ナオト・インティライミは昨年末に8枚目のオリジナルアルバム「虹色∞オクターブ」をリリース後、およそ6年ぶりのアリーナワンマンライブ「ナオト・インティライミ@ぴあアリーナMMティライミワールド カーニバル2022~絶対に見逃せないLIVEがそこにはある~」を行った。彼はこのライブの終盤で2023年は連続で配信シングルをリリースすることを宣言。その言葉通り、1月から「パッキャマラード」「Secret」「EQ」と毎月1曲ずつ新曲を発表している。音楽ナタリーではナオトにこれまで配信してきた楽曲について語ってもらいつつ、今後の配信シングルや夏のツアー、すでに準備が進んでいるという海外活動について聞いた。
取材・文 / 高橋拓也撮影 / 森好弘
ナオトはアリーナでも即興を忘れない
もう2月になっちゃったけど、あけましておめでとうございます(※取材は2月上旬に実施)。
──アルバム「虹色∞オクターブ」のインタビュー(参照:ナオト、40代はやり切ります! あんなティライミやこんなティライミ集めた「虹色∞オクターブ」)からあまり期間が空いていないんですよね。
そうか、まだ2カ月前なのか! アリーナワンマン(「ナオト・インティライミ@ぴあアリーナMMティライミワールド カーニバル2022~絶対に見逃せないLIVEがそこにはある~」)の直前だったよね?
──はい。アリーナ公演は約6年ぶりになりましたが、いかがでしたか?
やっぱり「これこれ!」「やっとアリーナに帰ってきた!」って気持ちになったね。ずーっとこの規模感を求めていたよ。あの大きさの会場じゃないとできない演出っていっぱいあるから。アリーナ公演は簡単にできるものじゃないけど、それでも定期的に開催する必要はあると思う。ライブハウスとは全然違う種類のエンタメが提供できるからね。
──昨年春のツアー(「全国LIVEキャラバン2022-春-!ホップ・ステップ・スプリング!みんな引き連れ、おまっとぅり!!」)からダンサーも参加するようになり、パフォーマンスの編成自体はすでにコロナ禍前に戻っていたんですよね。ですが巨大スクリーンや花道が用意されたステージだと、見応えもかなり変わってくるもので。例えば今回の公演では、花道にサッカーゴールをセットして、ナオトさんがPKに挑戦するパフォーマンスがありました。ほかにはMC中、46都道府県の人が会場に集まっていることを明かしつつ、残り1県から来た人がいないか探したり(笑)。
佐賀県の人を探したやつだね(笑)。
──あのくだりも、あそこまで収容人数の多い会場だからこそできることだと思いました。
まさにね。この日Mrs. GREEN APPLEの藤澤涼架くんが観に来てくれたんだけど、“46都道府県”のMCについて触れてくれて、「あれ仕込みじゃないんですか!?」ってびっくりしてた(笑)。まったく仕込んでないよ。アリーナ規模になると、ある程度どんなパフォーマンスやMCをするか決まっちゃうよね? でも即興がない、予定調和なライブだとつまらなくなっちゃうから。京セラドーム大阪で初めてドーム公演をやったとき、小さいギターを弾きながら「Catch the moment」を歌ったんだけど、歓声が大きすぎて俺の口笛の音がかき消されちゃって(笑)。「ちょっと待って、俺、今吹いてるから!」とか言ってやり直したんだよね。それから大会場でも、その場で思いついたことを盛り込むようになったんじゃないかな。今でもお客さん20人ぐらいの規模と同じようなパフォーマンスができるのはその体験があったからこそだし、ティライミの持ち味の1つかもしれない。
──まさにナオトさんのライブは、何が起こるかわからないところも魅力ですよね。PKも2日目は……。
