音楽ナタリー PowerPush - U-zhaan

これが最後かもしれないから、やりたいことを貫いた

インドの打楽器、タブラ奏者として数多くのアーティストの作品に参加しているU-zhaanが、キャリア初のソロアルバム「Tabla Rock Mountain」をリリースした。坂本龍一、Cornelius、ハナレグミなど楽曲ごとにさまざまなジャンルのゲストが参加し、あらゆるアプローチでタブラとのセッションを繰り広げるこのアルバム。かなりの豪華な内容でありながら、U-zhaanは既存のレーベルを使わずに完全自主制作でこの作品を完成させたという。

ナタリーではU-zhaanにインタビューを行い、なぜ今ソロアルバムを作ろうと思ったのか、なぜ自主制作を選んだのか、そしてゲスト陣とのレコーディングはどのように行われたのかなどについて話を聞いた。

取材 / 津田大介・橋本尚平 文 / 橋本尚平 撮影 / 佐藤類

 
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「アイドルをプロデュースしてもらう感覚」のアルバム

──U-zhaanさんはこれまでタブラ奏者として、基本的にほかの人とのコラボでずっと音楽活動をしていたわけですが、「ソロアルバムを作りたいな」っていう欲求はいつ頃からあったんですか?

僕個人では考えたこともなかったんですけど、すごく尊敬しているミュージシャンから「ソロアルバムを作ったほうがいい、絶対」って、2010年くらいから断続的に勧めを受けて。それで自分でも「確かにそうかもな」って思い始めたのが2012年の終わりくらいでした。

U-zhaan

──ソロアルバムを作ると決めたとき、いろいろな選択肢があったと思うんです。多彩なジャンルのミュージシャンとコラボしたものにしようと思った理由は?

小山田圭吾さんに「ソロアルバムを作ろうかと思ってるんですよね」って話したら、小山田さんが「自分のことをアイドルだと思って、アイドルをプロデュースしてもらう感覚でいろんな人にお任せするのがいいんじゃないの?」って言ってくれて。小山田さんもそれをやってくれるっていうので、いろいろな人に相談し始めた、っていう感じですね。

──例えばインドに行けばタブラの演奏だけが収められたCDも売ってますよね。自分が作るならそういう形ではないと思っていたんでしょうか?

まあ、自分が今まで出してきたものも、例えばタブラだけ使ったテクノとか、rei harakamiさんの音にのせて自分はただゴボウ屋のことについて朗読してるだけとか(笑)。スタートからしてASA-CHANG&巡礼だし、別にインド音楽ばかりをずっとやってたわけではなかったので。もちろん、インドの方々が何十年もかけて身に付けたものに近付きたいとは今でも思ってるけど、自分はそこを目指すよりももっとほかのことをやるべきなんじゃないかなって気持ちはありました。

──とはいえ、この並びであれば1曲くらいはコラボなしで、タブラのテクニックを前面に出したソロ演奏が入っててもいいんじゃないかと思ったんですけど。

例えばさ、和太鼓ソロのCDとか買ったことあります? いや、僕はもちろん太鼓が好きだから何枚も持ってるけど、一般的にはかなりマニアックなものだと思う。それと一緒でさ、ユザーンがタブラのソロのCD出したって言っても、それみんな聴くかな? 「すげーいいな!」って思ってくれる人も一部いるかもしれないけど、たぶんタブラをもっと広く聴いてもらうきっかけにはならないと思う。

──なるほど。もっと多くのリスナーに届く作品にしたかったと。

でもある意味、このアルバムに入ってるハナレグミやKAKATOとやってる曲ってタブラソロなんです。歌やラップの伴奏を全部1人でやってるから、タブラ以外の音1つも鳴ってないんですよね。シンガーとタブラだけ、ラッパーとタブラだけっていうのは、僕がずっとやりたかったことなんです。

ひと通りチューニングが終わる頃には最初にチューニングしたやつが狂う

──今回のアルバムのような形の“タブラソロ”作品を作りたいと思ったのはいつごろからなんでしょう?

2007年くらいに、ハナレグミと2人だけのライブを新潟でやったんです。「何やってもいいからライブしてくれ」っていうオファーが来て。何やってもいいんだったら、じゃあ今一番やってみたいことをやろうって、永積崇くんを誘ったんです。崇くんの弾き語りとタブラだけで2時間くらいのライブをやりたい、どこまでタブラだけでできるのか試してみたい、って思って。でも崇くんは最初、それぞれのソロがあって最後に2、3曲コラボするんだと思ってたらしく、うちにリハに来たとき「全曲一緒にやるんだよ」って言われて愕然としてたけど(笑)。

──お話を伺っていると、そのライブはのちのU-zhaanさんの音楽活動や、今回のソロアルバムの原点になっているように思います。

その日はカンジーラ(インドのタンバリン風の打楽器)を使ったり、ブラシを使ってタブラを叩いてみたり、和音を出してみたり、メロディの裏でリフを奏でてみたり、何ができるか考えに考えて、いろんな手段を使って2時間のライブをやりました。そしたら、そのライブをきっかけとして「これはこう発展できるな」みたいに新しいアイデアがどんどん出てくるんですよ。ハナレグミとのライブ以来、それを延々続けているって感じですね。

