いつもとムードがちょっと違うって言っていただけるのはうれしいんですけど、やっぱり自分の作るものは偏っていると思っていて。いわゆる劇伴作家の先生っていうのはなんでも蔵書のある大図書館のような存在。どんな曲でも作れる人なんだと思うんですけど、僕はどっちかっていうと神田のSF専門の古本屋みたいな品揃えしかないタイプなので(笑)。その店の蔵書を使って、でもニセモノにはならないように曲を作っただけなんです。ソロ名義ではダンスミュージックではない電子音楽をやっている一方で、ダンスミュージックのアーティストと一緒に仕事をすることも多いから孔の試合のシーンみたいな曲も作れるんだろうし、電子音楽的手法がわかってるからブレイクビーツものというか、初期ヒップホップっぽいトラックも作れるんだと思いますし。どの曲についても基礎工事の部分でやってることは意外と同じなんです。
──その「ダンストラックやヒップホップトラックを」っていうオーダーは監督からあったんですか?
湯浅 いや、こちらからお伝えしたのはキャラをイメージした曲の雰囲気だけですね。「チャイナはテクノ、アクマはヘビメタ、スマイルはノイズっぽく、ドラゴンは民謡調? 笑えるくらい堂々と力強い感じで」くらいで。
牛尾 確かに具体的な指定はなかったですね。あっ、試合の曲だけは四つ打ちのテクノでっていうお話があったかな。ただその曲についても僕が拡大解釈して作っちゃってますし。
──「拡大解釈」?
牛尾 卓球ってパッと見、どっちが優勢なのかわかりにくいスポーツなので、それを音楽で表現してほしいって言われて。どうしようかな?って考えてたんですけど、結局、実際の卓球のラリーを観てそのテンポからBPMを割り出して、そのBPMですごく暗いダークミニマルからすごく明るいトランシーな曲まで、とにかくいろんなテクノをダーッと作ってみたんです。で、その曲の音源を全部パラデータで納品、要はドラムだけ、ベースだけ、上モノだけっていうふうに楽器ごと、トラックごとにバラバラにお渡しして。こうすると音響監督さんが全部の音源を使って自由に曲をマッシュアップできるんですよね。どの曲もBPMが同じなので、ダークミニマルのドラムパターンに明るいトランスのベースラインを乗っけるっていう感じで使いたいパーツを自由に組み合わせられる。試合の局面や展開に応じて、いろんな音色やフレーズを使ってもらえるようにしてみたんです。
「アニメファンだからなんでしょうね、やっぱり」
──アニメ音楽のメイン作家を担当するのは今回が初めてなのに、なぜそういう目配せができたんでしょう?
牛尾 さっきから同じことしか言ってない気もするんですけど、アニメファンだからなんでしょうね、やっぱり(笑)。これはパラデータを納品してから思い出したことなんですけど「AKIRA」の劇伴を作るとき芸能山城組も似たようなことをやってたらしいんですよ。金田のテーマと鉄雄のテーマを部品ごとに作ることで、2人が同時に登場するシーンでは2曲をくっつけられるようにしていたみたいです。そういう話を昔アニメ関連の本だったかドキュメンタリーだったかで見たことがあったことを思い出して。きっと潜在的にそのことが刷り込まれてたんでしょうね。あとはこれまでにもCMの音楽をやらせてもらったり、身近に教えていただける先輩もいるから、ある程度テクニカルなことは知っていたっていうのも大きかったんだと思います。これはネタばらしみたいな話なんですけど、例えばアウトロを転調させずに余韻を残すようにしておくことで、映像の尺に合わせて曲の長さを自由に変えられるようにする、みたいなこともしてますし。
──なんで原キーのまま曲を終えると、尺を自由に変えられるようになるんですか?
