10月3日に発売された「音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!」のコンピレーションアルバムには、主題歌以外にも映画を盛り上げる劇中歌を収録。安部勇磨(never young beach)、橋本絵莉子(ex. チャットモンチー)、グループ魂の遅刻(G)こと富澤タク(Number the.)などが手がけた書き下ろしの楽曲群は音楽ファン必聴と言える。このインタビューでは三木監督に、各楽曲のコンセプトや参加アーティストとのやりとりなど、制作時のエピソードを聞いた。
HYDEが提示したロックスターのポピュラリティ
──映画はロックカルチャーが強く反映されている作品ですね。三木監督自身にロック映画を作りたいという思いがあったのでしょうか?
そうですね。僕自身も学生の頃にバンドをやっていたことがあって。才能がなくてやめちゃったんですけど(笑)、音楽モノ、バンドモノの映画をやりたいというのはずっとあったんですよ。「爆裂都市 BURST CITY」や「シド・アンド・ナンシー」、Led Zeppelinのライブ映画「永遠の詩(狂熱のライヴ)」、モッズ映画「さらば青春の光」もそうだけど、好きな音楽映画がいろいろあって。どういう形で実現しようかと考えてきたことが、今回の映画につながったというわけです。
──映画の楽曲はHYDEさん、いしわたり淳治さん、あいみょんさん、橋本絵莉子さんなどが担当していて。豪華なクリエイター陣がそろいましたね。
奇跡的ですよね。制作に関しては細かいやり取りはそれほどしてなくて、それぞれの方に台本とプロットをお渡しして曲を作ってもらったんですけど、できあがってきた曲がどの曲も本当に素晴らしくて。監督としては「ありがとうございます」としか言いようがないですね。
──では、映画のコンピレーションアルバムの収録曲について順番に聞かせてください。まずは阿部サダヲさん演じるシンが歌う「人類滅亡の歓び」はどのように作られたんですか?
阿部サダヲという役者がシンというキャラクターとして歌うにあたって、演劇性を帯びたロックのイメージが最初にあって。古くはアリス・クーパーやBlack Sabbath、現代のアーティストではマリリン・マンソンのような劇的な雰囲気が欲しかったんですよね。あとはタブーに触れる感じと言うのかな。Twitterでいろいろ言われても「ファック!」と返してしまうイメージと言うか(笑)。HYDEさんと打ち合わせしたとき、HYDEさんから「どのあたりのポピュラリティに落とし込みましょうか?」という話があって。シンはロックスターだから、あまりマニアックな楽曲だと“売れている”ということにリアリティがなくなる。かと言ってあまりにポップなのも違うという。その答えをHYDEさんが見事に導き出してくれたと思います。作詞のいしわたり淳治さんも、こちらの意図を理解する読解力がすごくある方で。たとえばJudas Priestなどもそうなんだけど、「世界は滅びる」みたいなコンセプトの中にどこかコミカルな味があると思うんです。「人類滅亡の歓び」もそうで、一線を越えてギャグになってるところがあるんですよ。ヘヴィメタルの伝統芸にもとづいている部分もありますね、この曲は。
──ヘヴィメタル、ゴシックが絶妙に混ざり合ったサウンドも印象的でした。
そこはアレンジャーのPABLO(G / Pay money To my Pain、POLPO)さんと綿密にやりとりしました。ゴシック、バロックの要素をどこまで入れるか?という話をして、キリスト教的なオルガンだったり、軍人の靴音を加えたりして。PABLOさんの引き出しの多さに助けられましたね。監督として「こういう曲が欲しい」というイメージはあるんだけど、それを音楽的に理解して、楽曲に落とし込んでくれるのはミュージシャンの皆さんなので。そういうコラボレーションって、うまくいくときといかないときがあるんです。今回はクリエイターの皆さんが映画に歩み寄って、こちらのイメージ以上の楽曲を作り上げてくれて。こういう体験は初めてだったし面白かったです。
映画のストーリーを補完するふうかの楽曲
──「夏風邪が治らなくて」は、吉岡さんが演じるふうかが参加していたバンド・君のいる風景の楽曲です。作詞・作曲はnever young beachの安部勇磨さん、編曲・演奏はnever young beachが担当しました。
ネバヤンを推薦してくれたのは音楽プロデューサーの西條さんなんですが、彼らの楽曲を聴いて、すごいなと思ったんです。ティン・パン・アレー、大瀧詠一さん、山下達郎さんなどのジャパニーズポップスを新しい形で表現していて。「夏風邪が治らなくて」というタイトルは、安部くんがプレゼンしてくれたんです。映画の前半のふうかの雰囲気にすごく合っているし、一発で「面白い!」と思って。コンピレーションに収録されている音源は、映画では使われていない楽曲の後半部分も入っているので、ぜひ聴いてほしいです。すごくいいポップスなんですよ。はっぴいえんどの発展形と言うのかな? あの若さでこんな曲が作れるなんて、すごい才能だなと思います。
──そしてふうかが歌う「まだ死にたくない」「ゆめのな」は、橋本絵莉子さんの作詞・作曲です。
