2027Soundの担い手たち
──近年のOKAMOTO'Sはショウくん、コウキくん、レイジくんで分担してデモを作るようになっていたし、そのあり方をこの劇伴にも反映できたのも大きかったのではと思います。
コウキ そうですね。そうでなければもっと大変だったと思います。
──だからこそ楽曲の端々にOKAMOTO'Sであり、個々の作曲の匂いをしっかり感じられますよね。それはSTUTSさんとハマくんがコンビを組んでいる、IからIIIまである「特訓」というシリーズ曲におけるベース然り。
ハマ ね。普通にいつもの自分の感じで弾いてますね。そこは気を遣いすぎてやるのも変だなと思ったし。
コウキ 個人的な劇伴の好みとしては細野(晴臣)さんが手がけた「万引き家族」みたいな、究極的にミニマムかつ洗練されているものだったりするんですけど、この映画は音に関してもいろんな要素を入れ込みたいという意図を感じたので。そういう意味でもバンドの色をあえて出してもいいんじゃないかと思いましたね。
──2027Soundに名を連ねているほかのアーティストで言うと、まずSTUTSさんとはハマくんが星野源さんの現場をきっかけに交流を深めてますよね。
ハマ そうですね。今年あった源さんのドームツアーのときからこの劇伴の話は進んでいて。とはいえ、僕はメンバーの中で唯一曲を作らないのでどうしようかという話になったんです。そしたら「誰かとタッグを組んだらいいんじゃないか?」という話になりまして。誰がいいかなと京セラドームの楽屋でその提案のメールを見ながらごはんを食べていたら目の前にSTUTSくんがいて。「STUTSくんとやりたい!」と思ってその場で口説いたんです。
──なんというタイミングのよさ(笑)。
ハマ そう(笑)。それで、「特訓」のIからIII、「直実 vs 狐面」、「一縷の望み」という曲は全部STUTSくんの部屋で作業しました。
ショウ ヒゲダンもNulbarichももちろんOKAMOTO'Sのメンバーから声をかけてますから。
──OKAMOTO'Sとヒゲダンは意外なつながりだと思う人も多いのではないでしょうか。最近、レイジくんがDJの現場でヒゲダンをよくかけていることを知ってる人もいるとは思いますが。
レイジ かけ狂ってますね(笑)。最近のDJの現場では必ずかけてます。Nulbarichは対バンしたことがあるからそこまで意外でもないと思うんだけど、ヒゲダンに関しては俺個人はそれまで聴いたことがなかったので。でも、劇伴に参加してもらうならさすがに聴いておこうと思ってYouTubeで調べたときに「宿命」のMVが出てきたんです。曲を聴いて海外の曲のオマージュの仕方が本当にうまいなと思ったんですよね。日本のメジャーシーンで音楽をやるんだったらこれくらい振り切れたオマージュ力がないと意味のない時代に突入してきてるなと思ったし。それでヒゲダンの曲を聴いてたら普通にハマっちゃいました。DJがフロアでかけてもなんら遜色のない音作りをしてるのもすごいと思って。この劇伴をきっかけにヒゲダンにハマったので、それも感謝してます。
ハマ ヒゲダンは僕から声をかけたんですよ。
レイジ ハマくんはだいぶ前からチェックしてたよね。
ハマ 僕がスカパー!でやってた音楽番組(「FULL CHORUS~音楽は、フルコーラス~」)に彼らが上京してきたタイミングで出演してもらったんです。一気にバンドを取り巻く状況が変化したから「フェスに出てもバックステージで話せる友達がいない」と言ってた(笑)。出会ったときから音楽の話をしていたし、今回はいいタイミングで一緒に仕事ができてよかったです。
──小袋さんおよびYaffleさんのTokyo Recordingsはレイジくんを筆頭にずっとOKAMOTO'Sと交流がありますよね。「ART(OBKR / Yaffle Remix) feat. Gottz,Tohji,Shurkn Pap」が記憶に新しいですけど。
ショウ そう。「ART」のリミックス以前に「ROCKY」のレコーディングにも小袋くんは参加していて。あと、Yaffleくんとは彼がプロデュースした高岩遼くんのソロアルバム(2018年10月発売「10」)に俺がゲストボーカルとして参加したときに(参照:SANABAGUN.高岩遼が初のソロアルバム発表、オカモトショウが歌うシナトラカバーも)初めて一緒に仕事をして。あのアルバムがとにかく傑作だったのと、Tokyo Recordingsはずっと小袋くんのイメージが強かったんですけど、Yaffleくんもすごいって思ったんですよね。今回の劇伴はストリングスもけっこう入ってるからTokyo Recordingsの力を借りられたらいいなと思ってオファーしました。
──BRIAN SHINSEKAIも長年の盟友ですね。
ショウ まさに盟友ですね。
レイジ 改めて、こうやって考えるといいメンツがそろってますね。俺、初めて外仕事したのBRIAN SHINSEKAIの演奏だったんですよね。ハマくんと一緒に。
ハマ 彼が1人で遂げてきた進化をこの劇伴でも発揮してくれました。
ショウ めっちゃよかったね。
今の俺たちだったらこれくらい大きな希望を持ったほうがいい
──そして、主題歌の1つであるOKAMOTO'Sの新曲「新世界」は、ストレートに言えば過去最高にマスに向かってる曲だと思いました。デビュー10周年で実現した武道館ワンマン(参照:OKAMOTO'S、無邪気に夢を追い続け10年目の初武道館を満員に)を成功させたあとにこの曲を放つ意味はすごく大きいと思います。
ショウ この曲は最初に脚本を読んだ直後にファーストインプレッションで書いたんです。それをすぐメンバーや監督をはじめチームのみんなに送って。そのあとに主題歌用の曲を何曲か書いたんですけど、この曲には敵わなくて。
──曲を聴いたあとに小林武史さんをプロデューサーに迎えていると知ってなるほどと思いました。小林さんとの初仕事はどうでしたか?
