ブッとんだ曲、イキきった曲が欲しい
──三木監督も作詞に参加した「遊ぶ金欲しさの犯行」は、バイきんぐの小峠英二さん、グループ魂の遅刻こと富澤タクさん、ニューロティカのKATARUさん(B)とNABOさん(Dr)による劇中バンド・ダエマオハギツの楽曲です。
ずっと前から「遊ぶ金欲しさの犯行」というタイトルの曲を作ってみたかったんです(笑)。ニュースで「遊ぶ金欲しさの犯行」と聞くたびに「何それ?」って不思議に思っていて。そういうときって、たいてい犯人は“バールのようなもの”で金庫をこじ開けるじゃないですか。そういうフレーズを歌詞に入れて。作曲の富澤さんは、グループ魂で宮藤官九郎さんと一緒にやってるだけあって、一発でどういう曲が欲しいか理解してくれたんですよ。いきなり「ブリティッシュパンクですか? ニューヨークパンクですか?」って聞いてきて、さらにぴったりの曲を作ってくれた。富澤さんはシュッとした二枚目ですけど、そういう遊び心、ギャグセンスを持ってる方なんですよね。この映画に必要なものもわかってるし、パンクに対するリスペクトもあるという。KATARUさん、NABOさんを含めたバンドの形もすごくキマっていたし、さすがでしたね。
──劇中で「肩噛むな!」を演奏するバンド・家の前でゴリラが死んでるには、声楽家の清水麻八子さん、八十八ヶ所巡礼が参加していて。彼らによる「肩噛むな!」はオペラとプログレが融合したすごい曲ですね。
そうなんですよ。こういう映画を作るからには、ブッとんだ曲、イキきった曲が欲しいなと思って。アバンギャルドな表現ができる人を探していたときに紹介されたのが、八十八ヶ所巡礼だったんです。ライブを観に行ったら、本当にすごくて。楽曲の展開、演奏を含めてすごくテクニックがあるし、しかも変態で(笑)。「この人たちに断られたらヤバいな」と思ってすぐに依頼しました。「肩噛むな!」は自分で歌詞を書いたんですが、キリエ(キリスト教の祈り)みたいなイメージがあって。80年代のニナ・ハーゲン(歌劇とパンクを融合させた音楽性で知られるドイツ出身の女性アーティスト)じゃないけど、プログレとオペラを混ぜたらどうなるかなと。清水麻八子さんは今回の劇伴を担当している上野耕路さんのバンドに入っていたこともあるし、僕が監督した「俺俺」という映画にも参加してくれてるんです。今回もこちらの思いを汲み取って、素晴らしい歌を歌ってくれました。この前、八十八ヶ所巡礼のライブに清水さんが出て、「肩噛むな!」を歌ってくれたんですよ。うれしかったですね。
ふうかと重なるあいみょんの姿
──そして映画の主題歌の1つでもある「体の芯からまだ燃えているんだ」は、シンガーソングライターのあいみょんさんの作詞・作曲によるナンバーです。「世界滅亡の歓び」と並び、映画にとっても重要な楽曲ですよね。
実は最初からあいみょんさんに決めていたわけではなくて、ずっと誰に最後の曲をお願いしようか考えていたんです。そんなときに「面白い人がいる」と紹介されたのが、あいみょんさんだったんですよ。1年半前くらいだったから、世間的にはまだあまり知られていない存在だったんですが、楽曲を聴いて「これは確かにすごいな」と思って。ほかにも候補の方はいたんですが、僕、プロデューサーを含めて「この人に賭けてみよう」ということになって。
──その後、あいみょんさんは「君はロックを聴かない」をきっかけにブレイクしましたね。それを考えるとこの映画の引きの強さを感じます。
主題歌をお願いした段階ではまだあまり知られていない存在だったのが、映画が完成に近付くにつれて彼女自身がどんどん知られるようになって。ふうかと重なるところがあると言うか、現実と映画がリンクしているようで面白かったですね。「体の芯から~」が生まれた経緯も素晴らしいんですよ。まず台本をお送りして、最初の打ち合わせのときに「一応、作ってきたんですけど」って、あいみょんさんがその場で歌ってくれて。「血の味混じりで歌を歌う」「壊れたギターで奏でようか」という歌詞もそうなんだけど、映画を回想するようなところもあって、それがすごくよかったんです。あいみょんさんは今、たくさんの人たちの胸を打つアーティストになっていますが、この曲を聴くと「そりゃそうだよな」と思いますね。
──楽曲を歌った吉岡里帆さんについては?
