ナタリー PowerPush - TVアニメ「ピンポン」
湯浅政明監督×牛尾憲輔 “劇伴作家 牛尾憲輔”の誕生
「ホントに50曲作ってきちゃった」
──牛尾さんみたいに思い付くままガンガン曲を上げてくるタイプの劇伴作家さんって珍しいんですか?
湯浅 すごく珍しいです(笑)。映画の場合はシーンごとに新曲を書き下ろすっていう作り方をすることも多いんですけど、一般的なテレビアニメって何十話もあるので、全部のエピソードやシーンごとに新しい曲を当てるわけではないんですよ。
──1クールのテレビアニメだと、5時間以上の映像の場面場面に新曲を当てることになるわけだし、マンパワーもコストも膨大になっちゃいますしね。
湯浅 だからあらかじめこちらで「こういう曲とこういう曲とこういう曲があれば成立するな」っていうことを想定しておいてから、作曲家さんにお願いするんです。でまず最初に、一番大切なテーマソング的な曲を「こんな感じでいいっスかー?」って感じでラフに作ってもらって「あっ、いいっスね」ってなったら、その曲を仕上げてもらいつつ、ほかの曲も書いてもらって。その中から「あっ、この曲とこの曲は使えるかな」ってセレクトしていろんなシーンに当てていくんですけど、牛尾さんの場合は「こんな感じでいいっスかー?」「いいっスね」っていうやり取りよりも早く「このシーンのための曲を作りました!」「これも!」「これも!」って曲を持ってくるんですよ(笑)。
牛尾 最初の打ち合わせのときに、メニューっていう監督が想定している曲の一覧をいただいたんですけど、そこにあった曲数は35曲だったんですよ。なのに僕は現時点ですでに53曲納品しているという(笑)。
湯浅 50曲作ってきてくれる人はなかなかいないですよ。テレビアニメの場合、だいたい皆さん、メニュー通りの曲数、20~30曲作ってくださる感じなので。確かに僕は「50曲くらいいただけると」とは言いましたけど。
──監督の言う50曲はあくまで努力目標のつもりだったのに……。
湯浅 ホントに50曲作ってきちゃった(笑)。
牛尾 しかも50曲になったのはただの結果論というか。僕が勝手にいろんな曲を作った結果、50曲に膨れあがっていたという(笑)。
湯浅 でもたくさん曲をいただけたことで映像のアイデアが膨らむことが多いです。例えば「ドラゴンのテーマ」は「笑えるくらい盛り上がるヤツ」とは言いましたけど実際盛り上がるいい曲が上がってくると「これならヤっちゃえる」とイケイケになりましたね。「ドラゴンのこのシーンに使うための曲を作ったんですよ!」っていう曲を聴かせていただいたら、僕はそのシーンをそういう風にとらえてなかったけど、そういうとらえ方があるんだと発見がありました。
牛尾 3話のインターハイのための曲もそうですよね。ピンポン球が跳ねるラリー音から始まって、それがだんだんリズムを形作っていくっていう、スティーヴ・ライヒの「Clapping Music」とか「Music for 18 Musicians」みたいな曲を書いたんですけど、そうしたら「卓球ラリーの音だけのパートを何秒にして、パーカッションは何秒目から入れてください」ってオーダーをいただいて。その尺で作り直したら、ホントにそのタイミングで卓球をするシーンができあがってたのでビックリしました。
湯浅 最初は「ラリーの音から始まる曲を作りたいんですけどー」って言うから「まあいいんじゃないですかー」って作ってもらっただけですからね(笑)。でも原作自体そうなんですけど「ピンポン」のインターハイのエピソードってけっこう突然始まるんですよ。「さあいよいよインターハイだ!」みたいな盛り上げがあるわけでもなく、ある意味強引に始まっちゃうんです。で「どうやって前のエピソードと繋げようかなあ」って考えていたときにその曲のラフを聴かせていただいて。この曲をインターハイ開幕のシーンにハメるとすごくスムーズに展開できるな、ということに気付いて「じゃあこの曲、映像の尺にピッタリ合わせて」ってお願いをさせてもらったんです。
牛尾 監督とそういう“ピンポン”をしながら曲を作れたので面白かったですね。
湯浅 すごく助かりました(笑)。
目指したのは“ミニ牛尾”がとにかく納得できるもの
──お話を聞くだに劇伴作家・牛尾憲輔を起用したことは……。
湯浅 大正解でしたね。適応能力は高いし、積極的だし。
牛尾 ありがとうございます! ひとえにアニメ愛のおかげです(笑)。
──いちアニメファンとして、やっぱり劇伴制作には気合いが入りました?