外しちゃったんだよね(笑)。カメラマンさんにボールが当たっちゃって「ごめんなさい!」と謝ってる部分も収録されちゃってて、それはそれで面白いから映像化するときにはそのまま残すつもり。初日は一発でゴールできたんだけどな……自分自身でもどうなるかわからないんだよ。
──それからアルバム「虹色∞オクターブ」リリース後ということもあって、新曲の多いセットリストだったことも特徴で。コロナ禍に入ってからのライブはどれも過去曲を中心にした構成だったので新鮮でした。
披露した新曲の中では特に「Sunny Christmas」が手応えがあったね。毎回ライブ後にはお客さんから感想を募集するんだけど、初日も2日目もダントツで「Sunny Christmas」が好評だった。こんなふうに新曲を楽しんでもらえるのは、アーティスト冥利に尽きるよ。
──「Sunny Christmas」はアルバムインタビューのとき、クリスマス直前に行われるアリーナ公演に向けて制作したとお話されていたので、まさにナイスタイミングでした。オーディエンスがスマホを掲げ、フロア中が光に包まれるシーンも素敵でしたね。
あれはめちゃくちゃきれいだったな。ライブ数日前に思いついて、演奏前のMCでお願いしたんだよ。世界一のイルミネーションを見せてもらえて、感動しましたね。
──アンコール中にトロッコで客席を移動する演出も、今思い返すとひさびさでしたね。ホール規模の会場だと、演者が客席を移動するのはなかなか難しいですし。そういったことも、コロナ禍以前のライブに戻ってきた感触をつかめる要素になったんじゃないかと。
移動中、客席に向かってボールを蹴ってプレゼントしたりね。あの演出って席が遠い人にも喜んでもらえるよう盛り込んでいるんだけど、トロッコで移動しないとまんべんなく渡すことができなくて。ようやくいろんな人に届けられたよ。
ばんばんざいの動画にティライミ乱入、メンバーの第一声は「顔ちっちゃ!」
──アリーナライブの終盤、ナオトさんは2023年に毎月配信シングルをリリースすることを宣言しました。すでに数曲配信されましたが、昨年12月にはYouTuberのばんばんざいとコラボした「ありったけのLove Song」のセルフカバーも発表しています。この曲についてもぜひ伺いたいのですが、ばんばんざいが「YouTube Music Weekend」でこの曲をカバーしていたことがコラボのきっかけになったそうで。
そうそう。「めちゃくちゃいいやん」と思って、ばんばんざいの動画に出演させてもらったんだよ。
──ばんばんざいがカラオケボックスで歌っているところに、ナオトさんがドッキリで乱入する映像ですね。ナオトさんと初対面したみゆさん、るなさんの第一声が「顔ちっちゃ!」ですごくよかったです(笑)。
よく覚えてるよ(笑)。あの動画に出演してから交流が始まって、「一緒にレコーディングしてみようか」という話になったんだね。こうやって違う分野で活躍している方とコラボできるのはすごくいい。今の時代では非常に大事だよね。コロナ禍に入ってからTikTokの投稿を始めて、56万人からフォローされるだけでなく、ばんばんざいやコムドット、優里たちとの交流が生まれて。若い世代の人たちと一緒に活動して、すごく刺激をもらえたよ。
──ナオトさんがYouTuberやTikTokerの動画に出演されることは何度かありましたが、楽曲でもコラボが実現したのは、ファンにとっても待望だったと思います。「ありったけのLove Song」のばんばんざい参加バージョンは打ち込みを主軸にしたアレンジが施され、ボーカルもナオトさんを含む4人がリレー形式で歌う形になっていました。この構成はばんばんざいの皆さんと相談しながら決めていったのでしょうか?