──2007年にハナレグミと一緒にやったライブの時点で、今回のアルバムのようなアプローチでタブラを演奏してたんですね。

まあ、2007年のライブは崇くんがギターを弾いて、僕がそれに合わせるというのが基本的なスタイルだったんですけど。一昨年ぐらいからは一緒にライブをするとき、崇くんはギターを一切弾かずにタブラの伴奏だけで歌う、という挑戦的なアレンジの曲も演奏するようになってきました。このアルバムに入っている曲も、基本的にはその流れで作られたものです。タブラによるアルペジオ伴奏、というのを一度本気でやってみたくて。まあこれは録音物なので、いくらでもタブラ並べられるから作れたっていうのはありますね。

──あくまでレコーディング芸術だから作れた楽曲であると。いろいろな曲があるなかでもハナレグミとのコラボ曲「俺の小宇宙」は、実際にライブでやるのは確かに大変そうですね。

うん。この秋は崇くんとのデュオライブが6本くらい入ってるんだけど、たぶんこの曲やらないもんね(笑)。アルバムのプロモーションとして一番いい時期なのにできない(苦笑)。タブラが15個くらい必要だから、ひと通りチューニングが終わる頃には最初にチューニングしたやつが狂ってると思うし(笑)。

「予算がない」とは誰にも言われたくなかった

──自分でアルバムを作ることを決めたとき、どういう形で世に流通させるのがいいのかは当然考えると思うんです。どこかのインディーズレーベルから出そうとか、もしくはメジャーレーベルで興味を持ってくれるところを探すとか。いろいろな選択肢があったかと思うんですが今回の作品は完全自主制作なんですよね。なぜこの形に?

U-zhaan

インディーズでもメジャーでも「ウチで出さないか?」って声かけてくれたところはあって、もちろんすごくうれしいしありがたかったんだけど……、たぶん僕はこれから先、何枚もアルバムを出すわけじゃないと思うんです。これが最後かもしれないと思ったら、「ちょっと予算がないんで」とは誰にも言われたくなかった。自分1人でやってれば借金をしてでも予算は作れるし、どうしても一緒にやりたい人がいたらお願いできる。「予算がないんで」って言って、いろんなことを諦めたりしなくて済むじゃないですか。

──つまりメジャーにしろインディーにしろ、誰かの資本の下で作品を作ると、自分の本当にやりたいことが貫きづらくなるから、あえてリスクとコストを自分で取ったわけですね。

「予算がないんで」って、もっともだと思うんですよ。だってタブラのアルバムなんて、そんなの100万枚とか売れるわけないじゃん。1枚にかけられる予算は限られてるとは思うし、できるだけコストを削りたいっていうのは、すべての会社にとって正しいことだと思う。でも自分は、もしマスタリングが気に入らなかったら予算も期限も気にせず何度でもやり直したいし、広告費とかは別にゼロでもいいから全部を制作に回したかった。

──ということは、制作に着手してから完成するまでかなり時間をかけたんですか?

1年半ぐらいかな。だから始めのほうに録音していただいた教授からは「あれ、まだ出てないの? どうなってんの?」って言われたりしました(笑)。

1stアルバム「Tabla Rock Mountain」 / 2014年10月8日発売 / Golden Harvest Recording
「Tabla Rock Mountain」ジャケット
初回限定盤 [CD] / 3240円 / GDHV-002
通常盤 [CD] / 2700円 / GDHV-003
収録曲
  1. Getting Ready / U-zhaan
  2. Chicken Masala Bomb / U-zhaan×HIFANA
  3. Tabla'n'Rap / U-zhaan×KAKATO(環ROY×鎮座DOPENESS)
  4. Welcome Rain / U-zhaan×Ametsub
  5. 俺の小宇宙 / U-zhaan×ハナレグミ
  6. Flying Nimbus / U-zhaan×DE DE MOUSE
  7. Technopolis / U-zhaan×坂本龍一
  8. Homesick in Calcutta / U-zhaan×Cornelius
  9. Raga Mishra Kafi / U-zhaan×Babui×agraph
U-zhaan(ユザーン)
U-zhaan

1977年、埼玉県川越市生まれ。18歳の頃にインドの打楽器・タブラと出会い、修行のため毎年インドに長期滞在するようになる。1999年にはシタール奏者のヨシダダイキチを中心としたユニット・サイコババに参加し、2000年からはASA-CHANG&巡礼に加入。2005年にはsalmonとともに「タブラの音だけを使用してクラブミュージックを作る」というコンセプトのユニット、salmon cooks U-zhaanを結成する。この頃から世界的なタブラ奏者であるザキール・フセインにも師事。2010年にASA-CHANG&巡礼を脱退したのち、rei harakamiとのコラボ曲「川越ランデヴー」を自身のサイトで配信リリースした。またインド滞在時のTwitterの投稿をまとめた書籍「ムンバイなう。インドで僕はつぶやいた」「ムンバイなう。2」も話題に。現在は日本を代表するタブラ奏者として、ジャンルを超えた幅広いアーティストと共演している。2014年9月にはソロ名義での初のアルバム「Tabla Rock Mountain」をリリースした。