阿部サダヲ扮する驚異的な歌声を持ったロックスター・シンと、吉岡里帆が演じる声が小さすぎるストリートミュージシャン・ふうかを中心に破天荒な物語が繰り広げられる映画「音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!」が10月12日に公開される。本作には、HYDEが作曲、いしわたり淳治が作詞を手がけた「人類滅亡の歓び」、あいみょんの書き下ろしによる「体の芯からまだ燃えてるんだ」という2つの主題歌をはじめ、多彩なアーティストが提供した劇中歌が使用されている。
今回の特集では音楽ファン必見の“ハイテンションロックコメディ”である本作の魅力を、主演の阿部と監督・脚本を担当した三木聡の対談と、三木による映画のコンピレーションアルバムの解説の2本立てで掘り下げる。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 緒車寿一
ヘアメイク(阿部サダヲ) / 中山知美 スタイリスト(阿部サダヲ) / チヨ(コラソン)
阿部さんしかいないでしょ。だって、ほかに誰がいます?(三木)
──映画「音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!」は音楽ファン、ロックファンにとっても魅力的な作品だと思います。まず、主役のロックスター・シン役を阿部サダヲさんにオファーした理由を教えてもらえますか?
三木聡 阿部さんしかいないでしょ。だって、ほかに誰がいます?
阿部サダヲ (笑)。
三木 「どうして阿部さんに?」とよく聞かれるんですけど、この映画でシンというキャラクターを演じられる俳優は阿部さん以外に考えられなかったんですよ。半分冗談ですけど、「環太平洋を見回しても、阿部さんしかいない」と言ってるくらい。
阿部 範囲が広いですね(笑)。
三木 歌はもちろん、ライブのシーンもあるし、松尾スズキさんやふせえりさんとのコント的な芝居も求められて、ヒロイン役の吉岡里帆ともドラマを作っていかなくちゃいけない。つまり全方位的な演技の引き出しが必要なんだけど、僕もプロデューサーも阿部さん以外に思い付かなくて。7秒くらいで決定しました(笑)。
阿部 うれしいです。僕は以前から三木監督の作品のファンだったので、お話をいただいて、すぐに「やります」と返事をさせてもらって。台本を読んだらびっくりしましたけどね。「ロック映画なんだ!」と思って。
三木 もっとユルい映画だと思ってました?
阿部 そうですね(笑)。
──声帯ドーピングによって驚異的な歌声を手に入れたシンというキャラクターを、阿部さんはどう演じましたか?
阿部 三木監督の作品には独特のキャラクターがいっぱい登場するじゃないですか。今回の作品に出て来る松尾さん、ふせさんのキャラクターもそうだし。ふざけた人たちがいっぱいいる中で、シンは一番まともだと思ったんですよ。すごくシリアスなバックボーンを背負っていて。もうちょっとふざけたいと思ってたんですけど、そうじゃなかったという。
──なるほど。シンのライブシーンも大きな見どころですが、撮影はいかがでしたか?
阿部 ライブのシーンは最終日だったので、助かった部分もありますね。それまでの撮影でシンのキャラクターを作り上げられたものもあるし、それを込められたかなと。PABLO(G / Pay money To my Pain、POLPO)、KenKen(B / RIZE、LIFE IS GROOVE、Dragon Ash)、SATOKO(Dr / FUZZY CONTROL)によるバックバンドのパフォーマンスもすごかったんですよ。
三木 スーパーバンドですよね。ライブのシーンに関しては、俺のほうから「こういう形で演じてください」みたいなものはなくて、阿部さんに任せると言うか。こっちとしては答えを見るだけという感じだったんです。撮影中も「これがシンのパフォーマンスなんだ」と納得できたし、映画全体の最後のピースがハマったんですよね。映像も抜群にカッコよかったし、「これでこの映画は大丈夫だ」と思えた。当日、出番がなかった吉岡も現場に来ていて、「やっとシンのライブが観れた!」って感動してました。
阿部 ありがとうございます。
三木 ただ、1つだけ不手際があって。阿部さんに強烈なメイクをしてもらったので、撮影後に落とせるよう現場にシャワーも用意していたんだけど、水しか出なかったんですよ。
阿部 撮影後はシンのメイクのまま帰りました(笑)。初日も大量の水を浴びまくるシーンだったんですけど、最終日もすごいことになってましたね。
48歳なんですけど、まだ少年に近い声で歌えるんだな(阿部)
──映画の中で使用されている楽曲についても聞かせてください。まずは主題歌の「人類滅亡の歓び」ですが、シンのアーティスト性を示す大事な楽曲ですよね。
阿部 デモテープはHYDEさんが歌ってくれていたんですが、びっくりしちゃって。「カッコいいぞ、これ」って(笑)。自分で歌うときも大変でした。グループ魂とは違う感じでやりたかったんですけど、声質もそんなに変えられないし、どうしても限界があるんですよ。レコーディングでも声を重ねてもらったり、いろいろやってみたりしたんだけど難しかったです。最初の叫ぶところも何回もやったし。
三木 阿部さんはそうやって謙遜してるけど、楽曲のニュアンスは最初からしっかりつかんでいたと思いますね。撮影の準備のために仮歌を録ったときも、いきなりドンピシャの歌を歌ってくれて。音楽プロデューサーの西條善嗣さんとも「これをベースにすれば大丈夫ですね」と話してたんですよ。グループ魂のレコーディングがどんな感じなのかは知らないですけど(笑)、曲に対してすぐに自分なりの答えを出せるところはすごいなと。褒めるつもりは全然なくて、実際にあったことを話してるだけなんですけどね。
──少年期のシンがボーイソプラノで歌唱する「Ave Maria」も阿部さんが自分で歌っているとか。
阿部 そうなんですよ。映画を観た人の中には「ホントに歌っていると思わなかった」という人もいるみたいなので、そこはちゃんと言っておきたいです。
