夏代孝明の新作音源「BLUER」が昨年12月25日にリリースされた。今作には、ゲストボーカルにホロライブ所属のVTuber・星街すいせいを迎えた楽曲「藍より群青feat. 星街すいせい」をはじめとした計4曲が収録されている。
音楽ナタリーでは新作の発売を記念して、夏代と星街の2人へのインタビューを行った。夏代は星街の1stアルバム「Still Still Stellar」の収録曲「Bluerose」で作詞作曲を手がけているが、デュエットは今回が初めて。疾走感のある軽快な曲調に、自らが幼少期に抱いた群青の空の印象と青かった青春時代の背景をベースに書き上げた歌詞を合わせた「藍より群青」制作の裏話や、今回のコラボに至った経緯を2人に語り合ってもらった。
取材・文 / 森山ド・ロ
VTuberとしての生き方を表す花言葉
──本題に入る前に、2人が初めてコラボした楽曲「Bluerose」(星街すいせいが2021年9月に発表したアルバム「Still Still Stellar」の収録曲)の話から伺います。そもそもこのコラボはどちらからオファーがあって実現したものなんですか?
星街すいせい 私からですね。夏代さんはもともと私の友人の友人で、音楽とは関係ないところでお話をさせてもらう機会があって。そのときにいろいろとお話を聞いて、お願いしたいと思ったのがきっかけですね。ちょうどアルバム楽曲の制作が進んでいた時期だったので、スタッフさんにも相談して正式にオファーさせていただいたのがコラボのきっかけです。
──夏代さんはバーチャルアーティストや星街さんの存在は知っていたんですか?
夏代孝明 はい。もともとゲーム実況をされているVTuberさんを中心に動画を観ていたんです。VTuberが流行し始めた最初のほうは音楽を中心に活動されてる方がそこまで多くいる印象がなくて好きなゲームを実況している方に注目していたんですが、そんな中で星街さんを見つけて「歌うま!」と思ったのを覚えてます。星街さんから依頼をいただいたときは、めっちゃいい曲を書こうって気合いが入ってました(笑)。
星街 以前からずっとニコニコ動画を観ていたので、私は以前から夏代さんの名前をよく見かけていたんですよ。「ニア」がドカンと伸びたのがすごく印象的で「オリジナル曲も作るようになったんだ」と思って。
夏代 「ニア」は2作目のオリジナル曲なんですが、この曲をきっかけに僕の曲を聴いてくれる方がすごく増えた1曲なんです。星街さんも聴いてくれていたんですね。
──初めてのコラボとなった「Bluerose」はどのように書かれたものなんですか?
夏代 星街さんのこれまでの楽曲を聴かせていただいて、ご自身の内面を歌っている曲がたくさんあるなという印象を受けたんです。いろんな活動で生じる葛藤がにじみ出ていたりもして、これまできっと作曲者の方といろいろ話し合って制作してきたんだろうなというのがそこから見えてきて。そんな中で僕は、星街さんがリスナーさんと触れ合えるような、リスナーさんと心を通わせることができるような楽曲があったら星街さんとファンの絆がもっと深まるのかなと思って。そういう部分にちょっと注力しようかなと思って、星街さんとリスナーさんの関係性を見ながら制作しました。
星街 私からは「おしゃれでかわいい曲をお願いします」みたいな、ざっくりとした依頼をしただけなんですよ(笑)。夏代さんがいろんな解釈をしてくださってすごくいい曲を書いてくれて。私が普段言わないような歌詞が盛り込まれているのをファンのみんなが見て、「Blueroseすいちゃん」「Blueroseでしか聴けないすいちゃん」みたいに喜んでもらえたのがうれしかったですね。
夏代 「Bluerose」が表している青い薔薇は自然界には存在しなくて、以前は“存在しないものの象徴”だったんですよね。それが最近になって作れるようになったらしくて、「技術がもたらした進化によって実現できたもの」という意味を帯びるようになった。それって星街さんがやられてるVTuberという活動に通じるところがあるし、タレント的な活動をしつつもアーティストとして道を切り開いている存在であることにも重なる部分があると感じて。そういったところから「Bluerose」という言葉を贈りました。
星街 Twitterで楽曲を投稿したときに夏代さんが「青い薔薇の花言葉を調べてみてね」ってツイートされていて。私もそのときまで何も知らなかったから「そういうことだったのか!」といろいろ気付かされました。
夏代 レコーディングするときに「青い薔薇というのは……」みたいな話はしなかったからね(笑)。青い薔薇の花言葉は「不可能」というマイナスのものだったんですが、2000年代になって「夢が叶う」に変わったんです。VTuberという文化で成功を願う星街さんにピッタリの花言葉ですよね。
意思が込められたボーカル
──2度目のコラボとなる「藍より群青」は、夏代さんのオリジナル曲として発表されるものです。今回のコラボはどのような経緯で実現したんですか?
