三月のパンタシア特集|みあ×はるまきごはん対談+みあ単独インタビューの2本立てで紐解く“新章” (4/4)

花言葉は“誠実な愛”

──サウンド的に「ピアスを飲む」のようにドロっとした方向ではなく、さわやかな方向にいったのは、みあさんのオーダーですか? それとも栗山さんが?

「レモンの花」の曲調に関しては、「ピアスを飲む」とは真逆の方向性にしたいということで両者の意見が一致していて。「ピアスを飲む」がダークな雰囲気だったので、対極のイメージで「レモンの花」はこういう曲調になりました。

──さわやかなほうがより狂気を感じるんじゃないかという思惑はあったんですか?

そういう思惑でお願いしたわけではないんですが、デモを聴いたときに、狂気は強く感じました。このさわやかさがいいなって。サビはメロディの高低差がけっこうあって、ずっと高いところで歌ってから最後に下がるんですけど、そこに主人公の男の子の二面性を感じました。下がるところでの「馬鹿みたいに支えるんだ」という言葉が、我ながら歌詞とメロディがハマったなと思っています。あとはDメロですね。この主人公のヤバさを一番出せるのはDメロだなと思って。エモーショナルなメロディラインになってるので、ここに本心をぶつけるしかないなと。

──「君の体の一番深い深いところ目がけて 僕の心ねじこむよ」というフレーズですね。

「気付いてほしい」とかじゃなくて「ねじこんでやりたい」みたいな(笑)。「これを直接感じ取ってほしいんだよ!」という気持ち悪さは、メロディとも合わさって出てきた部分かなと思います。

──そもそも「レモンの花」というワードはどういうところから出てきたんでしょうか? 小説では主人公の男の子がレモンの香水を付けていますが。

主人公の男の子は「好き」という気持ちを伝えられないけど、いつも香りをまとっていて、その香りに自分の思いを含ませているというストーリー展開にしたいなとぼんやり考えていて。「何の香りなんだろう?」と香りや花言葉を調べていく中で、レモンの花の花言葉が“誠実な愛”だったので、これは主人公が付けてそうだなと。あと、レモンって花が咲くイメージがあまりなかったので、それも面白いなと思って、今回モチーフにしてみました。

「レモンの花」ミュージックビデオより。

「レモンの花」ミュージックビデオより。

──みあさん的にこの主人公みたいな男の子はどうなんですか?

私はこの子が近くにいても、そのヤバさに気付かないかもしれないです。それくらい一途に思ってくれる人と一緒になったら幸せになれるのかなとも思うんですけど、ここまで思いの強い人だと両思いになったときに束縛してきそう。今は「絶対に手に入らない」と思っているからなんでも許容してくれるけど、付き合って自分のものになった瞬間に豹変する可能性もあるなって、そういう怖さがある。こういう男の子には気を付けないといけないなと思います(笑)。

人生のテーマかもしれない

──昨年12月に配信リリースされた「マイワンダー」は、ペイントアプリ・CLIP STUDIO PAINTとのコラボレーション企画「創作応援プロジェクト」の楽曲です。創作活動への憧れや葛藤が描かれていますが、この曲にはみあさん自身の思いや経験も反映されているんですか?

「マイワンダー」に関しては等身大な言葉が出てきました。創作活動を7年くらい続けてきて、いまだに悔しいことややるせないこともいっぱいあるんです。自分の中に「こうありたい」という理想像は明確にあるけど、どうやったらそこにたどり着けるのかわからなくて。創作というのは、作ったものに対して評価がくだるし、自分の現在地がわかってしまう。創作に真剣に取り組んだ分だけ、それで恥ずかしい思いをしちゃうから、創作に対して臆病になったり、どうでもいいふりしてへらへらしているほうが楽なんじゃないかなと思ったりすることもあるんです。でも、やっぱりやってみないことには何も始まらない。そういう思いを「変わらないと変われない」という歌詞に込めました。「自分の本心はどこにあるのか?」ということを歌った楽曲です。

──作編曲はいよわさん、歌詞はみあさんといよわさんの共作になっていますが、今のお話を聞いていると、歌詞のベースはみあさんのほうで書いたんですか?