曲を聴いた人が「吉岡里帆さんの歌がうまい」ってツイートしてたんだけど、この曲を歌うために彼女はすごい努力をしたんです。ボイトレも徹底的にやったし、ギターも練習して。忙しい中、寝る時間も削ってがんばってくれたし、火事場の馬鹿力と言うか、ギリギリのとこまで追い詰められるとポーン!と飛躍するんですよね。もともと持っている才能もあると思いますけど、そのパワーには驚かされましたね。
阿部サダヲが歌う「Ave Maria」の存在感
──演奏陣のパフォーマンスも強力でした。「人類滅亡の歓び」のライブシーンに参加したPABLOさん(G)、KenKen(B / RIZE、LIFE IS GROOVE、Dragon Ash)、SATOKO(Dr / FUZZY CONTROL)、「体の芯からまだ燃えているんだ」を演奏したTHIS IS JAPANも最高でした。
PABLOさん、KenKenさん、SATOKOさんは楽器のテクニックもずば抜けているし、エンタテインメントとしての演奏ができる人たちなんですよね。日本でもトップのミュージシャンばかりだし、ライブシーンに関してはこちらから言うことは何もなくて、ただ“答えを見る”という感じでした。THIS IS JAPANともしっかり呼応し合えた感じがあって。「体の芯から~」の演奏もそうだし、ライブシーンでギターがジャカジャーンと鳴り、照明がバーッとついていくときの音なども作ってもらって。一流の人たちと仕事ができて、監督としては本当に恵まれました。
──もう1曲、少年時代のシンが歌う「Ave Maria」についてお聞きしたいんですが。阿部さんが歌ってると伺って驚きました。
阿部さん、歌がうまいんですよ(笑)。「第22回ファンタジア国際映画祭」では、シンが「Ave Maria」を歌うところで笑いが起きたんですけど、シンの過去が明らかになるにつれて最後は泣いているお客さんもいて。感情の起伏をこの曲で表現できたのはよかったですね。
──ちなみにどうして「Ave Maria」を劇中で使うことにしたんですか?
Rainbowのコンサートは、リッチー・ブラックモアが弾く「虹の彼方に」で始まるのが定番なんですよね。そのイメージで、シンが登場するシーンに「Ave Maria」を使ってみたり。
──そういう元ネタを見つけるのも、この映画を観る楽しさかもしれないですね。
いいですね。ネタばらし帳を作りたい気持ちもありますが(笑)、それは皆さんで探してもらいたいです。
- V.A.「音量を上げて聴けタコ!! ~音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!! オリジナルコンピレーションアルバム~」
- 2018年10月3日発売 / Ki/oon Music
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初回限定盤 [CD+DVD]
3456円 / KSCL-3110~1 -
通常盤 [CD]
3024円 / KSCL-3112
- CD収録曲 / アーティスト
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- テンションを上げろ! / シン
- 人類滅亡の歓び / SIN+EX MACHiNA[作詞:いしわたり淳治 / 作曲:HYDE / 編曲:PABLO]
- 夏風邪が治らなくて / 君のいる風景[作詞・作曲:安部勇磨 / 編曲:never young beach]
- まだ死にたくない(Movie ver.) / ふうか[作詞・作曲:橋本絵莉子]
- 遊ぶ金欲しさの犯行 / ダエマオハギツ[作詞:三木聡、富澤タク / 作曲・編曲:富澤タク]
- 音量を上げろタコ! / シン
- ゆめのな(Movie ver.) / ふうか[作詞・作曲:橋本絵莉子]
- Ave Maria / シン[作詞 :ウォルター・スコット / 作曲:フランツ・シューベルト]
- 肩噛むな! / 家の前でゴリラが死んでる[作詞:三木聡 / 作曲・編曲:八十八ヶ所巡礼]
- 勘違いは大事よ / ふうか
- 12 strings intro / koyabin(THIS IS JAPAN)[作曲:koyabin(THIS IS JAPAN)]
- 体の芯からまだ燃えているんだ / ふうか[作詞・作曲:あいみょん / 編曲:THIS IS JAPAN]
- まだ死にたくない(Album ver.) / ふうか[作詞・作曲:橋本絵莉子]
- ゆめのな(Album ver.) / ふうか[作詞・作曲:橋本絵莉子]
- 体の芯からまだ燃えているんだ(Duet ver.) / シン&ふうか[作詞・作曲:あいみょん / 編曲:THIS IS JAPAN]
- 初回限定盤DVD収録内容
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- 「人類滅亡の歓び」ミュージックビデオ
- 「体の芯からまだ燃えているんだ(Duet ver.)」ミュージックビデオ
- 「体の芯からまだ燃えているんだ(Duet ver.)」ミュージックビデオメイキング
- 「音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!」
- 2018年10月12日(金)公開
- ストーリー
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驚異の歌声を持ち、その存在自体がロックだとカリスマ的人気を誇るロックスター・シン。だが彼の歌声は声帯ドーピングによるものだった。ドーピングの副作用で徐々に限界に近づく喉に怯えるシンは、異様に声の小さいストリートミュージシャンのふうかと出会う。
- スタッフ
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監督・脚本:三木聡
- キャスト
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阿部サダヲ、吉岡里帆、千葉雄大、麻生久美子、小峠英二(バイきんぐ)、ふせえり、田中哲司、松尾スズキ
©2018「音量を上げろタコ!」製作委員会
- 阿部サダヲ(アベサダヲ)
- 1970年4月23日生まれ、千葉県出身の俳優。1992年より、大人計画に参加。看板俳優として活躍する。また宮藤官九郎らと結成されたグループ魂では、破壊(Vo)としてフロントマンを務める。2018年12月18~30日まで、東京・SPIRALで行われる大人計画の30周年イベント「30祭」に出演する。
- 三木聡(ミキサトシ)
- 1961年8月9日生まれ、神奈川県出身の映画監督 / 演出家。「タモリ倶楽部」「トリビアの泉」など数多くのバラエティ番組の構成作家として活躍したのち、2004年に「イン・ザ・プール」で長編映画デビュー。「亀は意外と速く泳ぐ」「転々」「インスタント沼」などを監督。映画のほか、ドラマ「時効警察」や「熱海の捜査官」の演出も担当した。