「まだ死にたくない」はふうかの冴えない感じがすごく出ているし、「ゆめのな」はふうかとシンの関係性の変化が反映されているんですよね。「ゆめのな」の「私はロックスターで あなたは私に夢中」という歌詞は2人の未来なのか、ふうかの願望なのか、想像が膨らむんです。あと文学性を感じる歌詞だし、映画のストーリーを補完する役目も果たしてくれていて。こちらからストーリーに沿ってほしいと発注をしたわけではなかったので、この歌詞が送られてきたときはびっくりしました。2曲共60年代のイギリスのポップスに通じる雰囲気があって、それもすごくよかったですね。橋本さんは独特の存在感を持った方なんですけど、チャットモンチーをあれほどのバンドにした方だし、やはりただ者ではないなと。
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ブッとんだ曲、イキきった曲が欲しい
- V.A.「音量を上げて聴けタコ!! ~音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!! オリジナルコンピレーションアルバム~」
- 2018年10月3日発売 / Ki/oon Music
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初回限定盤 [CD+DVD]
3456円 / KSCL-3110~1 -
通常盤 [CD]
3024円 / KSCL-3112
- CD収録曲 / アーティスト
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- テンションを上げろ! / シン
- 人類滅亡の歓び / SIN+EX MACHiNA[作詞:いしわたり淳治 / 作曲:HYDE / 編曲:PABLO]
- 夏風邪が治らなくて / 君のいる風景[作詞・作曲:安部勇磨 / 編曲:never young beach]
- まだ死にたくない(Movie ver.) / ふうか[作詞・作曲:橋本絵莉子]
- 遊ぶ金欲しさの犯行 / ダエマオハギツ[作詞:三木聡、富澤タク / 作曲・編曲:富澤タク]
- 音量を上げろタコ! / シン
- ゆめのな(Movie ver.) / ふうか[作詞・作曲:橋本絵莉子]
- Ave Maria / シン[作詞 :ウォルター・スコット / 作曲:フランツ・シューベルト]
- 肩噛むな! / 家の前でゴリラが死んでる[作詞:三木聡 / 作曲・編曲:八十八ヶ所巡礼]
- 勘違いは大事よ / ふうか
- 12 strings intro / koyabin(THIS IS JAPAN)[作曲:koyabin(THIS IS JAPAN)]
- 体の芯からまだ燃えているんだ / ふうか[作詞・作曲:あいみょん / 編曲:THIS IS JAPAN]
- まだ死にたくない(Album ver.) / ふうか[作詞・作曲:橋本絵莉子]
- ゆめのな(Album ver.) / ふうか[作詞・作曲:橋本絵莉子]
- 体の芯からまだ燃えているんだ(Duet ver.) / シン&ふうか[作詞・作曲:あいみょん / 編曲:THIS IS JAPAN]
- 初回限定盤DVD収録内容
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- 「人類滅亡の歓び」ミュージックビデオ
- 「体の芯からまだ燃えているんだ(Duet ver.)」ミュージックビデオ
- 「体の芯からまだ燃えているんだ(Duet ver.)」ミュージックビデオメイキング
- 「音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!」
- 2018年10月12日(金)公開
- ストーリー
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驚異の歌声を持ち、その存在自体がロックだとカリスマ的人気を誇るロックスター・シン。だが彼の歌声は声帯ドーピングによるものだった。ドーピングの副作用で徐々に限界に近づく喉に怯えるシンは、異様に声の小さいストリートミュージシャンのふうかと出会う。
- スタッフ
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監督・脚本:三木聡
- キャスト
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阿部サダヲ、吉岡里帆、千葉雄大、麻生久美子、小峠英二(バイきんぐ)、ふせえり、田中哲司、松尾スズキ
©2018「音量を上げろタコ!」製作委員会
- 阿部サダヲ(アベサダヲ)
- 1970年4月23日生まれ、千葉県出身の俳優。1992年より、大人計画に参加。看板俳優として活躍する。また宮藤官九郎らと結成されたグループ魂では、破壊(Vo)としてフロントマンを務める。2018年12月18~30日まで、東京・SPIRALで行われる大人計画の30周年イベント「30祭」に出演する。
- 三木聡(ミキサトシ)
- 1961年8月9日生まれ、神奈川県出身の映画監督 / 演出家。「タモリ倶楽部」「トリビアの泉」など数多くのバラエティ番組の構成作家として活躍したのち、2004年に「イン・ザ・プール」で長編映画デビュー。「亀は意外と速く泳ぐ」「転々」「インスタント沼」などを監督。映画のほか、ドラマ「時効警察」や「熱海の捜査官」の演出も担当した。