そうですね。ベースは私のほうで書かせてもらいました。この曲に関しても「こっちのほうメロディとのハマりがいいから」という観点で、いよわさんに編集してもらった部分が多いです。サビも最初は「へらへら嗤って 嗤って」にしていたんですけど、「嗤ってへらへら へらへら」のほうがハマりがいいんじゃないかってアドバイスをいただいて。

──サビの歌詞の語感、すごく気持ちいいですよね。「爆発させんださせんだ」とか。

ここは最初「爆発させろさせろ」と書いていたんですよ。でも「させんだ」にして言葉をちょっと崩すことで人間らしさが出るし、意思の強さも感じるので、少し変えるだけでこんなに聞こえ方が違ってくるんだなと。歌詞を共作すると、いろんな角度から学ぶ部分があって面白いです。

──葛藤や挫折を超えて、ラストのサビは「変わらないと変われないと 分かっているから 踏み出すんだ」という言葉で締めくくられています。ここは自分に向けて、という気持ちもありますか?

そうですね。最後は希望のある歌にしたいなと思ったので。この曲で歌っていることは、音楽活動を始める前から常に考えている気がします。「こういう理想があって変わりたいけど、どうしたらいいんだろう?」って。私にとって、人生のテーマかもしれないです。

儚さをはらんだ歌声が合いそうだなと思った

──EPの最後にはSouさんをゲストボーカルに招いた、三パシ初のデュエットソング「まぼろし feat. Sou」が収録されています。

「いつかデュエットソングを作れたら面白いよね」という話自体はチームの間で前からあったんですけど、EPにもう1曲収録することになったときに、ここでやってみたいなと思ったんです。ゲストボーカルは最初から男性がいいなと思っていました。三月のパンタシアはずっと男女の恋愛を歌ってきたんですけど、そこに男の子の声を加えることで、三パシの新しい夏のラブソングを作れるんじゃないかなと。

──この曲は、みあさんとSouさんが交互に掛け合う構成が印象的でした。

掛け合いのイメージは、最初から頭にありました。でも、三月のパンタシアの曲で男女がいちゃいちゃするような掛け合いは違うなと思って。じゃあ掛け合いが生きる曲ってどういうものなんだろうとチームのみんなで考えていたときに、「男女の普遍的なラブソングっぽいけど、実はこれってこういうことだったんだと、あとからわかる曲もあるよね」という話になったんです。それで、ずっと2人で会話している感じだけど、実は男の子の声は幻聴で、主人公はここにいない人に対してずっと自分の中だけで思い続けているというストーリーが思い浮かんで。最後に男の子の声が幻聴だったことがわかるという構成は面白いかも、というところから楽曲を作っていきました。

──その幻の声にふさわしいと思ったのがSouさんだった?

設定が浮かんで、どういう男の人の声がいいかなと考えたときに、力強い感じよりも、儚さをはらんだ歌声のほうが合いそうだなと思ったんです。そこで思い浮かんだのがSouくんの歌声だったので、自分の中ではすぐにゲストボーカルが決まりました。

──作曲は三月のパンタシアの楽曲ではおなじみの堀江晶太さんです。堀江さんにもデュエットソングを作りたいというところから話したんでしょうか?

そうですね。それと、夏を感じられる曲にしたい、盆踊り的なお祭りの感じが欲しいということをお伝えしました。

──Aメロのアレンジがシンプルだからか、2人の歌声による掛け合いが際立っているなと感じました。

確かに。でも、実は逆再生みたいな音が薄く入っていたりするんですよ。編曲の星銀乃丈さんが細かい仕掛けをいっぱい詰め込んでくださって。前半は普通の男女の掛け合いに聞かせたいのでわりと抑え目ではあるんですけど、後半にいくにつれて不穏な感じの展開になっています。

「青春を描く」という決意はずっと変わらない

──デュエットソングの歌詞を書くのは、いつもと違う感覚がありましたか?