夏代 「藍より群青」はシューズ「SKLSHŌTER」のテレビCMソングとして制作したものですが、2021年最後に作るオリジナル曲になりそうだったので、今までやったことのないことに挑戦してみたいというのがまずあって。さらに誰が聴いてもめちゃくちゃいいと思ってもらえる曲にしようと考えていたところ、できるなら星街さんにも一緒に歌ってもらいたいなと思って、声をかけてみました。
星街 カバー曲で男性のボーカルとデュエットをしたことはあったんですが、オリジナル曲でデュエットさせてもらうのは私にとっても初めての挑戦でした。
夏代 「Bluerose」のときは優しい感じの歌い方をお願いして録ったんで、今回はちょっとロックというか、爽快感のある声で歌ってもらいたくて「藍より群青」という曲を書きました。普段はギターを弾きながら鼻歌で作るんですけど、男女のデュエット曲を書くことは滅多にないので、星街さんのパートは思い浮かんでも高くて鼻歌で歌えないんですよ(笑)。なので、音階をMIDIで書いたりしながら作ってみて。いつもと違うメロディの書き方になったので、わりと難しかったですね。
──レコーディングで苦労したことはありましたか?
星街 やっぱりフェイクですね(笑)。
夏代 僕もフェイクを入れるのがすごく苦手なんですが、この曲では星街さんにフェイクを入れてもらいたくて。無理を言ってお願いしました。
星街 カバー曲のフェイクは真似をすればいいから苦手とは感じないんですよ。でもオリジナル曲のフェイクは自分でゼロから考えなきゃいけないので、すごく苦手意識があるんです。
夏代 でも、フェイクも含めて星街さんは本当に歌がめちゃくちゃうまいから、ひと言ふた言アドバイスをするだけで、ほとんど完成されてました。むしろ僕のほうがレコーディングに時間がかかったくらい。
星街 「Bluerose」のときもそうだったんですけど、歌って2テイクくらいでOKを出してもらっていたから「本当にこれでいいんだろうか……」みたいな気持ちはありました(笑)。
夏代 むしろ普段は何テイクくらい録っているんですか?
星街 ディレクションしていただく方によるんですけど、イノタク(TAKU INOUE)さんのときは、夏代さんと同じくらい「いいね! じゃあもう1回! OK!」みたいな感じでした(笑)。
夏代 星街さんのボーカルには意思が込められているというか、「ここはこうしたい」っていう意図がちゃんと見えるんですよね。それでこちらがハッとさせられる瞬間もあって。僕が歌詞を書いて仮歌を歌っているときって、作り手である自分の固定観念に囚われていることが多いんですよ。「ここは柔らかく歌って、次のオケが盛り上がるから、そこに合わせて歌のテンションも上げて」みたいな。それはそれで1つの正解ではあるんですが、曲を作っている人のエゴでもある。星街さんの歌はボーカリストとしての芯があるので、作り手の固定観念を超えて、例えば歌詞に書かれている大事な言葉を強調してくれたりする。そこに説得力があるから、僕自身勉強になることが多かったです。
星街 私はずっと宅録でやってきたので、ブースに入ると日和ってしまうことがあって。スタジオに入ると緊張しちゃうことが多いんですが、今回は夏代さんが優しく迎えてくれたのでそこまで硬くならずに歌えました。私、わりと憂いた曲が得意というか、世の中を呪うような曲を歌うのが得意なんですよ(笑)。「藍より群青」はシリアスな歌詞なんですが「こういう歌詞だけど、元気よくさわやかに歌ってほしい」と夏代さんにディレクションいただいたので、迷わず歌えた感覚があります。その結果、夏代さんとの声の相性も抜群で、自分で思い描いていた仕上がりとは全然違ってすごくよかったから「ディレクションってすげえ!」って思いました。
夏代 歌詞はちょっと暗めだけど、メロディに爽快感があるというのは狙って作ったところがあって、流し聴きしてるとさわやかでテンションが上がるけど、歌詞を見ながら曲を聴いたときに、それぞれの人の葛藤と重なればいいなと思って作りました。その塩梅が僕の歌と星街さんの歌で、ちょうどいいところに持っていけたなという手応えがあります。それと実は先に1番だけ録って、そのあと2番を考えるという形で制作していて、2番の譜割りを“星街さんっぽいリズム”で自分が歌うことに挑戦してみたんです(笑)。それがめちゃくちゃ難しくて。僕は正しく合わせちゃう癖があって、星街さん特有のゆらぎのカッコよさみたいなものを研究したくて挑戦してみました。
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幼少期に見た青空はもっと群青だった