阿部家でもとても評判がいいですよ(阿部)
──もう1つの主題歌、ふうか役の吉岡さんが歌う「体の芯からまだ燃えているんだ」も素晴らしくて。映画のコンピレーションアルバムには、阿部さんと吉岡さんのデュエットバージョンも収録されています。
阿部 もともと「いい歌だな」と思ってたし、自分でも口ずさんでたりしたんですよ。なので、レコーディングできてよかったです。ハモリは難しかったけど「あの時のあの夜の私のままじゃないのよ」みたいないいフレーズも歌わせてもらえたし、阿部家でもとても評判がいいですよ(笑)。
三木 主題歌のレコーディングもそうだけど、その場で答えをパッと出せるところが阿部さんのすごさなんですよね。今回の撮影はそういう役者がそろっていたんです。松尾さん、ふせさん、田中哲司さんもそうだけど、初見の本読みの段階から自分なりの回答を持って現場に来てくれて。それをぶつけ合うことで、また新しいものが生まれるんですよね。ジャズバンドに例えると「ベースがそうきたら、こっちはこうしよう」というような。吉岡も物怖じしないで、そこに飛び込んでいったしね。ファーストインプレッションって重要なんですよ。そのときのグルーヴを覚えていれば、ずっと鮮度が落ちないと思うので。
阿部 撮影の初日は緊張しましたけどね。ある程度、雰囲気ができあがっているところに新メンバーとして入っていく感じがあったし、「自分の“リズム”は合うのか?」という不安もあって。でも、やってみたらスムーズでした。こっちが勝手にやっても、ちゃんと受け止めてもらえる土台があったので。吉岡さんもしっかり食い付いてくるタイプの人だったから、すごくやりやすかったです。なかなかできない場合もありますもんね。
三木 自分をよく見せたいとか、そういうものを取っ払わないとやれないと思うんですよ、こういう映画は。誰かをよく見せるために映画を撮っているわけではないし、「自分はこういうことを表現したい」みたいな欲はいらないので。まあ、当たり前のことですけどね。大人計画の芝居だってそうだし。
阿部 そうですね。
三木 年齢もあるでしょうね。今回出演してくれた皆さんは自己表現ではなくて、「どうしたらこのキャラクターが面白くなるか」と想像力を働かせて現場に来てくれたので。松尾さんは「今回は“寄り目”でやります」って言ってくれたんだけど……。
阿部 謎ですよね(笑)。
三木 それも自分の表現欲ではなくて、純粋に「面白くしたい」ということだと思うんですよね。それはほかの役者もそうなんだけど。
結果がどうなるのかを予想しながら映画を作るのはつまらない(三木)
──俳優、劇中歌を作ったミュージシャンを含め、“ハイテンションロックコメディ”にぴったりな人たちが集まった、と。
阿部 そうですね。僕らの世代が音楽を聴き始めた頃は、映画のサントラが流行ってたんですよ。「フットルース」とか「トップガン」とか。曲と映画を一緒に楽しんでいたし、今も音楽がいっぱい使われる映画が好きなんですよね。石井聰亙監督の「爆裂都市 BURST CITY」も好きだったし。リアルタイムではないんですけど、音楽に詳しい先輩から「面白いから観ろ」って言われて。
三木 僕はオンタイムでしたね。今57歳なんですけど、「爆裂都市 BURST CITY」や「狂い咲きサンダーロード」などでアシスタントプロデューサーをやってた人がちょうど僕の2歳くらい上で。今回の美術をやってくれてる磯見俊裕さんも、石井監督の「水の中の八月」に参加しているんです。
阿部 そうなんですね。
三木 うん。そのあたりの人たちの忘年会に行くと、往年のパンクバンドの人たちが酔っぱらって暴れてたり。
阿部 はははは(笑)。80年代のロック映画って、笑える要素もあるんですよね。「爆裂都市」でもコント赤信号さんがとんでもない芝居をしてたり。あれは「音量を上げろ~」の小峠さんのバンド(ダエマオハギツ)につながるところがあるかも(笑)。
──最近はコンプライアンスの問題もありますが、この映画はかなりギリギリのラインを攻めている印象もあって。
三木 結果がどうなるのかを予想しながら映画を作るのはつまらないですからね。どういう受け止め方をされるかはわからないけど、まずは面白いと思うものを目指さないと。70年代のロックバンドなんて、コンプライアンスなんか無視してますから。
──確かに。最近は歌詞の一節がSNSで拡散して、炎上することもあるので……。
三木 それを気にしてたら面白いものはできないですよね。今回の映画の曲で俺も何曲か歌詞を書いたんですけど、八十八ヶ所巡礼にお願いした「肩噛むな!」の最初の歌詞は、「塩酸と硫酸で俺をフッた女を溶かしてやる」という内容で。
阿部 面白いじゃないですか(笑)。
三木 スクリーミン・ジェイ・ホーキンスも「あの女、呪い殺してやる」みたいな歌を歌ってますから(笑)。結局その歌詞は使わなかったんですけどね。
いい加減にやっちゃうと、面白い映画にならない(阿部)
──阿部さんは役者という立場ですが、活動において反応を気にせず、面白いものを作りたいという意識はありますか?