牛尾 そのアウトロを本来あるべき場所、曲のエンディングだけじゃなくて、別の小節にもくっつけられるようになりますから。本来1分半の曲であっても、最初から最後までキーが変わらなければ、曲が始まって30秒後のパートにアウトロを移動させることもできる。あるいはもっとテクニカルな話をするなら、放送局側には「デジタルテレビ放送番組におけるラウドネス運用規程」っていう決まりがあって番組の音声をそれに沿った音量に設定することになっているので、この曲はこの音量・音圧で作ろうみたいなことも考えてますし。これはオーディオマニア向けの仕掛けではあるんですけど、適切なスピーカーで聴くと実はスピーカーの外から音が鳴っているように聞こえるように音響合成している曲もあるんですよ。
湯浅 こうやって「もうこの人が選曲もやっちゃえばいいのに」っていうくらい、音を編集する側のことを考えてくれてるんですよ(笑)。なんか変型ロボみたいな曲をいっぱい作ってくれて。それが面白かったですね。だから今後「ピンポン」の中で音楽はさらに生きてくるようになる。話数が進んでいくごとに牛尾さんの楽曲の全容が見えてくることになると思いますよ。
──じゃあ50数曲を全部使い切る?
湯浅 使わなきゃなあ、とは思ってます(笑)。
牛尾 ホントですか!? 僕の中ではあと2曲くらい増える予定なんですけど……。
──まだ増えますか!
牛尾 ワンクールもののアニメだから今の調子で作り続けると1話につき5~6曲の新曲を発表するペースになりますね。
湯浅 すごいなあ。毎週ミニアルバムを作ってるみたいだ(笑)。
4月10日より毎週木曜24:50~
フジテレビ「ノイタミナ」ほかにて放送中
そのほかの放送局・時間については公式サイトへ
キャスト
- ペコ/星野裕:片山福十郎
- スマイル/月本誠:内山昂輝
- ドラゴン/風間竜一:咲野俊介
- アクマ/佐久間学:木村昴
- チャイナ/孔文革(コン・ウエンガ):文曄星
- オババ:野沢雅子
- 小泉丈:屋良有作 ほか
スタッフ
- 原作:松本大洋(小学館 ビッグスピリッツコミックス刊)
- 監督:湯浅政明
- キャラクターデザイン:伊東伸高
- 音楽:牛尾憲輔
- 色彩設計:辻田邦夫
- 美術監督:Aymeric Kevin
- 撮影監督:中村俊介
- 編集:木村佳史子
- 音響監督:木村絵理子
- 制作:タツノコプロ
- オープニング・テーマ:爆弾ジョニー「唯一人」 (キューンミュージック)
- エンディング・テーマ:メレンゲ「僕らについて」(キューンミュージック)
特集・HEROES ヒーローを待ちながら
巻頭20Pで「ピンポン」特集を敢行。表紙&特別付録のオリジナルステッカーは、松本大洋描き下ろしのペコ&スマイル! 特集には松本大洋+湯浅政明監督の対談別バージョンをはじめ、アニメ版の詳細メイキング8ページ、ピンポン名言集を収録。またアニメ版音楽を担当した牛尾憲輔と、かつて実写版で主題歌を担当した元スーパーカーの中村弘二の対談など盛りだくさんの内容だ。
なおSWITCHオンラインストアで購入すると、表紙と同じ描き下ろしのポスターが付く。
agraph(あぐらふ)
牛尾憲輔のソロユニット。2003年よりテクニカル・エンジニアとして石野卓球、電気グルーヴ、RYUKYUDISKO、DISCO TWINSの音源制作やライブをサポート。2007年に石野卓球主宰レーベル・platikから発表されたコンピレーションアルバム「GATHERING TRAXX VOL.1」にkensuke ushio名義で参加し、2008年にはagraph名義として初のソロアルバム「a day, phases」を、2011年には2ndアルバム「equal」をリリースする。その一方でナカコー、フルカワミキ、田渕ひさ子とともにLAMAを、ミト(クラムボン)とアニソンDJユニット2 ANIMEny DJsを始動させたほか、CMやアニメ作品などに楽曲を提供するなど多方面で活躍。2014年4月には「ピンポン THE ANIMATION」のサウンドトラックも手がけている。
湯浅政明(ゆあさまさあき)
1965年福岡県生まれ。大学卒業後、亜細亜堂に参加。その後、フリーランスとなり「クレヨンしんちゃん」「ちびまる子ちゃん」などを手がける。2004年、映画「マインド・ゲーム」で初監督を務め、第8回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞、第59回毎日映画コンクール大藤信郎賞などを受賞。2010年に監督を務めたTVアニメ「四畳半神話大系」でも文化庁メディア芸術祭大賞アニメーション部門大賞を受賞した。