三木 ほかの人が歌ってると思われると腹立たしいですよね(笑)。
阿部 「これが俺の本当の声だ」って言って歌うシーンがあるんですけど、ああいう声が出せたのはうれしかったし、自分でもびっくりしましたね。今、48歳なんですけど、まだ少年に近い声で歌えるんだなって(笑)。吉岡さんも気に入ってくれて、僕が歌う「Ave Maria」の音源を持ってるみたいです。
三木 カナダの「第22回ファンタジア国際映画祭」で上映されたときも、シンが「Ave Maria」を歌った場面でみんな大爆笑だったんですよ。でも阿部さんにはレコーディングまでに、声楽家の清水麻八子さんに付いてレッスンを受けてもらったんです。原曲の歌詞のイントネーション、言葉の引っ張り方、息継ぎなども細かくやってもらって。
阿部 「ここはブレス」「ここは引っ張る」って、楽譜に線を引いてもらって練習しました。
三木 阿部さんは大変だったと思います。撮影のリハーサルが終わったあとも「じゃあ、阿部さんは清水さんに付いてもらって稽古してください」っていう状態で。微妙にブルーなムードもありましたね(笑)。
阿部 (笑)。でも、日本の上映会でも皆さんが笑ってくれてよかったです。
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阿部家でもとても評判がいいですよ(阿部)
- V.A.「音量を上げて聴けタコ!! ~音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!! オリジナルコンピレーションアルバム~」
- 2018年10月3日発売 / Ki/oon Music
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初回限定盤 [CD+DVD]
3456円 / KSCL-3110~1 -
通常盤 [CD]
3024円 / KSCL-3112
- CD収録曲 / アーティスト
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- テンションを上げろ! / シン
- 人類滅亡の歓び / SIN+EX MACHiNA[作詞:いしわたり淳治 / 作曲:HYDE / 編曲:PABLO]
- 夏風邪が治らなくて / 君のいる風景[作詞・作曲:安部勇磨 / 編曲:never young beach]
- まだ死にたくない(Movie ver.) / ふうか[作詞・作曲:橋本絵莉子]
- 遊ぶ金欲しさの犯行 / ダエマオハギツ[作詞:三木聡、富澤タク / 作曲・編曲:富澤タク]
- 音量を上げろタコ! / シン
- ゆめのな(Movie ver.) / ふうか[作詞・作曲:橋本絵莉子]
- Ave Maria / シン[作詞 :ウォルター・スコット / 作曲:フランツ・シューベルト]
- 肩噛むな! / 家の前でゴリラが死んでる[作詞:三木聡 / 作曲・編曲:八十八ヶ所巡礼]
- 勘違いは大事よ / ふうか
- 12 strings intro / koyabin(THIS IS JAPAN)[作曲:koyabin(THIS IS JAPAN)]
- 体の芯からまだ燃えているんだ / ふうか[作詞・作曲:あいみょん / 編曲:THIS IS JAPAN]
- まだ死にたくない(Album ver.) / ふうか[作詞・作曲:橋本絵莉子]
- ゆめのな(Album ver.) / ふうか[作詞・作曲:橋本絵莉子]
- 体の芯からまだ燃えているんだ(Duet ver.) / シン&ふうか[作詞・作曲:あいみょん / 編曲:THIS IS JAPAN]
- 初回限定盤DVD収録内容
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- 「人類滅亡の歓び」ミュージックビデオ
- 「体の芯からまだ燃えているんだ(Duet ver.)」ミュージックビデオ
- 「体の芯からまだ燃えているんだ(Duet ver.)」ミュージックビデオメイキング
- 「音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!」
- 2018年10月12日(金)公開
- ストーリー
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驚異の歌声を持ち、その存在自体がロックだとカリスマ的人気を誇るロックスター・シン。だが彼の歌声は声帯ドーピングによるものだった。ドーピングの副作用で徐々に限界に近づく喉に怯えるシンは、異様に声の小さいストリートミュージシャンのふうかと出会う。
- スタッフ
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監督・脚本:三木聡
- キャスト
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阿部サダヲ、吉岡里帆、千葉雄大、麻生久美子、小峠英二(バイきんぐ)、ふせえり、田中哲司、松尾スズキ
©2018「音量を上げろタコ!」製作委員会
- 阿部サダヲ(アベサダヲ)
- 1970年4月23日生まれ、千葉県出身の俳優。1992年より、大人計画に参加。看板俳優として活躍する。また宮藤官九郎らと結成されたグループ魂では、破壊(Vo)としてフロントマンを務める。2018年12月18~30日まで、東京・SPIRALで行われる大人計画の30周年イベント「30祭」に出演する。
- 三木聡(ミキサトシ)
- 1961年8月9日生まれ、神奈川県出身の映画監督 / 演出家。「タモリ倶楽部」「トリビアの泉」など数多くのバラエティ番組の構成作家として活躍したのち、2004年に「イン・ザ・プール」で長編映画デビュー。「亀は意外と速く泳ぐ」「転々」「インスタント沼」などを監督。映画のほか、ドラマ「時効警察」や「熱海の捜査官」の演出も担当した。