牛尾 入りましたね。こっちからどんどんアイデアを出したのも気合いの表れだったんだと思いますし。ただその気合いの入り方っていうのは、さっきも言った通りエゴとか表現欲求とはちょっと違っていて。アニメオタクとして、今まで一度も現場に携わったこともないようなヤツがしゃしゃり出てくるアニメなんて観たくもないですから(笑)。だから「僕はガンガン作るので、ガンガンボツにしてください」「アイデアはどんどん出すので容赦なくぶった切ってください」っていう気持ちでいました。自分の中に飼っている、アニメを愛する“ミニ牛尾”がとにかく納得できるもの、ミニ牛尾が「これはいい作品だ」って思えるものを作りたかったので。
──あはははは(笑)。
牛尾 ただミニ牛尾の存在ってあながち冗談じゃないんですよ。今回劇伴を作らせていただいて気付いたんですけど、曲を作ってるときの自分ってホントに冷静だった。うれしさ余って好きな曲を作っていたわけではなくて、過去自分が作ってきた音楽の中でも特に「ピンポン」に似合う音を、常にミニ牛尾がチョイスしている感覚がありましたから。
4月10日より毎週木曜24:50~
フジテレビ「ノイタミナ」ほかにて放送中
そのほかの放送局・時間については公式サイトへ
キャスト
- ペコ/星野裕:片山福十郎
- スマイル/月本誠:内山昂輝
- ドラゴン/風間竜一:咲野俊介
- アクマ/佐久間学:木村昴
- チャイナ/孔文革(コン・ウエンガ):文曄星
- オババ:野沢雅子
- 小泉丈:屋良有作 ほか
スタッフ
- 原作:松本大洋(小学館 ビッグスピリッツコミックス刊)
- 監督:湯浅政明
- キャラクターデザイン:伊東伸高
- 音楽:牛尾憲輔
- 色彩設計:辻田邦夫
- 美術監督:Aymeric Kevin
- 撮影監督:中村俊介
- 編集:木村佳史子
- 音響監督:木村絵理子
- 制作:タツノコプロ
- オープニング・テーマ:爆弾ジョニー「唯一人」 (キューンミュージック)
- エンディング・テーマ:メレンゲ「僕らについて」(キューンミュージック)
特集・HEROES ヒーローを待ちながら
巻頭20Pで「ピンポン」特集を敢行。表紙&特別付録のオリジナルステッカーは、松本大洋描き下ろしのペコ&スマイル! 特集には松本大洋+湯浅政明監督の対談別バージョンをはじめ、アニメ版の詳細メイキング8ページ、ピンポン名言集を収録。またアニメ版音楽を担当した牛尾憲輔と、かつて実写版で主題歌を担当した元スーパーカーの中村弘二の対談など盛りだくさんの内容だ。
なおSWITCHオンラインストアで購入すると、表紙と同じ描き下ろしのポスターが付く。
agraph(あぐらふ)
牛尾憲輔のソロユニット。2003年よりテクニカル・エンジニアとして石野卓球、電気グルーヴ、RYUKYUDISKO、DISCO TWINSの音源制作やライブをサポート。2007年に石野卓球主宰レーベル・platikから発表されたコンピレーションアルバム「GATHERING TRAXX VOL.1」にkensuke ushio名義で参加し、2008年にはagraph名義として初のソロアルバム「a day, phases」を、2011年には2ndアルバム「equal」をリリースする。その一方でナカコー、フルカワミキ、田渕ひさ子とともにLAMAを、ミト(クラムボン)とアニソンDJユニット2 ANIMEny DJsを始動させたほか、CMやアニメ作品などに楽曲を提供するなど多方面で活躍。2014年4月には「ピンポン THE ANIMATION」のサウンドトラックも手がけている。
湯浅政明(ゆあさまさあき)
1965年福岡県生まれ。大学卒業後、亜細亜堂に参加。その後、フリーランスとなり「クレヨンしんちゃん」「ちびまる子ちゃん」などを手がける。2004年、映画「マインド・ゲーム」で初監督を務め、第8回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞、第59回毎日映画コンクール大藤信郎賞などを受賞。2010年に監督を務めたTVアニメ「四畳半神話大系」でも文化庁メディア芸術祭大賞アニメーション部門大賞を受賞した。