阿部 そうですね。だって僕、もともとそこから来てますから。
三木 グループ魂がそうだからね。大人計画も。
阿部 はい。「最近はまともになった」と言われることもあるけど、そんなはずないし(笑)。ルールを壊したいという気持ちもあるし、うまい、下手とは関係ないところで芝居をしたいというのはずっと思ってますね。
三木 音楽もそうですよね。うまいだけじゃダメと言うか。どんなにうまくても、技術だけだと「それはおまえらの自慢だろ?」と思うこともあるので。
阿部 わかります。
──阿部さんにとって「音量を上げろ~」は、自由にのびのびやれる映画だった?
阿部 のびのび? いや、そんなことないですよ。アドリブは一切ないし、リハもしっかりやったし。勝手なことをやってたらダメだと思うので。
三木 うん。さっきの「Ave Maria」の話もそうだけど、声楽の先生についてしっかり練習したから、あのシーンが面白くなったわけで。
阿部 シンがギターを弾きながら歌うシーンがあるんですけど、声楽の先生とギターの先生がすごく近くにいて。ずっと見てくださっているんですけど、ときどき首をかしげたりしていて。あれはやりづらかった……(笑)。
三木 (笑)。ノリだけでやってるわけではないですからね。そこをいい加減にやっちゃうと、面白い映画にならないと思います。
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三木聡 コンピレーションアルバム解説
- V.A.「音量を上げて聴けタコ!! ~音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!! オリジナルコンピレーションアルバム~」
- 2018年10月3日発売 / Ki/oon Music
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初回限定盤 [CD+DVD]
3456円 / KSCL-3110~1 -
通常盤 [CD]
3024円 / KSCL-3112
- CD収録曲 / アーティスト
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- テンションを上げろ! / シン
- 人類滅亡の歓び / SIN+EX MACHiNA[作詞:いしわたり淳治 / 作曲:HYDE / 編曲:PABLO]
- 夏風邪が治らなくて / 君のいる風景[作詞・作曲:安部勇磨 / 編曲:never young beach]
- まだ死にたくない(Movie ver.) / ふうか[作詞・作曲:橋本絵莉子]
- 遊ぶ金欲しさの犯行 / ダエマオハギツ[作詞:三木聡、富澤タク / 作曲・編曲:富澤タク]
- 音量を上げろタコ! / シン
- ゆめのな(Movie ver.) / ふうか[作詞・作曲:橋本絵莉子]
- Ave Maria / シン[作詞 :ウォルター・スコット / 作曲:フランツ・シューベルト]
- 肩噛むな! / 家の前でゴリラが死んでる[作詞:三木聡 / 作曲・編曲:八十八ヶ所巡礼]
- 勘違いは大事よ / ふうか
- 12 strings intro / koyabin(THIS IS JAPAN)[作曲:koyabin(THIS IS JAPAN)]
- 体の芯からまだ燃えているんだ / ふうか[作詞・作曲:あいみょん / 編曲:THIS IS JAPAN]
- まだ死にたくない(Album ver.) / ふうか[作詞・作曲:橋本絵莉子]
- ゆめのな(Album ver.) / ふうか[作詞・作曲:橋本絵莉子]
- 体の芯からまだ燃えているんだ(Duet ver.) / シン&ふうか[作詞・作曲:あいみょん / 編曲:THIS IS JAPAN]
- 初回限定盤DVD収録内容
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- 「人類滅亡の歓び」ミュージックビデオ
- 「体の芯からまだ燃えているんだ(Duet ver.)」ミュージックビデオ
- 「体の芯からまだ燃えているんだ(Duet ver.)」ミュージックビデオメイキング
- 「音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!」
- 2018年10月12日(金)公開
- ストーリー
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驚異の歌声を持ち、その存在自体がロックだとカリスマ的人気を誇るロックスター・シン。だが彼の歌声は声帯ドーピングによるものだった。ドーピングの副作用で徐々に限界に近づく喉に怯えるシンは、異様に声の小さいストリートミュージシャンのふうかと出会う。
- スタッフ
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監督・脚本:三木聡
- キャスト
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阿部サダヲ、吉岡里帆、千葉雄大、麻生久美子、小峠英二(バイきんぐ)、ふせえり、田中哲司、松尾スズキ
©2018「音量を上げろタコ!」製作委員会
- 阿部サダヲ(アベサダヲ)
- 1970年4月23日生まれ、千葉県出身の俳優。1992年より、大人計画に参加。看板俳優として活躍する。また宮藤官九郎らと結成されたグループ魂では、破壊(Vo)としてフロントマンを務める。2018年12月18~30日まで、東京・SPIRALで行われる大人計画の30周年イベント「30祭」に出演する。
- 三木聡(ミキサトシ)
- 1961年8月9日生まれ、神奈川県出身の映画監督 / 演出家。「タモリ倶楽部」「トリビアの泉」など数多くのバラエティ番組の構成作家として活躍したのち、2004年に「イン・ザ・プール」で長編映画デビュー。「亀は意外と速く泳ぐ」「転々」「インスタント沼」などを監督。映画のほか、ドラマ「時効警察」や「熱海の捜査官」の演出も担当した。