夏と彗星|生活に溶け込むことを根ざしたソロプロジェクトへの思い

コロナウイルスの影響で感じる自分の可能性

──夏代さんは先ほど「コロナウイルスの影響で改めて気付くこともたくさんあった」とおっしゃいましたが、実際にどういうことを感じましたか?

まず楽曲を作るという部分でも、家で意外とやれることがたくさんあったのが1つですね。1人の時間がたくさんあるので、見えてくるものも、追求できることもたくさんある。僕としてはまず歌に関してのところがすごく多いです。「ここはもっとこうできるな」とか、自分の可能性を探る時間ができました。ひたすら音楽を作っているとインプットが全然なくなっちゃうけど、今の時代は家の中でもサブスクやYouTubeでいろんな音楽と触れられる機会があるので、吸収するためにいろいろ聴いたりしています。

──CDを作ってリリースすることだけが音楽の届け方じゃないともおっしゃいましたね。

やっぱり、みんながサブスクやYouTubeで音楽を聴くようになっていて。そういう中でもCDを出すというのは、音源そのものというよりも、ジャケットやブックレット含めての芸術として受け取ってもらうものになっていくと思うんです。もちろんこういうご時世になるかなり前から言われてきたことではあるんですけど、今はより深く実感しますね。

「夏と彗星」ビジュアル

──手に取ったときに喜びのあるパッケージを作ることに意味があるということですね。

そうですね。楽曲はサブスクやYouTubeで聴いてもらっていいと思うんです。そうすれば日本の人たちだけじゃなく、韓国や中国、アメリカとか、いろんなところに住んでる人たちにも伝わっていくし。そういう中で、夏と彗星の世界をより身近に感じたいと思ってくれた人のためにCDがあればいい。今回のアルバムも普通のプラケースに入っているというよりは、手に取って中に入ってる歌詞カードを広げて、ブックレットの質感も楽しんでもらえるような仕掛けにしているんです。それに、Tシャツとかトートバッグとか、いろんなコラボのアイテムも用意していたんですね。本当だったら皆さんに会って直接お渡ししたかったんですけれど、そうするわけにはいかないので、通販という形で対応することになりました。

──ほかに音楽の届け方というところで気付いたことはありますか?

コロナウイルスでみんなが家にいるようになって、音楽の聴かれ方も変わったと思います。YouTubeって、実は自分の楽曲がどの時間帯に再生されているかのデータを見れるんですよ。それが大きく変わってきているんです。

──というと?

これまでは、だいたい1つの山が朝の7時から9時くらいにあって。それがちょっと落ち着いたあとに、夕方から18時から20時くらいにもう1つの山がある。さらに夜の23時から深夜1時くらいまでにもう1つの山があるというグラフになっていたんですね。つまりこれって、通勤通学との時間と、夜の時間に皆さん音楽を聴かれているんだなと僕は感じていて。それがこの4月くらいで皆さん自宅にいらっしゃることが多くなってくると、通勤通学の山がなくなったんです。そうすると、だいたい昼くらいから夜に向かって徐々に上がっていく。夜の12時を回ったくらいから下がっていくみたいな感じになってるんです。

──なるほど。通勤通学の電車の中じゃなくて、自宅でYouTubeを観るようになった。

今って、皆さんは外でイヤフォンをしてじゃなくて、家でYouTubeを観ながら音楽に向き合うことが増えているのかもしれない。そうすると、音楽の中にあるメッセージや芯の部分がより届きやすくなっていると思うんです。僕自身も、外で音楽を聴いているときはリズムやサウンドの空気感を楽しむことが多かったんですけど、今、家で音楽を聴いていると歌詞の意味が気になるようになってきていて。きっと、多くの人もそうなんじゃないかなって思います。よりメッセージが届きやすい環境になってると思うので、これからは、よりそこにフォーカスが当てられるんじゃないかとも感じますね。

芸術の可能性が潰されてしまったとは思わない

──僕が思うに、ビジネスという観点ではこの先がどうなるか、どうするのが正解なのかという見通しはわからないですが、アートやクリエイティブという意味では明確なことがあると思うんです。こういう日々の中で、人がどんな感情を抱えているのか、ほかの人々がどう思うのかを想像して思いを寄せることがクリエイティブの源泉の1つになる気がして。そういう意味ではアーティストがやるべきことはたくさんあると思うんですが、夏代さんはいかがでしょうか?

そうですね。時間があるときって、自分の生き方を冷静に見つめ直せるチャンスでもあると思うんです。そういう意味で、いろんな人たちが自分の可能性を探る期間にもなると思うんですよね。例えば、昔にバンドをやってた会社員の方でも、テレワークになって自宅で自分の時間を管理するようになったことで、また音楽と向き合う時間が増えるかもしれない。世界的な災害ではあると思うんですけど、芸術の可能性が潰されてしまったとは思わないですね。もちろん大変厳しい状況の中ですけれど、少なくとも芸術が自粛ムードになってしまう必要は全然ない。それぞれが内面に秘めた思いを表現していいと思います。僕自身、今後どういう楽曲が出てくるかとても興味があります。みんな、どんなことを思ってるんだろうって。

──本当にそうですよね。この状況に応じてどんな表現が生まれるのか。僕もすごく興味があります。

この状況を過ごしていて、受け取るものが何もない人はきっといないと思うんですよ。だから、それぞれの正直な気持ちを音楽で打ち明けていく人も増えていくと思います。ただ、それに対してあまり否定的なムードにならないでほしいと思うんです。世の中の人の全員を納得させることってなかなか言えないと思う。怒りを覚える人や不快な気持ちになる人もいる。でも、表現が抑圧されていくような流れにはなってほしくないなと思います。心に余裕を持ってみんなで乗り越えていけたらいいなと思います。

──加えて、今は世界中の人が同じ危機に立ち向かっているわけですよね。

そうですね。人種だったり、国境だったりではない……人類の戦いだと思うので。分断ではなく国境を超えた連帯につながっていって、一丸になれる未来がこの先にあるといいなと思います。

──ちなみに、ライブは10月に予定しているということですが、これは事態が収束していたら開催されるという見込みということですね。

そうですね。確実なことはまだ何も言えないですけれど、2DAYSなのでそれぞれ違う内容にしようという構想もあります。今は“ステイホーム”でがんばって、秋に安心して笑顔で集まりたいですね。

ライブ情報

夏と彗星 Oneman Live MONSTERS in TOKYO 2020
  • 2020年10月5日(月)東京都 WWW
  • 2020年10月6日(火)東京都 WWW