夏と彗星|生活に溶け込むことを根ざしたソロプロジェクトへの思い

それぞれ胸に秘めた思いを大切にしながら楽しんでいけたらいい

──リード曲「誰でもないモンスター」は、どういうモチーフから生まれたんでしょうか?

僕は自分が内面と外面に乖離がある人間だと思うことが多くて。僕だけではなく、皆さん表の部分と裏の部分があると思うんです。でも、内面の部分を保持し続けると自分が人間じゃないような感覚がどんどん強まっていくような気がする。そういうところから、モンスターをテーマに1曲書こうと思ったんです。加えて、夏と彗星というプロジェクトを始めるわけなので、今まで夏代孝明としてやってきたことがゼロになって、1人の個の存在に戻るような感覚があったんです。それって名前のない存在というか、誰からも知られてない存在……つまりは誰でもないモンスターなのかなと思って。そういうところから曲名を付けました。

──夏と彗星を始めるにあたっての思いというのがモチーフになっているんですね。

夏と彗星という名前に関しても、聴いてくれる人をどんどん巻き込んでやっていくプロジェクトにできればという思いがあるんです。みんなの輝きと共に進んでいきたいという感覚があるというか。彗星って、地球から見ると輝いているように見えるんですけど、実際は宇宙の塵とかゴミが太陽に照らされて光を放ってるという存在なんです。僕としては、そのことも自分の音楽のテーマと合ってると思っていて。人それぞれ、いろんな孤独や不安を抱えて生きてると思うんですけど、そういう人たちが輝くシーンがあると思う。そのときに僕の音楽がその人を支えたり、傍にいられたりするようなものになればいいなと思って。それで夏と彗星という名前でやろうと思ったんです。

──「誰でもないモンスター」のサウンドはダンスミュージックですけど、みんなで1つになるという高揚感よりも、むしろ自問自答するような、孤独を抱えたうえで重なり合うようなことを歌った曲になっていますよね。ほかの曲も含めて、サウンドはきらびやかであっても内面的な言葉があって、それが夏と彗星のもう1つの核の部分になっていると思います。

僕は、何かを否定したくないんですよね。それぞれ、いろんな不安、いろんな思いを抱えて生きていて、全然違う感情を持ってる人たちが1つの世界に集まっている。そういう意味では「誰でもないモンスター」は、みんなに同じ動きをしてほしいというような気持ちで書いた曲ではなくて。なので、楽曲の雰囲気やアレンジの方向性はダンスミュージックですけれど、人間の内面に深く掘り下げていくようなメッセージになっているんです。「夏と彗星」に関しては、それぞれの楽しみ方をしてほしいんですよね。それぞれの人が胸に秘めた思いを大切にしながら楽しんでいけたらいい。そういうのが、夏と彗星の音楽のテーマかもしれないですね。

ここまでやってもいいのかな?

──「MONSTERS」の中では、「27th」がもっともダークなテイストになってると思うんですけど、これはどういった経緯で生まれたんでしょうか?

「27th」ミュージックビデオのワンシーン。

この楽曲は、自分の中でも「ここまでやってもいいのかな?」と思いつつ、やるんだったらやりきろうと思って作った曲です。音楽って楽しいものだし、作る側の苦悩や苦しみの部分はあまり見えないと思うんです。でも、実際に作る中で、音楽ってほとんど呪いみたいだなと思うこともあって。いいものを作りたいと思ってひたすら作っていっても、それが世の中に認められるとは限らない。ほんの小さな差で結果や評価が大きく変わることだってある。それを自分の目でも見てきたし、身の回りで同じような思いを経験してるアーティストもたくさんいて。自分自身、27歳で公開した曲なんですけれど、著名なアーティストで苦悩して27歳で命を絶たれた方もたくさんいらっしゃるじゃないですか。そういう意味で、この呪いに対して自分がどういう答えを出せるのかっていうのを突き詰めたくて作った曲です。テーマは重たいんですけれど、楽曲自体はファンクな感じにしようと思って作りました。

──ちなみにこの曲、聴く人によっては、不倫の歌や痛々しい恋愛の歌と感じるかもと思いました。

確かに、そうですよね。

──夏代さんは「誰かの笑顔につながる音楽、誰かの日常を豊かにできる音楽をやっていきたい」とおっしゃっていますが、夏と彗星としてこういう曲を書いたというのはさらなる幅が生まれたというような実感があるんじゃないでしょうか。

そうですね。夏代孝明では聴いてくれた全員の背中をぐっと押して前に進む勇気をみんなに伝えられたらと思ってやっているんですが、夏と彗星はそれぞれの思いを胸に秘めて楽しんでほしいというのがあって。だからこそ、僕自身も正直に心を開いておきたい。ただ、僕が「27th」で言いたかったことって、聴いた人に正確に伝わらなくてもかまわないんです。それぞれが自分の胸に秘めた思いを持って、みんなで一緒に踊るっていう。だから僕自身が前に出なくてもいいし、メッセージが100%理解される必要があるわけでもない。そういう曖昧さがあっていいと思います。

──これは結果的にですが、コロナウイルスの感染拡大でみんなが家で過ごしているわけですよね。そう考えると部屋で1人踊ってる「誰でもないモンスター」のミュージックビデオは、現実に不思議な形でリンクしてしまっているような感じがします。

不思議な感覚ですね。家にいる時間が長くなって、皆さんがそれぞれ自分自身のことを考える時間が長くなっている。そういう意味でも「MONSTERS」のアルバムの楽曲たちがそれぞれの楽しみ方をしてもらえたらうれしいなと思ってます。