ショウ 俺とコウキが小林さんのスタジオに呼んでもらって。お話をしたあと、コウキと2人きりで作業したんです。で、たまに様子を見に来てくれて「おっ、よくなってる」と感想をくれる感じで。だから、いつもの俺たちの作業とそこまで変化はなかったです。
コウキ 隅々までプロデュースする方というイメージを持っていたんですけど、僕らの思うように曲作りさせてくれました。「俺はここがこうだと思うけど、直してみて」と言われたら直す、というキャッチボールをする感じ。
ショウ かなり尊重してくれたね。
──さっきも言いましたけど、この曲の開き方は今のOKAMOTO'Sだからこその説得力があると思います。そのあたりについてはどうですか?
ハマ 映画のために作ったというのも大きいと思いますね。劇伴に加えてこの主題歌があるという流れですし、主題歌だけのオファーだったら小林さんにプロデュースしてもらうこともなかったと思うんですよ。曲自体はショウが早い段階で作ったので、作品に寄せて作りましたというよりは、純度が高くできたものだし。
ショウ これくらい開けた曲じゃないと映画にフィットしないんですよね。
──それは映画全体を支えるためのスケール感と言い換えることもできます。
ショウ そう。この曲単体で考えると、確かに武道館のあとの曲という意味では……ものすごく尖った曲か、ものすごく開けた曲かという2択だったと思うんですよ。
──どっちもできますしね。
ショウ そうそう。そのどちらかじゃないとカッコつかないんじゃないかって、武道館をやったあとにちょっと思いました。だからこそ、この曲でよかったと思うし。ここでまた新曲で「90's TOKYO BOYS」みたいな曲を出しても「なんかこの感じのOKAMOTO'Sは知ってるね」となってしまうと思うし。今の俺たちだったらこれくらい自分たちに大きな希望を持って、攻めてる姿勢を出したほうがいいと思うんですよね。
──歌詞もバンドの今と重ねることもできると思います。特にサビとか。
ショウ どうしてもそういう部分が出ますね。もちろん映画の物語に沿って書いたという面が一番にありますけど、俺が書いてる以上は俺の気持ちが曲にたくさん出ちゃうので。今のOKAMOTO'Sとリンクするところはあると思いますね。
──レイジくんはどうですか? この曲に関して。
レイジ 武道館でライブをやってみて思ったのは、今までのOKAMOTO'Sの曲があの規模の会場で鳴らす音楽として届いてないわけじゃないんだけど、やっぱりライブハウスで成立する音楽だと感じたんですよ。で、「会場の隅々まで届いてるな」と実感できたのは「Dancing Boy」だったんです。「Dancing Boy」のようなテンポの曲をたくさん作って、俺らのスタンダードなナンバーにしていかないと次のステップは見えてこないと思ったんです。そういう面でも11年目を見越してこういう「新世界」のような曲を当たり前に作れるというのはバンドにとってすごく重要だと思いますね。あと、俺はSalyuさんがすごく好きだから、小林さんのアレンジにもぶち上がりました。イントロが“Salyu感”強いなって(笑)。
ハマ いや、それが“小林武史感”だから(笑)。でも、確かに小林さんはいつか一緒にやってみたいプロデューサーだったし、シングルという規模感でなかなか名前を挙げづらい方ではあったので。このタイミングで実現してよかったなと思います。小林さんがプロデュースしたサザンオールスターズのアルバムとか、大好きなので。
──「世に万葉の花が咲くなり」。大名盤ですよね。
ハマ そうそう。ご本人も自分の仕事の中でトップクラスに好きな作品だと言ってましたね。そういうフランクな話をした時間も楽しかったです。
レイジ 思ってたイメージとは全然違ったよね。俺のドラムの音を聴いて、「初めて聴く音がしてる!」ってめっちゃウケてました(笑)。
ハマ ずっと「彼はいつもこういう音なの? これが普通なの?」と言ってた(笑)。こういうタイプのバンドをプロデュースしたのもひさびさだったのかなと思うし、いろいろ新鮮だったみたいですね。
──最後に今後のOKAMOTO'Sの動きについて今言えることを聞かせてもらえたらと思います。
ショウ まだまだいろいろ考えてます、10周年企画は。
ハマ オールナイトで開催するショウの生誕祭もあるし、コウキのソロライブもあるし、このあともいろんな発表があるので楽しみにしていただけたら。