ある程度僕のほうで固めさせてもらいました。今この時代にばんばんざいとコラボする意義がわかるアレンジにしたかったんだよね。
──ミュージックビデオではレコーディング中の映像が使用されていましたが、和やかなムードでしたね。
何度もばんばんざいの動画に出演しただけあったね。おかげでレコーディングもめっちゃスムーズだったよ。
レコーディングだってライブ感はめちゃくちゃ大事
──そして2023年に入り、まず第1弾として「パッキャマラード」が1月に配信されました。「虹色∞オクターブ」の収録曲「Rule」に近い、シンセサイザーの音色を前面に押し出したアレンジですが、「Rule」はA-haあたりを彷彿とさせるシンセポップ的な要素を強く感じたんです。一方で「パッキャマラード」はAORやアシッドジャズに寄せた印象を受けました。
「パッキャマラード」はあまりアレンジを練らなかったんだよね。レコーディング合宿中に作ったんだけど、「こういうのやってみよう」「こんなネタを落とし込んでいこう」みたいな話し合いもしてなくて、遊びでセッションしてポンと生まれた。AORのような質感も意図的なものじゃなくて、無意識のうちにこういうサウンドに仕上がったんだよ。
──歌詞はたなか(Dios、ex. ぼくのりりっくのぼうよみ)さんと共作されたとのことで。先に曲を完成させてから作詞に取りかかったんでしょうか?
作詞の段階ではサビの部分だけあって、「クラリネットをこわしちゃった」をモチーフにすることは決まってたね。「クラリネットをこわしちゃった」は日本語だと壊れて出ない音がある、という歌詞だけど、実は原曲のフランス語版は壊れているんじゃなく、まだ上達していなくて音が出ないっていう説があるんだよ。訳すと「音が全然出てないよ。がんばれ!」と父親目線で子供を応援しているようでもあるし、「相棒頼む! 音、出てくれよ!」って願ってる子供の目線にも読み取れる。そもそも「パッキャマラード」のキャマラードは“相棒”という意味があるからね。この違いは面白いと思ったんだ。
──なるほど。原曲の歌詞から意味を広げていった。
映画「ミラベルと魔法だらけの家」の日本語版エンドテーマ「マリーポーサ ~羽ばたく未来へ~」を制作したとき、英語詞だけじゃなくスペイン語の歌詞の内容も比較したんだけど、もしかしたらそのときの経験が生きたのかもしれないな(参照:ラテンはおまかせ!ナオト・インティライミが「ミラベルと魔法だらけの家」の世界を彩っちゃいました)。あと作詞を始めた時期って、ちょうどワールドカップの時期だったんだよね。日本がクロアチアに負けちゃって、落ち込みながら歌詞を書いたのを覚えてる。
──もしかして少しネガティブなワードが盛り込まれているのは、その試合の結果を受けて?
うん(笑)。ワールドカップの熱と、日本が負けたときの悔しさみたいなものをぶつけてみたかな。そうやってまずは1人で歌詞を考えて、もっと解釈を広げるには別の人にお願いしたほうがいいと思って、たなかにお願いしたわけ。彼のことはずっと天才肌のアーティストだと思っていたし、以前J-WAVEの番組「MUSIC FUN !」で共演させてもらったんです。そこでいい具合にハモって、今回のコラボが実現したんだよね。たなかの作ってくれた歌詞は素晴らしかったし、そこからさらに練って完成させました。
──符割りについても、例えばサビ「このリズムに合わせて」や2番のAメロ「朝日のぼる 優しい世界」の部分では、言葉がけっこう詰め込まれていて、ナオトさんの曲では珍しいように思いました。
確かに! でも「朝日のぼる」は間違えたテイクを使ってるの(笑)。歌ってる途中で「どんな符割りだっけな?」ってなっちゃって、無理やり詰め込んだら面白い感じになったから、そのまま採用しました。
──実際に録ってみて、「ちょっと違うけどこっちのほうがいいな」というケースは過去にもあったんでしょうか?
あるある! こういうレコーディングマジックはよく起こるよ。突然新しいアイデアが浮かんだり、ミスしたりすることもあるけど、気に入ったときはそのまま使っちゃうな。レコーディングでもそういうライブ感はめちゃくちゃ大事にしてる。
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この闇感、陰ティライミって感じ