主人公の女の子と相手の男の子の気持ちを2人分書くのは新鮮で面白かったです。ただ、男の子の声は主人公の幻想なので、男の子側の本当の感情は書けないんですよ。

──Aメロの「私を見て言うことあるんじゃない?」「あぁそういえば浴衣似合ってるよ」という花火大会のやりとりも、全部女の子が自分の心の中で考えていることなんですよね?

そうです。堀江さんにプロットを渡したときにも「女の子がどう思っているのかはわかるけど、男の子側がどう思っているかをもうちょっと書けたりする?」と聞かれて、「違うんです。男の子は女の子の妄想的な存在でしかないから、男の子の感情はそもそも存在してないんです」と話した記憶があります。

──実際にSouさんの歌声が入って、どのような印象を受けましたか?

私とSouくんは別々に録ったんですよ。あとからミックスした音源を聴いたときに、さりげなく歌っているけど、1つひとつのフレーズにちょっとしたニュアンスが加わっていて、やっぱりSouくんはそこがうまいなと思いました。私的にはこの曲の男の子はちょっとそっけないようなイメージだったので、前半は主人公と軽口を叩き合うような感じで、後半は「大丈夫だよ」「泣かないで」とこっちが欲しい言葉を優しい声で歌ってくれる。そういう意図をすべて汲み取ってレコーディングしてくださったので、本当にSouくんのおかげですごくいい曲になったなと思います。別々の場所にいる男女の曲なので、レコーディングが別録りだったのが結果的にハマったのかもしれないです。もし一緒に録って掛け合いしていたら、また違ったものができあがっていたと思うので。

──このEPで三月のパンタシアの新章を開けてみて、心境的にはいかがですか? 「開けてやったぞ」という手応えもあるのでは?

今までやってこなかったことをやれている実感はあります。でも、「変わらないまま生まれ変わる」と言い続けてきた通り、これまでの三月のパンタシアの地続きにある音楽表現だとも思っていて。軸にある「青春を描く」という決意はずっと変わらない。そこを見失わずに、核の部分は常に大事に守りながら、今後も音楽表現を続けていきたいなと思います。

──すでに来年3月のライブの開催が決まっています。「ピアスを飲む」など、三月のパンタシアが新しい色をライブでどう描くのか、今から楽しみですね。

私も楽しみです。「ピアスを飲む」は歌いながら怒り狂っちゃうかも(笑)。色とりどりのEPができて、これをライブで披露するとどうなるのか、まだ想像ができていないところもあるんですけど、新しい三月のパンタシアを感じ取れるライブになると思うので、ぜひ来てほしいなと思います!

三月のパンタシア ライブ情報

三月のパンタシア LIVE 2024(仮)

  • 2024年3月2日(土)大阪府 BIGCAT
  • 2024年3月10日(日)東京都 EX THEATER ROPPONGI

プロフィール

三月のパンタシア(サンガツノパンタシア)

「終わりと始まりの物語を空想する」をコンセプトに、ボーカルのみあを中心に結成されたプロジェクト。2015年8月に活動を開始し、2016年6月にシングル「はじまりの速度」でメジャーデビューした。その後、みあによる小説、さまざまなクリエイターの楽曲、イラストを掛け合わせてストーリーを描き、思春期の切ない恋心や憂鬱な気分といった繊細な心の揺れを表現。2020年7月には初の長編小説「さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた」を発表した。顔出しをせずに活動していたが、11月に東京・チームスマイル・豊洲PITで行ったワンマンライブ「三月のパンタシア LIVE2021『物語はまだまだ続いていく』」で素顔を解禁。2022年3月に4thアルバム「邂逅少女」をリリースした。2023年3月に東京・豊洲PITでワンマンライブ「三月のパンタシア LIVE 2023 / 君の海、有機体としての青」を開催。4月に「青春を、暴く」という新たなテーマを掲げ、栗山夕璃(Van de Shop)の提供曲「ピアスを飲む」を配信した。8月にアニメ「ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~」のオープニングテーマなどを収録したEP「ゴールデンレイ -解体新章-」をリリース。2024年3月に大阪・BIGCATと東京・EX THEATER ROPPONGIでワンマンライブを行う。