三月のパンタシア特集|みあ×はるまきごはん対談+みあ単独インタビューの2本立てで紐解く“新章” (2/4)

今まで聴いたことのなかった“夏のパンタシア”

はるまきごはん 「ゴールデンアックス」もそうなんですけど、今回、曲を作る前に歌詞の種になりそうなものをメモしながらゲームをやり直したんですよね。メモを取ることで、「ここの何気ないセリフが、よく考えたらこことつながっていて……」とキャラクターの心情がわかって面白かったです。

みあ 今日の対談で聞きたいと思っていたんですけど、「ライザのアトリエ」のファンだからこそ、「曲の中で実はこっそりこういうことやってました」という仕掛けはあったりするんですか? 例えば、「ゴールデンレイ」の1サビ前は「ライザのアトリエ」のBGMをオマージュしているんじゃないか?という考察をSNSで見かけまして。

はるまきごはん BGMは借用していないんですけど、「ライザのアトリエ」のゲームには神田沙也加さんの「虹色の夏」など、歌モノの曲が数曲あって。同じプレイリストに入れたときに、その歌モノの曲と流れで聴いて違和感がない音楽は目指していました。そこを意識した結果、ゲームの雰囲気につながったのかもしれないです。

みあ 原作ファンの方に伝わってますね。

はるまきごはん ゲームのBGMもいっぱい聴いて、アコースティック楽器の使い方とかを研究しました。アニメサイドから「エレキギターを使ったロックっぽいものよりは、アコースティックな感じのほうが合うと思います」とざっくりとした要望をもらっていたので。でも、アコースティックといってもいろいろあるし、オープニングテーマだからバラードではなくて、ワクワクするようなパワーのある曲にしたかったんです。そういうアコースティックな曲ってどういうものなんだろうなと考えていたんですけど、「ライザのアトリエ」のBGMがまさにそういう感じなんですよね。アコースティック楽器を使いつつ、明るくてちゃんと「ライザのアトリエ」の冒険感があるんですよ。しっとりしていない。「ゴールデンレイ」のサウンドはそういうBGMを聴いて、そのノリと感情のままに作る感じでした。

みあ へえー!

はるまきごはん あと、楽器ソロあたりの音色はメインキャラクター4人をイメージしているんですよ。ギターがレント、ピアノがタオ、フルートがクラウディア、主旋律はライザという感じで。ギターはレントのように野太く強い信頼感を感じられるような音にして、ピアノはタオをイメージして知性や細やかさを感じられるようにして。そこはこだわりました。

左からレント、ライザ、タオ。

左からレント、ライザ、タオ。

──6拍子のリズムも印象的です。心のワクワク感を掻き立てられるような感じがあって。

はるまきごはん 「ライザのアトリエ」の世界観は現代というよりは、昔のヨーロッパのような雰囲気があると思っていて。4拍子に比べると3拍子や6拍子はちょっと牧歌的な感じになるんですよね。アニソンやポップスにも取り入れられがちなケルト音楽風な音使いも3拍子との相性がいいし、そういったイメージからこの拍子にたどり着きました。

みあ 今まであまり6拍子の曲を歌ってきたことがなかったから、すごく難しかったです。練習してなんとか歌えました(笑)。

はるまきごはん みあさんには、まず僕の仮歌とシンセメロのデモをワンコーラス分くらい渡したんですよね。

みあ デモを聴いたときに、三月のパンタシアの夏の曲はたくさんあるんですが、この曲は今まで聴いたことのなかった“夏のパンタシア”だと思いました。夏の気持ちよい風とキラキラした日差しを感じられて、明るくて前向きに前進する感じもあるけど、どこか寂しさがあるというか。その寂しさがはるまきさんの曲ですごく好きだなと思うところなんですよ。少年少女たちのひと夏を過ごして大人になっていくことへの期待と、ちょっとした寂しさや不安……自分の10代の頃のことを思い出したります。これまではなんでも無邪気に過ごして笑い合えていたことが、大人になるにつれて変化していっちゃうのかなという。そういう自分の少女時代のことも回想させるような、小説を読んだあとの読後感に似た感覚をデモから受け取りました。

大合唱のようなコーラス録り

──レコーディングには、はるまきさんも立ち会ったんですか?

