大橋トリオ|アナログレコードを意識したことで、大橋トリオの何が変わったのか

大橋トリオが通算12枚目のアルバム「THUNDERBIRD」をリリースした。

今作には日本メナード化粧品の60周年キャンペーンソング「Natural Woman」や、TikTokのCMソング「S・M・I・L・E・S」、大橋のプロデュースで1月にメジャーデビューした姉妹ユニット・KitriのMonaと組んだ「kite feat. Mona(Kitri)」など10曲を収録。いずれの曲も温かさと優しさの中に鋭さが垣間見え、常にクオリティが高い大橋トリオの作品群にあってもひときわ印象的に仕上げられている。

このアルバムは何をテーマに作られ、そのテーマを大橋はどう楽曲に昇華させたのか。制作の経緯についての話を中心に、大橋に話を聞いた。また特集内には大橋自身による全曲ライナーノーツも併せて掲載している。

取材・文 / 高岡洋詞 撮影 / 須田卓馬

自分が好きな時代感が、今また許されてきた

──いつも以上に優しい印象を受けました。特にアルバム後半の曲なんですが、わりとアコースティックな音色が中心になっているせいか、実際のテンポよりもさらにスローに聞こえるような感覚があって。

大橋トリオ

今回、大きなテーマが1つあって、アナログっぽい作品を作りたかったんです。レコードにして聴きたいような音楽ですね。だから自分としては“っぽい曲”を並べたつもりなんですよ。アナログといっても1950年代風の音とかもっともっと古いサウンドはあるので、あくまでも自分の中の、ってことでしかないんですけど。ちょっとゆるめというか、要は隙間を持っていたかったっていうことですかね。あんまり隙間を埋めちゃうと「レコードにして聴きたいというコンセプト」にふさわしくなくなってしまうと。

──うんうん。非常にわかります。

高校生のとき、Oasisの「(What's the Story)Morning Glory?」をアナログで買ったんですよ。ジャケットが絵としてカッコいいから、これはCDじゃなくLPのサイズで欲しいなと思って。でも聴いてみたら、音は自分にはいまいちだったんです。「今どきのUKロックサウンドって、音が詰まりすぎてんな」と思って。だから「なるべくそうじゃないほうがレコードっぽいんだな」っていうのがボヤッとあったんです。

──アナログっぽいとか、隙間を生かしているとか、僕がアルバムを聴いてメモっていたことを、ここまででだいたい言われてしまいました(笑)。

去年アナログにどハマりしたんですよ。ツアー中に行く先々でバンドメンバーと一緒にレコードショップに行って、掘り出し物を見つけて。どこに行ってもだいたい名盤があるんです。CDは持ってるけどレコードを持ってないから「やったー!」みたいな。そういうのを見つけては買って、ファンクラブのイベントでレコードをかけてそのままプレゼントする試聴会みたいなことをやったら、お客さんもすごく喜んでくれて。「レコードってやっぱりいいでしょ」ってすごく思ったし、お客さんにも伝わったと思う。そんないい体験をして「次のテーマはアナログだな」と思ったんです。1曲1曲、大事にかける感じがいいんですよね。針をそーっと落として。

──裏返してね。どこからがB面、みたいなイメージはあるんですか?

特にそれはないですけど(笑)、ちょうど10曲だからA面B面5曲ずつで、たぶん「kite feat. Mona(Kitri)」からB面ですかね。明日カッティングするんですよ。

──アナログを切るんですね。それは楽しみです。表題曲の「THUNDERBIRD」は1970年代のアメリカンロックっぽいですが、大橋さんのアナログサウンドのイメージはこの時代?

「THUNDERBIRD」に関しては完全にそうですね。「テレパシー」は80年代ですけど。「ちょっと前までダサかったけど、今ようやく使ってもよくなった」みたいなシンセの音色を、この曲に限らずたくさん入れてます。あのシンセの音って5年前は完全にアウトだったじゃないですか。でも今やってみたら全然OKだなと思って。で、いろんな人に「ちょっとやりすぎかな?」って聴かせてみたら、「いや、カッコいい」「大丈夫」と言ってもらえました。そういう音楽のトレンドの移り変わりは面白いですね。

──キャリアや年齢的にそういうサイクルが巡って来た感じなんですかね。昔好きだったものが1回アウトになって、また使える時期が来たみたいな。

そうそう。自分が好きな時代感が、今また許されてきたなと。90年代後半ぐらいのR&Bのしっとりした感じとかね。Boyz II Menとか流行りましたよね。ああいうサウンドも1回アウトになりましたけど、今またイケるんじゃないかなと思ってます。アルバムに反映はしてないですけどね。

──いなたいアナログシンセっぽい音色をあえて使っているな、とも思いました。

今みんながやっていそうなことをがんばって探す、みたいなことはあえてせず、当たり前の音、例えばあんまりツマミとかをいじくらない、プリセットに近い音をだいぶ使ってる気がします。みんないじくるじゃないですか、おしゃれにするために。言い方を変えたら手抜きでもあるんですけど(笑)、当たり前の音って面白いなと思ったんですよ。

──手抜きというのは100%ご謙遜と受け取っておきます。大橋さんが手を抜くはずがないので、1周も2周も回ってのプリセット音と。

ありがたいですね、勝手にそう受け止めてもらえると(笑)。役得です。