はるまきごはん はい。「ストレートに素直な感じで歌ってください」というお願いをさせてもらって。絵本の読み聞かせ的な感じといいますか。普段とは違う歌い方だったと思うんですけど、そのリクエストに的確に歌を合わせてくれて、すごくうれしかったです。

みあ 三パシのリスナーの方々はわかってくれてるかもしれないんですけど、私は語尾に癖が出やすいんです。歌っていると癖が出ちゃうので、ところどころで「あ、ヤバい……」と思って(笑)。

はるまきごはん 意識してくださっていたんですね。

みあ はい。まっすぐな推進力が生きる歌だと思うので、なるべくいつもより語尾の癖を抑えて、素直に届けることを頭の真ん中に置いて歌いました。

──はるまきさんは、みあさんの歌声にもともとどういう印象を持っていましたか?

はるまきごはん 透明感のある歌声のイメージが強くて。少女的な透明感というか。学生をイメージさせるような感じですよね。曲によって“文学感”みたいなものも感じます。例えばn-bunaさんの提供曲「煙」は文学感がある歌声だと思っていました。

みあ なるほど。じゃあ今後は「文学的な声」って謳っていこう(笑)。

はるまきごはん ぜひ(笑)。

みあ そういえば、今回コーラスがめちゃくちゃ多くて。

はるまきごはん 多いですよね(笑)。

みあ 録ったときは本数が多くて大合唱みたいな感じで、どうなっちゃうんだろうと思ってたんですけど、最終的に完成したものを聴いたときに「こういうふうに音が膨らんでいくんだ」とわかって、がんばってたくさん歌ってよかったなと思いました(笑)。

はるまきごはん 録ったものはちゃんと全部使いました(笑)。メイン、オクターブ下、それからオクターブ上も録ったんですよね。普通女性ボーカルのオクターブ上って録らないんですけど、今回はみあさんが出せる一番上の高さまで録らせてもらいました。

この先を歩いていたら、もう一度会える

──MVではイチョウをモチーフに、2人の少女の物語が描かれていますね。

はるまきごはん 「ライザのアトリエ」が夏の物語だったので、MVでは夏の一歩先の、秋に移り変わっていく季節を描きたかったんです。何より、イチョウというモチーフが「ライザのアトリエ」とこの曲に合っているなと思って。ライザの物語って明るいようにも見えるんですけど、登場人物たちが離ればなれになったり、ファンタジーらしからぬリアルな悩みがちりばめられていたりするんです。僕はそこがすごく好きなんですよね。イチョウの葉っぱの外側の輪郭って、根本からたどると離れ離れになるような形をしていますよね。MVではその形を、2人が歩いていく軌跡に重ねています。ただ、葉っぱは分かれていくけど、最後に少し丸みを帯びているんですよね。丸みを帯びていることで、「この先を歩いていたら、もう一度会えるよね」という未来への希望も示唆しています。

みあ 「イチョウの葉っぱにはこういう意図があります」ということをいっぱい書いた資料を送ってくれましたよね。どんなにひと夏が楽しくても季節は過ぎ去っていくものだという切なさや、キラキラした夏の情景とそのあとに訪れる別れの寂しさが映像でドラマチックに描かれていて、何度も観ちゃうくらい大好きなMVです。

はるまきごはん それはよかったです。MVを提供するのって、作る機会がそこまで多くないので緊張しました(笑)。

プロフィール

はるまきごはん

2014年2月にボカロPとして活動を開始。2016年1月に発表した「銀河録」がニコニコ動画でヒットし、注目を浴びる。イラストと動画制作も自ら手がけ、ストーリー性のある作品を発表。2020年からアニメーション制作チーム・スタジオごはんを立ち上げ、アニメーションミュージックビデオを制作し、「ふたりの」シリーズや「幻影」シリーズといったシリーズ作品も展開している。2023年10月に神奈川・はまぎん こども宇宙科学館でアコースティックワンマンライブ「二番星観望会」を開催する。